植物生理学I 第2回講義

形は機能に従う

第2回の講義では、最初に形と機能の関係の一般論と、植物の器官の構成について紹介したのち、葉の形態と機能を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。


Q:私はより光合成効率が高まる葉の形として, しわのある葉とアンテナ型の葉を考えた. どちらの葉の形もコンセプトは同じで, 光合成で吸収しきれず反射してしまう光をこの形にすることで余さず利用できるのではないかと考えた. そして, 具体的なしわのある葉の光合成効率がより良くなる理由としては, 表面積がただの平たい葉に比べて大きくなることでさらに多くの光合成色素を表面に配置し, 光合成ができると考えた. また, しわの斜面に当たった光が反射し葉に当たることで, 吸収しきれなかった光を再び光合成色素に当てることができると考えた. アンテナ型の場合はもっと極端で, しわのある葉と同様に三次元的に葉を広げることで葉緑体の数を増やすとともに, アンテナの中に入った光が何度も葉の表面で反射することで光合成の回数を増やし, 平たい葉だと逃す光を吸収できると考えた. また, アンテナ型にすることで中心に行くほどエネルギー密度を高めることができるので, 太陽光の特徴であるエネルギー密度の低さを補うことができると考えた.

A:「アンテナ型」というのは、「パラボラアンテナ型」ということでしょうね。考え方としては面白くてよいと思います。できたらもう一歩考えて、なぜ、そのような形の葉が自然界にはないのか、さらに言えば例えばしわのある葉がかえって不利益になる条件としてはどのようなものが考えられるのか、といった発展があるとよいでしょう。生物は40億年の進化の歴史がありますから、それが実現していない場合には、何らかの理由があると考えるのが自然です。


Q:葉の基部で細胞分裂が行われているうちに先端の細胞の大きさが決まり、決まった先端の細胞の大きさは最終的な葉の大きさに合うという研究の紹介があった。"form ever follows function"が適用されるならば葉の機能が葉の大きさを決めるはずであり、葉の大きさの方が細胞の大きさより先に決まるのではないだろうか。寺島一郎によると陽葉より陰葉の方が葉1枚あたりの面積が大きく、薄いことが多い(1)。葉の主な機能は光合成であり、光合成という機能が葉の大きさを決めるとすると陰葉は受光面積を大きくすることで弱い光でも光合成による生産量を賄っていると考えられる。また、陰葉は陽葉に比べて受ける光が弱いため面積あたりの光合成色素量を多くする必要がなく、薄いことが多いと考えられる。このことから葉の大きさについて”form ever follows function ”が適用されると考えられる。光合成という機能によって葉の大きさが先に決まるとき、植物では具体的にどうやって葉の大きさが決められるのだろうか。寺島一郎によると葉の細胞分裂は平面方向への垂直分裂と厚さ方向の並層分裂の2通りがあり、その分裂のシグナルは成熟葉から発される(1)。よって既に光合成を行っている成熟葉がその植物の生息地の受光量に合わせて新しく生える葉の大きさを決定すると考えられる。これらのことから「決まった先端の細胞の大きさは最終的な葉の大きさに合う」というよりも「光合成という機能の観点から葉の大きさが決められ、葉の大きさが決まっているから先端の細胞の大きさも決まる」という方が適当だと考えられる。
【参考文献】1.寺島一郎,陰葉と陽葉の大きさ,みんなのひろば,日本植物生理学会,2019,https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4353,参照2024-10-19

A:全体として悪いレポートではないのですが、2つの論点のどちらも参考文献からそれぞれ一段階論理を展開しただけなので、やや物足りなさを感じます。一段階でも論理ではあるので、合格点ですが、できたら、焦点を一つに絞って、その代わりもう少し深く考察したいところです。


Q:講義では、「かたちは機能に従う」ことを植物の葉と光合成を題材に考えたが、これを基に光合成を行う多細胞の動物(便宜上植物動物と呼ぶこととする)をデザインするとどのようになるのか考える。植物動物は葉緑体を持ち、光合成による独立栄養的なエネルギー補給ともに食事による従属栄養的エネルギー補給も可能であるとする。光合成を行うのであれば、植物の葉のように面積が広くて薄く、細胞数に対する太陽光吸収のための面積が大きい器官を持っていることが妥当である。太陽光は基本的に動物の上から降り注ぐと考えると広く薄い器官は植物動物の上位に必要であり、可能な限りその器官を増やすことが理想である。一方で従属栄養生物の側面も持つとなると消化器官や、食物を得るために移動する付属肢なども必要である。また、効率よく太陽光を得るためには高さを出す方法或いは横に幅を広げる方法が考えられるが、移動の利便性を考慮すると高さを出す方が道など細い場所も通りやすくなるため適切だろう。これらを総合して考えると、植物動物のデザインは、身長が高く胴体の上位に薄くて平たい器官を複数持ち、消化管と移動用の付属肢を幾つか持った姿になると考えられる。このようにして機能からかたちを想像できることこそが「かたちは機能に従う」なのではないだろうか。

A:アイデアは非常に良いと思います。ただ、結論は、植物と動物の形態を併せ持つ形になってしまっていますから、意外性には欠けますね。せっかく植物動物を考えたのであれば、その相互作用によって新たに生み出される形態があったりすると、もっと面白い議論になると思います。


Q:たいていの葉が平たいなどという共通性があるということについて「機能が形を決めている」ことが理由だという結論を導き出していた。この結論に関して、確かに授業で扱った光合成を例にとると、光合成に必要な光を広い面積で吸収するために葉が平たくなったという共通性が生まれたと考えて矛盾はないと納得できた。しかし一方で「機能が形を決めている」のではなく「形が機能を決めている」ものもあるのではないかと考えた。例えば、動物形態実習の骨学の講義で、Richard Owenが「生物は既存の骨を変化させずに機能を変える」と言っていたことを思い出した。具体的には魚類・両生類・爬虫類・哺乳類とグループが異なっていても骨の並び方やつながり方には共通性があり、この既存の骨の共通性を変化させずにそれぞれの動物は機能を変えている。例えば鳥も骨の並び方や元のつながり方は他のグループと同じであるにもかかわらず、羽という空を飛べるという機能が加わっていると考えられる。そのため、骨学の講義と植物生理学の本講義を踏まえると、光合成などの植物の例では、「機能が形を決めている」と考えられる一方で、骨の例では「形を変えずに機能を変えた」ものもあることが分かり、共通性があっても機能が異なるものがあることがわかった。よって、生き物の共通している形態の全てが同じ機能を持っているわけではないと感じつつも、やはり動物のグループによらず骨の並び方やつながり方に共通性が見られたことは、本講義で説明していた「機能が形を決めている」ことが理由なのではないかと考えた。理由は骨学の授業で学ばなかったが、脊椎動物は無脊椎動物などの動物よりも捕食をするために運動が活発であったり、大切な臓器を守ったりするためにこのような共通性が見られるようになったのではないかと考えた。以上を踏まえて、「共通性が見られる理由は機能が形を決めているから」という論理は成り立つが、「共通している形態の全てが同じ機能を持っているわけではない」と考えた。

A:進化的な制約というのは、生物を考える上では重要です。ただ、ここで述べられている議論とは逆に、進化的な制約があるからこそ、形態の変化には機能が関与しているはずだ、という考え方もあるでしょう。もし、制約がなければ、機能以外の要因によっても大きく形が変化し得るでしょうから、機能の要因を分けて抽出することは困難になると考えられますから。


Q:今回の講義において、ギザギザや扇形などの二次元的な特徴や、厚い薄いなどの三次元的な葉の形態を決定しているのは、機能であるということを学んだ。その本質は、葉が太陽光を用いて光合成するためである、ということを学んだ。昨年度受講した植物学実験で、植物では単葉をもつものと複葉をもつものがあるが、複葉から単葉に、あるいは単葉から複葉になる進化は頻繁に起こるということを学んだことが思い浮かんだ。今回の講義から考えると、この進化も同様に、ある環境下において何らかの機能を獲得するために起きた進化であると考えることができるのではないか。同じアブラナ科であるシロイヌナズナは単葉であるのに対してミチタネツケバナは複葉であるなど、たとえ近縁な種であっても葉の単葉か複葉かの選択といった形態もまた、機能が決定しているのではないかと考えた。複葉になると、葉を形成するための1枚当たりのコストおよび葉が光エネルギーの収率を最大化するために葉を傾かせ角度を調整する際のコストを抑えられるのではないか。また、単葉よりも作るコストがかからないので、使い捨てがしやすく、例えば一枚の葉が食害を受けても被害を抑えることができると考えられるのではないか。この仮説が真であるかを確かめるために対照実験を行う場合、一方は単葉一枚、もう一方は複葉のうちの一枚に着目し、ある場所から特定の光を同じタイミングで照射する。光源から葉からの距離も等しくし、このとき光を受けるように葉が角度を変化させ動きを止めるまでに要する時間を比較する。仮に複葉のほうが向きを変えるまでの時間が早いという結果が出れば、単葉→複葉による角度調節のコストカットという仮説は現実味を帯びてくるが、大きな差が認められなかった場合、その機能は形態の変化に影響を与えないと考えることができる。

A:複葉の話は、他にも何人もの人が取り上げていて、それほど独創性があるわけではありません。葉の動きに着目した点については、ある程度の独自性が見られますが、「葉を傾かせ角度を調整する」ことが自明のものであるとして議論が進められているのがやや気になります。葉の動きにおける複葉のメリットを<、もう少し論理的に説明する必要があるかもしれません。


Q:講義では形は機能によって決められているとのキーワードがあり、葉っぱは光合成が大事な役割となる。よって密度の低い太陽エネルギーを効率よく集めるために平べったい形が一般的とされているが、それに従うならば葉っぱは皆薄くて平べったい方が光合成効率が高くなるのに、厚ぼったい葉が選択されている植物もあるのだろうと疑問に思った。これに関して調べて見ると、日本生態学会誌に「構成コストが高い葉では葉寿命が長くなること、...短いことが予測された。これらの傾向は実際の植物に当てはまることが示されている」とあった。...(1)ここでいう構成コストは葉を作るときに要したコストであり、光合成速度は葉が作りたての状態が一番高いことを前提として置いている。ここを見るに、厚ぼったい葉は太陽光を吸収することよりも葉の寿命を延ばそうとすることを優先しているのではないかと考えた。構成コストが高いということは、その分1つの葉を作るのに対しての栄養が薄い葉よりもかかるということである。薄い葉はその分大きくなるため、光合成の効率は良いがその分葉寿命が短くなることを考えると、光合成の効率と葉寿命の長さの両立は難しく、日陰か日向か、またその周りの環境によってどちらを優先するかで薄い葉か厚い葉かの選択が起こるのだと考えた。
〈引用文献〉(1)及川 真平・長田 典之・宮沢 良行・宮田 理恵・Onno Muller,特集1 なぜいま葉寿命なのか?:葉寿命研究の歴史と近況,日本生態学会誌,2013,63,p.13

A:アイデアはよいと思います。ただし、「構成コストが高い葉では葉寿命が長くなる」というのは、相関関係であって因果関係であるとは限りません。コストの高い葉を短時間で捨ててしまっては元が取れませんから、短時間で捨てる葉にはコストをかけると損になる、というコストと利益の問題なのか、それとも構成コストをかけた葉は、機能的に光合成の効率がよくなるというメカニズムの問題なのか、その点をきちんと明確に考える必要があるでしょう。


Q:今回の授業で、先生が投げかけた葉の形の質問と、積み木が四角である理由の質問、両方に対して、私が最初に出した答えは先生が予測していた答えの中にあった。どのように物事を考えれば自分にしか考えつかない回答を作れたのかについて考えた。まず、私の回答は視点が多角的でなかった。積み木の質問の場合、積み木を積むとき以外のことも考えれば、隙間なく梱包できるから、など、様々な答えを考えついた。真っ先に思い付いた考えが正しそうでも、別の視点から考え直すことが重要だと感じた。他が気にしないような視点から考えればオリジナルな解を出せると考えた。この点を踏まえて、なぜ、機能が形を決めるのか、逆は起こりうるのかについて考える。
 機能が形を決めるとは、生物に必要な機能の目的があれば、その目的に適した形を持つ者が生存し進化していくことである。もし、機能が形を決める の逆、形が機能を決定した場合、生物が形を変化させると目的が決まるが、機能を使う目的は主にその個体以外の環境などが変化することが原因であるため、生物の進化が起こらなくなる。そのため、機能が形を決めるという仕組みになっていると考えた。

A:「隙間なく梱包できるから」というのは、今までにない回答ですね。その場でなくても、柔軟に考えることができることは評価できます。後半は、面白そうな話題ですが、3つの文だけでは、論理展開がやや消化不良な気がします。後半だけで、もう少しきちんと論理を展開できるとよりよいレポートになるでしょう。


Q:今回の講義を受けて、葉の形には共通性と多様性があり、たいていの葉が平たいという共通性は光合成を行う機能によるものであると学んだ。また、植物種によって葉の平面的な形が異なるのは、それぞれの環境に応じたものであることも理解できた。一方で、鋸歯の有無は環境に応じたものであるのか疑問に思った。植物形態学の講義で、同地点・同条件下で鋸歯のある葉とない葉を採取したことがあり、他の構造に大きな差異はなかったため鋸歯の役割について興味を持っていた。文献(1)によると、鋸歯はオーキシンによってつくられ、鋸歯の有無と年平均気温に関係があることがわかった。また、鋸歯の先端には水孔が生じ、植物体内の維管束を通る余剰な水分を放出することがあるともわかった。今回は水孔に着目して、鋸歯の有無に関する実験をひとつ提案する。まず、鋸歯および水孔のある葉をもつ植物を2株用意し、水分過多になるような環境で栽培する。その際、一方の株のみ生じた葉のすべての鋸歯を切り落としながら栽培する。余剰な水分を放出するために鋸歯があるのならば、鋸歯を切り落とされた株は成長が止まったり枯れたりするなど何らかの影響を被るはずである。この実験を行うことで、鋸歯の役割が水孔による水分放出であるかどうかを確かめられるのではないかと考えた。
(1)柴岡弘郎.”鋸歯の役割”.みんなのひろば|日本植物生理学会.2015-07-22,jspp.ohttps://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3320rg,(参照2024-10-18)

A:悪くはないのですが、内容は参照文献に依存していて、独自性は実験系だけになっている一方で、実験系はやや物足りなく思います。そもそも葉の一部を切り落としたら、鋸歯でなくても成長が止まったり枯れたりしてしまう可能性があるのではないでしょうか。