植物生理学I 第7回講義

植物の茎

第7回の講義では、茎の形態と機能を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。


Q:今回の授業では葉の形について学んだ。特に「茎の断面は丸いとは限らない」という話に興味を持った。授業内で出た例として茎が四角形であるトレニアと三角形であるカヤツリグサについて、どちらも折れにくくするためであると学んだが、この三角形と四角形の違いは何かについて考えた。三角形の茎は、四角形よりも鋭角をもつため尖っている。そのため、風が吹いた時に、間に空気が流れやすくなり、密集して植物が存在する場では、湿気がこもりにくいと考えられる。また、四角形よりも三角形の茎を持つことによって、互い違いで配置することができるため、限られた空間を効率良く使うことができると考えられる。しかし、三角形にすると辺が一つなくなるため、四角形よりは、風に弱くなると考えた。四角形の茎は、三角形よりも力が均等に分散されるため、重さに強く、果実がなるものに多いのではないかと考えた。また、四角形にすることで、茎の内部の構造が規則性を持ちやすいため(三角形であると均等な形に分けるのが難しい)、バランス良く全体に養分や水分の運搬を行えるのではないかと考えた。しかし、四角形にすることで、角を1つ増やすためのコストがかかると考えた。

A:「折れにくくするためであると学んだ」とありますが、「ため」という目的は、本当のところ何なのかを実験で確かめることは容易ではありません。「折れにくくするためとして解釈できることを学んだ」なら許容範囲ですが、それでも、学んでほしいことはその事実ではなく、常に物事の意味を考える姿勢であることを、講義の最初でも言ったと思います。そのあとの考察は、それほど独自性があるわけではありませんが、まあ良いと思います。


Q:植物の茎の形が多様であることについて、特に中空の茎が存在する理由について考察する。まず、講義内では中空であることのメリットとして中心から遠いところに物質がある方が曲げに対する応力が強くなる点が挙げられていた。しかし、例えばヒメジョオンとハルジオンについて考えると、どちらも道端や野原など明るい場所という同様の環境に生育しており、似たような高さ、葉の大きさの個体に成長するのにも関わらず、ヒメジョオンは詰まった円形の茎を、ハルジオンは中空で円形の茎を持っている。したがって、茎が中空である理由は曲げに対する応力だけではないと考えられる。茎が中空であることの別のメリットとして考えられるのは、詰まった茎と比較して踏まれるなどの衝撃を受けた場合でも衝撃を逃がしやすいことが挙げられる。詰まった茎では衝撃が加わったときに茎の組織が潰れ修復が不可能になりやすいと考えられるが、中空部分に衝撃を逃がすことで多少の衝撃であれば茎がへこむ程度で済ますことができ、組織が修復不可能なほど潰されることはないのではないだろうか。

A:講義で言ったことをうのみにしていない点は評価でします。ただ、どちらもよく似ているのに、という点から考え始めた割には、修復についてもどちらも不可能だと困るのは同じでしょうから、結局、あまり代替案にはなっていないように思います。


Q:茎には、通道、器官の配置、貯蔵の役割があり、最も大切な役割が葉の配置ではないかということを学んだ。 しかし、多くの茎は、器官の配置や光合成生産のために細長く地上部に伸びていく中で(長さに差はあるものの)、ジャガイモは貯蔵のために茎自体を丸く膨らませており、一般的な茎の成長とは大きく異なっていると感じた。なぜジャガイモの茎は膨らむのか、茎に養分を貯めることにメリットがあるのかと疑問に思った。 ジャガイモの特徴として義務教育で習うのは「ジャガイモはやせた土地でも育つ」という知識だろう。しかし、なぜジャガイモがやせた土地でも育つのかということまでは学校では習わない。 だが私は、これこそが、ジャガイモの茎が地下部で膨らんで成長することに関係しているのではないかと考えた。前述したように、多くの植物の茎は地上部にあるが、ジャガイモの茎は地下部にあり地下にデンプンを貯めている。すなわち、他の植物が葉などに貯めている養分を膨らませた地下の茎に貯め込んでいるといえる。よって、茎に多くの栄養(デンプン)を集約させることによって周りの土壌環境の養分が少なくても育つのではないかと考えられた。また、葉は外環境の影響を受けやすく、ジャガイモが生産される寒い地域では葉自体が損傷しやすかったり、光合成効率が悪くてエネルギーを貯めにくくなるのではないかと思った。それに対して、地下部の茎を使えば安定して養分を蓄えられる上、茎は葉や根をつないでいる通道器官でもあり、すぐに栄養を植物体のどの場所にも届けやすいことからも、茎に養分を貯めるのは植物体にとって有利であるのではないかと考えた。以上の点から、ジャガイモは地下部の茎に栄養を貯めているのだと考えられる。 またこれらを踏まえて、ジャガイモを土に入れずに常温で放置してもすぐに芽が出てしまう理由についても考えると、茎の部分に集約された養分が多量に蓄えられているため、土がなくても芽が出てしまうのではないかと考えた。

A:自分の頭で考えていることはよくわかりますので、よいと思います。ただ、「茎に多くの栄養(デンプン)を集約させることによって周りの土壌環境の養分が少なくても育つ」と考えた理由がわかりませんでした。デンプンは有機物であって光合成の産物ですが、土壌環境の養分は無機塩類ですから、直接の関係性を議論するのは難しいように思います。


Q:今回の授業で, 茎に角を作ることで曲げられにくくしている植物としてトレニアなどがあることを知ったが, 私の知る限り幹(茎)に角を作っている木本を聞いたことがないと思った. そこで, 私は木本の茎に角がない理由を考えた. まず, 木本にはリグニンが多く含まれることによって茎の素材自体が強い構造となっており, 角を作る必要がないのではないかと考えた. また, いくら角を作って曲げられにくくしたとしても固くすることは折れやすくなることに繋がり, 背を伸ばし過ぎてしまうと強い風が吹いた際にポッキリと折れやすくなってしまうので, 角ばった茎は背の高い植物に向かないと考えた. そして, 比較的背の高い植物の多い木本の場合ではリグニン自体が強靭さを確保することで高さと重量に耐える強度を維持し, 茎自体は円構造にすることである程度のしなやかさを得ているのではないかと考えた. コストの面から考えると, 木は大抵の場合周りに同じような木を伴って生えており, 森や林では林冠にしか葉を配置していないことから, そもそも角を作ろうとすることは光資源が限られる状況で無駄な投資になるのではないかと考えた. そして, このような環境であれば周りに植物があるので強風などを考慮する必要がなく, 最もシンプルな円形の形に茎が落ち着いているのではないかと考えた. また, このような似た形態になるのは森などの環境において光を得るというのが重要な評価軸になっているからであると考えた.

A:「角」と言えるかどうかわかりませんが、ニシキギのように「翼」のようなものを枝に生じる例はありますね。ただ、それに適応的な意義があるかどうかはわかりません。ここでのレポートの議論は十分に説得力があると思います。


Q:フィトクロムは遠赤色光と赤色光を吸収し、吸収する光のうち赤色光の割合が大きくなると発芽する。これは植物が光合成に赤色光を利用するため、種子に赤色光が多く当たることを種子の真上に他の植物がなく発芽後に成長が見込めることの指標とするからである。もし遠赤色光を光合成に利用できる植物がいれば、その種は赤色光を光合成に利用する植物の光をめぐる競争に巻き込まれないため生存に有利だと考えられる。そこで、遠赤色光を光合成に利用する植物がいるか興味をもった。大久保智司によるとクロロフィルd は遠赤色光を吸収することが可能で、群体ボヤや海藻、カイメンなどに共生して世界に広く分布するAcaryochloris属のシアノバクテリアはクロロフィルdをもち、A.marinaという種は遠赤色光を吸収して光合成に利用する(1)。また、大久保智司によると複数の系統に渡るシアノバクテリアがもつクロロフィルfも遠赤色光を吸収することが可能で、12種のシアノバクテリアでは遠赤色光のみを照射して培養するとクロロフィルfが作られるが、遠赤色光と他の色の光を混ぜて照射するとクロロフィルfは検出されなかった(1)。大久保智司によると偶然白色光ではなく遠赤色光で培養した際にクロロフィルfが発見された(1)。
 このように遠赤色光を吸収するクロロフィルをもつシアノバクテリアは報告されているが、そのような植物は発見されていなかった。クロロフィルdやfをもつ植物が発見されていない理由について3つの仮説を立てた。1つ目に植物にもクロロフィルdかfをもつ種は存在するが、遠赤色光のみを照射してクロロフィルdかfをもつか調べた研究がまだないため発見されていない可能性があると考えられる。2つ目に細胞内共生によって真核生物に取り込まれたのはクロロフィルdやfをもたない系統のシアノバクテリアであったため、植物にクロロフィルdかfをもつ種は存在しないと考えられる。3つ目にクロロフィルdかfをもつ植物は過去に出現したが、絶滅したと考えられる。クロロフィルfが遠赤色光のみを照射すると作られることは、その植物の上に他の植物の葉が複数あり、自身に遠赤色光しか当たらない危機的状況における苦肉の策としてクロロフィルfが使われることを示すと考えられる。赤色光も遠赤色光も当たる状況でクロロフィルfが作られないのは、クロロフィルfを作るコストが高い可能性やクロロフィルfの光合成効率が悪い可能性があるからだと考えられる。この推論が正しいならば光合成色素にクロロフィルfのみ(性質が同じならばクロロフィルdも)をもつ植物は生存に不利で絶滅すると考えられる。
【参考文献】(1)大久保智司,新しく発見されたクロロフィルf,2012,光合成研究,22巻,2号,p.80-86

A:よく考えていてなかなか良いと思います。ただ、仮説の方向性にはもう少し改善の余地があるように思います。2つ目の仮説は、要はたまたまだったという話になってしまいますから、あまり生産的な仮説にはならない気がします。まだ発見されていないだけという1つ目の仮説は、遠赤色光のみを照射して実験をしていないから、というものですし、3つ目の絶滅する仮説は、赤色光も遠赤色光も当たる状況での話でしょう。どちらも、植物では遠赤色光のみを受ける環境が考えられないという点に集約されると思います。その場合、考えるべきは、シアノバクテリアが自然界で遠赤色光のみを受ける環境とはどのようなものであり、植物ではそのような環境が考えられるのか、それとも考えられないのか、ということだと思います。


Q:植物の茎には様々な色がある。その中には、茎も葉と同じく緑色で葉緑体を含むと考えられる植物も多い。しかし植物の茎が緑色であることについて、一つの疑問が生まれた。茎も緑であれば葉緑体があって光合成はしていると考えられるが、葉で光合成をしているのにそれでも茎が緑(つまり茎にも葉緑体がある)ということはどのような理由なのだろうか?光合成という働きは葉っぱに任せて、茎は葉緑体を作らなくても良いのではないか?という疑問である。これにはいくつかの可能性が考えられる。一つ目は、茎で葉緑体を作ること自体はそこまでコストがかからず負担になっていない、あるいは負担になるほど積極的には葉緑体を作っていない、という可能性が考えられる。例えば、「葉や茎などには光がよく当たると自動的に葉緑体を作ってしまう」という性質があり、特に大きな理由も無く茎で葉緑体を作ってしまうけれど、その状態でも特に大きなコスト負担やデメリットが無いからそのままになっているということが考えられる。二つ目は、葉っぱに加えて茎で行われる光合成量も無視できないほど大きいという可能性が考えられる。一つ目の可能性は「茎は光合成をしてもしなくてもどちらでも良い」という状態であり、二つ目は「茎でも光合成をした方が良い」と言う状態である。この「茎になぜ葉緑体があるのか」を実際に確かめるための実験手法として、全ての茎表面を黒い布など遮光する物で覆い隠すようなやり方が考えられる。光合成量や成長量を比べて有意な差が見られるのか調べ、生育に大きな差があれば決定的となる。

A:自分で考えていることはわかりますが、その方向性は、おそらく多くの人が考えるものと同じだと思います。その意味では、2つの仮説のうち「光がよく当たると自動的に葉緑体を作ってしまう」という方が、そのように考える人は少し少ないと思いますので、この講義のレポートしては評価ポイントになります。


Q:植物の茎の高さが他の生物との相互作用に有利な点について考察した。まず、茎の高さが花粉媒介や種子拡散に与える影響ついて考える。一般的な茎の高さよりも高い植物、すなわち花や果実が通常より高い位置にある植物は花粉媒介や種子拡散に有利だと考えた。その理由として、鳥や昆虫などの媒介者にとって植物が密集した地表近くよりも植物同士の密度が低く、比較的高い位置にある植物の方がアクセスしやすいと考えられる。特に飛行高度が高い昆虫や鳥にとって茎の高い植物は競争相手が少なく、互いにとって都合の良い関係だと言える(相利共生)。また、茎が高い植物はより風の影響を受けやすく風媒花にとってもより広範囲に花粉を飛ばすことができるため、繁殖成功率が高まる可能性がある。
 次に茎の高さが病原体の繁殖に与える影響について考える。地表に這うように生えている植物は植物が密集していて日当たりや風通しが悪いことや、雨などで湿った土が乾きにくいことから湿度が高い。そして湿度が高くなると葉面上などに露が生じることで病原体の分生子が発芽しやすくなり、また付着器の形成によって病原体が植物に侵入しやすくなる。(1)例えば細菌やピシウム属菌も多湿環境を好むと言われている。一方、茎が長い植物は根元に集まる湿度が低いため病原体の繁殖を抑制できると考える。このように花粉媒介や種子拡散、病原体の繁殖の観点においては茎が高いほうが生存に有利であると考えた。
【参考文献】"今一度、病気が発生しやすい環境を知り、植物病害から農作物を守る".Think and Grow Ricci,2024-07-05,https://x.gd/CJfFZ, (参照:2024-11-30)

A:前半は普通の考えだと思いますので、後半が勝負ですが、「湿度が高いから病原体が繁殖しやすいはず」という仮説をたてるまではよいと思う一方、やはりそこからの論理展開がない点が気になります。アイデアをポンと出すだけでなく、何らかのロジックが欲しいところです。


Q:今回の講義では、葉のバイオマスと茎の長さの間にトレードオフ関係が成立していることを学んだ。その原理として以下の2つを考える。1つ目は、資源配分の制約である。植物が利用できるエネルギーや資源は限られており、それらを葉と茎の成長やその他の機能に振り分ける必要がある。葉のバイオマスを増加させると、支持機構や輸送機能に必要なエネルギー量も増加するため、茎への資源配分が減少する。反対に、茎の長さが伸びると、構造を支えるための強度や成長エネルギーが必要になり、葉への資源配分が減少すると考えられる。2つ目は、適応戦略である。草本などの成長速度が速い植物は、光が多く茎の長さを伸ばす必要性が低い環境に生息するため、葉のバイオマスに多くの資源を投じ、短時間で効率よく光合成を行うことに特化した方が適している。一方で、高木などの競争が激しい環境に生息する植物は、茎を伸ばすことで光を獲得する必要があり、茎の長さに多くの資源を投じたほうが適していると考えられる。

A:論理は悪くはないのですが、これはまさに講義で解説したグラフの結果の解釈そのものですよね。講義では、「草本などの成長速度が速い」という点については全く触れませんでしたので、そのあたりが独自性になるのかもしれませんが、全体としては競争の有無と高さの関係になっていて、講義の流れに沿った形になっています。もう少し、成長速度との関係に焦点を絞って議論できるとよいと思います。


Q:今回は茎の話で、講義内では曲げに対する抵抗性を角が張り出していることによって得ている植物と、丸くして折れにくいようにする植物の話があった。風が強いところでは折れにくさが優先されることが容易に想像できるが、曲げに対する抵抗性が獲得されるのはどのような環境条件なのかを疑問に思った。考えられることの一つは、密度が高い環境で光を得るために確保した空間を、曲げによってズラされないためというものが挙げられる。また、茎の伸長成長に関して、アミロプラストの働きで重力を感知して伸長していくが、風などによって茎が歪曲した場合、茎の下側でオーキシン濃度が大きくなり、上方向に伸長される。曲げに対する抵抗性によってなるべく歪曲せずに、まっすぐ垂直に伸ばせるようにしているのではないかと考える。さらには、角の張り出しは、丸い茎から張り出しているように見られ、その分コストがかかると考えられる。よって、その分の養分を土壌から得る必要があり、豊富な土壌という点も一つの環境条件ではないかと考える。

A:「密度が高い環境で光を得るために確保した空間を、曲げによってズラされないため」という考え方は、これまでのレポートでもあまり見ませんでしたし、独自性があってよいと思います。ただ、そのあと別の話題に移って行って、しかも論理があまり通っているようには思えません。土壌中の養分は、無機栄養塩なのに対して、一般的なコストはエネルギーでしょうし。レポートを書いた後、自分で一度読み直して論理が通っているかどうか、確認するとよいと思います。