植物生理学I 第2回講義

葉の形のHowとWhy

第2回の講義では、最初に植物の器官と組織の概略を説明したのち、葉の形が決まるメカニズムについて、関連する遺伝子の欠損株の表現型を紹介しました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。


Q:葉の形態形成において、葉の表裏がどのような機序で決定されるのかは重要な研究対象である。中部大学環境生物科学科小島晶子研究室の研究紹介によると、葉の表裏それぞれで特異的な遺伝子群が発現しており、全てを欠損させるか表裏全体で発現させるとラッパ状の葉や片方の性質のみをもつ棒状の器官が形成されるという。しかし、これらの遺伝子群の発現を調節する機構はまだ十分解明されていないという。個人的には、胚軸と似た機序で、ある物質の濃度勾配によって表裏を決定する遺伝子の発現が制御されるのではないかと予想している。

A:全部で4文からなり、最初の1文は導入、次の2文は他人の研究の紹介で、最後は予想で終わっています。これだと、この講義のレポートで求めている論理にはなりません。


Q:一般的に葉は平坦で薄い。このような葉の形態進化は光受容とガス交換の機能によって進められたものだとされているが、私はそれだけではないと考える。葉の形が平坦なのは太陽光を取り入れやすいということ以外にも必然性があってそうなっているのではないか。例えば、薄くて平坦な葉が風に揺られることで常に流動する風に当たることができ、また、葉が振動することで葉の内部で滞っている空気を攪乱できる。その結果、新鮮な空気を得られたり熱放散や蒸散が促進されたりというメリットが生まれる。

A:まず、「葉の形態進化は光受容とガス交換の機能によって進められたものだとされている」といった、常識とまでは言えない知識を引用するときには、必ず根拠となる文献を挙げてください。葉が振動することにより熱放散や蒸散が促進されるという考えは面白いと思います。ただ、思いついただけだと論理にはなりません。もし、振動することが薄さの理由だとした場合、例えば薄くなくても振動し得る形が存在するだろうか、あるいは逆に振動しにくい葉は存在しないのか、といったてんを現実の葉において考えれば、論理的に読み手を納得させるレポートになるでしょう。


Q:授業では、葉の形態は平面方向では多様だが厚み方向の多様性は小さく、これは葉の本質的な機能による制限ではないかと考えた。この仮説を検討するには、光合成以外の機能を担う葉を見ることが有効だと考え、形と機能が特有な食虫植物の葉に注目してまず代表種としてウツボカズラを取り上げた。 ウツボカズラ属の葉は、平たい葉の先端に捕虫を担う袋状の構造が形成される。ウツボカズラ属5種の断面を比較した研究によると、平らな葉の部分は柵状組織と海綿状組織を持つ通常の葉の構造であった。一方、葉の先端に形成される袋の壁も葉と同様に表皮とクチクラが内部の葉肉を挟む構造をしていた。ただし袋には光合成の中心である柵状組織がなく、内側の表皮には葉にはない消化腺が見られた。以上から、捕虫という別の機能を担う袋でも厚み方向の基本構造は葉と共通しており、変化していたのは内部組織の配分であった。このことから、厚み方向の共通性が光合成そのものよりも、表皮とクチクラに挟まれた層状構造という葉の基本形に由来する可能性が示唆される。
参考文献:Osunkoya and Muntassir, 2017, Australian Journal of Botany 65: 67-79

A:光合成以外の機能を担う葉に注目した点は高く評価できます。ただし、ウツボカズラの袋状の構造は、緑色ですよね。その場合、光合成以外の機能を持つことは確かでも、光合成の機能を失ってはいないので、共通性が光合成に由来しない、という結論を導くのは難しいのではないでしょうか。


Q:仮説:亜寒帯や高山帯に生息する常緑針葉樹林の葉が針状なのは冬の積雪から葉を守る役割よりも、年間を通じて光合成を行うために適した結果ではないのか。
 たいてい葉は平たいため仮に雪が降ったとしても雪が滑り積もらない。また葉が平たくて雪が積もらないとしても枝の形状によっては枝に積もる可能性がある。そのため積雪から物理的に耐えるために葉が針状であるわけではないと考えた。冬は低温によってカルビン回路の活性が抑制され、炭水化物の生成が進まなくなる。一方、クロロフィルによる光エネルギーの吸収は続くため、その結果吸収した光エネルギーを十分に消費できず、水の分解から酸素が過剰に生じ他の細胞を傷つける可能性がある(1)。常緑針葉樹は、光阻害を防ぐために葉の面積を最小化することで必然的に葉緑体の量も少なくなる。クロロフィルの量も少なくなるので酸素発生量も少なく光阻害が少なくなるので年間を通じて光合成が行えると考えた。
(1)田中 亮一. 常緑樹は低温下でどのように光障害を防いでいるのか. 日本森林学会大会発表データベース. 2023, vol. 134, p. 45.

A:これは、今回の講義の内容に対するレポートとしては、少し外れているように思います。また、引用されている文献に頼っている部分が多いのと、内容にやや誤解(過剰に生じるのは酸素というよりも活性酸素)がある点が気になります。


Q:植物では、細胞分裂が主に茎頂や根端などの分裂組織でなされる。植物細胞は移動しにくく、位置情報や周囲の細胞からのシグナルに応じて分化する。では、もし植物のあらゆる場所で細胞分裂が起きたらどうなるだろうか。この場合二つの仮説が考えられる。一つ目は、無秩序な分裂によって組織の配置が乱れ、個体の機能が損なわれるという仮説である。二つ目は、分裂後も組織構造を維持できるという仮説である。植物の細胞運命は、植物ホルモンや細胞間シグナル、遺伝子発現などによって制御される。分裂が無秩序に起きれば、正常な分化や維管束の配置が乱れ、水や養分の輸送効率が低下する可能性がある。一方、植物組織は条件によって分裂能力を再獲得し、カルスを形成することもある。この事実により、分裂する場所が制限されること自体よりも、分裂と分化が適切に制御されることが、植物のボディプランの維持にとって重要であると示唆される。以上から、分裂組織の局在には、細胞分裂と分化を空間的に制御し、植物の構造と機能を維持する利点があると考える。

A:これは、非常に面白い点に注目していると思います。ただ、「植物のあらゆる場所で細胞分裂が起きたらどうなるだろうか」というのが問題設定だと思って読み進めると、結論は細胞分裂の局在の利点です。そうであるならば、最初から「植物はなぜ細胞分裂の場所を限定しているのだろうか」という問題設定にした方が論理がわかりやすくなります。


Q:個々の植物が異なる環境におかれ、それに適応しようとすることで多様性が生まれると学習したが、全く同じ環境に自生していても、種によって葉の形が異なっているのはなぜだろうか。現在生育する環境が共通していても、各々の祖先種から受け継いだ遺伝情報の違いが制約となり、種ごとに異なるアプローチをするのだと予想した。そこで、祖先種の分布環境が似ている種同士は、現在の環境での形質が似通うという仮説を立てた。動植物は世代交代を経て環境に適応するよう進化していくため、祖先が経験してきた環境が似ているならば、進化の過程も似通い、選択されてきた遺伝子および形質も似るのではないかと考えたからだ。
 同環境に自生する複数の植物について、各種の祖先がどのような環境に分布していたか調査する。祖先種の生育環境が似ている植物A・B、生育環境が大きく異なっている植物A・C間で葉の形・面積・気孔密度を比較し、A・C間よりもA・B間の形質の差が有意に小さいならば、仮説が正しいといえるのではないかと考えた。この実験により、同環境内での葉の形態の多様性が、祖先種が生育していた環境に由来するものだと説明できる。また、3種の植物A,B,Cの遺伝子を解析することで、祖先種の生育環境が似た種同士が似た遺伝子を発現させることを示せるかもしれないと考えた。

A:同じ環境でも葉の形が異なる理由を遺伝的な制約に求めるのは、独創的とは言えないかもしれませんが、面白いと思います。ただし、「祖先が経験してきた環境が似ているならば」として、遺伝的制約を環境的制約を自分でリンクさせてしまっているため、後半の論理が少し苦しくなっているように思います。


Q:私は、遺伝子の発現制御により葉の形質が変化する際、細胞の大きさが半分になっても、細胞の数がそれを補うように増えるため、葉の大きさは半分よりは大きくなる、ということについて機能の観点から考察した。細胞の大きさが半分になっても、細胞壁の全長だけが小さくなり、細胞小器官に変化がなければ、細胞の数を増やすことで機能の欠落を補うことはない。また、細胞の大きさが半分になったことで細胞小器官がその機能を失うであれば、同じ大きさの細胞の数を増やして機能を補おうとすることもない。これらのことから、遺伝子の発現制御により発現制御が行われると、細胞小器官の働きには変化が生じるが、その機能が完全に失われるわけではないということを考えた。

A:面白そうな話題なのですが、少し文脈が不明瞭な気がします。「細胞の数を増やすことで機能の欠落を補うことはない」は、その前に「細胞小器官に変化がなければ」と言っているので、もしかしたら、「細胞の数を増やすことで機能の欠落を補う必要はない」とすべきところなのでしょうか。また、細胞小器官の機能と細胞の機能をほぼ同一に扱っているように見える点も気になりました。


Q:葉の形はなぜ葉のような形になっているのかについてさらに考えを深めてみた。葉は円形・細長い形をしていることが多く、細長い場合は茎と平行に長くなっている。これを縦長と言うことにすると、なぜ横長の葉は無いのだろうか。葉は茎から多数伸びており、横長だと隣の葉と重なってしまう。葉の重なりが多いと日光を効率的に受容できなくなるので、幅を狭くして縦方向に長い形になった方が光合成効率が上がるからだと考えた。また、茎頂で光を受容し光屈性を生じるように葉でも原始的に光屈性のような現象が起こっているのではないかと考えた。葉が円形だったとしても茎から遠い方が光を受容しやすいので、先端部分で光を受容しその方向に葉が伸びたのだと考えた。

A:これも考え方は面白いのですが、前半は光合成効率が上がるというメリットの話で「Why」に対する議論なのに対して、後半は「光屈性のような現象」の話で「How」に対する議論です。2つは、講義の中で紹介したように別のレベルの話なので、単に「また」で繋ぐと論理が通らなくなります。


Q:今回の講義を通して、私は「植物の葉では全体の細胞数が制御されている」ということについて疑問を持った。どのようにして植物の葉の細胞数は制御され、葉が小さすぎたり大きすぎたりすることを防いでいるのだろうか。一つ目の仮説は、「遺伝子によって細胞数が制御されている」ということである。遺伝子に細胞数や細胞分裂を繰り返す回数についての情報がコードされている場合、この遺伝子が、葉が形成される過程において発現することで細胞数がコントロールできると私は考える。二つ目の仮説は、「重力を感知することで細胞数が制御される」ということだ。分裂が盛んな部位に葉の重力を感じることができる仕組みがあれば、ある一定の重さを超えたら細胞分裂が停止するように働き、結果として妥当な細胞数に落ち着くと考える。植物には動物のように中枢神経が存在せず、細胞分裂に関する指令を出す器官がないため、私は植物のそれぞれの器官で遺伝子や特有の組織に独立に制御されていると推測する。

A:これも発想は面白いのですが、二つの仮説を立てて、それらしいと考えただけで、あまり論理になっていません。ではどちらの仮説が正しいかを、どうしたら検証できるか、という点まで考えるようにしましょう。