植物生理学II 第2回講義

植物の葉の構造と機能

第2回の講義では植物の器官や組織を概観したあと、植物の葉の構造的な成り立ちとその機能について解説しました。今回の講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:多くの植物は裏側に気孔を多く持っている。しかしスイレンの仲間は水に葉が浮いているため、気孔が表にのみ分布している。スイレンが気孔を表に気孔を集中させてまで葉を水に浮かべた理由は何なのか考えてみた。気孔を裏に持つメリットとしては表で光合成、裏でガス交換を効率的に行えることが考えられる。水に葉を浮かべるメリットは茎など、葉を支えることに力を割く必要がないからではないだろうか。浮力を利用すれば、茎はあまり強度がなくても済むだろう。スイレンはこのメリットを優先させて進化したのだろう。他にも理由はありそうだが、自分で思いついたのはこれだけでした。

A:自分で問題を設定し、それに対して自分の論理で回答を与えている、という点できちんとしたレポートですね。あと、できれば、その回答が正しいのかどうかを検証するような実験系を付け加えることができれば完璧なレポートです。例えば、スイレンは水面に葉を浮かべているのに対してハスは空中に葉を持ち上げていますから、仮説が正しければ、同じ葉面積あたりで比べた場合、葉柄(ちなみに茎とは区別する必要があります)の強度が違っているはずです。そのような簡単な仮想実験を考えるとレポートがぐっと充実します。


Q:まず園池先生の授業全体に対して持った感想ですが、研究対象に切り込む視点が他の教授の行う授業とは異なっていると感じました。殆どの授業(しばしば研究においても)は、予め用意された知識=「アンサー」が学生に与えられる形式を取ります。質問を投げかけると、即座に答えが返って来、自らの頭脳を絞る機会はあまりありません。しかし先生の授業では「問い」自体をもっと大切にしていると感じました。自らの持った興味を他人に投げ出してしまうのではなく、自分でまず真摯にぶつかってみろ、というメッセージを受けた気がしました。それはHOW?とWHY?のクエスチョンを同等に考える点からも言えることだと思います。
 次に今回の授業内容に対する感想ですが、生物組織は必ず何かしらの“意味”を持ち、またその意味を考える過程こそ面白いものだなと思いました。それは葉の柵状組織の形態(構造)がなぜこのように縦長の形状をしているのか、という問いかけに対する答えを考えたときに感じたことです。柵状組織がグラスファイバーの役割を果たしているためだと伺ったとき、なるほど、と思いました。おそらく柵状組織だけでなく、生物を構成するあらゆる組織がこのように何かしらの意味を持ち得ているのであろうことを考えると、それを考察することでますます科学は面白くなるのではと感じました。しかし同時に、“答え”はないのだということも忘れてはならないと思いました。 葉柄はなぜ必要か?という問いに対して、「葉柄の長さを調節することで光合成効率を上げることができるため」という説を挙げられていましたが、それだけでは説明のつかない場合があるのではないかと考えました。たとえば森林の同じ環境下で様々な木を切ってその葉の付き方を見ると、必ずしも上に凸の三角形をしておらず、枝の伸び具合も多様でした。草本の場合も同様だと考えられます。私は、この問いに対する考え方は二通りあると考えました。(1)葉柄は光合成効率を上げる以外にも役割がある (2)一見光合成効率を上げているように見えないが、実は結果的に上がっている というものです。そしてこのうち、妥当であるのは(2)ではないかと考えました。森林や低木草地では、単体で植物が存在することはなく、常に他種の植物と競合しています。その結果、光合成効率は単に葉が下にいくほど広がれば上がるというものではなくなり、葉の形や樹高の多様化に伴い変化したのではないかと考えられるのです。いかがでしょうか…自信はあまりありませんが自分なりに考えてみました。よろしくお願い致します。

A:葉柄の役割に関しては、そもそも回答が1つではないでしょうね。与えられた一つの回答に納得しなかった、という点だけでも立派なレポートだと思います。同じしっぽでも、カンガルーでは走る時のバランスをとるために使われ、ある種のサルでは木の枝をつかむために使われるように、葉柄の役割も植物種によって、場合によっては生育環境によってさえも異なるように思います。例えば、真上から光が当たる時には、下の葉の葉柄ほど長くすると、全ての葉に光がよく当たりますが、横から光が当たる場合には違うはずです。ですから、レポートにあるように多種の植物との競合や、光の差す角度の一日の変化なども考えなくてはいけないでしょう。まさにレポートに述べられているように、生物学においては、ある特定の(できれば単純な)ケースについて考えてみることが機能を明確にする糸口になりますが、同時に、そのようにして得られた回答が常に成り立つわけではないかも知れないことに気をつける必要があるのでしょう。


Q:「葉の表と裏」についてのところでハスとスイレンの違いについてのお話があった。ハスは葉の背軸側に気孔があるがスイレンは葉の背軸側が水についているため気孔がない。そのことを知って、今まで気がつかなかったが水中の植物はどうやって二酸化炭素と取り入れているのだろうと疑問に思った。水中生活する植物は水にとけた二酸化炭素を葉の表面全体から吸収できるので気孔は必要がない。しかしたまに気孔をもった沈水葉が見つかる。それは祖先が陸上植物であったことの名残りである(http://www.kobe-c.ed.jp/shizen/wtplant/wtplant/14006.html参考)。つまり藻類が陸上にあがってせっかく維管束を持つように進化したのに、水の中での生活に適応するために気孔を退化させてしまったのだろう。確かに水の中での生活には気孔は不適合だし、水分がたくさんある環境で根なども不必要な気がする。環境に適応するために退化するというのが興味深い。

A:スイレンは葉の背軸側が水につかっているので、気孔が主に向軸側にある、また、ハスの葉は水から突き出ていて葉身が水につかっていない、という話はしましたが、ハスの葉は背軸側に気孔がある、とは言わなかったと思います。というのは、実際にハスでは気孔を観察したことがないので、僕は知らないのです。ハスの場合、たぶん背軸側に気孔があるような気はしますが。講義で嘘を言わないように、知らない部分はそっと通り過ぎることにしているので、誤解を招いたかも知れませんね。


Q:葉の構造と機能というテーマだった、ほかの授業の中で進化について取り扱っていたのでそこから葉も機能的に分化したはずである。ならば葉の分化はどのように起こったのだろうか、という疑問が生まれたので考えてみた。まず、植物はいきなり葉、茎、根に分かれていたはずはない。そこには段階を経て今のように分化したはずである。まず小さな不動の物体が陸上に現れ、その物体が環境的に必要な器官を体の一部に集めて行き、その集めた部分に必要でないものは、残さなかったか、その不必要な機能をより必要とする部分に集めるという作業を繰り返して行って今のように分化したのであろう。具体的に葉の位置には光が当たるために光をエネルギーに変えることのできる葉緑体が集まり、茎には、大きくなった葉を支えるために細胞質が集まった、根には地上の器官を支えるために土を利用して安定させる、土壌中に含まれる水を集めるために水分を効率よく吸収できるように根毛が発達したのではだろうか。

A:藻類は、「植物」と言えるかどうかわかりませんが、単細胞の微細藻類と大型藻類があって、形態的には全く違いますよね。また、陸上植物と言っても、コケやシダもあります。そのあたりと絡めて考えるとよかったと思います。