植物生理学I 第8回講義
形成層と維管束
第8回の講義では、植物の形成層と維管束、そして形成層の獲得と喪失による木本、草本の出現を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:授業内で形成層について、単子葉類を除いた種子植物は形成層を持つということを学んだ。しかし、単子葉類を除いた種子植物、いわゆる真正双子葉類と言われる植物でも単子葉類のように茎の細い植物は多い。つまり、形成層を持ちながらも樹木植物ほど形成層を利用して細胞分化を行わない種子植物も多いということがわかる。つまり、形成層を用いて茎を太くすることが不利に働く場合があるということである。私はこれには根の形成条件が関わっていると予想する。根からの養分の供給が多ければそれを形成層による横方向の成長に養分を利用できるが、供給が少ない場合他種や他個体との競争を考えると横方向の成長よりも高さを稼ぐ縦方向の成長を優先させるべきである。これより、根からの養分の供給量によって形成層を用いた太さの成長をするかしないかが決まると考えられる。太さの成長を律速する具体的な環境として土壌状態が考えられる。土壌が堅く乾燥している場合、もしくは貧栄養の場合に茎の太さの成長は起こらないと予想する。土壌が堅く乾燥している場合、水分を得るのが困難であるとともに根を伸ばすのが困難である。また貧栄養の場合は言うまでもなく高さの成長を優先すると太さの成長に分配する養分はないと考えられる。実際はこのような環境における植生は形成層を失った単子葉類が多く生育する草原である。これより、形成層を用いて茎を太くするかどうかを決定するのは土壌環境であると予想する。
A:自分で考えていてよいと思いますが、「養分」という言葉の使い方に注意する必要があります。植物が根から取り込む必要がある養分はいわゆる無機塩類である一方、貯蔵・蓄積する養分は、光合成産物で有機物です。肥大生長に重要なのは細胞壁の成分であるセルロースであることを考えれば、それは有機物ですから、根から吸収する無機塩類とは直接的に結び付けて議論することはできません。
Q:今回の講義で、形成層で細胞分裂が起きることで樹木の茎が太くなるという話があった。形成層から外側に細胞分裂することで樹皮が剥がれ落ちる図が出てきた。形成層による細胞分裂では形成層の外側だけに細胞が増加するのだろうか。幼木で茎が細い状態で形成層の外側にだけ細胞が増加すると篩管と道管は幼木の時点の位置にとどまるだろう。したがって維管束より外側の細胞が形成層の細胞分裂で増加しているため維管束は茎の内側に留まる。しかし、樹木では中心は水が通らなくなり、通導部分は外側の数割になるという話があった。そのため、維管束は茎の内側に留まっていないはずである。したがって、形成層からの細胞分裂は、茎の内側に細胞が増加するように起きることで維管束が茎の外側に位置するようにしていると考える。形成層に対して内側と外側への細胞の増加を調整することで維管束の位置を制御しながら茎を太くしていると考える。
A:講義の中では、形成層の外側に二次篩部、内側に二次木部を形成するという話をしたのですが……。レポートの内容に即していえば、死細胞になるのは、内側に生じる二次木部の部分に相当することになりますね。
Q:茎の肥大成長が植物のサイズによってどのように影響を受けるのかについて考察する。一般に、草などの小型の植物では茎の成長速度が速く、樹木などの大型の植物では成長が比較的遅い。このことは、それぞれが異なる成長戦略を採用しているためであると推察する。小型の植物は、短いライフサイクルで効率的に成長する必要があるため、茎の細胞分裂や伸長速度が速い。一方、大型の植物は長期的な安定や構造的強度を重視しており、形成層による肥大成長はゆっくりと進む。大型の植物では、形成層が内側に二次木部を、外側に二次師部を形成するが、この過程は細胞壁のリグニン沈着や二次壁の形成を伴うため時間がかかる。また、大型植物では、資源分配の効率性も成長速度に影響を与える。茎が大きくなるほど、水や栄養の輸送が重要となり、形成層の活動が資源供給の影響を受ける。結果として、成長速度は植物サイズに応じて、形成層が十分に水・栄養を供給できるように成長していく。反対に、小型植物では輸送経路が短いため、成長速度が制約を受けにくい。さらなる要因として個体数も重要であると考える。同じく区間の生態系の中では、植物のサイズが小さいほど個体数が多く、大きいほど個体数が少なくなる。個体数によって植物の生存戦略の方針が異なるため、植物のサイズや種類に応じた成長速度の違いが生じると考えられる。
A:全体として悪くはないのですが、論理展開を少し改善する余地があるように思います。小型の植物の成長速度がより速いという点から入っていて、その次に、「短いライフサイクルで効率的に成長する必要がある」という目的が来て、最後に「輸送経路が短いため、成長速度が制約を受けにくい」というメカニズムが来ます。サイズの話は、これらとは別の論理であるように思います。その場合、このレポートで主張した論理は何なのでしょうか。もし、最後のメカニズムを結論としたいのであれば、最初に事実を述べて、そのメカニズムを問題提起することをすぐに宣言した方が見通しの良い文章になります。そして結論を述べた後に、最後にその意義(目的)として述べて、異なる話となるサイズの部分は削除してしまう方向性が考えられると思います。
Q:講義で出てきた単位パイプモデル説について考えてみたい。単位パイプモデル説とは木の幹の断面積と全ての枝の断面積の合計がほぼ一致する、というものである。ならば維管束はどうなるのだろうと考え2つの仮説を考えた。1つ目は枝の維管束数の合計が、幹の維管束数と一致すると言うもので、単位パイプモデル説を位観測でも支持するような仮説である(分枝時に避けるチーズのように枝に維管束を分け与えるようなモデル)。もう一つは、維管束では単位パイプモデル説は支持されず、分枝時に幹の維管束数は減らず分裂すると言うものである(Yの字のように分枝時に維管束が分裂すると言うモデル)。これを調べるには、分枝前後の植物を輪切りにしていって維管束の数を数えれば良い。また、分枝前後の部分を縦に切ってみても良いと考えられる。 仮にこの時、1つ目の仮説が支持されたとする。すると、幹の太さによって維管束の数がわかり、ひいては葉や実の量が推定できることになり、農業に応用できないだろうか。
A:二つの仮説を考えるところまでは良いのですが、その当否を全く議論しないまま、実験系の話に移行しているのが残念です。せっかく仮説を立てたのであれば、そのどちらがもっともらしいかを考えて、その上で実験系の話にもっていかないと、論理的なレポートには見えません。
Q:植物の茎について個人的な経験から1つの疑問が生まれました。ある刺激によって折れそうになった植物は、その後、幹や茎をより堅くするか、それとも柔らかくするかということです。10年前、関東地方で大雪が降り、自身の家の庭にも大量の雪が積もりました。その際、屋根から滑り落ちた雪が、庭に植えてあったナンテンに直撃しました、ナンテンはかろうじて折れませんでしたが、落下した雪の重みで、離れの前の弓のように大きく曲がりました。このナンテンはさらに成長し、赤い実をつけて現在も元気に育っています。この経験から以下の疑問を抱きました。雪によって折れそうになった植物は、将来折れないように幹や茎をより丈夫にするのか、それともこの経験から、柔軟性を保つため柔らかく成長するのか。私は、前者の可能性が高いと考えています。なぜなら、植物はたった一度の経験だけでは学習しないと考えたたため、10年前の出来事によって、幹が特別に強化されたとは考えにくいからです。この大雪は10年前一度きりでした。現在ナンテンの幹に触ってみると、丈夫に育っているため、通常の成長過程を経て、形成層以外の細胞が死に、幹を支える形をとっていると考えました。
A:面白いテーマですが、考察と言える部分は「植物はたった一度の経験だけでは学習しないと考えた」という所だけのようです。例えば、なぜ学習しないのか、学習することとしないことのメリットとデメリットは何か、といった点をもう少し考えると論理的な文章に作り替えることができるでしょう。
Q:今日の授業でシダ植物における形成層は、現生では絶滅もしくは失ったりして2つの分類群しか残っていないことを学んだ。ここからシダ植物の性質と形成層によって木生シダとなる性質が合わなかったため絶滅や消失が起きたのではないかと考えた。シダ植物の性質として実家の庭に生えているワラビをイメージして考えると、冬には枯れてしまい、また春になると再び芽をだすという性質がある。そのため寒さに弱いため、地下茎等を用いて暖かい土の中で冬を越しているのではないかと考えられる。また木生シダの性質としては、高く育つことができるため光を得やすい一方で地上部の形成にかかるコストが高い。そのため冬などの寒い時期に一度地上部を枯らしてまた一から伸ばしていくには非効率である。そのため一度形成層を獲得して光を得ることができるようになった一方で地球の寒冷化等に伴って冬に地上部を維持すことができなくなり、結果として形成層を失ったり、適応できずに絶滅したりしてしまったのではないかと考えられる。 またほかの性質として、実家のワラビは日陰でも平気で生えているし、ゼンマイに至っては日陰にしか生えているところを見たことがない。このようなことからシダ植物には光がたくさん当たらなくても生育できる性質があるのではないかと考えられる。このことから光を得るために形成層を用いてわざわざ背丈を高くする必要がなかったとも考えることができる。
A:ワラビやゼンマイの生態を観察して論理を展開しているという意味では評価できます。ただ、どうしても、それをシダ植物全体に普遍化してもよいのか、という疑問は生じると思います。被子植物でも、シダ植物と同様の生態を示すものは単子葉植物を中心にたくさんありますから、やはり、それらのケースとの違いを議論する必要が出てくるのではないでしょうか。
Q:本日の講義で取り木について取り上げられたが、私は取り木の手法や原理を知らなかったので、切除部の上部に根が生じるのか衝撃だった。そこで取り木についてさらに調べたところ、一部文献で単子葉類でも取り木ができることが示されていた。これについて考察する。取り木は茎を環状に切除して篩管を除去し、導管を残すことで、水は供給されるが光合成産物は運ばれずに切除部上にたまる。そこから根が生じる。これは双子葉類が形成層を持ち、外側に篩管、内側に導管と環状に整序された構造を持つことを利用している。単子葉類は維管束が散在しているので、原理上不可能に思われる。しかし、調べる中で一部可能とするものもあり、これはどういうことなのだろうか。方法は、茎や枝に深さ1/3ほどの切れ目を開け、さらに上下2?4 cm 切開し、その後は双子葉類と同じように処理する方法だった。この方法の理論を推定する。単子葉類も整序していないが、外側が篩管、内側が導管なのは同じである。するとこの方法は、外側をある程度の深さまで何箇所か切れば、ある程度光合成産物はたまるのに十分ならば、根ができる、というもののように思われる。ただしこの場合適当に切らないと、篩管は残るし、導管も取ってしまって光合成産物がたまらないことや水が届かないことになる。この方法が上記の理論に基づいて本当にできるならば、実験系として、いくつかの単子葉類の植物に、導管や篩管を標識・カウントして、様々な切り込みの入れ方を変えていく。そしてそのときの切除した導管と篩管の割合・残った導管と篩管の割合・根が生じたかどうかを計測していくと、その植物種に取って、どのくらいの導管・篩管が残っていれば水や光合成産物の運搬ができるのか、また根ができるのかを調べることができると思い、この実験は興味深く思われた。
参考文献:公益財団法人 国際緑化推進センター. “取り木苗”. 森林再生テクニカルノート, 掲載日不明, https://jifpro.or.jp/tpps/conditions/conditions-cat01/b14/ (2024/12/03閲覧)
A:僕自身、単子葉植物の取り木という話は聞いたことがありませんでした。レポートを読んで思ったのですが、光合成産物がたまることは、取り木の成功率を上げることに寄与するかもしれない一方で、それほど本質的ではない可能性があります。他の可能性として、単に切り口に未分化細胞を作らせることにより発根を促進していることも考えられるかもしれません。その場合は、単に傷がつけばよいのかもしれませんね。
Q:今回の授業では、植物の導管篩管と形成層の獲得に関する内容が紹介されていたが、印象的であったのは形成層の獲得が複数回にわたって起きていたという点である。これは生育上有利な性質であるために適応した結果とも考えることが出来るが、そうであれば現実とは異なり形成層を持たない単子葉植物は淘汰されるとも考えられる。そのため、今回は形成層を持たないことのメリットを考えた。形成層を持つことの最大のメリットは背丈を伸ばすことが出来るという点であると考えた。死んだ細胞が物理的支持に働いているとの話があったが、この場合支持しようとしたものは枝や葉であり、光合成による純生産量を増やそうとする目的があると考えられた。一方、デメリットが存在するとき、それは撹乱に弱く収量を増やすために時間を要するというものが考えられた。これは、枝葉の展開のためには太い幹が必要であり、その幹の形成のためには細胞を生産し死ぬまでの時間が必要であり、細胞壁によって強度を強めようとした場合にも光合成産物を利用するコストもかかるため、利益を得るために掛ける時間が長くなるという機構によるものである。しかしながら、台風や地震など、環境要因によって大きな圧力が局所的にかかった場合、圧を逃がす機構が存在しない幹が折れ、次の世代で十分な光合成を行うまでには時間が掛かるものと考えた。また、この時形成層を持つ植物が持っていたニッチを、形成層を持たない植物が得ることになるものと考えた。草本として生えることは、光合成を行える場所が地表付近に限られるものの、成熟に係る時間を短くすることと圧を受けにくい形にすることで再生産に係る時間を短くする戦略を取っているものと考えた。単子葉植物の出現の時期は不明であるが、恐らくは地球環境が急変した時期であると考えた。これは形成層を持つ木本が光合成の競争の為、背丈を伸ばし安定していた時期に火山噴火や土砂崩れによって林床に光が届くような状況になったところで、より早く遷移を行えた双子葉植物の中から生じたものと考えられる。これを確認する場合、植物における撹乱の度合と単子葉植物の割合を確認することが望ましいと考えた。撹乱の要因となりうるのは水量・土壌塩類濃度・風・地震・日照量などの植物の生育に必要な要素に影響を与えるものであるが、撹乱が少ない場所であるほど単子葉植物の入る余地がないため割合が少なく、撹乱が多い場所であるほど木本の入る余地がない為割合が高まると考えられた。
A:よく考えていてよいと思います。ただ、少し日本語が読みにくいように思いました。書いた後、一度読み直して推敲すると、きっと格段に良くなりますよ。