植物生理学I 第11回講義
栄養塩の吸収
第11回の講義では、前回の続きとして根の形態について補足したのち、土壌からの栄養塩の吸収を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:ダイコンの芽生えの根では、根毛が水と栄養塩の吸収量を増やす役割を担っていると学んだ。その一方で、一細胞の根毛は寿命が短いため根毛は根端付近の一部分でしか生えていないとも学んだ。そこで私は、根毛は本当に吸収効率がいいのか、という疑問を持った。根毛は一細胞であるので非常に細いが、細いほど輸送の際の抵抗は大きくなるので栄養塩の輸送速度が低下し、それに伴って栄養塩濃度が高まり輸送速度が低下してしまうのではないか。また、根毛は一か所(根端付近)に固まっているので、周囲の土壌中の栄養塩濃度が低下してしまい、栄養塩の吸収効率が低下してしまうのではないか。後者については、根の急速な成長のおかげで一か所に留まる時間が短くなっており、そのため吸収効率のいい根毛は常に栄養塩濃度の高い新しい土壌へと伸長していってより多くの栄養塩を速やかに吸収する、という戦略をとっているようにも考えられる。根毛の吸収効率がその他の根の吸収効率よりも良いという点については納得がいったが、しかし、根毛以外の部分でもう少し工夫をすれば、栄養塩と水の吸収効率を向上させることができるのではないか。その一つの案として、根全体に、広い部分に少しずつ根毛のような根をつけることを考えた。全体で少しずつ吸収することで、土壌中の栄養塩濃度の低下を抑制することができ、吸収速度の低下を防げるのではないかと考えた。しかし、結局この構造は主根と側根になるのか、とも思った。別の案として、形成層で分裂することで根を肥大成長させて、樹木の樹皮のように根の最外層に切れ込みが入るようにすれば、根の表面積が全体的に増大し、水と栄養塩の吸収効率が向上するのではないか。この場合、根毛のように新たな形態の細胞を作る必要がなくコストが少なくて済む。その上、根の太さを細くすることなく凹凸を作り出すことで表面積が増大するので、効率のいい表面積の増やし方だと考えた。以上、根端付近だけで根毛をはやすよりも効率が良くなる根のつくりを考えたが、現状そのような根毛が発達していることの意義も重要であると考える。それは新地開拓にあると言える。未だ到達していない栄養満点の地での吸収効率を最大限にする、そしてまた新たな地へとすそ野を広げていく、この繰り返しで、根端付近のみではあるが多くの栄養を得続けることが可能になっていると考える。
A:自分なりの論理を展開していて評価できます。ただ、「細いほど輸送の際の抵抗は大きくなる」とありますが、この講義で扱った細管での流体の動き(ハーゲン・ポアズイユの法則)についてはその通りですが、生化学Iでは、体積流と拡散はそのメカニズムが異なり、拡散による移動量は拡散係数と断面積が同じであれば、同じになることを扱ったと思います。細胞の中での動きは主に拡散がかかわりますから、その点を考えないといけません。また、根毛により栄養塩が吸収されたのちに、その部分の土壌中の栄養塩濃度がどの程度減少し、その回復にどの程度の時間が必要かによっても、考え方を変える必要があるように思いました。
Q:今回の授業で樹上から垂れ下がるような気根があるという説明があった. しかし, 私はこのような根の主な目的としては酸素を取り入れることではなく, 栄養塩類の獲得であると考えた. その理由は, 授業中の画像からこのような植物はつる性植物で, 熱帯多雨林に生えていると考えたからである. まず, 熱帯多雨林では樹高の高い植物が多く分布し光資源が限られているので, 発芽したつる性植物の最初の律則としては光が働くと考えられる. 次に, このような状況に置かれたつる性植物は光合成をするために周りの木を登って日光を得ようとし, 樹冠近くまで伸びたら十分な光を確保することができると考えられる. このとき, 熱帯多雨林なので環境に水は十分あると考えられ, つる植物は蒸散流速の最大値もとても高いので水資源には困らないと考えられる. そして, つる植物の蒸散流速が速いことから光合成におけるガス交換は十分なので, 光を十分に得たら次の律則として働くのは栄養塩類だと考えられる. 栄養塩類が必要な理由は当然植物の材料として必要というのもあるが, 熱帯多雨林では土壌中の成分が雨によって流されてしまう溶脱という現象が起こるため, この環境の植物にとって栄養塩類というのは少ない資源だと考えられ, この問題を解決するために紹介された植物が編み出したのが垂れ下がる根であると考えた. つまり, ある程度成長した後に上から根を下ろすことで栄養塩類の不足を解消しているのではないかと考えた. また, 栄養塩の吸収にはエネルギーを使うため, そのエネルギーを賄うために気根としても働いていると考えられ, 雨がよく降ることから根の窒息を防ぐためにも気根になっていると考えられる.
A:これも、自分でよく考えていると思います。展開も論理的でよいと思いますが、「つる植物は蒸散流速の最大値もとても高いので水資源には困らない」というのはどういう意味でしょうかね。蒸散流が多ければ、それだけ多くの水を吸い上げる必要があるはずです。逆に、「水資源に困らない場合には、蒸散流速を上げることができる」であれば、理解できます。
Q:授業で紹介されていたオヒルギの膝根は地中から突き出ていて酸素を取り込む役割を果たすとのことであった。膝根が発達した後は呼吸が容易であると思われるが、膝根が発達するまでの期間、特に発芽する際はどのように酸素を得るのか気になった。水中では水に溶けたわずかな酸素しかないため発芽できないのではないだろうか。まず、オヒルギの種子が水中で発芽する仕組みを考えてみる。1つ目に思いついた方法は種皮と果皮の間に空洞があり、そこの空気を利用して発芽するというものである。果実をつけるのは水に浸かっていない地上部であるため種皮と果皮の間に空気で満たした空間を作ることは可能だと考えられる。2つ目に思いついた仕組みは前提としてオヒルギの生息域には水量が少なくなる時期があり、種子が外気に触れるその時期に発芽するというものである。
2つの仮説を検証するため、オヒルギの種子について調べた。特定非営利活動法人マングローバルによるとオヒルギの種子は「棒状の胎生種子」である(1)。また、名古屋港水族館によると「ヒルギ類の種は「胎生種子」といい、樹木についた状態で果実の中の種子が発芽します。20~40 cmの長さになると落下して地面に突き刺さり、根や葉を出して成長を続けます。」とのことである(2)。これらのことからオヒルギの種子は水中で発芽するのではなく地上部で発芽するため発芽に必要な酸素が得られると考えられる。よって、オヒルギは水中でどのように発芽するか、という問いは種子が地面に落ちてから発芽するという固定観念の元で生まれた問いであり、水中での発芽が難しいならば水中で発芽しなければいいという柔軟性を欠いた問いであったと考えられる。
【参考文献】1. 特定非営利活動法人マングローバル,雄漂木〈オヒルギ〉,鹿児島&沖縄 マングローブ探検, 作成日不明,https://www.manglobal.or.jp/tree/ohirugi/, 参照2024-12-28、2.名古屋港水族館,ヤエヤマヒルギの種子、ぐんぐん成長, スタッフコラム, 2022, https://nagoyaaqua.jp/study/column/15772/, 参照2024-12-28
A:1段落目の考え方はよいと思います。2段落目は答え合わせになっているので、この部分は、本講義のレポートには必須ではありません。
Q:根の一部に側根が密になっているクラスター根という構造をとり、根の表面積を増やしたり、リン酸分解酵素を放出してリンを吸収したりする植物がいることを学び、この構造は側根が密になったものという点から双子葉植物に限定されるが、単子葉植物は似たような構造を作る進化を独立に遂げた種はいないのか疑問に思った。参考文献1によると、カヤツリグサ科のある植物は根毛の先に細い毛の塊を作るダウシフォーム根という構造をとる。この構造は表面積を増やすとともに、フォスファターゼを分泌し、難溶性のリン酸を分解して吸収するという働きを持ち、クラスター根と同じ働きをしている。独立に進化したのに同じ働きをする構造をとるということはこの構造が生存に適しているからだと考えられるが、なぜどちらも一部分にのみ根を密集させるのか疑問に思った。
根全体から均一にフォスファターゼを放出するより密集させて分泌した方が分解効率が上がるのではないかと考えた。酵素が分泌される個所が狭ければ酵素濃度が大きくなり、一度に分解できる基質量が増える。しかしこれは根を密集した場所に難分解性リン酸が大量にあることが必要である。クラスター根の場合で考える。参考文献2によると、クラスター根を発現させるのは低リン応答遺伝子であることから、リンが少ないとクラスター根が発現するため、難分解性リン酸がある場所で発現しているのではないとわかった。次の可能性として、リンが不足している部分すべてでクラスター根はできるが、難分解性リンがなかった場合は枯死して無くなっていくのではないかと考えた。クラスター根は発現時に根の構造を作るためにコストがかかると考えられる。もし、クラスター根を作ってもリンが得られない場合、エネルギー不足でその周辺の根は枯死すると考えられる。一方、エネルギーを得られた部分は生存できるため、結果として残った根の構造を見ると、難分解性リンのある部分にのみクラスター根が存在する構造となる。これがクラスター根が一部分にのみ密集している理由ではないかと考えた。
参考文献1 低リン条件で房状の根を形成する植物の機能と分布低リンストレスに対する植物の適応機構.丸山 隼人,和崎 淳.2017.化学と生物.Vol,55.No,3.pp,189-195、参考文献2 植物の低リン適応戦略の解明.和崎 淳.2008.日本土壌肥料学雑誌.Vol,79. No,5. pp,452-453
A:よく考えていて、論理もきちんとしています。この点についてきちんと論じた例を知りませんが、レポートを読んで納得しました。
Q:根における葉緑体の合成が抑制されていると言うのは、光のあたらない箇所に葉緑体をつくるコストが無駄であるからと考えられるが、なぜ合成できる箇所を地上部に限定せずに、合成能力がある状態から植物ホルモンによる抑制をするのかについて考えた。合成能力を地上部だけにするとなると、特定の植物ホルモンや物質がないと葉緑体が合成されないようになっており、それが地上部でのみ分泌されている可能性が考えられる。この方法では植物ホルモンが欠損した場合、全身で葉緑体が作れなくなり、致命的である。加えて、地上部でのみ反応させるというのはホルモンのような全身に伝わってしまうものでは難しいため、根でも中途半端に葉緑体ができてしまうと考えられる。このことから、現在の植物の仕組みであれば、ホルモンや受容体の欠損が起きてもせいぜい葉緑体を合成するコストがかかるだけで、致命的なものにはならないと考えられる。
A:これも面白い考え方でよいと思います。この程度の長さがあれば、きちんと論理を展開できることがわかりますね。この講義のレポートとして、僕が求める標準的なレポートです。
Q:今回の講義の中で、大根の胚軸と根の話題について触れた。大根の場合は根と胚軸が一緒に太くなってしまっており、形では区別がつきにくい。また、地上に出て緑色になっていたりする部分が胚軸であるということも述べられていた。しかしこの「緑色かどうか」という判別方法の場合、例えば肥料や土を追加して胚軸部分が埋まってしまった場合などでは胚軸がはっきりと緑色にならず、根と胚軸の区別ができなくなってしまうことが考えられる。また、色の濃さは個体ごとに様々なうえ、位置ごとに色の濃さが変化していく(グラデーション)ので、根と胚軸の境目の位置はよくわからない。そこで私は、大根の緑や白の部分を輪切りにして、道管や篩管の配置を比べれば色に関係なく区別ができるのではないか?と考えた。維管束を持つ多くの植物において、根と茎では維管束の配置が異なる。そして大根は単子葉類ではないので、茎を輪切りにして観察すれば環状に並んだ維管束を確認できるはずである。具体的には、例えば色水などを大根に吸わせて維管束の位置がわかるように染色し、白から緑色へ色が変化している部分を中心に大根を薄く輪切りにする。そして維管束の配置から根と胚軸の位置や境目を決定する。この方法なら、色の濃さに関係なく根と胚軸の境目を明確に判別できると考えられる。
A:これは、生物学の知識を問題の解決に生かした面白いレポートですね。知識自体は高校生物の知識ですが、このような形でレポートに書かれたのは初めて見ました。
Q:今回の講義は根に関する話であった。講義の中で、さつまいもや大根が出てきて、根の色に関して興味を持った。大根は白いが、ニンジンは赤色、さつまいもは表皮は紫色で、内部は黄色である。植物体にとって根の色は適応的にどのように有利であるのか気になった。まず、植物の色で思いつくのは、光合成色素である。さつまいもの黄色は、光合成色素であるカロテノイド系であると考えられ、貯蔵根であるため、根に養分だけでなく、光合成色素も貯蔵して、新しい葉を形成する時のために保存していることが考えられる。他の可能性として考えられることは、さつまいもの表皮の光合成色素ではないアントシアニンの色などは土の中での同化に寄与しているのではないかと考えられる。植物の果実は色を特徴的にして食べられやすくするなどの効果があると言えるが、貯蔵根は次世代の形成などに使うために養分を保存しているため、なるべく被食されたくない。なので、土壌の黒い色や、赤い色に寄せることで、被食者に見つかりにくくしていることなどが考えられる。ここで、一般的な大根は白色であり、色素を持っていないと言える。これについて考えられることは、色素の形成にもエネルギーは要するため、コストと捉え、色素の貯蔵は行なっていないことや、被食に対する防御機構が他に存在することなど考えられる。
A:途中の「土の中での同化に寄与している」という部分だけ、そのあとの被食防御につながらず、意味が分かりませんでした。考えている点はよいのですが、草本の根は白いのものが多いと思いますから、白くないものの意味を考えるだけでなく、その特徴がより強く求められる環境条件について考えると、面白いレポートになると思います。
Q:今回の講義で、根の役割として貯蔵器官があり、サツマイモが代表例だった。貯蔵根はサツマイモの他にもニンジンやダイコンがあるが、サツマイモの色は他の植物と比べていわゆる皮が鮮やかな紫色、内部は多くの貯蔵根で見られるように、黄色に近い色である。そこで、サツマイモが皮と内部で色が異なっていて、特に皮が紫色であることについて、なにか理由があるように思ったので、これを考えたい。まずサツマイモの皮が紫色である原因を考えると、植物に見られる紫色の色素としてはアントシアニンが代表的であると考える。そこでサツマイモの紫色がアントシアニンに由来すると仮定して、アントシアニンを皮に多く含む理由を考える。アントシアニンの機能としては、光阻害を防ぐための太陽光のフィルターの役割があった。しかし、サツマイモは根で地中にある上、クロロフィルも少ないだろうから、アントシアニンをわざわざ合成しなければならない程光阻害の影響は表れないと考えられる。それでも光阻害の防止のためにアントシアニンが必要ならば、他にもっと多くの種で紫色の根がみられてもよさそうだと思った。そこでアントシアニンを持つ他の要因を考えると、サツマイモの根の周囲の環境として特殊な点を考えると、サツマイモは江戸時代に救荒作物として重宝されたことを思い出した。サツマイモは暖かく、火山灰など保水性・透水性に優れた土壌でも育つ。そして火山灰土壌は酸性環境になりやすいことに注目した。酸性土壌になるとリン酸欠乏に陥りやすいことが分かった(1)。そこでリン酸が少ない環境でアントシアニンが機能的意義を持つと考えたが、実際には、リン酸欠乏により光合成系の遺伝子の発現が抑制されたり、アントシアニンの蓄積が増加したりすることが分かった(2)。これが葉に限る現象なのか根にも起こり得るのかは不明で、実験的に検証しても面白いと思ったが、根が紫色になる原因の一つとしては仮定できる。ゆえに、アントシアニンは機能的に意味があって、サツマイモに特段よく見られると仮定していたが、実際はリン酸欠乏環境に依る副次的な影響として生じている可能性が高いと考えられることが分かった。
(1)地方独立行政法人 北海道立総合研究機構. “リン酸欠乏”. 農業研究本部, 掲載年月日不明, https://www.hro.or.jp/agricultural/center/research-topics/tomato/10.html, (2024年12月27日閲覧)、(2)松井啓祐, 戸上純一. 無機リン酸を高蓄積する植物およびその利用. 日本国特許庁, 2007年, 特許第5213449号
A:上のレポートと同じテーマを扱っていますが、こちらは、色の特殊性と生育環境の特殊性を組合わせで考えているため、議論に厚みが感じられます。ただし、議論の前半では、色素を持つ利点を議論していたのに対して、議論の最後では、色素の蓄積がリン欠乏によって誘導されるメカニズムにすり替わっているように感じます。講義の最初に述べたように、WhyとHowは別の疑問です。リン酸欠乏条件でアントシアンを合成する利点を議論しないと、首尾が一貫しないように思います。
Q:講義内で、根で葉緑体を分化させる能力はオーキシンによって抑制されていいることを学んだ。これは、頂芽優勢のメカニズムと似ているが、頂芽優勢はシュートを伸ばすコストを頂芽のみにかけることで効率的に植物体を成長させるというメリットがあるのに対し、根における葉緑体分化抑制メカニズムには、メリットがないように思える。なぜなら、根が葉緑体を作ったところで地下部にあるのだから、光合成ができるはずがなく、そのため根が葉緑体を分化させる能力を持つ意味が無い。よって、根が葉緑体を合成するメカニズムをもつこと自体が無駄であるように思えるからである。
それでは、なぜ根は葉緑体を分化させる能力を持つのだろうか。私が考えた仮説は、「根がもともと茎だったから」である。コケ植物は根を持たず、仮根をもつ。シダ植物や裸子植物、被子植物は根をもち、被子植物の根の形態は多様である。また、根を持つ植物でも、地下茎を持つ植物がある。これらのことから、根をもつ植物の根は、地下茎と同じように、もともと茎と同じような機能をもった部分が地下に入り込み、根としての機能に特化してきたという進化上のストーリーが考えられる。よって、根はもともと茎だったのだから、茎と同じように葉緑体を分化させる能力を持っており、その能力が、根の機能に特化してく過程でオーキシンに抑制されるようになった、と考えられる。それでは、なぜ茎の葉緑体はオーキシンによって分化が抑制されないのだろうか?根の機能に特化するためには、そこが「根」であるシグナルが必要であるはずであり、そのシグナルが茎には無いため、オーキシンによって分化が抑制されないのだと考えた。私は、そのシグナルは「光」であると考える。暗所で育ったアスパラガスが白くなるからである。アスパラガスは、茎なのに白くなることから考えた。また、なぜ頂芽優勢のメカニズムに似ているのか、についても考えた。これは、オーキシンの役割が植物全体で似た役割、機能を持つことによって、植物はオーキシンを合成するだけでさまざまなシステムに転用することができ、単純化できるからではないか。
A:これは、目の付け所が面白いですね。しかも、論理展開が非常にきちんとしていると思います。素晴らしいと思います。これを読んで、コケ植物の仮根には、葉緑体を分化させる能力があるのかどうかが気になりました。
Q:今回の講義で最も印象に残っていた話題は、水不足の土地に対しては水よりも肥料を与えたほうがより植物が成長するという話であった。これは拡散係数の文脈で指摘されていたが、同時に肥料を与えすぎた場合には植物が枯れるという話も聞いたことがあり、これがどのように両立されているかを考えた。前提としては、水分と栄養塩類はいずれも植物の成長に必要であり、その適切な範囲内にある限りであれば植物は成長を続けられるものであると考えた。また、肥料を与えることで成長するのは、その塩類によって水が凝集され吸収されるようになるためで、枯れてしまうのは水に対する肥料の割合が著しく高くなるためであると考えた。最終的には取り込まれる塩類を植物体内で代謝し成長に利用できるかという点によって決められると考えられ、水分が極めて少ない乾燥状態においては水が少ないことによって、取り込まれる塩類の量も制限されることから、結果的に成長できる範囲内にとどまっているものと考えられる。従って、乾燥している状態の土地に肥料を与えた直後、水を与えた場合には過剰量の塩類が植物体に取り込まれることで、却って成長が妨げられる可能性が考えられる。乾燥と湿潤という点で、草原と荒原(ステップ気候等)を比較した場合、いずれも一年草が主として育つ環境で枯れた分は地中に戻るという点で、塩濃度や有機物量を比較した場合その量には大きな差がなく、また雨の量が少ない点で土壌からの塩分の流出が少ない分だけ荒原の方が多くなると考えられるにも関わらず、荒原が草原、森林に遷移しない理由として、乾季と雨季の差が激しいことによって水不足と塩類過多の二段階の律速を受けるためと考えられる。従って、植物の成長には水と塩類を適切な割合で含む土壌が望ましいという結論が考えられた。
A:よく考えられていてよいと思いますが、「枯れてしまうのは水に対する肥料の割合が著しく高くなるためである」という仮定が、やや気になりました。これは枯れる「メカニズム」というよりは枯れる「条件」ですよね。例えば、もし枯れるメカニズムが土壌の浸透圧の上昇だとした場合、塩類の取り込み速度の塩類濃度依存性と、浸透圧の塩類濃度依存性が大きく異なれば、それだけで説明がついてしまうように思いました。
Q:今回の講義では吸水に着目した内容が多かったが、その中でもコケ植物に興味を持った。コケ植物は全身で水分を吸収しており道管のような通道システムを持たない。確かに生育環境を考えると暗くてジメジメしたところに生えている。しかし、なぜ暗いところに生えているのだろうか。湿地のような明るくて水が豊富にあるところでもっと栄えていても良いはずであるが草、水草に覆われており、コケはあまり見かけない。これについて考えてみる。コケ植物は全身で吸水するが故にガス交換が行いにくいのではないか。一般に被子植物、裸子植物では海綿状組織を持ちガス交換を行なっている。しかしコケ植物ら全身で吸水する、つまり、全身で水を吸うことを想定しているため海綿状組織のような気体が入った構造を持つことは難しいと考えられ、液体を介してCO2の補給を行っていると考えられる。以前の講義で気体の拡散は液体の拡散より非常に効率が良いことを習った。ここから考えると、コケ植物はその吸水特性故にガス交換の効率が悪くなり光合成におけるCO2が欠乏しやすい状況になっていると考えられる。そのため、湿地のように光の当たりやすい場所でも、暗くてジメジメした場所でも光合成の効率がCO2の欠乏という要因によってあまり変わらず、通道システムをもう植物に競争で競争に勝ちにくいと考えられる。つまりコケ植物は吸水システムにより光合成効率が悪いため暗いところにいると予想する。
A:これは、論理のつながりにはやや飛躍があるように思いますが、吸水特性とガス交換を結び付けたアイデアは面白いと思います。この講義のレポートで評価するのは、論理性とアイデアで、その内容が現実に正しいかどうかは問いません。
Q:マングローブは土が固くないところに生えているので、全体に幹のような支柱根をザクザクと生やして植物体を支えているのではないかと講義で話していた。ここで、土が固い場合でも、根が土に入り込んでいくためには固い根が必要なのではないかと考えた。そこで、固い土に生息する植物の根はどんな特徴であるか考察する。土が固くなる条件には、大きな固い粒が多い場合と、粒自体はそこまで固くないが細かい粒がぎっしりと詰まっている場合があると考えた。講義の栄養塩と水の吸収のところで、土壌含水量が減ると栄養塩が溶け込める水が土壌全体で断ち切られてしまうので、栄養塩の移動・拡散がストップしてしまうと話していた。よって、土の粒の大きさとしては、水を保つことができ、かつ水が流れる程度を想定する。まず、大きな固い粒が多い場合について考察する。固い粒を割って根が入り込むことはできないので、粒のすき間を通って根を伸ばす。すき間のみを通って根が伸びた場合、細くうねうねした根、もしくは枝分かれの多い根になると考えられる。一方、粒自体はそこまで固くないが細かい粒がぎっしりと詰まっている場合、細かい粒をどかすように入り込まなくてはいけない。よって、粒をどかせるような固い根が必要になると考えられる。これらのことから、土が固いという条件でも、どんな要因で土が固くなっているかによってそこに生息する根の特徴は異なると考えられる。しかし実際には植物が生息する土壌は深さによって特徴が異なっており、深いところにある土は細かい土が圧力で固くなっていると考えられる。植物は根を無限に下に伸ばすわけではない。よって、土が固くなっているところでは根を伸ばすのに多くのエネルギーが必要となる、または水の流れが悪くなるために、根の伸長を止めるのではないかと考えられる。
A:「ザクザクと生やして」などと言った記憶はありませんが……。それはさておき、土壌の粒子径を議論したレポートは他にもありましたが、自分なりの論理を積み重ねて議論している点は評価できると思います。