植物生理学I 第2回講義
植物の花
第2回の講義では植物の花について、形態や色を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:今回の授業では青いバラの話があった。自然界には基本的に青いバラは存在せず、今ある青いバラは遺伝子組み換えの産物とのことだったが、それはなぜか考えた。それは青が自然界において目立つ色であるからであると考えた。動物や虫の視覚についてはわからないが、以前アウトドア雑誌で読んだ記事によれば、人間にとって一番山の中で目立つ色は青色なのだそうだ。なので青色のザックや雨具を持っていれば遭難しても見つけやすいというのが雑誌の結論であったが、もし動物や昆虫にとって青が目立つ色であるとしたら、植物がその色を持った場合、目立ったその分食害のリスクにさらされるのではないかと考えた。植物の被食防御には主に二種類ある。棘のような物理防御と毒性を持つ化学防御だ。バラには棘がある。つまりバラは食害にさらされる種であり、食害を避けようとして棘を持ったり目立つような青色を持たないようにしているのではないかと考えた。
A:ロジックは、理解できなくはないのですが、諸刃の剣の感じがしますね。最後の部分など、「バラには棘がある。つまり、バラは食害からの防御機構を持っており、目立つような青色を持っていても問題ないと考えられる。」とつなげても、不自然ではないように思います。
Q:チューリップの花の開閉は気温の変化によって起こるということを学んだ。気温の変化で花弁の内側と外側での伸長が異なり偏差によってチューリップは開閉を行う。花が閉じるときに着目すると、温度が下がっているのに外側の成長が上がっているという現象が起きていてそれにより偏差を生じるというのが謎だった。ここで「閉じている花弁を20℃に移すと、水チャンネルが活性化され、茎から花びらへの水の移動が開始されます。花びらの下部に水がたくさん溜まり、膨圧が高くなって、チューリップの開花が誘導されます。開いている間はどんどん水が送り込まれて、余分の水は気孔から空気中へどんどん蒸散します。(中略)温度が下がってくると、水チャンネルに導入された化学基(リン酸基)を切り離す仕組みが働いて、水チャンネルが閉じます。この後もしばらく蒸散が続き、花びらから水が失われるので、膨圧が下がり、花弁が閉じるのです。」(1)とある。花が開くときには温度が高くなることにより水チャンネルが活性化され、水が花弁へ移動する。閉じるときには温度が低くなることにより水チャンネルに導入されたリン酸基を切り離す仕組みにより、水チャンネルが閉じ蒸散により膨圧が下がって閉じる。よって温度が下がったときに成長が起こるという現象を考えると、温度が下がり水チャンネルに導入されたリン酸基を切り離す仕組みが、外側では促進して蒸散で膨圧が下がるので成長が上がると考えることができる。その後は蒸散により一定で下がるので、一度グラフが上昇した後の外側と内側のグラフの傾きは類似していると推察できる。また温度を上げた時と下げた時でグラフの傾きを比較すると、温度を上げた時の方が傾きが急になっている。これは気温が高くなると湿度が下がり、気温が低くなると湿度が上がるからであると考えられる。蒸散により変化しているので湿度の変化がグラフの傾きに影響をしていると推察できる。
参考文献 (1)浅田 浩二. マツバギクの開閉. 日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&A. 2009-07-03. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=344. (参照2023-01-21).
A:非常に面白そうなのですが、後半の論理展開が完全には理解できませんでした。紹介したデータは、あくまで表皮片のデータなので、どこまで花弁全体の動きを反映しているのかは確実ではありませんし、温度調節に関しては水に浮かべていますから、蒸散の状態がそれにより影響を受けている可能性もあります。
Q:今回の講義では、植物の花について学んだ。その中で青いバラは自然界に存在しないという話を聞いた。ではなぜ青色のバラは存在しないのか考察する。理由として、バラの花粉を運ぶ昆虫にとって青色が分かりにくい色であると考えられる。昆虫は紫外線、青、緑に感度の高い視細胞を持ち、この3原色が色覚の基本と成っている(参考文献①)。昆虫の視界からすると、青は空の色、緑は葉の色として認識され、そこに紫外線の太陽光の色が加わると考えられる。このとき、花の色が青や緑では、植物の葉の色と同化してしまい、認識できなくなるのではないかと考えられる。また、バラのなかでも代表的な赤色の場合、青や緑色を吸収するため、昆虫の目には黒い色として移っていると考えられる。つまり、緑色をした葉の中でも目立つようになっている。以上より、青い色は昆虫にとって、葉と同化してしまい、目立たない色であると考えられ、青いバラは自然界に存在しないと考えられる。
参考文献 ①蟻川 謙太郎 昆虫色覚の神経行動学的研究 総合研究大学院大学 先導科学研究科
A:よく考えていてよいと思いますが、ペチュニアなどの青い花をつける植物とバラの違いを最後に一言考察するとよいと思います。
Q:講義の中で、樹木は花芽分化と開花時期に差があるということを知った。一般に、落葉樹は葉をつけてから花芽分化、開花をする一方で講義中にも取り上げられていたソメイヨシノは開花してから葉がでる。開花には膨大なエネルギーが必要であると考えられるので、葉をつけてから開花した方が光合成で得られたエネルギーを利用することができるため良いのではないかと感じる。なぜ、ソメイヨシノは開花前に葉をつけないのか。それは、子孫を残すための受粉の効率化に寄与するためであると考えるのが妥当である。虫媒花、風媒花のどちらであっても受粉するために葉は少なからず妨げになることもあるだろう。故に、花だけを咲かせることで受粉をしやすくしていると考えた。サクラの花が一斉に咲き始め、花が咲く時期は1週間程と比較的短いのも受粉効率を上げるためだろう。サクラの多くは自家受粉では交配できず、遺伝に多様性を持たせていることが知られている。そのため、受粉できる確率を上げるためにも先に開花することで葉の妨げをなくすことを選択したのだと推測した。なお、有名な話だが、ソメイヨシノはクローンであるため他の個体とも受粉はしない。そのため、これはソメイヨシノの前のエドヒガンザクラとオオシマザクラの生態の影響を受けていると考える。
以上のことから、開花と開葉の時間差はソメイヨシノにおいて重要であることが伺える。また、ソメイヨシノは花が咲いて散り始めるとともに葉が生えてくるが、別々のシグナルに制御されている、または開花が開葉のシグナルとなっている可能性もある。先に開花するにしても、開葉するにしてもどちらにしろエネルギーは必要となるため、先に開花し受粉効率を上げたうえで時間差なく葉を開くことで、開花によるエネルギー損失を補填しているのではないか。
A:よく考えているとは思いますが、葉よりも花を咲かせる植物は、全体の中では少数派なのではないかと思います。とすれば、一般的な植物との違いをどこかで論じた方がよいのではないかと思います。
Q:近所の片隅にアジサイが植えられていたのだが、記憶の限りではピンクや青や紫、何なら緑色とさまざまな色の花をつけていた。ピンクや紫や青といった色のものは混合していた気がするが、最後に見た記憶では淡い緑色となった後茶色く枯れていた。茎も葉も緑色なのに花も緑色ということで、当時不思議に思って調べた結果、それは病原菌ファイトプラズマが感染して起こる葉化病というものであった。今回は、病原菌が感染してからどのような経路で緑色のアジサイになるのかについて考えていく。考察としては1つにフラボノイド系青色色素であるメタロアントシアニンの生合成経路において何らかの異常が起こり、同系黄色色素のオーロンが合成されてしまうというもの。もう1つに高校生物において習ったABCモデル関連の異常の2つが考えられた。まず、生合成経路の異常に関してなのだが、これが要因であるのならば、異常をきたして2色の生合成経路がなされているため、花の色にムラが起きていそうである。あり得そうではあるがあまり良い考えではなさそうである。さらに非フラボノイド系のクロロフィル由来の緑色も存在するがこれが合成されるというのも考えにくい。とすると、ABCモデルにおける領域の欠損異常が起きていると考えるのが妥当である。緑葉化病の構造的特徴として、新たな芽が花の中央部から形成される「突き抜け症状」(*1)がある。中央部から新芽ということなので、ABCモデルに当てはめるとファイトプラズマが感染することで花の発生におけるC領域に遺伝子異常が起こしていると考えるのが妥当である。そのアジサイには誰も手を加えていなかったので帰省した際にその後どうなったか確認したいと思う。
(1)”アジサイ葉化病について - 農林水産省”http://www.maff.go.jp/j/seisan/kaki/flower/pdf/youkabyo.pdf
A:面白いと思います。一点だけ、「非フラボノイド系のクロロフィル由来の緑色も存在するがこれが合成されるというのも考えにくい」という部分は、結局ABCモデルの異常と考えた場合、花が葉になるのであれば、その際の色素はクロロフィルでしょうから、あくまで「花のアイデンティティーを保ったままでは考えにくい」といった表現にした方がよいかもしれませんね。
Q:今回の講義において花と昆虫における共進化、ランナウェイに関して、進化速度が異なっている場合(ヒトと微生物など)ではなく、それぞれの進化速度が合っている場合に起こると紹介があった。この際、花粉媒介の観点において蜜を分泌する花の種Aと昆虫の種Bにおいてそれぞれの進化速度が異なっていた場合(これらの種は仮想的であるものとする。)に関して考慮した場合、花Aの方が、進化速度が速かった場合、昆虫Bが吸蜜を行う際に多い吸蜜量を得るために形態を進化させることが追い付かないため、BはAにおける吸蜜をやめ、他の花を吸蜜する方向に進化をする可能性が考えられる。これはAを吸蜜する個体が十分な栄養をとれず、子孫を多く残せないためである。また、Bの方が、進化速度が速かった場合、Aは花粉をBにより散布してもらうことが困難になるため、絶滅するか、もしくは他に花粉散布を担うことが可能な昆虫種が存在した場合においては花粉媒介をその種が担うことになると考える。これより、花は昆虫より速い進化速度を保持することが種の生存に有利であることが分かる。
よって、花粉合成量にコストを割く風媒花や水媒花と異なり、花粉合成量にコストを比較的多く割かない虫媒花においては媒介者と同じもしくは速い進化速度を持つ必要が、種の存続の観点よりあると言える。この場合、媒介者は一種さえいればよいため、最低限一種の媒介者と同じ、もしくは速い進化速度を保持することが虫媒花における種の存続の条件であると考える。被子植物は植物の多様性に大きく寄与しているが、この場合虫媒花においては多くの環境へ進出した際に、自身の花粉を媒介する昆虫を一種以上獲得することに成功した種のみが生き残ったと言い換えることが可能であると考える。また、この際昆虫を誘引する手法として、前述においては蜜のみを挙げたが、雄の昆虫に対して雌の昆虫を模した外部形態の花序を付けるなど、多様なものが挙げられる。以上より、虫媒介を行う種においては、一種以上の媒介昆虫、媒介昆虫を誘引する形態、媒介昆虫と同じもしくはそれより速い進化スピードの三点が必要であると考えられる。そして、蜜を分泌する種が多いのは、一種に関わらず多くの種の昆虫を誘引することができるからである、と言う可能性が示唆される。理由は多くの昆虫を誘引した場合、その中から自身の花粉を媒介する種を擁する可能性が高いためである。
A:よく考えられていますし、面白いと思います。この場合の進化速度は、生物が内在的に持っているもののように扱われているようですが、その(少なくとも見かけの)速度が、淘汰圧によって変化するのかどうか、といった点も、面白い議論につながるように思いました。
Q:今回の講義ではマダガスカルに生息する昆虫のスズメガと植物のランを例に、花と昆虫の共進化(ランナウェイ)について紹介された。ランがスズメガのからだに花粉をつけるために、蜜を奥に奥にと距を長く変化させ、それに伴いスズメガの口吻も長く変化していくとのことだった。しかし、この共進化が永遠に続くわけではないと思うので、お互いの進化が止まるタイミングについて考察する。当たり前であるが、何かの不具合が生じることで進化は止まると思われる。そしてその不具合として考えられることは、エネルギーの問題や他機能との兼ね合いなどである。まずエネルギーの問題として、花も昆虫も距や口吻を伸ばす際にエネルギーを用いる。しかし、他の発生や成長に用いるエネルギーも保持しておかなければならないため、利用できるエネルギーには限度があり、それ以上は距や口吻を伸ばせないということである。また他機能との兼ね合いとして、他の機能の邪魔になる場合も進化が止まる可能性がある。例えば、スズメガにおいては長い口吻が飛行する際の邪魔となったり、口吻が長いことで伸縮がしにくくなったりするなど口吻の扱いが難しくなる場合や、ランにおいては距を長くすることで風の抵抗を受けやすくなり、着生しにくくなってしまう場合などが考えられる。このようにその生物の生存にとってデメリットがメリットを上回ったときにその生物の進化は止まると考えられる。今回は授業の例から、共進化の制限について考えたが、他の共進化についても、エネルギーの問題や他機能との兼ね合いにより限度があると考えられる。
A:この点に関するレポートは、他にもいくつかありましたが、問題点を具体的に議論していた例としてここに取り上げることにしました。
Q:今回の授業で被子植物が登場したことによって植物の種の多様化が起き、それは単に被子植物が裸子植物を滅ぼしただけでなく、被子植物が裸子植物の侵入できない様々な環境に適応することができたからだということを学んだ。その環境の例として私が思いついたのが、水中である。特に沈水植物ではオオカナダモをはじめ、アマモやタヌキモなど被子植物がほとんどで水草の裸子植物はない。以前の講義で習ったように、裸子植物は基本的に木本であるが、物理的強度や導管の通導量による影響は水中という環境ではかなり軽減されるので、基本的な植物体の構造的には裸子植物が水中に進出しても不思議ではないと考えられる。湿地性の裸子植物としてはラクウショウなどが知られているので、水辺で裸子植物が全くないわけではないが、それも湖沼の縁で少し水に浸かったところで生える程度で、湖沼の中心では被子植物が優勢である。では、なぜ水辺では被子植物が優勢であり、裸子植物が進出できなかったのだろうか。
考えられる一つ目の理由としては、繁殖方法である。水中で花粉を散布する場合は河川のように流れが常に一方向だと、最上流部だけ上流から花粉が流れてくることがないので、遺伝的多様性を保つなどという外交配による恩恵を得ることができない。すると、上流部からどんどん種が衰退していってしまうだろう。このような場所に生える水草は花だけ水上に出して、虫に花粉を媒介してもらうという戦略を取っており、流れのある水中への進出を可能にしている。裸子植物が同じ環境に進出するには、風で花粉を散布する必要があるが、その場合、水上からかなり高く茎を伸ばさないと散布は難しいだろう。高く伸ばすと不安定になり、倒れてしまいやすくなるので、結論としては流れのある水環境に裸子植物が進出するのは難しかったのだろう。
流れのない湖沼でも水上に花を咲かせる種は多いが、マツモなどのように水中で花粉を散布する種もいる。このような種がいるなら裸子植物も湖沼の水中に進出してもおかしくはなさそうだが、このような流れのない水中での拡散は他の花粉散布に比べて効率が悪い。マツモなどがこのような環境に進出できたのは、ちぎれてもそれぞれが独立して成長することのできる再生力の高さと増殖速度だろう。これに加えて、 “裸子植物では受精に長い時間がかかる場合が多いが、被子植物は受精までの時間が短い。” (参考文献1) 拡散速度が遅い水中において、この受精までの時間の長さが同じ環境に進出する被子植物との大きな差になってしまった可能性が考えられる。
二つ目の理由は、胚の構造である。裸子植物は胚珠がむき出しであるので、 “空気中よりも細菌数の多い水中”(参考文献2)では細菌からの防御が子房に覆われている被子植物よりも難しかったのではないかとも考えた。
参考文献1.東山哲也, “植物の生殖細胞と受精戦略”, 2012/11/02, 領域総合レビュー1, e007、http://leading.lifesciencedb.jp/1-e007
参考文献2.岡崎友輔, “大水深淡水湖のユニークな微生物生態系”, 2022.Apr, 海洋化学研究, 第35巻1号
A:裸子植物の水草というアイデアは、僕には全く思いつきませんでした。独創的で素晴らしいと思います。
Q:今回の講義では暗期の長さによって植物が長日条件や短日条件を認識し分け、花芽を形成する仕組みについての話があった。光受容は葉で行われるが、春に花が咲きその後で葉が茂るソメイヨシノは葉が無い状態でどのように光を認識するのか、という疑問があったが、これは花芽形成と開花は連続して行われるのではなく、夏の葉が茂る状態で光を受容して花芽を形成し、期間を開けて翌年の春に開花するためであるということだった。
サクラは温度の受容によって開花時期を決めていると聞くが、なぜ季節の認識の仕方が開花と花芽形成で異なるのかが疑問となった。私が考えたことは、開花は花芽形成と異なり、花粉の媒介者の都合に合わせることが重要になるということだ。動物の場合、活動のためには光よりも主に温度で季節を認識すると考えると、媒介者となる昆虫にとっても日の長さに関わらず暖かくなったときが活動時期という判断になる。ここで、植物も開花時期を光条件に合わせていると、変動しにくい日の長さと毎年変動しやすい気温がかみ合わなくなったときに、媒介者がいない時期に無駄に花をつけてしまうことになる。そのため、暦通りの「春」ではなく、昆虫にとっての「春」に開花することが必要となるのだと考える。
また、花芽形成が光受容によって時期が決まる理由も考えたが、開花時期と異なり日の長さが重要になる理由が分からなかった。一つ考えたことは、蒸散は温度を下げるための現象ではない、という事実から、温度は植物にとって最優先される要素ではないこと、光合成が最優先となることから、光を認識するシステムは温度を認識するシステムよりも発達している。花芽形成のときなど、温度受容が光受容よりコストが高いためなるべく光受容を使う、ということになっているのかもしれないと考えた。
A:この点は、僕も気になる点なので、多くの人がレポートに書くかと思っていたのですが、過去も通してほとんどありませんでした。その一つの原因が、ここで後半に書かれているような、樹木における花芽形成に光需要が使われる理由の説明が難しいことにあるのかもしれません。その場合、花芽形成と開花の時期を分離する必要性自体を考えてみる必要があるのかもしれません。