植物生理学I 第5回講義

二酸化炭素の取込と葉の形

第5回の講義では、光合成の基質である二酸化炭素を取込むために葉の形態がどのように最適化されるかという点を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の講義で水中葉について学んだ。今回取り上げられていた水草は、地面と垂直方向に茎を伸ばし、その茎から地面と水平方向に葉を伸ばしている様子だった。恐らくこれらの植物は、葉を水面に漂わせることで光が当たる面積を増やし、効率良く光合成をしているのだろう。しかし、海藻のコンブはこういった植物とは違い、一枚の葉を垂直に生やしている。茎から水平方向に葉を伸ばす構造の方が光合成効率は良さそうに思えるが、なぜコンブは葉を垂直に伸ばしているのだろうか。
 まずどのようにして垂直に葉を伸ばしているのかを考えてみる。文献①によるとコンブの生長点は葉と茎の間にあるため、葉の先端は古く、葉の根元は新しくなっている。葉が古ければ単位面積あたりの細胞数は少なくなり、逆に葉が新しければ単位面積あたりの細胞数は多くなる。細胞数が多くなる分、細胞膜や核といった細胞小器官の量が増えるため、単位面積あたりの細胞数が少ないほど比重は小さくなると考えられる。そのため、比重の小さい先端の葉は水の浮力を受けやすく、その浮力によって葉が垂直になるのではないかと考えた。
 次に理由について考える。葉を垂直に生やす理由は海流を受け流すためと考えた。茎を垂直に伸ばした場合、多少の海流であれば構造を保ことは可能であるが、大きな海流が来た場合、茎が折れてしまいそこが外傷となって生命活動に影響が及ぼされることが考えられる。しかしコンブのように、茎を短くして葉を垂直に伸ばすことで、大きな海流が来てもそれを柔軟に受け流すことができ、外傷を負う可能性を下げることができる構造になっていると考えた。また、海流を受け流す前提の構造をとることで、葉が海流を受けて水平になりやすく、光をより満遍なく当てることができるようにしているのではないか、と考えた。しかし、今回の講義で、「光に濃淡があると光合成は低下する」ということを学んだ。そのことを踏まえると、海流を受ける前提の構造をとっていると仮定しても、一枚の葉を垂直に生やす構造はまだ不利なように思える。もう少し考察を深める必要がある。
参考文献 ①小倉屋山本『昆布の一生と生長』http://ogurayayamamoto.co.jp/know/lifetime_kelp/

A:考察については良いと思います。ただ、藻類について「葉」「茎」という言葉を使うのは、生物学の分野ではあまりよくありませんね。理解した上で、一般向けに分かりやすく書いている、というのであれば問題はありませんが。


Q:マドカズラの葉は、大きな葉をしているが穴が空いていて、小さく穴のない葉より境界層抵抗が小さくなることで、光合成で必要な二酸化炭素の拡散や成長に有利であることを学んだ。ではなぜ、そのような利点のある穴の空いた葉はあまり存在しないのであろうか。これは、葉の総面積が同じであった時に、非光合成器官量が増えてしまうからだと考えた。穴が空いているといえども、大きな葉は質量が大きく、茎などの非光合成器官を太く頑丈にして様々な外的要因に耐えられるようにしなければならない。一方、小さい葉であれば、一つ一つの非光合成器官は細く小さくてよいので、葉面積を稼ぐためにたくさんの葉があったとしても、光合成器官の比率は高まるはずである。よって、境界層抵抗の観点で穴あきの葉が有利だとしても、光合成器官量では不利になるため、結果的に光合成量に差異はあまりないと考えることができる。反対に、それでもマドカズラが葉を大きくして穴を空けるという複雑なメカニズムを選択したのは、頑丈で倒れずらい構造を作るのが大事なのではないか。マドカズラは、「ブラジル、エクアドル、ペルー、南米、中央アメリカのさまざまな地域に生息する熱帯植物」である。熱帯ではスコールと呼ばれる突発的な雨が降ったり、ハリケーンがやってきたりと、荒れた気候になりやすく、強い構造を持たなければならない。一方、水不足に悩まされることはほとんどないので、境界層が薄いことを活かして素早く二酸化炭素を拡散させて、光合成を促進することができる。これらの要素から、マドカズラは大きな葉に穴を空けるという選択を取ったと考えた。
*plant care today, Monstera Adansonii Care | Growing Friedrichsthalii Plant | Swiss Cheese, https://plantcaretoday.com/monstera-adansonii.html, 2022年11月2日閲覧

A:きちんとした考察で評価できます。ただ、2つになる点がありました。1つは、「穴が空いているといえども、大きな葉は質量が大きく」という点で、葉の厚みが同じであれば面積当たりの質量は同じになるでしょう。ただし、質量は同じでも、穴が開いていると、葉の支点から見た時の力のモーメントは大きくなるでしょうから、非光合成器官の考察はそのまま適用できます。もう1つは、境界層抵抗が問題となる条件は風の極めて弱い条件であり、おそらくは、風通しの悪いジャングルの中などではないかと思われる点です。その場合、荒れた気候でも植物は守られるでしょう。むしろ、熱帯では、雨林などの密集した風通しの悪い植生が多い、という解釈の方が妥当だと思います。


Q:授業で出てきたクスノキの落枝について、植物がエネルギー効率の為に落葉する事は知っていたが、枝を落とすことについて、わざわざ作った枝を落とすのは植物にとってエネルギーの負荷が大きいのではないかと思いました。これについて自分なりに考えた結果として、クスノキは落枝を行うことで自身の種子の散布域を広げようとしているのではないかと考えました。例えば鳥が巣をつくるのに用いる枝がクスノキの枝であったとき、鳥によって遠くへ運ばれます。このように、クスノキが落枝を行う理由の一つに種子の散布があると考えます。

A:これは、視点は面白いですし、考え方もよいと思うのですが、大学生のレポートとしてはあまりに単純ですね。小学校高学年向けの理科の教育番組に「ふしぎエンドレス」があります。これは「根拠のある予想や仮説を発想する力」を育む番組で、正解を求めるのではなく、考えることを求める点では、この講義と求める点が一致します。ただ、「落枝は鳥が巣をつくるのに使うのかも」という思い付きの所で終わってしまうと、まさに「ふしぎエンドレス」に出てきそうなレベルです。そこから一歩でも踏み込んで大学生らしいレポートにしてください。


Q:今回の講義では、クスノキは葉を一枚ずつ落とすほかに、枝ごと落下させる性質を持つことを知った。離層があり、枝を積極的に落とすと述べていたが、メリットは知られていないという。そこで、今回は枝ごと葉を落とすメリットを考察したい。まず、エネルギー面である。光合成により得られるエネルギーが呼吸量を下回っている場合には、その部分は必要ないものとして扱われることになるのだろう。光合成によるエネルギー量が呼吸量よりも劣る場合、不要な葉や枝に栄養を回すのではなく、他の部分に栄養を与える方が生命の維持を考えたときに賢明である。参考文献(*1)によると、クスノキは暖地性の木であり、常緑樹でありながら寒冷地ではすべての葉を落とすこともあると言う。このことからも、エネルギーを生命の維持に使っていることが伺える。また、枝を落とすことにより陽のあたり具合を調節し、光合成に寄与するのだと推測した。よって、枝ごと落とすのだと考えた。また、落枝による種子散布が考えられる。クスノキは黒い実をつける。その実を落とすことで種子を散布し、子孫繁栄を図っているのだと考えた。そして、クスノキの葉脈の付け根にはダニ部屋がある(*2)。調べたが、これは共生なのか、ダニが勝手に住み着いているのかは分からなかった。これが、共生ではないと考えたとき、葉脈の付け根にあるダニ部屋は維管束をふさぐことになり、養分や水分が葉に行きわたらなくなる。よって、ダニを落とすために枝ごと落としている可能性がある。*1 ECO WORKS,クスノキ(No.75) (閲覧 2022.11.5)、http://ecowork.jp/ka-bachi/?p=10515 *2 庭木図鑑,クスノキ (閲覧2022.11.5)、https://www.uekipedia.jp/常緑広葉樹-カ行/クスノキ/

A:これは、上のレポートと同じ題材ですが、だいぶ考えたものになっています。ただ、いくつか考えられた理由は、すべて、枝を落とさずに葉や実だけを落とした場合でも成り立つように思うのですが、どうでしょうね。例えば、光を遮る効果は、枝に比べて葉の方が圧倒的に大きいと思いますから、枝ごと落とした場合と、枝を残して葉を落とした場合での差は、それほど大きくないように思います。落葉は一般に知られているわけですから、それでは実現できないような理由を考える必要があると思います。


Q:今回の授業では、葉が濡れると光合成速度が低下するのではないか、という話があった。このことから、葉に濡れ処理を行ったものが、晴れの時と同じ光環境下にあるときに光合成速度が低下するにもかかわらず、晴れた日に草が生えている場所に水撒きをしても草が枯れないのはなぜなのかと思った。光合成をしにくくなるのだから枯れてもおかしくないはずである。そこで着目したのは、葉の向軸側と背軸側に何らかの差があるためではないかと考えた。ここで言う差とは、1つ目に、濡れやすさの差、2つ目に、濡れた際の応答(光合成速度の低下)の差の2つが挙げられる。多くの植物に当てはまる両面葉の葉では、向軸側が上側、背軸側が下側となっている。そのため雨が降っている時においては、向軸の方が雨水にさらされることが背軸に比べると多いと考えられる。故に、濡れやすさにおいて差がある場合、葉が濡れることが光合成における律速の要因となっていることが考えられる。しかし、もし向軸側が水をはじき易い構造(撥水性の高い構造)を取っているのならば、晴れの日の水撒きは、光合成速度に影響はそこまで及ぼすことはないと考えられる。また、濡れた際の応答に差がある場合、向軸側あるいは背軸側が担っている機構が阻害されることが、光合成速度における律速の要因になっていると考えられる。濡れた際の光合成の応答において向軸側の機構(向軸側は柵状組織で構成されており、その上にはクチクラ層がある。クチクラは葉内の水分が逃げないようにする役割があるが、タンパク質である糖類によって構成されているため(1)糖類の親水性疎水性も関与しているかもしれない)が関係している場合は、この親水性疎水性を持つ糖類が水撒きによって糖を分解させる酵素を活性化し流動性を生じさせると考えると光合成が律速され枯れるのも有り得るのではないかと考えられる。しかし、背軸側の機構(背軸に気孔を多く持つものに限定し、気孔を湿度によって開閉させると考えた)が濡れた際の応答に関わっているのならば、晴れた日の水撒きによる光合成速度が下がることはないのではないかと考えられる。
参考文献 1. PET分解酵素Cut190の構造基盤と高機能化、織田冒幸(京都府立大学大学院生命環境科学研究科)、生物物理 60(6),342-345(2020)、DOI: 10.2142/biophys.60.342

A:よく考えていて面白いと思いましたが、後半のロジックは、もう少し整理が必要かもしれません。応答の差が存在するはずであるという前提と、結論の間の関係がもう一息わかりにくいように思います。


Q:講義内において紹介のあった水中葉と気中葉の両方を備えた植物体に関して、沈水した部分のみにおいて光合成器官である葉を展開するのみならず、大気中においても葉を展開するメリットはあるのか考慮する。このような考察を行う理由としては、講義内でも説明があった通り、大気中においてとは異なり水中においては浮力が働くため、植物体が自立する必要がない。そのため、大気中においては地面に対して直立に植物体を伸長させる必要がある一方で、水中においては斜め、あるいは横向きに展開する事も可能である。尚、河川において展開されている水中葉に関しては水流に沿った方向に展開されていると言える。考えられる原因としては、太陽光の届く「量」である。水深が深くなるほど届く光の量は減少する。そのため、より水面に近い方へと葉を展開する必要があると言え、この際、気中葉の形質が進化の過程で獲得されたと言う可能性が示唆される。尚、この論理は前述した流れのある河川においては通用しないと言える。これは、流れのある河川においては流速が十分に遅い場合を除き、植物体は流れに沿って展開されていためである。つまりは、進化的側面において気中葉が水中葉より後に獲得され、それが太陽光を求めて水面により近しい部位へと展開されたためであると言う論理は、流速が十分に遅い場に生育する植物においてのみ成り立つと考えられる。尚、植物は水上から陸上へと進出しているため、このような2形態を備える種がこの進出過程において生じた可能性も示唆されるが、証拠化石が得られなければ証明は困難であると言える。また、太陽光に関する観点は他にも、浮力によってさまざまな方向に葉が展開される際に、植物体同士が重なり合い、幾ら葉の形状が薄く細いとしても互いの光合成を阻害してしまうため、直立した安定的な気中葉を発達させることでこの分を賄うことが可能である、と言うロジックが考えられる。このロジックを考慮する際に、水中葉は展開方向が気中葉より不安定であるため、水中葉を極力発達させずに、気中葉を発達させた方が植物体としてのメリットが大きいとも考えられる。しかし、この場合植物体は水中における最下部(地面と接している面)から展開されるため、葉が茎頂分裂組織から細胞分裂によって形成されていく際に、自身の生育を賄う最大限の栄養を得るため、つまりはパフォーマンスを最大限にするため、可能な限り葉を展開する必要性がある。言い換えれば、植物は動物とは異なり茎頂/根端分裂組織からのみ進展を行うため進展時の環境での最大パフォーマンスに合わせた細胞分裂が行われるものと考えられる。よって、植物における分裂面における観点から前述したように水中葉を極力発達させないと言う論理は棄却される。しかし、この際「葉の脱落」と言う観点は考慮されていない。つまりは気中葉を発達させた時点で水中葉を多く脱落させる可能性についての考慮がなされる必要があると言える。これに対しての考えうる反論としては、水圏の環境の不安定さである。水圏においては雨などによって水が供給され、水面の高さは不安定であると言える。そのため、気中葉を発達させた時点で水中葉を多く脱落させた後、水面が上がった際に気中葉は水中での光合成に不適であるため、生育に必要な栄養を賄うことに支障が生じる。この観点においても、前述したような水中葉を極力発達させずに、気中葉を発達させた方が植物体としてのメリットが大きいと言うロジックは棄却されると言える。よって、太陽光を効率よく得るために水中葉と気中葉の両方を備えた植物体が存在しているものと考えられる。

A:よく考えていてよいと思います。特に、最後の方で葉の脱落と水位変動を考慮している点は高く評価できます。なかなか、普通はそこまで考えが回らないように思います。


Q:今回の講義は境界層について学んだ。境界層は空気流れがなくなり、光合成や蒸散の効率が落ちてしまう要因になる。また、境界層の厚さは葉が大きさや、外界の風速が遅さに比例する。そして、植物は葉の切れ込みや複葉という形態をとることで境界層抵抗を抑えることにつながることを知った。タビビトノキやマイズルテンナンショウなどの特殊な葉の形態を紹介していた話の中で、ヒイラギという植物の話があった。ヒイラギは動物の食害を防ぐために若木では葉にとげ状の鋸歯をもつが、木の上部や老木の葉にはとげがなく、楕円形の形になる。これはとげのあるまま葉が成長すると何らかの不都合があることを示していると考える。成長した葉でとげがあることのデメリットとして、鳥類による種子の拡散の妨害になることが挙げられる。ヒイラギはモクセイ科モクセイ属で甘い芳香を放ち、赤い実をつける。この甘い芳香と目立つ赤い実は鳥類の注目を集めるためのものであると考えると、葉にとげがあることで種子が食べづらくしてしまう可能性があると考えられるため、とげをなくすのではないか。一方で、光合成や蒸散の観点では葉にとげ状の鋸歯がある方が実質的に葉に切れ込みがあるような形状になり、前述したように境界層の厚みを抑えられるとも考えられる。ただし、ヒイラギのとげがないのは木の上部や老木であることを考えるとそうとも言い切れない。木の上部は下部に比べて外界の空気の流れが速く、老木は若木と比べて光合成を盛んにして成長をする必要がないと考えると、葉の形状を少し変えてまでも境界層の厚みを抑えているとは考えにくい。よって、ヒイラギの上部の葉や老木にとげがないのは鳥類による種子の拡散を妨害しないようにするためだと考える。

A:面白い議論ですが、もうすこし議論を収束させた方が論理展開がはっきりするかもしれません。前半の講義内容のサマリーは必要ありませんし、後半の種子散布と境界層の話は、どちらか一つでよいでしょう。その代わりに、一歩踏み込んだ議論ができればよりよいレポートになると思います。


Q:今回の授業で自分が興味を持ったところは、タビビトノキの葉が千切れているのは遺伝によるものか風によるものかという疑問を確かめるために、風のない環境で育てたところ葉は千切れなかったのでタビビトノキの葉が千切れるのは風によるものだ、という話である。しかし、このことから単にタビビトノキの葉が風によって千切れたと考えるのではなく、タビビトノキの葉は風のある環境では千切れやすくなるという遺伝情報を持っているのではないかという強風下で自ら意図的に葉を切っていると考えることもできる。実際にタビビトノキは風が弱い時は自ら葉を切って境界層抵抗を減らし、光合成速度や蒸散速度を増加させ、風が強い時は折れないように風を受け流すために葉が切れやすくなる遺伝情報を持っている。このようなタビビトノキの葉が遺伝によって強風で千切れやすくなるのを証明する方法としては、タビビトノキとその他の植物を風のある環境で育ててタビビトノキの葉のみが千切れることや、最初から切れている葉を出すのと出した葉が風で切られるのとでは出した葉が風で切られる方が得であることなどが確認できればよい。

A:これは面白い視点だと思います。最後の、「最初から切れている葉を出すのと出した葉が風で切られるのとでは出した葉が風で切られる方が得であること」を確認するためには、どのような実験をすればよいのでしょうか。案外難しい実験になるようにも思いましたが。


Q:今回の授業では植物の葉の形と環境との関係について学んだ。その中でヒイラギの葉は、木が若い時は棘をつけるが、木が古くなってくると棘がなくなってくるということを学んだが、その棘を作るコストについては不明だということであった。そこで、今回のレポートではその棘を作ることに対するコストについて、私なりに考察を行ってみた。まず、棘の役割としては先生が授業中にもおっしゃっていた通り、草食動物への防御が主な役割であると予想できる。しかし、食べられるのを防ぐ以上、少なくとも動物の表皮に刺さることができるくらいの硬さが必要になると考えられる。そこで疑問となるのが、その棘が葉のどのような組織でつくられているかである。ヒイラギの葉を画像検索で調べ、棘の部分を見たところ、棘の部分はどうやら葉脈の延長線上につくられているようであった。この観察結果から、棘は葉脈の部分を硬くしたものであると仮定する。すると、この葉脈を硬くするような構造もしくは成分が当然存在するはずである。この部分にコストの原因があると私は考えた。そこで、私が注目したのはカルシウムとセルロースである。葉脈が硬くなるメカニズムとして考えられることとして、架橋が考えられる。セルロース繊維におけるカルシウム架橋の架橋が増えることによって硬度を増しているということである。引用文献①によると、「架橋の度合いが上がると一般に高分子は硬くなり、溶媒に溶解しにくく」なるとのことだった。同じく高分子であるセルロースにおいて架橋を担っているのはカルシウムであり、このカルシウム架橋の数が増えることによって、硬度を増していると考えられる。そこで、問題となってくるのが土壌中のカルシウム量である。カルシウムは土壌中には1.37 %しか含まれておらず、植物にとっては貴重な物質であると生化学Ⅰでは学んだ。つまり、葉の棘は貴重なカルシウムを余分に使うことで身を守る武器にしていると考えられる。これを余分に消費してしまうことが、棘を作るコストであると考えられる。したがって、シカなどによって食べられる危険がなくなった高い木に成長したヒイラギはそのコストを抑えるために棘を作らなくなると考えられる。
引用文献 ①株式会社タイカ, “αGEL|技術用語集(架橋)”, 最終更新日2022/04/08, https://taica.co.jp/gel/support/technical_terms/term_009.html(参照2022/11/04)

A:セルロース繊維の架橋というややマニアックな点に注目していて面白いと思います。一つだけ、生化学の講義で言ったのは、植物にとって土壌中から吸収する必要のある栄養素は、二酸化炭素や水と比較して限りがあるので、貴重だということです。カルシウムの土壌中の濃度は、必ずしも必要量に比べて低いわけではありません。ただ、カルシウムは必ずしも吸収しやすい栄養素ではないので、欠乏症が出ることがあることは確かですが。