植物生理学I 第8回講義
導管の形成
第8回の講義では、導管が陰圧に耐えるような構造をとり、その構造が葉肉細胞の導管要素への分化によってなされていること、導管が気泡によって機能を失うエンボリズムが植物の分布に影響していることなどをを中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:今回の茎の授業で、道管径が太いと、その分水分を多く運ぶことができるが、気温が低くなる冬の時期に道管内の水分が凍ってしまい生命活動を阻害する恐れがある。逆に、道管径を細くしたら、運搬できる水分量が少なくなるが道管内が外気温によって凍ってしまう心配はない。これを損得勘定を表現することができるが、この多様性は進化による選別が行われていたと考えられる。道管の太さによる水運搬の能力の差異、この二つのパラメータの一番バランスの取れた状態、つまりギリギリ水が凍らない一番太い道管径という種、どちらかにパラメーターが振り切れている種、どちらが生存戦略として効果的なのか。パラメーターのバランスが取れている種というのは外界に左右される確率が少なく、生存もできそうではあるが、その環境のみにマッチしたパラメーターを持つ種に対しては遅れをとると考えられる。そうなると種同士の生存戦略をしては良いものとはいえない。逆にパラメーターが振り切れている種というものは外界に左右されることが多く、個性が裏目に出る可能性が高く、広範囲に分布というのはし難い。絶対数というものは変わらないのかもしれない。
A:最後の絶対数というのが何なのかがわかりませんでしたが、全体として言いたいことは理解できます。もう少し表現を整理できるとよいですが、まあ許容範囲でしょう。
Q:針葉樹と広葉樹の違いとして、例外は存在するが針葉樹は細かい導管を持っており広葉樹は水の通導性が高い導管を持っていると説明された。そして、常緑の広葉樹は葉を落とせないので北に分布できないが、落葉できる広葉樹は北にも分布していることが講義で紹介されていた。ここで、針葉樹については広葉樹に比べて導管は細く、葉が小さくて光合成の速度が遅いので生存競争にも負けやすいため常緑広葉樹の多い南には分布していないと考えたが、リュウキュウマツなどの落葉樹が南の沖縄に分布している。この理由について、亜熱帯気候でのエンボリズムのリスクとニッチの観点から考える。まず亜熱帯気候では導管液の凍結が起こる可能性は極めて低く、高温多湿で水ポテンシャルが低くなるから蒸散速度が極端に高くなることは考えにくい。したがって前に述べた通り光合成速度で差をつけられ広葉樹がそのニッチを支配すると考えられる。しかしながら、沖縄の例では発生した台風の進路になることが多く、風も多い気候である。この点においては広葉樹は葉の面積が大きいため抵抗力が強く風に葉が飛ばされて、木は再び葉を設ける必要があるが、針葉樹は葉の面積が極端に小さく、風の影響を受けづらいため常に葉を付けていられる。したがって、沖縄に限らず熱帯で広葉樹が不利になる環境条件が存在し、例えば乾燥地帯なら夏でも蒸散速度が極端に高くなってエンボリズムを引き起こしやすくなるので、そのニッチには針葉樹が入り込めると考えられる。またそのようなニッチに入り込んだ針葉樹はエンボリズムが起こらないので導管径も亜寒帯と比較して太くなっているのではないかと考えた。
A:講義では低温とエンボリズムの関係を主に取り扱いましたが、ここでは乾燥と強風に着目していて、非常に良いと思います。自分なりの論理が感じられます。
Q:授業の初めに言っていた、普段何気なく使っている掃除機が道管のバイオミメティックであることに驚いた。この道管のらせん構造のメリットとデメリットを考察すると、まずは外から押される力である陰圧に耐えてしなやかな強度を保てるという点である。しかしながら、デメリットもあると思う。例えば、外から引っ張られるような陽圧にはしなやかさを発揮することが出来ない。ここで私は人間の体の構造の中にも似たような構造があるのではないかと思った。(授業で取り上げられた血管は除外)今回挙げるのは、気管だ。気管は気管軟骨と輪状軟骨が交互に連なっている構造で言わずもがな呼吸の活動を担っている。道管の構造との類似点としてらせん構造のように軟骨が交互に分布しているだけでなく、外気を取り込む際に横隔膜が下がり肺や気管に陰圧がかかることも一致している。しかし、これは健康な体に限った話である、つまりは自発的に呼吸出来る場合である。人工呼吸器をつける場合は、気管に直接管を通して肺を内部から膨らませるため陽圧がかかる。よって、人工呼吸器は構造の特性のみに着目すると気管や肺への圧力による負担が大きいと考えられる。
A:気管を考えるところまでは想像できましたが、そこに人工呼吸器をつけた際に、今度は陽圧になるという展開は予想できませんでした。独創的で非常に良いと思います。
Q:今回、針葉樹林が、暖温帯、冷温帯において、どのような生存戦略を発達させているか学んだ。それを受けて、私は、高山帯における常緑針葉樹の生存戦略を考察した。 高山帯には、ハイマツやコマクサが生息するということは高校生物で学んだ。今回は、樹木についての講義なので、常緑針葉樹の低木ハイマツを例に、高山帯のおける常緑針葉樹の生存戦略を考察する。高山帯は、気温が非常に低いだけでなく、強風が吹く環境である。特に、強風の程度は、生息する樹木の樹形を変えてしまうほどだということを、生態学の授業で習ったことがある。それほどの強風が吹くということは、高山帯は、非常に乾燥した環境だと言える。したがって、高山帯の植物は、乾燥耐性を獲得する必要がある。ハイマツを例に、高山帯の植物がいかにして乾燥耐性を獲得しているか、考察を進める。ハイマツは、地面に這うように生息するため、ハイマツという。つまり、極端に樹高が低い樹木である。まず、樹高が低いことによる、乾燥回避における利点を考える。樹高を低くするのは、エンボリズムが問題にならないようにするためだと考えられる、そもそも、エンボリズムは、樹高が高い樹木において、水の吸い上げができなくなる状況を示す。そのため、樹高が低ければ、エンボリズムが問題になることはなく、水を樹木の先端部まで吸い上げられないという事態は起こらない。したがって、そもそもの樹高が低いという形質は、乾燥耐性の獲得に有利である。また、ハイマツは針葉樹である。針葉樹は、葉が細く、葉の面積が小さい。葉の面積が小さいということは、気孔の分布数もその分だけ少なくなるということである。気孔の分布数が減少すると、植物体全体の蒸散速度が低下するので、植物体は乾燥しにくくなる。したがって、葉の面積が小さいという針葉樹の形質そのものが、乾燥耐性である。以上2つの考察をまとめると、高山帯において、常緑針葉樹は、樹高を低くし、葉の面積を小さくすることで乾燥耐性を獲得している。この乾燥耐性を獲得した形質が、高山帯において、より適応的と言える。
A:よく考えていてよいと思うのですが、最初に書かれているように、ハイマツの背の低さは一般的に強風に対する適応としても解釈されます。もちろん乾燥と強風へ一度に適応できるのであればそれでよいわけですが、どちらがより重要な環境要因として働いているのか、といった疑問について、一言でもあるとよいと思います。
Q:今回の講義は導管について学習し、中でも導管が螺旋構造を取っていることが非常に興味深かった。螺旋の類似構造として掃除機のホースが挙げられたが、掃除機のホースのような螺旋構造状の管について調べ、螺旋構造にする意図や共通の役割を知ることで、間接的に導管が螺旋構造になっている意義について推察していく。螺旋構造になっている管について考えると、日常生活においてキッチンや洗面所にある引き出し式の蛇口が挙げられる。蛇口をつないでいる螺旋構造のホースは、普段は流しの裏側に収納され、使用時に取り出される方式になっている。参考文献(1)によると、ホースを出し入れする際、何度も曲がったり伸縮したりし、出入り口に当たって衝撃を受けるため、強度がありつつしなやかに曲がる金属製の螺旋菅が使用されるようになった、ということが書かれていた。このように、収納時にしなやかにひねることができたり伸縮自在であったりするという柔軟性、そして出し入れ時にぶつかっても高い強度によって壊れない耐久性を実現するために、ホースの壁が滑らかなではなく、収納式の場合は、ホースを螺旋構造にするという工夫がなされていると分かった。先ほどは引き出し式の蛇口のホースを挙げたが、このホースは水を放出するのに使用するホースであり、水を吸い上げるために使用する導管とは若干違いがあるように感じた。そこで、もう一つの例として幼少時に馴染みのある鍵盤ハーモニカのホースを挙げようと思う。鍵盤ハーモニカのホースも同様に螺旋構造となっており、なお且つ人が空気を吸う際にホースを使うので、使い方としては植物と類似している。ここからは、私の経験則になるが、ホースを力強く一気に吸い上げるとホースがぺしゃんこに潰れることがよくあった。ホースが噴出目的で使用されるならば潰れることはないが、吸い上げる目的で使用される場合は、吸引力によってホースがつぶれてしまうことがある。これは掃除機のホースの螺旋構造にも関係があるように考えられる。これらの2例以外にも螺旋のホースが使われている場面は多く存在するが、やはり螺旋構造がその頑丈さや柔軟性、可動域の広さを目的に重宝されていると考えることができるように思われる。ゆえに、葉の導管が螺旋構造になっている意義について考えると、まず葉は常に風の影響を受けているため、強い風がにより葉が曲がってしまうときも、導管が折れず、しなるように導管は螺旋構造になっていると考えられる。また、葉が水を土から吸い上げる際も、その吸引力で導管がつぶれてしまうことがないように頑丈な螺旋構造を取っていると考えられる。
参考文献:ショーワインダストリー株式会社、フレキシブルホースの開発や継手の提案ならショーワインダストリー/シャワーや洗面に使われているフレキシブルホースとは、https://www.showa-i.co.jp/blog/20190630115142/、掲載日不明、2023/11/24
A:よく考えていてよいと思います。螺旋には、陰圧に対する戦略としてと、柔軟性の必要性を満たす戦略としての、二重の意味があると考えてもよいように思いました。どちらかだけでなければいけないわけでもないでしょうから。
Q:導管を持たないコケ植物はなぜ裸子植物(針葉樹)よりも寒い地域であるツンドラ気候に多く生息しているかを考えたら、維管束の末端がどうなっているのか気になったので、このことも考えた上でコケ植物の生存戦略を考える。まず維管束(道管)に末端があるかどうかだが、ヒトの血管とリンパ管を例に考えた。ヒトの血管は心臓から押し出され、毛細血管などで全身を巡り再び心臓に戻ってくる。そのため最終的な末端はないと考える。一方リンパ管は体の組織から組織液(リンパ液)が集められて一方通行で様々なリンパ節に流れたり体全体をリンパ球が流れることを以前基礎免疫学で学習した。そのためリンパ管は「末端」があると言える。これらのことを踏まえて植物の維管束を考えると、植物の中で道管は一方通行であり、根からの末端から上部へと繋がっている。スタート地点の特徴はリンパ管と一緒であり末端がある。そして血管のように循環したりせず、植物上部に到達すると再び枝分かれをして周囲の細胞に道管から水分が漏れ出ていくように末端になっていくと考えた。これを踏まえてコケ植物に道管がないことを考える。コケ植物は維管束がなく葉全体で水分を吸収していると習った。まず道管がないため維管束植物のように「エンボリズム」が起きにくいことが想像できる。そうすると先ほどの植物の道管から水分がしみ出ている植物末端の状態に近いと考えられる。このような状態であれば一部に気泡ができただけで上部全ての細胞に水分が行き渡らないという状況は起きない。しかし、細胞の水分が凍ることはないのだろうか。これを調べてみると耐凍性上昇過程では、ストレス関連性遺伝子やタンパク質の発現変化がみられ、スクロースなどの可溶性糖の蓄積を伴った細胞内浸透濃度の増加が見られ[i]ることが分かった。このような細胞の濃度上昇により凍ることを防ぐことも寒冷な地域で生存できる理由の一つであると考えられる。また、夏の間に緑のある一般的なコケが見られこれが配偶体であり、湿原の状態であるツンドラ気候では精子が水分のある状態で卵細胞にたどり付きやすい。そして冬の間に周囲が凍り乾燥状態にあるときに、乾燥に強い胞子体[ii]として冬を越せば生き残れると考えた。以上のように道管がない状態で「エンボリズム」のリスクをなくし、様々な環境応答や生殖の特徴を生かして冷帯でも生存できるのがコケ植物だと考えた。
[i] 南 杏鶴, 寒冷地域に生育するコケ植物の環境応答による凍結ストレス耐性機構の解明, 北海道大学大学院 環境科学院、[ii] 吉岡勝利 他, 「スクエア最新図説生物」, 第一学習社, 2018
A:目の付け所はよいと思うのですが、前半の導管には末端がないという話は、結局は後半の考察の論理には寄与しないように見えます。後半に生かされないのであれば、少し構成を入れ替えた方が、読者にとってわかりやすい文章になると思いました。
Q:今回の授業ではエンボリズムが取り上げられていた。より道管の太い落葉広葉樹や常緑広葉樹は冬季にエンボリズムが起きやすいため比較的温暖な地域での生息に留まり、一方で細い仮道管をもつ常緑針葉樹ではエンボリズムが起きにくいので寒冷地にも進出できている。エンボリズムの起きる仕組みとしては、壁厚膜から空気が入り込むか凍結-融解を繰り返すことで気泡が生じるということであった。しかしここで、私の感覚では管の細いものの方が小さな気泡ができればすぐに水が通れなくなってしまうので常緑針葉樹の方がエンボリズムが起きやすいのではないのかと思ってしまった。広葉樹の方がエンボリズムが起きやすいという事実がそこにあるということは、確かに気泡がひとたびできれば細い道管は水が通らなくなるが、もしかするとそもそも気泡が非常にできづらいということかもしれない。例えば壁厚膜から空気が入りこむというのは、仮道管には壁厚膜がないか、または壁厚膜があったとしても空気が入り込みづらいのかもしれない。また凍結-融解を繰り返して気泡が生まれるとあるが、水が氷るときはまず氷の核のようなものができてからそこを起点にして一気に凍り始めるものだが、細い道管内ではその核ができづらいのではないだろうか。よって、確かに細い道管は気泡ができればすぐにエンボリズムを引き起こすのかもしれないが、著しく気泡ができる確率が低いためにエンボリズムが起きづらい状況が生まれ、寒冷地に生息できると考えられる。
A:これは、もっともな疑問だと思います。一つの考え方として、通導量当たりの気泡の発生数を考えて見てもよいかもしれません。径が半分になると、ハーゲン・ホアズイユの法則により通導量は1/16になりますから、通導量を同じに保つために必要な本数は16本になります。その場合単位長さあたりの導管(仮導管)の合計体積は4倍になり、体積当たりで気泡の発生数が決まっていると考えれば、もともとの径では、体積当たり1個の気泡が発生してエンボリズムが起こったとすれば、エンボリズムの発生確率は100%ですが、径が半分の場合は、16本で4個の気泡が発生しますから、発生確率は25%です。実際にこのような計算で説明できるのかどうかはわかりませんが、考えてみる価値はあると思います。
Q:今回の授業では寒い地方に針葉樹が多い理由と針葉樹と広葉樹の道管径の話がでてきたのでそこについて考察していく。まず、寒い地方では道管径が小さい理由としてエンボリズムや通導性の話があったが私はそれに加えて、養分濃度や水に含まれる物質の濃度を上げるために道管径が小さくなっていると考える。寒い地方では氷点下が当たり前のところも多く、濃度を高めることでより水分が液体であることを保っていると考えた。さらに寒い地方における新たな植物の作りを提唱したい。針葉樹の葉をみても分かるように葉は寒さを防ぐために厚い構造をしていてその分平べったくない尖った構造をしている。この他にも寒さ対策のコストが大きいために光合成部分が小さくなっている。そのため、新たな作りとして茎や枝の部分に葉緑体を多く含んだ葉の非常に少ない植物を提唱する。葉を少なくすることにおけるコスト軽減は大きく、茎や枝の部分は非常に厚い構造になっているのでそこに葉緑体をもってくれば安定したエネルギー供給ができるだろう。さらに茎や枝は硬いので虫にも食べられにくいことが考えられる。
A:なんとなく納得させられてしまいました。ユニークな考え方でよいと思います。
Q:今回講義では植物のエンボリズムについて扱った.道管の大きさによって水の通道性,エンボリズムが変化しそれらは道管の大きさによってトレードオフにあると学んだ.具体的に道管が小さいほどエンボリズムが起こりずらく通道性が悪いというものである.ここでエンボリズムが起きづらい温暖湿潤的な気候では道管が大きい方が良いのは自明である.なのでエンボリズムが起きてしまう寒冷の地域を前提とし,どのような植物が一番良い状況で生息できるかを周囲の環境また植物の構造から考察する.より良い状況であるために,道管は太いものを前提としエンボリズムの影響が少ない状況を考察する.まず,環境の観点から考える.エンボリズムは氷の凍結,溶解を繰り返すことで気泡が生まれ発生する.つまり温度変化が小さい地域の方が起きづらいと考えられる,比熱が低い地域の植物の方がエンボリズムが起きずらいと考えられる.つまり,比熱が小さい大陸側よりも大きい海岸側の方がより適していると考えられる.また周辺に水分が多い地帯の方が水分量が大きく比熱も大きいため,温度変化はより小さいだろうと考えられる.雲が多い地域も太陽による放射を和らげ,地表の熱が逃げにくいため適しているだろうと考えらえる.与える影響は少ないかもしれないが,地面に含まれる養分が多いほど,道管を流れる凝固点が低くなり凍結が起こりにくく適していると考えられうる.次に植物の構造を考える.樹高が低い方が適しているだろうと考えられる.樹高が低いほど道管の長さは短くなり,エンボリズムが生じてしまう可能性が低くなると考えられる.また講義では冬に落葉する葉の植物が良いと考えられていた.これは冬に蒸散が起きないため,負圧がかかりにくく,気泡ができずらいというものであろう.この考えから派生して葉が小さい植物も近い効果を果たすのではないかと考えた.また植物の茎が太い方が,周囲の温度変化の影響が小さくなるためエンボリズムが起きにくいだろうと考えられる.
A:エンボリズムに影響しそうなさまざまな要因をきちんと考えてよいと思います。少し羅列的なので、結論への持って行き方をうまく変えれば、少しの工夫でぐっと印象がよくなるかもしれません。