植物生理学I 第12回講義

窒素固定と共生

第12回の講義では、根粒菌や菌根菌と植物の根の共生関係を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:根が伸長して領域を拡大していく中で、自株の根に接近した場合には競争を避け、異株の根に接近した場合には根を伸長させ続けて競争するという植物の根の自他認識実験の話が興味深かった。この性質は、根の伸長領域の拡大や他株の根との領域獲得競争に役立っていることが分かった。根が自他を認識するメカニズムについて考察する。
 まず、根は常に自己を認知する因子を放出していて、根が伸長した先に自身の根があった際にはこの因子を受容することで自己を認知すると考えた。この因子は放出された植物と遺伝的に同一な植物の根のみに選択的に受容されるとすると、近くに存在する他個体の根にはこの因子が受容されないため、自己の認識が可能であると考えられる。また、根が伸長した先に異株の根があった際には、そもそもそこに異株の根があることを認識していないと考えた。もともと根は多くの領域を得られるように伸長しているため、異株の根がそこにあることを認識しなくとも、自然と異株の根との領域獲得競争が生じるだろう。よって、植物の根における自他の認識は、自己を認識する因子を遺伝的に同一な根が選択的に受容する仕組みにより、自己は認識しているが他者は認識していないと考えた。
 しかし講義内では、遺伝的に同一なクローン株であっても、別個体同士であれば競争すると紹介されていた。前述したような、遺伝的に同一な植物の根に選択的に受容される因子を用いていたら、クローン株同士の間では自他認識ができないように感じられる。しかし、同株同士の根が近づいた際には、互いに因子を放出し互いに因子を受容するので、同時に2本の根で因子が受容される一方、遺伝的に同一な別個体同士の根が近づいた際は、それぞれの株は1本の根しか因子を受容しないため、判別可能である。このことから、植物の根は、遺伝的に同一な根が選択的に受容する因子を放出しており、その因子を同時に2本以上の根で受容した際に、自己を認識するのだと考えられる。深野氏によると、キクイモの栽培実験において、隣を遺伝的に同一な自株同士にした場合と、遺伝的に異なる他株同士にした場合では、前者の方が株間の競争が抑えられ、生産量が増加したそうだ(参考文献1)。この結果について先の仮説に基づいて考えると、同一個体でなくとも隣株が遺伝的に同一な株であれば、互いの根が近づいた際に、同時に2本の根で因子を受容しないものの、1本の根では因子を受容するため、同一個体の根と隣接した際よりは競争が生じるが、他株と隣接した際よりは競争が生じにくいことも説明できる。

A:これは面白いですね。クローンにおいて可能な自他認識メカニズムを考えようとするとなかなか難しいと思いますが、よいところに目をつけたと思います。


Q:講義内で、ほとんどの植物が何かしらの菌類と共生関係を持っているという話があった。植物でそれらの菌が重要な役割を果たしていると推察できるが、ではなぜ、葉緑体のように細胞内に取り込まずに、自身の機能として獲得しなかったのであろうか。それは、菌類との共生が光合成細菌の共生(葉緑体)と異なり、必ずしも常に利益があるとは限らないためである。もし植物が葉緑体を獲得せず、未だに共生関係だった場合、自由に光合成速度の制御をすることが難しく、今のような植物の多様性は保たれなかっただろう。光合成をしてエネルギーを生み出すという、植物の根幹を成す機能であるので、これを自身の機能としなかった場合、それは植物とは言えない別のものになっていたと考えられる。暗い所でも光合成ができる種もあり、光合成機能を獲得することで不利になることはないと考えられる。一方、根粒菌のような菌類は、窒素固定のために共生させているが、土壌環境により窒素固定の必要性は大きく変わってくる。すなわち、共生させるのに必要なエネルギーと窒素固定の必要性を天秤にかけた時、土壌環境により窒素固定の重要度が相対的に下がるときがある。その時に、必要のない時にいつでも共生関係を解消できるように、細胞に取り込んで自身の機能としていないと考える。これは、窒素固定は独立に何度も失われてきた経緯があるという講義の話とも一致する。

A:これも面白い観点です。オルガネラにするのか、共生関係のまま保つのか、その違いをうまく説明していると思います。


Q:講義では根粒の断面の中心部に橙色が確認できた。これはレグヘモグロビンであり酸素濃度を一定に保つ方向にはたらくことで、酸素濃度が高い時には酸素に弱いニトロゲナーゼを保護する役割を果たす一方で酸素濃度が低い時には酸素をまかなう役割を果たしていた。しかしここで本当にそのように都合よくはたらくのか、どのラインで酸素濃度をコントロールする切り替えを行うのかと疑問に思った。オキシレグヘモグロビンが酸素を50%解離する濃度は10-8 Mである。そしてニトロゲナーゼ反応に必要なATPを効率よく生産する好気呼吸はバクテロイドにある根粒菌の原形質膜に結合しているシトクロムcオキシダーゼにより進行する。このオキシダーゼによる反応速度の50%飽和の酸素濃度は8×10-9 Mで極低濃度の酸素を利用することができる(1)。自分の最初の想定としてはレグヘモグロビンのある決まった酸素濃度の値があり、その値を上回った時は好気呼吸で消費しつつ余分量をニトロゲナーゼの保護のために酸素を取り入れる。下回った時は好気呼吸のために酸素が必要なので、レグヘモグロビンから酸素をまかなって酸素による影響を受けつつあるという仕組みだと予想していた。しかし実際はレグヘモグロビンが酸素を50%解離する濃度より好気呼吸を進行するオキシターゼの反応速度の50%飽和の酸素濃度の方が低かった。よって超低濃度で酸素を利用できるため、低酸素状態で好気呼吸のための酸素をレグヘモグロビンからまかなっても、低酸素状態を維持することが可能だと考えられるので基本的にニトロゲナーゼが酸素に影響を受けることはないと推察できる。
参考文献:(1)日本植物生理学会. 単生根粒菌のニトロゲナーゼ活性.日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&A. 2006-12-30. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1142 , (参照2022-12-31).

A:これは、ロジックとしては悪くないのですが、結局参考にしているWEBページの結論をなぞってしまっているので、独自性には欠けますね。


Q:今回の講義では主にマメ科の植物は根粒菌と共生することで根粒を形成し窒素固定することで、成長のために必要な窒素を得ていることを学んだ。講義資料にある根粒の写真を見ると根粒は根の先端部には全くと言っていいほど見られず、根本付近に集中していた。このような根粒の分布の理由が気になったので考えることとした。まず、根粒が先端部には存在にないことについて、これは、根の成長(植物の成長)とともに根粒の数が変化しないことを示しているのではないか。根は根端分裂組織によって成長をする。根端に根粒が存在しないということは植物がシグナルを出して根粒菌を引き寄せるのは成長における早い段階のうちのみであると推測できる。植物においての窒素の役割は植物体を大きくすることである。よって、成長初期に多くの窒素を必要とする。そのため、成長がある程度進むと根粒を新たに形成する必要がなくなるため根の先端部に根粒が見られないのではないかと考えた。また、根粒菌は空気中の窒素を固定するので地上により近い根元に存在した方が窒素を得やすくなることも理由の一つとして挙げられる。

A:写真の観察をきっかけに根粒の機能を考察していてよいと思います。途中で窒素条件が変わるとどうなるか、などを考えてみるのも面白いかもしれません。


Q:シアノバクテリアは窒素固定を行うことができるが、そのシアノバクテリアが共生して進化したとされている葉緑体及び植物は窒素固定を行うことができないので、その理由について考察する。まず1つ目として、進化の過程で窒素固定能が失われたという考えである。これは特に植物の陸上進出によって引き起こされたと考えられる。水中には酸素が溶けにくいこと、また、空気中では気体の拡散係数が高くなることから、陸上では酸素に触れる頻度が増えてしまう。そうなるとニトロゲナーゼが失活してしまい、窒素固定ができなってしまう。当然水中にも酸素は溶存しているので、シアノバクテリアはニトロゲナーゼを酸素から守るすべを持っていたと思われるが、空気中でそれを維持するのは水中で維持するよりも大分困難であると考えられる。さらに、陸上進出ではなく、共生した際の遺伝情報の移動が原因ということも考えられる。遺伝情報がシアノバクテリアから植物へ移ることにより、ニトロゲナーゼの発現がシアノバクテリア外で起き、酸素からニトロゲナーゼを守ることができなくなってしまった可能性が考えられる。次に2つ目として、葉緑体に共生したシアノバクテリアが窒素固定能をもつ種ではなかったことが考えられる。この場合、植物や葉緑体は窒素固定を行うことができない。最後に3つ目として、現生のシアノバクテリアが持つ窒素固定能は太古のシアノバクテリアの共生後に獲得されたという考えである。この場合も同等に、太古のシアノバクテリアが共生した植物や葉緑体は窒素固定を行うことができない。よって以上の考えを検証するには、ニトロゲナーゼの遺伝子配列による分子系統樹の作成が有効であると考えられる。

A:一つ一つよく考えていて評価できます。特に、気相と液相の違いは、案外見落としやすいので、そこを議論している点は評価できます。


Q:今回の講義で、イネ科の牧草とマメ科のTrifoliumを同じ場所で育てた時にマメ科のTrifoliumがイネ科の牧草に窒素を移すため、半々で育てた場合に牧草全体の窒素濃度が1番高くなるという話があった。つまり、マメ科の植物の方が多い場合でも少ない場合でも牧草全体の窒素濃度が少なくなるのである。まず、マメ科の植物の方が少ない場合では、単純に根粒菌と共生し窒素固定によって窒素を得ることが出来るマメ科の植物が少ないため、窒素濃度が少ないと考えられる。次に、マメ科の植物の方が多い場合について考える。窒素固定によって窒素を得ることが出来るマメ科が多いため全体の窒素濃度も高くなると思われるが実際はそうではない。これはイネ科の植物の方が窒素を多く蓄えることが出来るのではないかと考えられる。マメ科の植物から窒素をもらい、マメ科の植物よりも多くの窒素を貯めることが出来るイネ科の植物が減ればその分全体の窒素濃度も低くなるのではないだろうか。実際マメ科の植物は根粒菌との共生で窒素固定によって窒素を得る機会が多いが、イネ科の植物はマメ科よりも窒素を得る機会が少ないと考えられるため、イネ科の植物の方がマメ科の植物よりも窒素を多く貯めることが出来ると考えるのは妥当である。

A:同じような考察は、複数のレポートにありましたので、独創性があるとは言えないかもしれませんが、きちんと考えていてよいと思います。