植物生理学I 第3回講義

植物の葉の構造

第3回の講義では、葉脈や表皮などのより具体的な葉の形態をその機能から考えました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。


Q:葉の役割について考察する。写真には葉の構造と機能に関する情報が示されている。葉は植物の「側生」の器官であり、主に光合成、ガス交換、蒸散といった役割を担っている。まず、葉には表と裏があり、「向軸側(表)」は太陽に面している側で、光合成のために効率的に光を吸収する。一方、「背軸側(裏)」は裏面にあたり、主にガス交換と蒸散を行う部分である。表面では、光合成の過程で生成される酸素が放出され、外部からの二酸化炭素が取り込まれる。裏面にある気孔はこれを助け、効率的なガス交換を可能にしている。葉の維管束系は、茎の維管束とつながっており、水や養分を葉に運び、葉で作られた光合成産物を他の部位へと輸送する。このため、葉脈には繊維組織が含まれ、強度と柔軟性を兼ね備えている。特に大きな葉脈は、葉を支持する骨格としての役割も果たしており、葉の構造を安定させる物理的特性も有している。葉肉細胞については、葉の基本組織系に含まれる細胞であり、葉の表面側には密に並んだ柵状組織が、裏側には海綿状組織が見られる。柵状組織は光合成を効率的に行うために整列し、葉の表面近くで二酸化炭素を吸収しやすくしている。一方、海綿状組織は不規則な形をしており、細胞間隙が多く、これが気孔とつながり、ガス交換を助けている。

A:これは、ほぼ正しい記述ですが、この講義のレポートしては評価の対象になりません。最初に言ったように、この講義のレポートは、その人ならではの論理性が評価の対象です。誰でもが思いつく当たり前の内容ではないことを書いてください。


Q:授業内の話のなかで、葉脈という折り目が存在することで、葉がへたれないというものがあった。私はこの話を聞いて、葉の葉脈がハニカム構造であれば、より強度の高い葉になるのではないかと考えた。ハニカム構造とは、蜂の巣などにも用いられている六角形型の構造で強度が全方位からの強度が高く、そして軽い。植物の中に、ハニカム構造の葉脈を持つものは見つけることができず、この構造は植物に自然選択されなかったことがわかった。これは、ハニカム構造の強度がむしろ強すぎることが原因だと考える。現在よく見られる葉の葉脈は網状脈か平行脈であるが、これらには脈の方向が存在してる。どちらも茎から葉の先端に向けて伸びている。このような構造は、構造全体にねじれの可動域をもたらし、葉にしなやかさを与えている。植物体は、硬く強ければ良いというわけではなく、風や雨を受け流すしなやかさも必要であるということがハニカム構造が葉脈として存在しない理由と考えた。

A:別に悪いレポートではないのですが、講義では、柵状組織の葉肉細胞がハニカム構造として働いているのかもしれない、という話をしたわけですから、それとの関係を議論しないと消化不良です。


Q:気孔がなぜ葉の裏にあるのかについて、今回の講義で少し話されていた。色々な意見が上がっていたが、私は葉緑体との関係でそうせざるを得なかったからだと考える。葉の断面にはクチクラ層の他表側に、柵状組織裏側に海綿状組織がある。柵状組織は細胞が密接して並んでおり、細胞間隙が少なくそこには多く葉緑体が存在している(1)。これは、葉緑体を多く表側に密集させ光合成の効率を上げるためと思われる。一方海綿状組織は細胞間隙が大きく、空気を通す。これは二酸化炭素等のガスを通すためであると考えられている(2)。もし気孔を葉の表側につくろうとすると、葉緑体に二酸化炭素を行き渡らせるためには大きな細胞間隙が必要になり、表側の葉緑体の密度が大きく下がることになってしまう。葉緑体に効率よく二酸化炭素を配り、かつ、葉緑体の邪魔をしないためには、葉の裏に気孔をつけ、縦に並んだ柵状組織に下から二酸化炭素が一括で触れられるようにする方法しかなく、結果として気孔は葉の裏にあるのだと考えた。そこで、春学期に植物形態学実験の課題で行った、葉がねじれているユリズイセンの葉の組織をこの考えの裏付けになるかと考え再度確認した。葉緑体が葉の裏(光の当たる方)に寄っていることは確認できたが柵状組織と海綿状組織までは確認できていなかった。この時、もしユリズイセンの葉の柵状組織と海綿状組織が入れ替わっていることを確認できれば、自身の意見を補強するものになると考えている。
参考文献:(1)日本光合成学会、光合成辞典、柵状組織、2020 (2024/10/26取得、https://photosyn.jp/pwiki/index.php?柵状組織)、(2) 日本光合成学会、光合成辞典、海綿状組織、2020(2024/10/26取得、https://photosyn.jp/pwiki/index.php?海綿状組織)

A:これは、論理の前提の部分が気になりました。「葉緑体を多く表側に密集させ光合成の効率を上げる」ということが当たり前のように書かれていますが、密集させるとなぜ効率が良いのでしょうか。ばらばらに存在していたほうがお互いに影にならなくてよい、といった可能性も考えられるように思います。レポートの論理構成の一つ一つの段階において、それぞれ論理性を確認しながらレポートを書きましょう。


Q:授業を受けて、なぜ地球の7割を占める海に、浮遊植物が一面に広がっていないのかという疑問を抱きました。水は、二酸化炭素が溶けやすく、光合成に必要なものもあるため、浮遊して生活し、光合成をおこなうことができる植物にとって海は理想的な環境のように思えたからです。ここでは、植物の繁殖に注目してこの疑問を考察しました。多くの植物は、風や虫により花粉が運ばれ、別の個体と受粉することで種子を作りだします。この受粉は植物の繁殖において重要です。陸上の植物は限られた範囲で生活するために、比較的容易にほかの個体と出会うことができます。しかし、海は広大であり、特に太平洋のど真ん中では風で運ばれる花粉が別個体と出会う確率は非常に低いです。また海中に生息する昆虫はほぼおらず、虫媒花にとっても好ましくありません。つまり、受粉という観点からみると、陸上の環境の方が、植物が効率的に繁殖できるという点で有利なのではないかと考えました。スイレンのように、気孔と葉緑体の位置を分け、一見エネルギーを最も効率良く生産できるように思えますが、上記のような理由から、浮遊植物は少ないのではないかと考えました。

A:視点は独創的でよいと思いました。確かに、海が浮遊植物に覆われているのを見たことはありません。ただ、レポートでは海と陸上の比較だけで議論されているので、その論理がどの程度支持されるのかがよくわかりません。例えば、内陸では、浮遊植物に覆われた池を見ることができます。池と海の比較だと、より「大きさ」の違いが重要だという論理展開に説得力が出るかもしれません。


Q:第3回目の授業でスイレンは気孔が葉の表側についているため、降雨時などに気孔から病原菌が侵入しやすいことを学んだ。またスイレンは自分の経験則から他の生物に食べられにくい。このことからスイレンは防御機構に優れているのではないかと考えた。高校の生物の授業で植物も病原体の侵入に対して応答し化学物質をつくり出していることを学んだ。スイレンは病原体が侵入しやすいため病原体に対する化学物質をつくり出している割合が他の植物に比べて高いと考えられる。またスイレンは母校の小学校のビオトープにも生えており、家に持って帰り育てたこともある。その時に気づいたことは他の水草と違い、スイレンは一切食べられないということだ。小学校のビオトープにはザリガニが主に生息しており、ホテイアオイ、スイレンといった水草が生えていたが、ホテイアオイはかじられて根はほとんどなく、浮き袋の役割を果たしていると思われる球体の部分でさえかじられていた。しかしスイレンにはかじりあとは見たことがない。また家で金魚とフナとコイを飼育していたところにはオオカナダモとスイレンが植えられていたがオオカナダモは食いちぎられてすぐにバラバラになってしまうのに対してスイレンは食べられていなかった。このことから病原体に対する化学物質が他の捕食者に対しても有効であり、食べられないのではないかと考えた。
 このことを確かめる実験としてはまずは防御に使われているであろう化学物質を突き止めなければならない。これは病原体に感染させた株と感染していない株で体内にある化学物質を比較して病原体に感染したほうに多い化学物質を突き止めればよいと考えられる。その後突き止めた化学物質を他の食べられるホテイアオイ等の植物に投与し、投与していないものと比べて生物に食べられなくなればよい。しかしながらスイレンは常に病原体にさらされる可能性があるので常に化学物質をつくり出している可能性もある。その場合防御化学物質が感染していない株でも検出される可能性もあるため、化学物質を定量化して量で比べたり他の食べられる水草と比較して調べたりする必要があるかもしれない。

A:自分の経験から論理を組み立てていることは評価できますが、何らかの化学物質が関与しているという仮説自体は、それほど独自性が高いという感じはしません。また、後半の実験も、やや当たり前な感じになっているように思います。


Q:今日は葉の形態について表裏や維管束系、気孔について学んだ。葉の機能が光合成と水や温度の調節であることを考えると、気孔は全ての機能に関わる構造である。私は気孔が全ての機能に関わる形態であるために、トレードオフを考えなくてはならない不利を被っているように思えた。例えば根が水の運搬に働くように、根や維管束系にもっと分業できないかと考えた。そこでミズニラという植物を知った。アンデス高地のペルー山脈にある植物で気孔をもたない。そのため二酸化炭素は根から取り込むし、水は吸い上げられないから地面に張り付いて生息し、茎も地中である(1)。まずミズニラから気孔を持たずその機能を完全に根に任せるコストが分かると考えた。気孔がない植物は気温が低く、また高さがなく根が発達することから、周りの植物と高さや地中の場所を競争する必要がない環境でさらに水が豊富である必要がある。こうした環境はかなり限定的だ。植物が生息地を広げるために気孔の獲得は重要だったと言える。気孔を持ちつつ根と機能を分業することは可能だろうか。実験で調べる方法を考える。ミズニラを使う方法では、気孔を単に付したからと言ってその通り機能する訳ではないだろうが、一度ミズニラに気孔をつくる遺伝子を導入した変異株を調べたい。(muteなどの遺伝子発現機構が分かっていることを発生学で学んだ)同じ環境条件で気孔の数の異なるミズニラを調べた時、単に気孔が多い方がよく育つのか、それとも気孔を作るコストと根と分業するコストの釣り合いで、1番成長が良くなる気孔の数が決まるのか、調べてみたい。また気孔を持つ一般的な植物について気孔の数を減らした変異株が根と分業するようになるのかも調べられたら良いと思う。
(1)九州大学総合研究博物館. “気孔の無い植物は?”. 植物と気孔. 更新日付不明, http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/annual_exhibitions/PLANT2002/01/06.html, (2024/10/21閲覧)

A:これは、発想もよいと思いますし、よく考えていると思いますので評価できます。ただ、機能分化のところやそのコストの説明が、ややわかりにくいように思います。おそらくそこが重要なのだと思いますから、もう少し字数を使ってでも丁寧に説明したいところです。


Q:今回の講義で、陸上植物の葉のオモテの表皮細胞には葉緑体がない、ということを聞き、光と葉緑体との間の遮蔽物が少ない方が光合成に有利なはずだからもったいなくないか?と疑問に思った。そもそも、葉の表皮は植物の生存上最も重要な光合成を捨てている。その理由は、植物が陸上に上がった頃の地球の状況を考えれば辻褄が合う。当時はオゾン層がなかったため強い放射線が降り注いでいた。また、水中生活をしていた頃から葉緑体を持たない葉の表皮が発達していたのであれば、それは水中では根からの葉の高さに関わらずどの様なものも葉にアクセスしやすいので、物理的に植物自身の身を守るための壁としての役割の方が、光合成をすることよりも重要だったと考えられる。しかしながら現代の陸上においては、放射線は比較的弱くなっているし、空気中では高い位置からある葉にアクセスできるものは多くない。そう考えた時、表皮細胞が葉緑体を持つ、若しくは、表皮細胞がなくなり柵状組織が最外の組織になるほうが光合成速度が上がり生存に有利になるのではないかと考えた。
 前者について、表皮細胞が葉緑体を持つには、葉緑体と光合成に関連する遺伝子の発現を促すような変異を加え、実際に光合成を行わせる。葉全体の光合成速度や、葉を透過する光の量を測定することで、表皮細胞が葉緑体を持つことが有利か否か確かめられる。この結果、変異体の方が光を吸収するのに光合成速度が低い場合は、表皮細胞の葉緑体があることで、正常な葉では屈折と反射によって葉の内部に溜められていた光が減ったことや、葉内部のCO2や水の供給が追いつかなくなり効率が悪くなったことが考えられる。
 後者について、表皮細胞を作る遺伝子をノックアウトした個体を作成する、もしくは、表皮細胞を直接乖離させ剥いだ個体を作成し、光合成を行わせる。この場合も前者と同様光合成速度や透過する光の量を測定することで、表皮細胞が光合成に与える影響を調べられる。ただしこの場合、葉の表面を守るものがなくなってしまうので、クチクラや同様の効果を示す物質を表面に塗ることが必要と考える。この結果、光合成速度が上がったのであれば現代の環境ではその植物には表皮は必要ないと言える。その逆も然り。

A:テーマもきちんとしていますし、その後の論理展開も良いと思います。評価できるレポートです。一点、このレポートで前提となっている表皮細胞が遮蔽物となっているということが、本当にそうなのだろうか、ということが気になりました。葉緑体を持たない細胞はほぼ無色でしょうから、細胞層一層の厚みでは、吸収される光はごくわずかという可能性もあるように思います。


Q:今回の講義では、単子葉植物の平行脈が持つメリットについて、成長点が根に近いことで草食動物によって葉身が捕食されても回復しやすいことが挙げられていた。この点については、牛が牧場で放し飼いとなっても牧草が無くならないことからも納得できるメリットである。しかしながら、草食動物の出現から1億年以上が経っても網状脈を持つ植物が残っている点から平行脈には網状脈のものと比較して光合成可能な環境が限られるデメリットが存在するのではないかと考えた。これを考えるにあたって、まずは葉の大きさに影響を及ぼす可能性を考えた。網状脈の場合、脈の数や分岐する角度を変化させることが出来るために葉身の幅が広い多様な形を取れる一方、平行脈では大きくなっても成長方向が縦方向のみの葉をつけるため、光合成可能な面積に制限がある可能性がある。しかし、面積が広くなることは却って捕食されやすくなることや、展開する面積が少なくても多量の葉をつけることで十分に補うことが出来るため、デメリットとしては十分でないと考えられた。次に、葉の枚数について考えると、まず同じ高さであれば平行脈と網状脈の機能で直接の差はないと考えられ、いずれも同じ個体の中の葉が上下で被らないように展開することが考えられる。従って、デメリットにはならないと考えられた。次に頂端基部軸での展開を考えたところ、平行脈を持つ植物には網状脈を持つ植物ほどまでに茎が生じていないことが見られた。これは、維管束内における形成層の有無の違いによって生じたものであると考え、平行脈を持つ植物の場合は成長点が基部側に位置するため植物体自体が高くなれないことが考えられた。この場合、同個体内でも上の葉が下の葉に被らないように展開するための枚数が制限される他、網状脈を持つ植物個体の葉が上部に展開した場合に、太陽エネルギーを奪われることで光合成効率が低下する可能性が考えられた。従って、食害への強さと葉の展開高度はトレードオフの関係になっているものと考えられ、周囲の動物量の関係や降水量など別の要因によるものであることが考えられる。

A:これもきちんと考えられていてよいと思います。形成層については、茎の話をする際に解説する予定です。


Q:今回の授業で、気孔はスイレンやゼニゴケらのその構造について解説があったが、私は葉をも水中に沈めるような水生植物の気孔について考察を行う。植物は水分を重視し、それを失うことを恐れるのだとすれば、水中に生育するのはその点において非常に有利である。しかしながら、呼吸を行うという観点からは水中に存在するのは芳しくない。だが呼吸は必ず何らかの方法で行っているはずである。まずひとつ安易に思いつくのは、水中に含まれる空気を水と共に取り込むことである。しかしこれには取り込んだ水分から空気を除き、水を排出する構造が必要になる。次に考えられるのは地中に伸びた根、もしくは地下茎が何らかの方法で空気を取り込んでいることである。これらには、まず水中に沈む植物は気孔を持つかどうかによっても考え方は変わる。気孔を持つかについては顕微鏡で調べ、持つ場合には気孔による呼吸について調べる実験を行う。これには葉の表面と裏面を片方ずつ塞ぐ、葉の両面を塞ぐという条件で呼吸量の変化を調べることがあげられる。気孔を持たない場合にはそれ以外の部分から空気を取り込んでいると考え、空気中に特定のマーカーとなるものを散布し、その移動の順序を調べることがあげられる。水生することにより授業内で説明のあった葉の温度上昇を抑えられるという利点があるが、光の届く量が減少することで光合成量が減ることも考えられる。水中の光減衰を測定し、陸生の植物の葉の単位面積あたりの光合成量を調べて水生のものと比較することで、水中に葉を持つことが本当に利点があるのかを知ることが出来るはずだ。

A:これは、発想が独特でよいと思います。ただ、「取り込んだ水分から空気を除き、水を排出する構造が必要」というのはどうでしょうか。ヒトの場合でも、確かに肺に空気として酸素を取り込んでいますが、肺胞の中では空気から毛細血管へと拡散によって酸素が移動していますから、結局は、血液という水分に酸素が溶け込むことになります。拡散を使えば、特に水を排出する必要はなさそうに思います。