植物生理学I 第14回講義
植物の実
第14回の講義では、先週の続きとして花芽分化と花器官の形成について触れたのち、種子の形成と散布について講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:今回の授業で植物の生殖方法について学んだ。ここで疑問に思ったことが生殖の過程においてメインが種子と胞子であることである。葉や果実などの色や形機能が多様性に富んでいる中で、生殖方法のメインが2種類であることに違和感を持った。これについて考えられることは、まず生殖過程において大事なことは幅広く散布させ、大量の遺伝子を広げることと、生き残る確率が高いことである。これは種子は自分の中に栄養素を持っているため、仮に栄養のない培地に落ちた時種子のほうが繁殖しやすい。また胞子には栄養がほとんどないことにより、種子とは対照的に大量にまきちらせる。動物もウニとかのように大量に子孫を増やし、その中の数個体が生き残って大人にさせるようなパターンと、鳥類のように少ない固体を確実に育てるパターンの二つである。よって種子と胞子の2種類がメインなのは、生殖能力に必要な2パターンを再現しているのであると分かる。
A:途中まで、種子と胞子の比較だけだとオリジナリティーにかけるかな、と思いつつ読みましたが、最後に動物にまで一般化したので、レポートとしてまとまったと思います。
Q:今回の講義では、シランの種子とラン菌の共生関係についての話題があった。ここでは、自宅の庭に生育するシランの観察を通して、ラン菌の増殖様式を考察する。まず、シランはラン菌無しでは生育できないため、シランが生育する場所にはラン菌も必ず生育しているという前提をもとに議論を進める。自宅の庭のシランは群生している。群生の度合いは、どの花がどの茎に接続しているか、一目ではわからず、手で葉をかき分けないことには、確認できないほどである。これほどに、シランが群生するには、地面に十分多数の種が散布される必要がある。また、種子散布される場所には、ラン菌の存在が不可欠である。よって、シランの種が多数地面に分布されるには、ラン菌が地面で十分増殖する必要がある。菌の増殖には、有性生殖と無性生殖の2通りが考えられる。有性生殖は、減数分裂と配偶子接合を伴うので、無性生殖に比べて時間を要する。つまり、同じ時間増殖をした場合、無性生殖の方が有性生殖に比べて分裂回数が多く、より活発に増殖できる。よって、ラン菌は、地面で十分増殖するために無性生殖をしていると推測できる。
A:これは、レポートのロジックだけをみると良いのですが、自宅の庭のシランを観察したら、シランが一年草でないことは一目でわかるように思います。シランの側にも栄養生殖があることを考慮に入れると、大きく書き換える必要が出てくるでしょう。
Q:今回の講義では花粉の形について紹介されていたが、花粉の形が植物によってそれぞれ異なる理由について考えてみた。花粉の形は大きく分けると、表面がトゲトゲしたものと、表面がツルツルしたものの2つが存在した。参考文献(1)から、トゲのある花粉はトゲによって虫や鳥などにくっつきやすくし、受粉しやすくする虫媒花であるように考えられ、表面が滑らかな花粉は、虫や鳥などへのくっつきやすさは考慮せず、気嚢なども持つことによって風によって運ばれやすくするという風媒花であると考えられる。ここで、虫によって運ばれる花粉としてツツジ科の花があげられていたが、その形態は表面が滑らかな風媒花のような形態をしていた。ただしこれについては参考文献(1)より、その表面に粘着糸という粘着性を持った糸を持っており、これによって花粉が付きにくい昆虫にもしっかり花粉が着くようになっていると述べられていた。これについて私は、小さい頃よくマンションや公園の周りにツツジがたくさん生えており、よくその蜜を吸って遊んでいたときがあったが、ツツジに群がる生物は鳥のような虫に比べると大きな生物ではなく、蝶や蛾であり、頻繁に蛾が蜜に群がっているのを見た。蛾は確かにその表面に多少の毛が生えてはいるが、基本的にはツルツルした硬い物質で覆われており、トゲのある花粉でくっつくような形態ではないように思われた。しかし、ツツジのような粘着性のある花粉の場合であると、毛が生えた鳥よりも毛のない蟻の方がくっつきやすいと考えられる。加えて、ツツジは街路樹としてよく見かけるため、ツツジについて詳しく調べてみると参考文献(2)より、ツツジは景観の向上や交通安全のための壁としての役割、ホルムアルデヒドなどを吸収し空気を浄化する、など様々な目的のために街路樹として使用されていることが分かった。したがって、これらをまとめると、ツツジは人々の生活を向上する目的として街路樹として導入されることになり、人が多い場所にたくさん植えられるようになったが、そこには花粉を運んでくれるような蜜を求める鳥などは少ないと考えられる。そのため、人の有無に関係なくどこにでも存在する蛾などを花粉を運ぶ媒介者として標的にし、その環境に応じて適応していったため、表面が滑らかで、かつ粘着性のある物質を表面に含むという特殊な花粉の形態を取っているかもしれない。
参考文献:(1)岡山大学、図鑑【花粉】、https://www.ous.ac.jp/scipara/book/detail22/pdf/all.pdf、閲覧日2024/01/27、(2)道路脇の植物の役割、https://kuruma-news.jp/post/151093、2024/01/27
A:レポートの最後の着地点となっている人の生活との関連は、面白い視点でよいと思います。ただ、蛾の鱗粉は有名だと思いますので、「基本的にはツルツルした硬い物質で覆われており」という部分がやはり気になります。
Q:今回の講義では、花粉の様々な形態について学んだ。花粉は形が扁平なものや表面に凹凸のあるものなど様々であり、それぞれの花粉の運搬方式に対するメリットが隠されていると感じた。この講義を受け、私が疑問に感じたのは花粉の色である。私たちの身の回りの多くの植物は、花粉の色が橙から黄色をしており、青色や紫色のものは少ないと感じた。この特徴は花の色の特徴と合致するが、それはなぜなのか考察する。考えられる理由として、送粉者から花粉を見つけやすくするという花の色と同じ役割をしているという点が挙げられる。花粉も色が暖色になることによって、昆虫や鳥から認識されやすくなるのではないかと考えた。しかし、花粉は非常に体積の小さいものであり、かつ花粉が見つけやすいことによる送粉者へのメリットがはっきりしていないと感じた。したがって、この説を立証するために、花粉が鮮やかな色をしていることによって、昆虫や鳥が花粉がある場所を蜜のある場所と認識できている、ということを証明しなければいけないと考えられる。これらの証明過程で、本当に色によって花粉の運搬具合に差が出るのか、また昆虫や鳥は私たちには感じとることの出来ない方法を用いて花粉の色を認識しているのではないか、ということが立証できるのではないかと感じた。
A:花粉の色に関するレポートは、これまであまりなかったので新鮮でした。視点は良いと思います。ただ、人の赤血球のように、機能を反映する色の場合もあるので、そのあたりを少し押さえた方がよいかもしれません。
Q:今回の授業では、植物が様々な戦略で種子散布を行っており、種子や果実の形態がそれに合わせて多様化していることを学んだ。これについて、風散布を行うことが多いキク科の中で動物散布を行うセンダングサに関心を持ち、どのような過程で進化してきたのか考えた。
キク科の花は、一般的に痩果の先端に冠毛という構造を持っている。例えば風散布を行うタンポポの果実の冠毛は細くて数が多く、風に乗って遠くまで移動することができる。一方動物散布を行うセンダングサの果実の冠毛は硬くて太く、数は数本で、逆向きの棘が生えていることによって動物の毛に付着して遠くまで移動することができる。この2種の果実の構造は、冠毛の形態以外はよく似ている。よって私は、動物散布の形態をとるセンダングサはタンポポのように風散布を行う祖先から進化したのではないかと考えた。棘を持つことによる動物散布は、その土地に棘の引っかかりやすい被毛を持つ動物、つまり哺乳類が繁栄していないとあまり有効でないと考えられ、比較的最近現れた散布形態なのではないかと考える。風散布を行っていたために細く数の多い冠毛を発達させていた祖先種の中から、稀に硬い冠毛を持つ個体が現れたと仮定する。そのような個体は分布を広げるのが難しく淘汰されやすいと考えるが、例えば雨が多くなるなど変化した環境では生き残ることができるかもしれない。そしてその中から、冠毛に棘が生えた、被毛に付着しやすい構造を持つ個体が被毛を持つ動物が多い状態で現れ、やがて動物散布を行う種として繁栄したのではないか。
また、キク科にはセンダングサと同じように動物散布を行うオナモミ、メナモミも存在する。しかしセンダングサと異なり、オナモミは棘に覆われた総苞片、メナモミは粘液を分泌する総苞片を持つことで動物に付着する。これらは独立に平行進化したと考えられる。キク科においてこのような進化は何度も独立に起こってきたのではないか。被毛以外にも粘液で付着できるメナモミは哺乳類が繁栄していた前、恐竜が繁栄した時代に進化し、棘で被毛に付着するオナモミやセンダングサは哺乳類の繁栄から進化したのではないかと考える。
A:これは、進化的な視点からのレポートで非常に面白いと思います。センダングサをオナモミやメナモミと対比することによって説得力が増しています。