植物生理学I 第4回講義

植物の葉と環境

第4回の講義では、気孔の開閉と二酸化炭素の取込、蒸散を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の授業で、植物の周りの二酸化炭素濃度を上げると、植物は気孔を閉じようとする、つまり葉の温度が上がるにもかかわらず、水分を失うのを防ごうとすることが分かった。蒸散という機能が植物にとって、どのような利益をもたらすか考えると、体内の水分調節、外気の湿度調節、体温調節などが考えられる。ここで、蒸散作用による体温調節が有効であるにもかかわらず、水分を体内に保とうとする意義は何なのか、それは水分を保つことで、水の熱伝導率の低さを利用し、体温調節の一理を買っているのではないかと考えた。蒸散作用を行えば、気化熱を空気に奪われることにより表面温度を下げることができるが、また水を吸収しなければいけないコストがある。そこで、二酸化炭素濃度が高い状況下ではあえて水分を放出することなく、体内にある水分で体内温度の上昇を耐え忍んでいることが考えられた。

A:熱伝導率が低くても、対流が起これば熱は移動しますから、どちらかいと言うと比熱を考えた方がよいのではないかという気がしました。


Q:今回の授業で自分が興味を持ったところは、植物の水と空気に対する適応についてである。古生代のシルル紀に藻類が陸上進出して陸上植物に進化したが、水分量や塩分濃度が全く異なる環境に適応するためにはいろいろなことを進化させなければいけなかった。その1つとして陸上植物にはクチクラ層があり、クチクラ層によって水の蒸発を抑え、植物内の水分量を維持した。また、液体中は分子が混み合っていて、分子間距離が短いため拡散速度が小さくなり、気体中は分子間距離が長いため拡散速度が大きくなる。この原理を植物は熟知していて、その例として、まず葉緑体が細胞の細胞膜側に集中している。その理由としては、外側の方が多くの光エネルギーを得られるのはもちろんのこと、細胞内は液体なので拡散速度が小さく、もし細胞の中心部に葉緑体が存在していたら二酸化炭素が葉緑体にたどり着くのに時間がかかってしまい、光合成効率が悪くなってしまうからであると考えられる。また、海綿状組織の細胞間隙と柵状組織の細胞内は空気で満たされているが、この理由も気体の方が液体よりも拡散速度が大きく、酸素や二酸化炭素を効率よく出し入れできるためであると考えられる。

A:ここで「考えられる」と書いてあることは、ほぼ講義で紹介した内容です。最初に説明したように、僕の講義の内容をそのまま書いたレポートは評価の対象になりません。


Q:風の強さと葉の大きさの関係に関連して高山の植物の生え方について印象的なことがあったのでそれについて述べます。授業とあまり関係なくてすいません。僕は今年の夏に富士山に登ったのですが、8号目以上(標高3000m以上)のエリアには木本は全くなく、ミヤマオトコヨモギという背の低い草本が生えているだけでした。「背が低い」という形質は木本が周りにないという環境要因によるものと考えられる。高地では強い風が吹き遮る木本がないため、風に飛ばされないようにするのには背が低い方が有利である。また木本が周囲にないことは光を遮るものがないと言うことである。従って背を高くしなくても光合成は十分に行える。ミヤマオトコヨモギは僕の印象では特に小さかったり細い葉を持っているわけではなさそうでした。ただ、直径50cmくらいの円状に群生して、その群れが散在していたのが特徴的だなと思いました。50cmの円状に密集していれば強く吹く風にも耐えられそうなので効果的と考えられます。しかし密集することで葉の重なりが増えるはずなので光合成効率は悪くなりそうだと考えました。これらの考えを総合して以下のように考えました。ミヤマオトコヨモギは高山に生えるため強風に耐える必要がある。強風に耐えるために背を低くし、密集して生えることにした。これにより葉の大きさを小さくせず、光合成を行いやすくできた。しかし密集しすぎると光合成がしづらくなるので直径50cm程度の円形の群落を作った。群落が円形なのは、円形ならばどの方向からの風にも同じように抵抗できるからであると考えられる。

A:環境形成能力という言葉がありますが、ここで観察されていることは、まさにそれでしょうね。ある形で生えることにより、風に抵抗できるという言い方もできるかも知れませんが、むしろ、植物が存在することにより風が弱まる部分が形成されることが重要なように思います。


Q:今回の講義では、植物の気孔は青色光に応答して、気孔の開閉を行うと学んだ。太陽光には様々な波長の光が含まれており、その中で光合成に用いられるのは主に赤色光と青色光である。しかし、赤色光も光合成に使えるのにも関わらず、青色のみが気孔の開閉に用いられるのにはなにかしら理由があると考えられる。今回のレポートでは赤色光で気孔を開閉するデメリットという視点から、この考察を行う。
 まず、光合成でのエネルギー生産について考察をする。光合成で多くのエネルギーを生産することを考えれば、気孔は日が出た時と同時に開くのがよいだろう。光合成が開始するのと同時に気孔を開かなければ、材料である二酸化炭素を取り込めないからだ。しかし、青色光で反応するという点を考えると、これでは矛盾してしまう。なぜなら、青色光は朝日などでは届きづらいからだ。朝日が地上に差し込む時は、太陽が南中している時と比べると、大気を通る距離が長い。この時、青色光は波長が短いので、大気中の空気分子により散乱されてしまい、波長が長くて散乱されにくい赤色光しか届かない。これが朝焼けと夕焼けが赤く見える理由であるが、日の出直後は赤色光しか届かないということは早く光合成するなら赤色光で反応した方が良いことになってしまう。したがって、赤色光ではなく青色光で気孔の開閉を行うことは矛盾しているように見えてしまう。他に考えられる理由として、夜間には二酸化炭素を消費する光合成が行われないことからも、自然界における大気中の二酸化炭素濃度は明け方が一番高いはずなので、二酸化炭素濃度の上昇に応じて、水を失わないように気孔を閉じていて、赤色光しか届かないタイミングではまだこれらの要因が光合成するには不十分なので、赤色光では気孔の開閉を行わないと考えることもできる。しかし、一般的に明け方は気温が低いことから湿度は高い傾向にあり、光合成を行うために気孔を開いたとしても日中ほど水分の損失はそれほど多くないと考えられる。また、水分は授業スライドの実験例のような大幅な二酸化炭素濃度の変化があるわけではないので、これも赤色光で気孔の開閉を行わない理由としては微妙である。
 それでは、エネルギー生産効率の面ではどうだろうか。明け方では光合成を行うには照度が足りず、気孔を開くメリットよりもデメリットの方が大きいので、青色光を含めた十分な光が届くようになった時にならないと、光合成を行ったとしてもお釣りが来ないということである。これらは光補償点や水分の損失が主な要因となっていると予測できる。ここで、光補償点について具体的な値を見てみる。光補償点は植物種によって異なるが、ホウレンソウを例にしてみると、 “2000~1000 lx”(引用文献1)が光補償点ということだった。ここで、朝焼けと夕焼けが始めるのが日の出“40分前後”(引用文献2)ということであり、夕焼け前のデータにはなるが、日没の30分前で“2090 lx”(引用文献3)ということであった。このことから、朝焼け及び夕焼けの時間、つまり赤色光しか届かない段階では光補償点ギリギリであることが分かる。引用文献1によると、ホウレンソウよりも光補償点の高い植物もあるので、赤色光に応答して気孔を開閉していると、光補償点を超えず、損失にしかならない植物も存在することが分かる。つまり、赤色光に反応することはデメリットになってしまうのだ。したがって、照度が十分に上がり、青色光も届く段階になってから気孔の開閉を行うのが、光合成を行う上では利益を得るという面で重要であることが予想できる。
 さらに、光合成色素とその吸収スペクトルについても考えてみると、光合成色素として代表的なクロロフィルaとクロロフィルbの吸収スペクトルのグラフにおける極大は青色光と赤色光に分布している。しかし、その吸収率はクロロフィルaとクロロフィルb両方において、青色光の方が上となっている。つまり、赤色光があるといっても青色光における光合成の効率の方が上であるのだ。このことも、赤色光しか届かない明け方と夕方における光合成効率の悪さの理由となっており、気孔が赤色光には反応しない理由を支持することができる。
引用文献
1. “野菜別の光飽和点と光補償点のまとめ”, 最終更新日2018/11/21,https://chemiclimb.com/yasai-kouhouwaten-kouhoshouten(参照2022/10/27)
2. “マジックアワーとは? 風景写真やポートレートが綺麗に撮れる魔法の時間帯”, 最終更新日2022/07/06, https://www.photografan.com/basic-knowledge/magic-hour-for-best-photography/(参照2022/10/27)
3. “調べてみました!薄暮の明るさはどれくらい?(JAF Safety Light)”, 最終更新日不明, https://jaf.or.jp/common/safety-drive/car-learning/safety-light/twilight-lux (参照2022/10/27)
参考文献
・鈴木孝仁,”三訂版 フォトサイエンス 生物図録”, 数研出版株式会社, 2016/05/01 P53

A:これは、一つの解釈を思いついただけで満足せず、複数の視点で考察していて高く評価できます。ただし、あと、気孔の開閉に必要な時間という観点が必要かもしれません。もし、孔辺細胞でイオン濃度が変化して水の流入が起こり、気孔が閉鎖するまでのプロセスに1―2時間かかるとしたら、ここの議論をだいぶ考え直さないといけないように思います。


Q:講義の中で、気孔の開閉に光受容体が関与しているということを知った。気孔の開閉に関わるフォトトロピンは青色光を吸収することで活性化し、その後様々な段階を経て細胞内にカリウムイオンが流入し、浸透圧の上昇によって細胞が膨潤することで気孔の開口が行われる。ここで疑問に思ったことは、なぜ他の色でもなく青色光が気孔の開閉に関わるのかが気になった。植物の光受容体は、フォトトロピンの他に知っている中では高校生物の中で習うフィトクロムとクリプトクロムが存在し、それぞれ赤色光・遠赤色光と青色光を受容する。フィトクロムが赤色光・遠赤色光を受容する理由は、他の植物体によって光が遮られる状態のときとそうでない状態のどちらかを判断して種子が発芽するタイミングを決める、というメカニズムを聞いたことがある。いずれにしても赤色と青色が主で、橙色から緑色の光が利用されていない。まず、橙色や黄色、緑色というと、ちょうど光合成色素の色と一致していて、光合成色素と同じ色の光は反射してしまうため効率的な光合成が起きないという事実があった。光受容体が存在する場所にも、葉緑体にそれらの光は遮られるため大量に、明確にその光を認識することができないため橙色~緑色の光受容体が存在しないのではないかと考えた。次に、特にフォトトロピンについてその役割から青色光が使われる理由を考える。気孔の開閉は二酸化炭素の取り込みが主な役割の一つで、取り込んだ二酸化炭素は最終的には光合成に使われる。光合成は光を必要とするため、多くの植物では一日の中の時間帯でいうと昼間に気体の取り込みと同時に光合成が起きる。空の色からも分かるように、太陽に位置によって地上に届きやすい光の色が異なり、早朝や夕方は赤色光、昼間は青色光が特に届くため、青色光を受容すると植物はその時間帯が光の強い昼間であることが判断でき、概日リズムのように光合成に最も効率的な時間帯を判断できるというメリットがあると考えた。以上の理由から、フォトトロピンによって青色光を受容することが気孔の開閉に最も適切なのではないかと考えた。

A:これも、上のレポートと切り口は似ていますが、結論はむしろ反対となっています。どちらの場合も、きちんと自分の頭で考えた論理を展開していて評価できます。


Q:光や二酸化炭素を感知することで,気孔の開閉の調節が行われていることを知った。そこで,どれくらいの量の光や二酸化炭素を感知することで気孔が閉じ始めるのかを調べることで,植物が活発に光合成をするための最大量の二酸化炭素濃度が推定できると考える。ビニールハウスで植物を栽培する際,普通は二酸化炭素をわざわざ注入してやる必要がある。密閉された空気の二酸化炭素量だけでは,光合成によって消費されつくしてしまうからである。そこで,二酸化炭素の注入量を増やしていったとき,ビニールハウス内の空気の二酸化炭素濃度があまり下がらなくなった地点が,植物が光合成を活発にできる最大限の二酸化炭素濃度地点だと考える。植物と人間が共存していくにあたって,人間社会の放出する二酸化炭素量は,とても植物の光合成だけでは消費しきれない。しかし,活発に光合成のできる最大限の二酸化炭素濃度を推定することで,最低限の植物量で効率よく二酸化炭素濃度を減少させていくことができると考える。このことは,地球温暖化や環境問題の観点からも重要になってくると考えている。

A:前半と後半がばらばらなので、レポート全体として何を言いたいのかがわからなくなっているように思います。


Q:植物の気孔の開閉にはいくつかの因子が関わってくるが光もそのうちの一つである。孔辺細胞には光受容体が内在し、この受容体が気孔の開閉を司っている。気孔の閉口はアブシシン酸を受容体が受け取り、膜電位の低下によってK+や水といったものが放出されることによって孔辺細胞の体積が減少することで閉口する。一方で開口は青色光をフォトトロピンが受け取ることで膜電位が増加しK+、Cl-、水が含まれることで体積増加し気孔が開口するというメカニズムである。気孔の開閉に周囲の光や二酸化炭素、根の乾燥までもが関与しているが、”根が乾燥している”という信号から気孔の開閉を実現する仕組みについて調べると「根の細胞が乾燥を感知するとペプチドを合成して分泌しそれが維管束を通って、葉に伝わると植物が乾燥に対して準備する」-①というメカニズムである。植物は動物とは異なり容易く移動することができない為こういった外界のストレスに対応する術を身につけた。
参考文献 ①natureダイジェスト 根から葉へと感想を知らせる物質の正体 高橋史憲、篠崎一雄、Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180922

A:最初に説明したように、この講義では、調べものレポートは評価の対象になりません。


Q:今回の授業では風速と葉の大きさの関係性について学んだ。これは葉の表面の空気は動いておらず、空気が動かないと二酸化炭素の吸収効率が悪い。よって風の弱いところでは葉を小さくして空気の流れをよくし、反対に風の強いところではそれを生かして葉を大きくするとのことだった。その話を聞いて私は海岸線に生息する植物を思い浮かべた。今日の話を聞くと海岸線上のような風の強いところでは大きな葉を持ち、強風に耐えるために地を這うように生息する植物がいてもおかしくないように思われるが、実際に海岸線に生息している植物は、ハマボウフウやハマナスなど地を這うように生えてはいるものの、葉は小さいものが多いように思われる。何故実際に海岸に生息する植物は葉が小さいのかを考えた。考えられるのは、水分の蒸散量である。海岸線は遮蔽物もなく、日中の日差しが非常に強い。よって、表面積の大きい葉を持ってしまうと水分が過剰に蒸散されてしまい、生存に不利になってしまう。それ故に大型の葉を持つ植物が見られないのだと考える。しかし、昼間の蒸散量を抑えるのであればサボテンのように昼間気孔を開かないCAM植物が大型の葉を持つようになってもおかしくはないのではないかという疑問も生まれたが、これはCAM植物のように液胞に代謝物を保存するような複雑な仕組みを持たなければならないほど海岸線は乾燥してはいないからであると考える。

A:これは、自分の論理を展開した後、「しかし」以下で別の観点から再検討している点が評価できます。人の論理であれ自分の論理であれ、それを頭から信じない態度は科学的指向では重要です。


Q:葉緑体は細胞内で空気の通り道に近い場所に多く存在していた。それは空気中の二酸化炭素をなるべく多く取り込むためである。それであればなぜそもそも葉緑体は細胞内に入ったのだろうか。葉緑体は昔シアノバクテリアの一種で細胞内小器官ではないのだから細胞内に留まる必要はないのではないか。一つ目の可能性は細胞外に出た場合、水を得るのが難しくなるからだと考えられる。光合成をするためには少量でも水が必要である。しかし、少量の水を持つと空気が湿度100%未満の場合、蒸発してしまうというジレンマがある。二つ目の可能性は植物との共生を始めるにあたって葉緑体単体で複製することができなくなってしまったことが考えられる。「葉緑体が光合成を行うために必要な遺伝子のほとんどは葉緑体のゲノムではなく核ゲノムに存在」しているとあるからである。
参考文献:基礎生物学研究所.https://www.nibb.ac.jp/pressroom/news/2021/05/27.html.

A:二つの可能性を考えている点は評価できますが、それぞれのポイントは、一つの事実に基づいて判断しているだけなので、論理的展開という点ではやや物足りない感じもします。