植物生理学I 第4回講義
植物の気孔
第4回の講義では、植物の気孔と二酸化炭素の取り込みを中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:講義の中で、ゼニゴケは気孔を持たず開閉ができない穴を持つが日陰にいるからカラカラにならないという話があった。ゼニゴケが現在も穴で物質のやりとりをできているその他の理由として、葉状体の表面積当たりの穴の大きさや数が制御されていることでカラカラにならないようになっているという可能性を思いついた。それを調べるための実験方法として、まず同じ場所から採取したゼニゴケのサンプルをいくつか用意し穴の数や大きさを計測する。そこに関連性が見られれば、次に他の環境からもゼニゴケを採取し同様の計測を行う。実験室内で行うことで温度や湿度の調整をすると結果がより明らかであるかもしれない。ここで、温度や湿度の違いによって穴の大きさや数の違いに相関があるかを考え、湿度が低い、気温が高い環境では大きさや数が小さい値をとるという結果を見ることができれば、穴の大きさや数が制御されているといえる。
A:レポートの文章は、必ず日本語として論理が完結するようにしましょう。行間を読ませる日本語は、文学作品としては問題なくても、科学的文章としては失格です。例えば、2文目の「制御されている」の主語は、おそらく生育環境なのだと思いますが、その解釈を読み手に任せてはだめです。4文目の「そこに関連性が」も、関連というからには何か2つの物事があるはずですが、それは、おそらくその前の「数」と「大きさ」ではないのではないかと推測しますが、では何かというとはっきりしません。後ろの文章を読むと「数や大きさ」と「温度や湿度」の間の関連性なのだと思いますが。
Q:水中よりも空気中のほうが分子の拡散速度が大きく、これによって蒸散が起こっているという話があった。では仮に、空気中のほうが水中よりも拡散速度が大きいという状態を仮定するとどうなるだろうか。この場合、維管束中を流れる水のほうが蒸散により植物体から失われる水よりも拡散速度が大きいことになる。そうすると、植物体のなかでの水の循環は、水の蒸発に引っ張られることではなく新たに拡散してくる水に押し出される形で起こるか、そもそも重力に逆らった移動ができなくなり循環しないかのどちらかとなるだろう。循環しない場合植物は死んでしまうので、水に押し出されることで水の排出(蒸散)が起こるとすると、水が排出されるときには必ず植物体内が水で満たされていることになる。よって、葉の温度が高くなっても気孔を閉じる必要はなくなる。これより、もし水中のほうが空気中よりも分子の拡散速度が大きい世界では、植物の気孔は運動能力を持たないただの穴となるのではないか。実際に、水が十分にあるところに生えるタイ類では気孔に相当する細胞は開閉能力がなくても生育していることからも、植物体内に十分に水があれば気孔開閉は必要ないといえる。
A:前提で少し引っ掛かってしまったようです。「水中よりも空気中のほうが分子の拡散速度が大き」いことによって起こっていると説明したのは、蒸散ではなく、二酸化炭素の移動の話です。まだ講義では話していませんが(植物の茎の所で話します)、そもそも、蒸散で導管中の水が移動するのは拡散ではなく、物質自体が移動する体積流によってです。
Q:今回の講義で、スイレンの葉が葉の表側についているという話があった。蒸散などの他の要素もあるものの、スイレンに葉の裏側から表側に気孔の分布を変化させる進化が生じたということは、気孔において空気中から二酸化炭素を取り込むことは、水中から取り込むことに比べ生存に大きく有利であると考えられる。そこで、沈水植物には、地上と比較して非効率になる光合成をカバーする形態もしくは水中に特化した特殊な光合成を持っていると考えた。まず、形態的な適応について述べる。沈水植物の多くは、細長い葉や薄い葉を持つ。これは、水中では二酸化炭素の拡散が空気中より遅いため、葉を薄くして二酸化炭素が光合成を行う細胞に到達するまでの距離を短くしたり、細長い葉によって物質交換に有利な形態を獲得したりしていると考えられる。次に、特殊な光合成などの生理的な適応について述べる。実際に、水中では二酸化炭素の一部が炭酸水素イオンとして存在するが、水草の中にはこれを炭素源として利用できる種がある。この仕組みにより、溶存二酸化炭素が少ない環境でも光合成を維持できる(1)。以上のことから、沈水植物は形態的・生理的に水中に適応した特徴を持っていることで、光合成効率の悪い水中でも生き延びることができていると考えられる。
参考文献 (1)Stephen C. Maberly, Tom V. Madsen. Freshwater angiosperm carbon concentrating mechanisms: processes and patterns. Functional Plant Biology. 2002, No.29, p.393-405.
A:後半は、文献に論理を依存してしまっているので、独自性という面からの評価は低くなります。文献の内容を取り込むのではなく、文献の情報から自分が考えた論理をレポートにするようにしましょう。あと「細長い葉によって物質交換に有利な形態を獲得」というのが何を意味しているのか分かりませんでした。細長いと何が有利なのか、もう少し説明が必要です。
Q:今回の授業では、気孔の開閉について学んだ。二酸化炭素濃度が上がると気孔が閉じて蒸散が抑えられ、葉の温度が上昇する。二酸化炭素濃度の増加は光合成を促進して成長を助けるように思えるが、近年の異常気象による猛暑と重なった場合、葉の過熱が高温障害を引き起こし、農業において作物の品質や収量を低下させるリスクがあるのではないかと考えた。この場合、単に二酸化炭素濃度だけでなく、気温や湿度との複合的な影響を評価し栽培を行うことが重要だと感じた。
A:1文目は前置き、2文目は講義の内容、3文目が考えた内容で、本来はそこから論理がスタートするはずですが、最後の4文目は、単に「感じた」で終わってしまっています。もう少し論理をつなぐ文章にしましょう。
Q:本講義では、維管束を持つ植物と持たない植物の水分の吸収の仕組みなどについて学んだ。ここで、維管束を持つようになった植物はなぜ維管束を持つようになったのか、ゼニゴケのような拡散による水分吸収とのトレードオフについて考えていく。維管束植物は師部や木部などの複雑な組織によって形成され、効率的な水分吸収や水分の運搬に貢献している。一方、維管束を形成する木部や師部の維持にかかるコストが、ゼニコケのように拡散による水分吸収と比べ、大きくなってしまう。このトレードオフが生んだ維管束植物の利点として、植物体の巨大化が挙げられる。石炭紀に見られたと考えられているシダの森林や現在見られる裸子植物や被子植物の森林など、維管束を持つ植物で見られる巨大化は分布域の拡大や環境適応能力の向上につながったと考えられる。また、大きな葉を持つ植物の葉の多くは網状脈であるという内容についても、同様の仕組みが原因にあると考えられる。平行脈の葉では、葉脈間の部分への水分等の運搬を拡散によるものと捉えると、葉の幅が広いときに、葉のなかで水分等の均一な供給がなされなくなる可能性がある。一方で、網状脈であれば、葉の幅が広くても均一な水分等の分配が容易になされる。もちろん、平行脈でも、葉脈の数を増やせば、拡散による水分等の供給に部分的な偏りが生じることはなくなるかもしれないが、葉脈を増やすことにコストを要してしまうため、網状脈が多いと考えられる。
A:後半の葉脈の部分は、ある程度独自の考え方だと思われますが、前半は、そこらの教科書に載っていそうな感じですね。「維管束を形成する木部や師部の維持にかかるコストが、ゼニコケのように拡散による水分吸収と比べ、大きくなってしまう」という部分についても、一般論で、実際にどのようなコストがあるのかを考えてみてはいないようです。自分独自の考え方が重要です。
Q:授業で、葉緑体が細胞間隙に面した細胞表面付近に配置されることを学び、乾燥によるCO2供給の変化は柵状組織の厚さにも影響するのではないかと疑問に思った。CO2は水中より空気中で速く拡散する(その速度は約1万倍異なる)ため、細胞間隙はCO2供給に重要である。一方で、乾燥すると植物は水分損失を抑えるため気孔を閉じ、CO2の取り込みも制限される。ここでは、柵状組織が厚いほど葉の単位面積当たりの葉緑体数が増え、CO2固定能力も高まると仮定した。軽~中程度の乾燥では、気孔が開く限られた時間に多くのCO2を固定できるよう、柵状細胞の伸長や層数の増加によって組織が厚くなると予想した。これに対し、重度の乾燥ではCO2供給が制限要因となり、葉緑体を増やしても十分に利用できず、維持コストが上回るため、組織は再び薄くなると考えた。しかし、熱帯雨林の樹木を対象とした12年間の乾燥実験では、柵状組織が厚くなる傾向は有意ではなく(P=0.086)、干ばつ抵抗性によって変化の程度に差があった(P=0.034)。光合成能力を示すVcmaxやJmaxにも変化はなかった(1)。また、ワタの幼植物では、乾燥で気孔コンダクタンスが約39~48%低下し、光合成速度も下がったが、柵状組織は軽度・重度の乾燥のどちらでも厚くなっており、その厚さに有意差はなかった(2)。中程度の乾燥で厚くなる予想とは一致したが、重度で薄くなる予想は確認されなかった。しかし、この研究では乾燥の条件や実験期間が限られているため、今回の予想が間違っていたとは言い切れない。また、ワタでは葉面積も約44~69%減少したため、面積が拡大する方向への成長が抑えられる一方で、厚さ方向の成長は比較的維持された可能性がある。しかし、熱帯雨林の樹木では葉面積や細胞の大きさに変化がなく、この考え方だけでは説明できない。また、両研究とも葉緑体の数は測定しておらず、「柵状組織が厚いほど葉緑体数が増える」という仮定が正しいかどうかも分からない。以上より、柵状組織が厚くなっても、必ずしも光合成能力が高まるわけではなく、乾燥への応答には複数の仕組みがあると考えた。また、厚くなったことが適応なのか、成長の制限による結果なのかは、光合成速度や葉面積を同時に測らなければ区別できないと考えた。
(1) Binks, O., Meir, P., Rowland, L., da Costa, A. C. L., Vasconcelos, S. S., de Oliveira, A. A. R., Ferreira, L., and Mencuccini, M. (2016). Limited acclimation in leaf anatomy to experimental drought in tropical rainforest trees. Tree Physiology, 36(12), 1550?1561.
(2) Li, X., Wang, S., Zhu, L., Zhang, P., Qi, H., Zhang, K., Sun, H., Zhang, Y., Lei, X., Li, A., Wang, Z., Li, C., and Liu, L. (2025). Leaf hydraulic decline coordinates stomatal and photosynthetic limitations through anatomical adjustments under drought stress in cotton. Frontiers in Plant Science, 16, 1622308.
A:柵状組織の厚さの論文を読んでこのレポートを書いたのだとすれば、独自の論理とは言えませんし、最初に自分で柵状組織の厚さについて考えたのだとすれば、その部分を論理的に導出できていない点が気になります。「葉緑体が細胞間隙に面した細胞表面付近に配置されることを学び、乾燥によるCO2供給の変化は柵状組織の厚さにも影響するのではないか」とありますが、学んだ内容は葉緑体の配置で、そこから考えたことが柵状組織の厚さでは、論理的につながりません。レポートに必要なのは、紹介した論文の論理ではなく、自分で考えたことの論理です。
Q:コケと維管束植物の気孔の発達について、気孔は胞子散布を助ける「乾燥装置」として進化したと仮定してみる。コケ植物では気孔が配偶体ではなく胞子体に存在する例があり、維管束植物の葉にみられる気孔とは役割が異なっていた可能性がある。現存する多くのコケでは乾燥に伴う蒴歯の吸湿運動によって胞子の放出が調節され、蒴の成熟・開裂・胞子放出が促進される。もし初期の陸上植物で、胞子体内部の水分を気孔から失わせることで蒴を乾燥させ、胞子を放出・散布する機構が働きやすくなり効率よく放出できた個体が有利だったなら、気孔は繁殖成功を高める形質として選択されたと考えられる。その後、植物体が大型化し、維管束によって根から継続的に水を供給できるようになると、「水を失う孔」は同時に外気からCO2を取り込める孔として利用価値を持つようになったのではないか。さらに開閉を制御する能力が発達すれば、乾燥を防ぎながら光合成を行う調節装置へと変化できる。この仮定では、維管束植物の高度な気孔は新たに発明された構造ではなく、胞子体の乾燥に利用されていた構造が植物の大型化に伴って別の機能へ転用された結果だと考えられる。
A:これも上のレポートと似ていて、最初の仮定が唐突で、論理的に導出できていません。さらに言えば、2文目以降の知識の部分は、講義の内容ではないので、きちんと出典を明記することが必要です。