植物生理学I 第13回講義

植物の花

第13回の講義では、花器官の構造の本質と、被子植物の花における花粉媒介者との関係、共進化、そして花色を作用する要因について解説しました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の授業では植物の花について学んだ。自然界に青色のバラは存在せず、講義の中で見た遺伝子組み換えの写真を見ても完全に青いとは言い切れなかった。これは、色素以外の花色の決定因子の制御が難しいことが影響している。そこで、液胞のpHの制御方法について考えてみる。遺伝子組み換えによって色素をデルフィニジン型に変化させたとする。この色素は液胞内がpH7.7のアルカリ性になると青色になるという。(参考文献①)つまり、液胞をアルカリ性にする方法を考える。まず、土壌の?や水をアルカリ性にすることが考えられる。土壌中のpHを上げるためには石灰などのアルカリ性の土壌改良剤を添加する。これにより、根から吸収された水がアルカリ性になり、花弁内の液胞のpHも変化すると考えらえる。次に、花弁の細胞内について考える。液胞膜状に存在すプロトンポンプは特定の遺伝子によってコードされている。そのため、その遺伝子においてプロモーターの変更や転写因子の導入、RNA干渉などを利用し、発現を抑制することでpHをアルカリ性にできるのではないかと考える。また、青い花のアサガオに存在するPr遺伝子のように花が咲く瞬間にのみ働いて、液胞のpHを上げる遺伝子(参考文献②)を遺伝子として組み込むことも一つの手であると考える。バラはもともと液胞内のpHが3~4(参考文献③)と酸性よりであるため最初からpHを上げることは植物の発達に影響が出るため、繁殖などを目的とせず、青色の花を咲かせることを目的とするのであればこの方法は有効であると考える。以上の方法は遺伝子組み換え技術により実験的な試みが可能かを検討する必要はある。しかし、これらの方法がうまくいけば完全な青色のバラを生み出せるのではないかと考える。
参考文献:①農研機構 野菜花き研究部門 デルフィニジンによる青色花色 (閲覧2024/1/20)、、②星野敦 【第3回】色違いの花はどうしてできる? -アサガオの多彩な花色を決める遺伝子- 日本植物学会 (閲覧2024/1/20)、< https://bsj.or.jp/jpn/general/research/03.php >、③吉田久美 みんなのひろば 青いバラの変色について 日本植物学会 (2008/9/8) (閲覧2024/1/20)、< https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1770 >

A:このレポートは、おそらく一般的な講義のレポートとしては悪くないと思うのですが、基本的に参考文献のロジックに従った展開になっていますよね。この講義のレポートで評価されるのは、自分なりの独自の論理展開なので、その意味ではもう少し改善の余地があります。


Q:今回の授業で、マダガスカルに生息するランとスズメガの間で共進化が繰り返され、長い口吻と距をそれぞれ獲得した話を紹介されたが、長さが無限大に伸びるとは考えずらいため、この共進化が止まるきっかけについて考察する。まず考えられるきっかけは、蜜の近くで花粉を生成する植物が外部から侵入してくることである。仮にこのような植物が現れた場合、スズメガが顔に花粉をつけないような進化をしていることから、おそらくスズメガは新たな植物を選好し、距が長いランの花粉の媒介者が減少して淘汰され、距が短い植物が繁栄し、スズメガの口吻の伸長も止まると思われる。次に考えられるきっかけは、共進化によって得た形質が生存に悪影響を及ぼすことである。スズメガの場合であれば、長い口吻によって体のバランスが崩れて飛行能力が落ち、捕食される確率が上がって淘汰され、ランの場合であれば長い距によって風や衝撃に対して弱くなり、子孫を残せる可能性が低下して淘汰されるなどの可能性が考えられる。逆に言えば、生存に悪影響が出ない範囲であれば共進化が続く可能性が高いと思われる。

A:これも一般的には悪くないのですが、共進化が止まる条件を考察するレポートは他にもありましたし、特に二つ目の論点は、多くの人が考えることだと思います。もちろん常識的な考察が悪いわけではありませんが、その人なりの考え方が反映されると、評価は高くなります。サイエンスの世界では、人と同じことをやっていてはダメですから。


Q:野生種に存在しない花色の作出について、青いバラが存在しないように黄色いアサガオも存在しない、と以前小説で読んだことがあったため、黄色いアサガオも遺伝子組み換えによって作ることが出来ているのではないかと考え、調べると、実際に黄色いアサガオを作出するのに成功した研究があった。
 アサガオは元々青や赤などに発色するアントシアニンを蓄積するため、青い花を咲かせる。研究グループはキンギョソウの花の色素生成の仕組みに着目した。キンギョソウでは、クリーム色の色素であるカルコンから、カルコン配糖化酵素遺伝子とオーロン合成遺伝子の2つの遺伝子の働きによって黄色の色素であるオーロンを合成している。そこで、カルコンを生成する系統のアサガオにこれらの遺伝子を導入したところ、キンギョソウと同様にカルコンからオーロンが合成され、黄色いアサガオの作出に成功したという。
(参考文献) 幻の「黄色いアサガオ」の実現に成功(共同研究), 鑑賞園芸学研究室, https://www.agri.kagoshima-u.ac.jp/agri/agri0010/post-122/, (参照:2024/1/20)

A:これは最初の段落が話のきっかけで、次の段落が他人の研究の紹介ですよね。そこから自分でどう考えたのかという考察が次に来ることを期待したのですが、そこで終わってしまっています。自分の頭で考えることが重要です。


Q:本講義においては花の色について学んだ。その中で青いバラやカーネーションは自然に生息しないこと、遺伝子を組み替えたら青い花弁を付けることを知った。では、なぜ青い花弁は自然に生息しないのかについて考察する。まず講義でもあったように花弁は花粉を媒介する虫を呼ぶための器官であり、青色はそれらの虫からは目立たない色ではないかと考えた。しかし、文献1の研究から昆虫の代表であるミツバチは青から緑の範囲の色を特によく区別していることが分かっており青色が昆虫からは目立たないという理由は不適切である。では次に青色の色素を合成するのに他の色素を合成するよりもコストがかかるためではないかと考えた。しかし、講義内で提示されたスライドを見る限り他の色素との分子構造の違いは微々たるもので産生するコストに大きな違いがあるとは考えにくく、この理由も不適切ではないか。
文献1:江口英輔・木下充代,昆虫の行動と色覚反応,植物防疫,第53巻,第6号,p205-208,1999

A:2つの仮説を立てて、文献なり講義資料なりからその妥当性を検証するという方向性はよいと思います。ただ、ロジックはいずれの場合も、ほぼ「問―答え」という単純なものなので、大学生のレポートとしては、もう少し論理を積み重ねて考えて欲しいと思います。


Q:今回講義で花の色の発現の仕方について学び、自然界では青色の花が少なく遺伝子組み換えなどの操作が行われていることを知った。そこで、そもそもなぜ青色の花が少ないのかについて考察する。人間では青色は食欲が減少する色であるというのはよく言われているので、受粉を媒介する昆虫の食欲も青色は関係しているのではないかと思い、昆虫の色の見え方について調べたところ、参考文献1より人間と昆虫ではそもそも色の見え方が異なることが分かった。参考文献1から、受粉を媒介する昆虫の代表であるミツバチの場合、私たち人間が青色や紫といった寒色はどちらも青色として、また赤色やオレンジ色、黄色などの暖色として人間が認識している領域は認識することができず黒や灰色などに見えていることが分かった。さらに、人間が緑色や黄緑色として認識している葉や茎の色はミツバチには黄色として見えている。このことから、昆虫の場合は青色が食欲後退に関係しているのではなく、色の見え方の観点から人間が暖色の花の方(ミツバチでは黒)が、茎や葉(ミツバチでは黄色)との区別がつきやすく認識しやすく、受粉のためには有利になることから青色の花は少ないのではないかと考えた。また、アントシアニン色素は酸性条件下では赤色、中性では紫色、アルカリ性では青色に変化するので青色の花が自然界に少ない理由としては液胞の液性が自然界でアルカリ性になることが少ないのではないかということもいえる。
参考文献1:ハチ駆除・ハチの巣駆除の猿太郎,蜂の視力 黒い服を狙うというのは間違い?,https://sarutaro.net/colum/colum_09.html,2024-01-20参照

A:昆虫の視覚との関連についてのレポートは非常に多かったのですが、その中ではまあ、ある程度自分で考えている気がしました。ただし、例えば、「ミツバチには黄色として見えている」といった部分などは、参考文献の説明を鵜呑みにしており、それが正しいかどうかを立ち止まって考えてみるという姿勢は感じられません。WEB情報に頼る時には、常に批判的な精神が必要です。


Q:今回の講義で、タチツボスミレの閉鎖花の話題があった。タチツボスミレの花は、閉鎖花と通常の花の2つの形態に大別できる。ここでは、タチツボスミレの花が、2形態をとる意義を考える。  まず、閉鎖花について述べる。閉鎖花は、めしべと花粉が常に接した状態であり、送粉者を必要としない。自家受粉をすることで結実している。よって、遺伝的多様性は、通常の花に比べて低くなる。遺伝的多様性が低い集団は、環境変化に脆い。よって、閉鎖花は、集団内の遺伝子に適した安定した環境に住む必要がある。この安定した環境は、遺伝子の多様性が低くても生存できる環境なので、条件が限定的であると考えられる。つまり、閉鎖花の分布領域は狭い可能性が高い。分布領域が狭まると、他の種とのニッチが重複しにくくなる。したがって、閉鎖花のタチツボスミレでは、生息域をめぐる種間競争が起こりにくいと考えられる。このように、閉鎖花の遺伝的多様性は低いが、種間競争は起こりにくい。次に、通常の花について考える。通常の花の受精には送粉者が必須である。閉鎖花とは違って自家受粉は成立しないため、遺伝的多様性は閉鎖花に比して高くなる。遺伝的多様性が高まると、環境変化耐性が高まるので、分布領域は広くなる。すると、他の種とニッチが重複する可能性が高まる。よって、通常の花では、生息域をめぐる種間競争が起こりやすい。このように、通常の花は、遺伝的多様性は高いが、種間競争は起こりやすい。最後に、タチツボスミレの花が2つの形態をとる意義を考える。閉鎖花の欠点である遺伝的多様性の低さは、急な環境変化に遭った場合、種の存続を妨げる。一方、通常の花の欠点である種間競争の激しさには、競争相手によって駆逐される危険性がある。このようにいずれの形態を取っても、種の存続は脅かされる可能性がある。しかし、閉鎖花の欠点と通常の花の利点との間にはトレードオフの関係があり、逆もまた然りである。したがって、タチツボスミレが2つの形態の花を形成することには、互いの形態の欠点を補完し合って、種を存続させるという意義があると考えた。

A:単に、遺伝的多様性のメリットを考えているだけでなく、種間競争にまで結び付けている点は評価できます。ただし、「遺伝的多様性が低い集団は、環境変化に脆い」という考え方はあちこちでよく見かけるものの、必ずしも自明ではない、という点は講義の中で説明したはずです。遺伝的多様性の意義が本当に発揮されるのは、際限のない軍拡競争を繰り広げている病原菌などとの関係においてでしょう。


Q:今回の講義ではチューリップの花の開閉システムについて学んだ。チューリップの花は温度が上昇し昼間になっていくにつれて、内側の花弁の細胞が大きく成長することで花が開き、反対に温度が下がり夜になっていくにつれて、外側の花弁の細胞が大きく成長することで花が閉じることを学んだ。たしかに温度によってチューリップの花が開閉するシステムについて理解することはできた。しかしながら、自然界に存在する花は、1日の中で花を開いたり閉じたりせず、常に開いている状態であることがほとんどであるように感じた。よって、チューリップがこのようなシステムで花を開閉する意義についてはよく分からなかったため、チューリップが温度によって花を開閉する意義について考察しようと思う。調べていくにつれ、様々なサイトでこの現象を「温度傾性」1と呼んでおり、温度によって花が開閉するシステムについて説明があった。しかしながら、その意義に関しては情報が全く無かったため、自分自身で仮説を立てた。
 まず考えられるのは、受粉の効率化を図っている場合である。例えば、昼間に花を広げているときは、様々な鳥や昆虫がチューリップに集まり、また別のチューリップに移動することで受粉の手助けとなっている。しかしながら、夜間においても花を広げた場合、花粉であったり子房であったりと、受粉していく上で重要な部分が昆虫によって食べられてしまう危険性があると考えられる。参考文献2によると、例えば蛾に関しては、夜に行動する種類が多く花粉などを食べる種類もいる、ということが述べられていた。したがって、花に害はなく、花粉の媒介のみを主にする鳥や虫などが活発に行動する昼間に花を開き、反対に花の主要部を蛾などに食べられてしまう危険性がある夜間は花を閉じることで、より効率的そして安全に受粉活動をおこなっていると考えられる。もう一つ考えられることとしては、天候のような環境から花粉を保護している場合である。例えば、雨や風などから花粉を保護している場合が考えられる。また、チューリップの開花時期は3月下旬~5月上旬あたり3で、3月下旬であると寒さで霜などが降りる可能性もあるため、花が閉じていると都合が良いかもしれない。このように、花を開閉することによる利点は多い。しかし、花の開閉をおこなわず、常に花粉が露出している花の非常に多いため、生物学的にそこまで適応する必要はないのかもしれない。そのため、やはりチューリップがこのような開閉システムを持つのはやはり疑問が残る。
 参考文献:(1)植物NAVI、チューリップの花が夜になると閉じるのはなぜ!?、https://plant-world.biz/archives/6539、公開日:2019/11/20、閲覧日:2024/01/19、(2) 蛾ガ対策 豆知識 蛾の特徴や害、蛾の対策方法のご紹介、https://www.kwn.ne.jp/knowledge/ga.html、公開日:不明、閲覧日:2024/01/19、(3)|植物図鑑|みんなの趣味の園芸(NHK出版)、チューリップの育て方・栽培方法、https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-215/target_tab-2、公開日:不明、閲覧日:2024/01/19

A:よく考えていてよいと思います。ただし、あるシステムのメリットだけでは、一部の生物だけがそのシステムをもっている意義を明らかにすることは不可能ですよね。もしメリットしかないのなら、すべての生物がそのシステムを持つように進化するはずです。とすれば、「意義」を考えるためには、その生物が他の生物とは異なる点に注目する必要があります。このレポートで言えば、開花時期に関する考察がそれにあたります。そのような点を中心に据えて議論を展開すると、よりよいレポートになるでしょう。


Q:今回の授業では花の色や昆虫との共進化の話があった。よってこのレポートではその話に関係した今後の植物の進化について提唱と予測をしていく。1つ目に考えられることは虫媒花が衰退していくことだ。植物は元来、風媒花であったが昆虫が花粉を食べるようになったことからその昆虫を利用した繁殖方法が生まれたと考えられる。そして、より昆虫を魅了するために花の色や匂い、蜜の量などを植物は工夫してきた。しかし、当然それらの工夫はどれも相当なコストを必要とする。授業であったように花の色にはイオンや酵素など様々な要因が絡み、昆虫に食べさせる蜜は栄養の塊である。虫媒花は他の植物種よりも有利に花粉を運ぼうと発達したのかもしれないが風媒花でも十分に繁殖に必要な花粉を運ぶことはできる。ただし、風が弱かったり昆虫が豊富に生息している地域など環境によって虫媒花が適正を持つ可能性はあるので虫媒花の衰退はすべての植物には当てはまらないだろう。
 2つ目は共進化を利用した新たな植物である。授業であった共進化の話から、上記に挙げた虫媒花ならではのコストを共進化を利用して軽減できるのではないかと考えた。具体的には花弁の構造などを作らず、葉に色をつけた植物などである。花弁や蜜などを新たに作るのではなく進化過程で徐々に茎や葉などに組み込み、昆虫も葉脈から栄養を取れるように進化するのだ。雌蕊と雄蕊の周りに栄養のある色のついた葉をつければ繁殖のために新たな構造を作らずに済むのではないか。もちろん、このような進化をする植物と昆虫の共進化が従来の虫媒花によって淘汰される前に起きればならないという条件は必須になってくるだろう。

A:非常に面白いレポートなのですが、論理性という点ではどうでしょうね。前半で言えば、過去に風媒花から虫媒花が進化し、今後は逆に虫媒花が衰退するのであれば、過去と未来で何かが変わるはずですよね。しかし、書かれている内容からは、特に何かが変化するようには見えません。ただし、このような自由な発想のレポートは評価の対象です。


Q:今回の授業で、花が送粉者に合わせた進化をしていることを学んだ。例えば、鳥を主な送粉者とする花は赤色をしていることが多い。それに関して、なぜ赤い花の中にもツバキのように濃い赤色をした花とサクラのように薄い桃色をした花があるのか疑問に思った。私は、この原因はそれぞれの植物にとって送粉者としての鳥がどのくらい重要かが異なっているからではないかと考えた。ツバキの花弁は濃い赤色をしており、香りがあまりないといった鳥媒花の特徴を持っている。ツバキは主な送粉者として鳥類を重視していると考えられる。一方、サクラの花弁は虫が見つけやすい白色に鳥が見つけやすい赤色が僅かに混ざった色になっている。よって、サクラは昆虫類を主な送粉者としているが、それに加えて鳥類も誘うために花が薄い赤色をしているのではないかと考えた。赤色と白色が混じった色の花を持つ植物は、鳥類と昆虫類の両方を送粉者としているのではないか。赤色の濃さから鳥類と昆虫類をどのような割合で送粉者としているかが分かるのではないかと考える。

A:ツバキが鳥媒花という話はありきたりですが、「桜色」の花の意義と最後の結論は、独自性があって面白いと思います。現状では、思い付きにとどまっているので、もう少し結論を検証するような議論が展開できるといいですね。