植物生理学I 第7回講義

導管と水ポテンシャル

第7回の講義では、蒸散を駆動力とした導管内の水の動きを中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:講義の後半部分で植物の導管に水が通る際,水ポテンシャルといった考え方を扱った.この理論で下部から上部に流れるということが説明されていた.このことを踏まえて植物内の水分の流れは外部環境に依存しているだと考えられる.よって植物の外部環境を変えることで植物の水分の流れを調節することができるということになる.これは水ポテンシャルの差が大きいほど,水の移動が速くなるという関係を利用する.変える環境としては簡単にこの外部環境は光環境,土壌環境などが挙げられる.これらの環境を変えることで,小学生が行うような根から色のついた水分を吸い上げ葉の色を変える,根と葉が繋がっていることを理解する実験を効率よく行えると考えた.具体的に土壌では粒を大きくし,水分量を増やし,塩分含有量を減らすべきである.土壌の粒が小さいほど水と結合しやすい.これはマトリックポテンシャルを表しており,土壌の粒を大きくすることで植物内の流れが早くなると考えられる.土壌の塩分量が多いと浸透ポテンシャルが低くなり.土壌から根に水が流れにくくなると考えられる.水分量が少ない土壌では根との水ポテンシャル差がなくなるため,水分が流れにくく.光環境では外からの光を遮断すると気孔が閉じ葉と大気のポテンシャルの差がなくなるため,水分が流れにくくなるだろう.同様に水ポテンシャルと外部環境を考えることで速度だけでなく葉に与えるストレスも議論できると考えられる.
参考文献 石川邦(1997)「水環境に対する植物の反応について」土壌の物理性 No.76,pp.24-26

A:別に悪いレポートではないのですが、マトリックポテンシャルと浸透ポテンシャルの性質から自然に導かれる応答について書いているので、あまり独自性が感じられません。もう少し、自分ならではの考え方が欲しいところです。


Q:今回の授業で、単子葉類は一度獲得した形成層を失ったグループであるということを学んだ。形成層を持たないという形質を持つ単子葉類が、どのような戦略を取ってどのような環境に適応しているのかについて考える。まず、形成層がない単子葉類は、形成層を持つ植物に比べて茎を太く、強くすることができない。よって、周りに光を遮る競争者などが少ない場所で繁栄しやすい形質を持っているといえる。また、単子葉類は根を太くすることも難しく、地面に深く根を張ることも形成層を持つ植物よりは難しいと考える。よって、硬い地面や水中などの不安定な地面で生育するのにはあまり向いておらず、地表面に養分の多い比較的安定した土地に適応しているのではないかと考える。加えて、茎や根の耐久性が低いことから短いサイクルで世代交代を繰り返すr戦略を取る傾向があるのではないか。撹乱の多い土地で繁栄しやすいのではないかと考える。
 しかし、強靭な維管束鞘を持つとこで例外的に長く丈夫な茎を持ったタケの仲間は(1)、一般的な単子葉類の戦略とは異なる、形成層を持つ木本性の植物に近い戦略を取っているのではないかと考える。タケの仲間は長い茎を持ち、光を奪い合う競争にも強く、高い背を持つ競争者が多い場所でも生育できる。また、一帯に竹林を形成した上で丈夫な地下茎を張り巡らせることで、硬い地面にしっかりと根を張ることができる。茎の耐久性が高いので長い寿命を持つことが可能で、少ない繁殖回数で確実に子孫を残すk戦略を取る。タケの仲間は形成層を一度手放したにも関わらず維管束鞘を発達させることで木本のような形質を取り戻し、木本のように生存するグループだと考える。
参考文献:(1) 筑波大学生命環境科学研究科, "竹のしなやかさ", 木質材料工学研究室, 不明, https://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/subjects/01_bamboo.html#:~:text=竹の構造%20竹の,竹は本当にしなやかか?, (参照2023-11-22)

A:これは、考えているレポートと表現することはできますが、ある結論を導くために論理を積み重ねている感じはしません。竹と木本の共通点は何か、と知識を問われたときに答えを考えた感じです。この講義のレポートは、問題設定をもう少し明確にした方がよいかもしれません。


Q:単子葉類は形成層を持たず巨大化できないため、草食動物などの被食に対する対策としてケイ酸体を生成し消化しにくくしたり、茎頂分裂組織を地面に近くにすることで食べられても再生を容易にすることで生存率を上げたりと、被食を前提とした構造をしていることを学んだ。しかし、なぜ被食を防ぐ(形成層の獲得により巨大化する)ことではなく、被食を前提とし再生に重点をおくようになったのか考える。進化の過程でまず先に形成層を持つ植物の生息が発達した。植物は光合成の観点から、より高いところに位置する方が当たる光量が多く光合成には有利である。そのため、形成層による巨大化は極めて重要であるが、背の高い植物の発達により光競争は激化し競争に負ける種が現れる。そこで光競争から離脱し、少ない光で生存率を上げる工夫を得る過程で獲得した構造であると考えた。ここで、この仮説の信頼性を高めるために、形成層を持つ双子葉類と形成層を持たない単子葉類について比較する。子葉の数が単子葉類は1枚、双子葉類は2枚であり、葉脈は単子葉類が並行脈で双子類が網状脈、維管束については単子葉類がバラバラに位置するのに対して双子葉類は輪状に位置し、根は単子葉類がひげ根で双子葉類は主根と側根を持つ。このことは自明であるが、形成層を持たない単子葉類がをこのような構造を獲得した意義をそれぞれの器官について考える。形成層を持たないことが、光競争からの離脱(光合成以外のことに重点をおく)であるという上記の考察が正しいとするならば、光合成器官である葉(子葉)が1枚であるのは光合成器官をつくる労力を節約しているといえる。また、並行脈を持つ意義は授業でも説明された通り、再生の観点から有利である。さらに、維管束がバラバラに存在した方が様々なところに位置する器官への水や栄養の運搬が容易であり、さらに1部を食べられても残る維管束が多く機能を維持できる。以上のことから、形成層を持たないのは光競争からの離脱して、光合成の観点では不利になっても他の観点から有利になるように工夫された構造の進化の過程で獲得してきたものであると考えた。

A:きちんと頭を使っていることはわかりますが、結論が「光への競争を離脱した」という点が重要だとすれば、もう少し論旨を整理して議論を展開できたのではないかと思います。


Q:今回の授業では、茎の内部構造の一つとして道管のつくりと働きについて学んだ。その中で、被子植物では主に道管が、裸子植物では仮道管が水の通路に用いられていることを学んだ。調べてみると、「モクレン亜網のシキミモドキ科、アンボレラ科、マンサク亜網のヤマグルマ科やスイセイジュ科、そしてスイレンを中心とする多くの水生植物などは、無道管被子植物として知られている」 [1]ということを知った。これらの言わば「例外」的な植物の中で、水生植物に関心を持った。水生植物は他の植物よりも圧倒的に水が多い環境に存在しており、進化の過程で仮道管→道管への移行が起こらなかったのには意味があるはずだと考えたからである。講義内でも触れたように、道管は仮道管と比較して吸水性能で勝っている。このことから、裸子植物→被子植物への進化の過程で、より乾燥した領域への適応のために道管が発達したと考えられるが、水分が豊富な水中に根や茎(もしくは植物体全体)が存在する水生植物では、吸水能をこれ以上発達させる必要が無かったと考えられる。また道管を持たないことで裸子植物は、力学的強度と水の供給の両立を道管で行う必要があると講義内で触れられていた。水生植物は水中に「浮いている」ような状態であるため、地上の様に直立する必要はなく重力の影響を受け辛い。そのため茎の力学的強度を高める必要がなく、これも道管を手に入れる必要のなかった要因の一つであると考えられる。
[1]:大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所「陸上植物の進化>被子植物の進化」より 2023/11/22アクセス、https://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/04_character.html

A:これは、被子植物における導管の有無を水生植物という観点から考えていて、面白いと思います。ただ、無導管被子植物の中に水生植物があるのは確かですが、別にすべてがそうではありません。また、被子植物の進化にともなって裸子植物が絶滅したわけでもありませんから、導管を持たないことが一般的にデメリットになるわけではないことに注意する必要があるでしょう。


Q:今回の授業ではツル植物の蒸散速度が速いことに触れていた。ツルが柔らかく巻き付いていることが要因として考えられると先生は仰っていた。そこで、ツル植物がなぜ蒸散速度を速めたのかについて詳しく考えてみる。硬い茎では1直線で上に伸びているが、ツル植物は他の植物に巻き付きらせん状に伸びている。そのため、ツル植物は重力だけでなく遠心力がかかる。その分の力を引き上げる必要があるため、流速を上げる必要があったと考えられる。また、裸子植物と被子植物の木部の違いから、裸子植物は小さな隙間が大量にあり抵抗力が大きく、被子植物は抵抗力が小さいことを教わった。そこで、抵抗力が小さい場合は保有力も低いと考えられる。植物に水を満たすためには常に茎内を水で循環させることが必要であったと予測でき、結果的にツル植物は流速を上げる必要があったと考えられる。

A:考え方が独特の所があって、そこは面白いと思います。らせん状になっているから水が通る時に遠心力がかかる、というのは理論的にはそうですが、さすがに水の速度を考えると無視できる程度かな、とは思いますが。


Q:今回の授業では、単子葉類の形質は食害に対する抵抗のため発達したものであるとの説が紹介された。この説は説得力のあるものである一方で、日本の都市の、特に大型の草食動物による食害が存在しない環境下でも、単子葉植物が支配的に分布している光景をよく見かける。単子葉植物の形質には、食害への抵抗の他にも生存に有利になる点があるのではないか。茎頂分裂組織が地面近くにある形質について、この形質は葉鞘の発達を可能にしていると考える。結果、若い葉の保護や、葉を覆うことによる蒸散の抑制を行えているのではないか。結果、都会の空き地といった乾燥しやすい環境で有利になると考える。また、現在ステップ気候でイネ科の植物がニッチを占有しているのも、草食動物に対して有利であるということ以上に、乾燥に強いという点が大切なのではないか。

A:身近な単子葉植物には、C4光合成を行うものが多くあり、その利点については、植物生理学IIでやる予定です。


Q:今回の授業では、道管と仮道管の違いや系統的にどの植物がどちらを持つのかを学んだ。ここでアンボレラという植物は他の被子植物と異なり、道管を持たず仮道管を持っている。なぜアンボレラは、道管を持たない被子植物として今も存在しているのだろうか。まず道管はメリットとして、管が太いため一度に多くの水を吸い上げることが可能である。これは花や果実を持つようになり必要なエネルギーが多くなった被子植物にとっては非常に有益であろう。この利点を捨ててまでアンボレラは道管を持たない。その理由を考える上で、アンボレラの生息環境を調べてみると、ニューカルドニアのグランドテール島の山地の多雨林の中に生息しているようである。つまりアンボレラは比較的降水量の多い地域にいることがわかる。ここで考えることは、このアンボレラは一度にたくさんの水を吸収しなければ水分量が枯渇して生存できない環境にはいないので、仮道管の利点を残しながら生息する方が特であると考えたからではないかと推測される。

A:調べた環境からの一段階の考察なので、論理展開と言うほどではありませんが、考えて書いていることはわかります。ただ、「調べた」場合は、必ず出典をつけてください。


Q:講義の中で、進化の過程で形成層を喪失して単子葉類が生まれたとあった。肥大成長するために必要な形成層を喪失した意味について考えた。形成層を喪失することで肥大成長することは難しくなる。つまり大きく成長し効率的に太陽光を受けることで生存競争に勝つという戦略とは別の戦略をとっていると考えられる。形成層を喪失した結果得られるメリットを考える。形成層喪失により植物は限られた資源を効率的に活用できると考えられる。これは3つ要因が挙げられる。1つめは形成層を維持するためのエネルギーを削減し他にリソースを割くことができるてこと。2つめは構造が簡素になることで資源の配分が効率的にできること。3つめは長寿命の組織を維持する必要がなくなることで短命戦略を取ることができることだ。短命であることは環境の変化に適応しやすく生存確率を高める一因になると考えられる。つまり単子葉類は効率的にエネルギーを利用でき、なおかつ環境への適応力も持ち合わせることができると考えられる。また、形成層を持たないことで小型になることから密生しやすいこともメリットとして挙げられる。密生することで限られたスペースでも多くの個体が生存できる上、風や水の流れを緩和し環境条件を安定させることでより生存しやすい環境を手に入れることができると考えられる。つまり単子葉類は形成層を喪失することで、エネルギーの効率化、環境への適応力、小型による密生のメリットを生存戦略としていると考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。最後の部分の「風や水の流れを緩和し環境条件を安定させる」ということであれば、森林などの方がその作用が大きいように感じるので、その点がやや気になりました。