植物生理学I 第3回講義
植物の葉の構造
第3回の講義では、内部構造も含めた葉の構造と機能の関係を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:今回の授業で葉柄の意義について、葉柄は光合成をするためにあるのではなく、葉を支えるためにあるのだと教わった。そして、葉柄が必要な種とそうでない種の違いには葉と葉が重なるのを防ぐ機能が必要か否かで分けられるとまとめられた。私の家では、母の趣味で様々な種類の多肉植物を栽培している。家のものを見てみたところ、家のすべての種類において、葉柄がなかった。そこで、多肉植物が葉柄を持たない意義について、論じてみたいと思う。まず、多肉植物とは、アメリカ南部、北米、ヨーロッパなど乾燥地域を原産国とするものが多く、肉厚な葉を持つものが多いことが特徴である。水分、養分を多く含んでいる葉は一般的な薄平たい葉よりも重量が大きいことから、葉柄で支えるとすれば、それ相応の太さや硬さが必要になると思う。ただ単に葉を支えることのために、それほどのコストをかけることはデメリットでしかない。また、多肉植物の葉は光合成することに重きを置いておらず、むしろ乾燥した気候に合わせて水分、養分を蓄えることを目的としているため、葉を伸ばしてまで太陽光を得ることは得策ではない。以上の点から、多肉植物は葉柄を必要としない選択をしたと考えられる。
A:乾燥に対する適応と、太陽光の重要性の相対的な低さの療養をきちんと考えている点も評価できますし、自分の観察に基づく考察である点も高く評価できます。
Q:葉の基本組織系には柵状組織と海綿状組織が存在しているが、なぜこのような構造の違いが葉の中にみられるのか気になった。仮説として、光合成を効率よく行うために柵状組織では細胞が密に並んでおり、光合成に必要な二酸化炭素を取り込み、また水を排出するために細胞間隙のある海綿状組織が存在すると考えた。しかし、そうだとすると柵状組織と海綿状組織が必ずしも重なっている必要はないのではないかと考えた。つまり柵状組織、海綿状組織の二層構造ではなく、柵状組織が広がっている中でまだらに海綿状組織が存在する、という構造も可能であるはずである。そうすれば柵状組織も海綿状組織も平等に光が得られ、また葉の厚みが小さくなって葉の生産コストも抑えられるのではないかと考えた。しかし実際はそのようになっていない。そこでこれについて調べてみたところ、屈折率に関する指摘があった(1)。海綿状組織の細胞間隙は空気で満たされており、細胞内と比較して屈折率が高い。このように光の散乱を行うことで葉緑体に光が当たる働きを高める役割がある。さらに柵状組織では葉緑体は光の入射方向に対して平行に並び、透過する光の量を増やしている。これらのことによって海綿状組織での光合成効率を高めていた。このように、柵状組織と海綿状組織が2層になっていることで、光を効率良く利用する仕組みが葉には存在していた。
参考資料(1)光合成システムとしての葉、LeafAnatomy (tohoku.ac.jp)
A:これは、一般的なレポートとしてはそれほど悪くないのですが、結局、参考にしたWEBページに論理を頼ってしまっています。このような調べものレポートは、この講義のレポートしては評価の対象になりません。自分の頭で考えた論理を展開するようにしてください。
Q:今回の授業で自分が興味を持ったところは、単系統と側系統の関係を葉脈に絡めている点である。まず単系統とはある祖先とその子孫すべてを含む種の集合体のことで、側系統とは共通祖先とその子孫からなるが子孫の一部を除いた集合体のことである。その例として、恐竜は側系統で、鳥類を加えて初めて単系統になる。そしてこの関係が植物にも言えて、双子葉類は側系統で、単子葉類を加えて初めて単系統になる。単子葉植物が双子葉植物から分岐した理由は、分岐した時期には草食動物が繁栄してきて、双子葉植物だと成長点が高い位置にあるため、成長点まで一緒に食べられてしまい、葉が食べられた後に回復が難しいが、単子葉植物は成長点の位置が低いため、成長点が食べられることはなく、成長点が残るので葉が食べられた後にまたすぐ生育することができるからであると言われている。また、葉脈も網状脈などの複雑な葉脈だと回復に手間がかかるが、平行脈だと簡単なのですぐ回復できるため単子葉植物の葉脈は平行脈になったと言われている。改めて、このように草食動物の出現が植物の葉脈にまで影響を与えていることは実に興味深いと思った。
A:これも「言われている」という一般論を紹介したのちに、それに対する感想を述べているだけなので、この講義のレポートとしては評価の対象になりません。
Q:今回の講義の中では葉が扁平な理由が興味深いと感じました。太陽光は単位面積あたりのエネルギー量が小さいため、扁平な葉をつくり葉面積を大きくすることでエネルギーを多く受けられるようにしているとのことでした。その話を聞いた時に葉の形を球状にしたほうが効率がいいのではないかと考えました。球状の葉であれば上方向からの光だけでなく地面で反射した光や、朝夕の地面とのなす角が小さい光も漏らさず受け取れそうです。その点では扁平な葉よりも球状の方が効率が良さそうだとおもわれます。
同時にデメリットについても考えてみました。まず「球状」というところからベルクマンの法則を思い出しました。ベルクマンの法則が成り立つ要因の簡単な考察として、生物を球形と仮定するものを高校時代に習いました。熱生産(体積)と熱発散(表面積)では前者は半径の3乗、後者は二乗に比例するため、身体が大きいほど熱生産量にたいする発散量が小さくなるため寒冷地での生活に向くというものでした。これに習い植物でも同様に表面積=エネルギー生産、体積=エネルギー消費と考えると、表面積が大きく体積が小さいほど効率が良いと考えられます。球と扁平な形では扁平な方が表面積あたりの体積が小さそうです。従って球形の葉はエネルギー効率が悪いというデメリットがあるのではないかと考えました。
以上を勘案し、生物が生きるためにはエネルギー生産>エネルギー消費であることが必要なはずなので、エネルギー生産の効率よりもエネルギー収支の効率を優先して植物は扁平な葉を作ることにしたのではないかと考察しました。
A:講義で紹介した内容を、ベルクマンの法則という全く別の観点と組み合わせている点では評価できます。
Q:今回の講義で出てきた話で平行脈のメリットの話があった。そのメリットとして、単子葉植物は草食動物が発展した時期とほぼ同じ時期に出現したことから、単純な葉脈を持つことで食べられてもどんどん伸ばせるため、双子葉植物に比べて捕食に強いというものであった。私もこれは平行脈の一つのメリットだと賛成できる。しかし、単に捕食に強いだけならもっと多くの植物種が平行脈を持つ葉をつけているはずであるが、実際にはそうはなっていない。つまり、平行脈にもなにかしらのデメリットがあり、網状脈に勝てない要素があると考えることができる。それでは、平行脈にはなく、網状脈だけがメリットとして持っているものはなんだろうか。それは葉の遠近軸と垂直に葉を伸ばすことができるということだと私は考えた。もし、平行脈で幅の広い葉を作ろうとしたら、葉は丸まってしまうはずだ。すると、平行脈の葉は幅を広げた場合、コストに見合った光合成をできなくなってしまう。一方、網状脈は幅の広い葉をつけつつ、効率よく光合成を行うことができる。しかし、それだけなら平行脈の葉のデメリットの理由にはならない。なぜなら、幅が細かろうが、十分な葉を付けさえすれば問題なく光合成ができるからだ。では、幅の広い葉を作れるメリットとはなんなのだろうか。例えば、葉一枚に使える資源を同じとして、ある決まった長さの枝から葉をつけてなるべく多くの面積に葉を展開することを考えた場合、幅の広い葉の方が葉の数を少なくしながら多くの光を得ることができる。しかしそれは同時に、少ない葉で自身の下層の光を遮ることができるということにならないだろうか。葉一枚が下の別個体の葉に覆いかぶさる時を想像してみると、一番効率よく光を遮れるのは遠近軸がぴったり重なった時であるが、上から見た時に葉同士が垂直に交わっている場合は、幅の狭い葉だと少しの面積しか遮れないが、幅が広い葉の方が多くの光を遮れるだろう。つまり、網状脈を持ち、幅の広い葉を持っていると、下の葉に対し、高い確立で光資源を奪うことができる可能性があると考えられる。つまり、幅の狭い葉の方が競争の上では弱い可能性があるのだ。これが何を意味するのかというと、植物が育つ環境と競争の強さである。上で述べたことから、幅の広い葉を作ることができる網状脈の葉は、少ない葉しか付けられない段階で光資源をめぐってライバルと戦う時に、相手の光資源を効率よく奪ってライバルを妨害し、有利になることができると考えられる。つまり、網状脈は競争に強くなり、ライバルを倒しながら成長することで繁栄する道を選んだ種であると考えることができる。温帯熱帯の森林の植物に広葉樹が多いのは、捕食圧は食物が他に多くあることによって分散され、ライバルとの争いの方が生存に重要になるからだと考えられる。逆に、平行脈の葉は光資源を奪うようなライバルの少ない土地で、捕食圧に耐えながら一気に繁栄する道を選び、競争よりも繁殖または再生能力にリソースを割いた種であると考えられる。サバンナなどの草原では、背の高い木が多く生えることができないことと、食物が草本以外にそう多くないことから捕食圧に耐えられる構造を持つ必要性が高くなると考えられることができる。ちなみに、網状脈で比較的細長い葉を持つ種は、カシやキョウチクトウなどが挙げられるが、カシは陰樹であり、少ない光でも育つことができる性質を持っていて、暗い森林内ではライバルがむしろあまりいないことからコストのかかる幅の広い葉をつけていないと考えられる。キョウチクトウは乾燥地域でも育つことから、乾燥への適応として蒸散を抑えられるような細い葉を持っていると考えられる。まとめると、全部の植物の葉が平行脈にならないのは、捕食圧と再生能力を天秤にかけた時に、どちらの方が重要かということが、その植物の住む環境によって異なり、それぞれに適した形態を持つからである。
参考文献
・石川統・黒岩常祥・塩見正衛・松本忠夫・守隆夫・八杉貞雄・山本正幸編, “生物学辞典”, 東京化学同人, 2022/10/08, P313
・林弥栄・古里和夫・中村恒雄監修,”原色樹木大図鑑”, 1985/05/31, P650
A:これは素晴らしいと思います。一つの論点に焦点を絞りながら、きわめて多面的に議論を展開しています。いろいろなことを議論しようとすると、どうしても焦点がぼけてしまうことが多いのですが、このレポートは、論旨が一かいしていて高く評価できます。
Q:今回の授業で,双子葉植物が生まれた後に単子葉植物が生まれたこと,そして単子葉植物と双子葉植物の形態の違いの理由を習いました。そのことについて,単子葉植物の葉,言い換えると平行脈の葉は根元から立って生えているのに対して,双子葉植物の葉,網状脈の葉は茎から地面と平行に生えています。このことについて,長い葉は栄養や水分を先端まで送るのが難しくなるので,複雑なつくりが必要になり,わざわざ複雑なつくりを作ってまで形成した葉を食べられてしまうのはコスパが悪いのではないかと考えました。そこで調べると,平行脈の葉は根元に基部があり,細胞をさかんに作っていて,そこで導管を形成しては壊しを繰り返していることが分かりました。このように細胞を作り替えていくことによって,平行脈は伸長していくということが分かりました(1)。それを受けて,前回の授業で「植物は根端と茎頂から伸長する」ということを習ったので,葉も先端から伸長しているのだと思っていて,伸長する成長点を食べられてしまうのは大きな損失だと思っていたのですが,成長点が葉の根元にあるので,そこまで大きな損失ではないということが分かり,形状にも納得がいきました。
参考文献 (1) 柴岡弘郎, “平行脈がまっすぐ立っていることについて”,一般社団法人日本植物生理学会,公開2008-05-14,https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1614&target=number&key=1614,(参照 2022-10-22)
A:「そこで調べると」とありますが、調べた結果として書いてあることは、授業で紹介しました。レポートを書く際には、まずは講義をきちんと聞いてください。
Q:植物の気孔は気体の取り込みや蒸散を担っている。通常葉の裏に多いが水に浮かぶスイレンは葉の表に持ち,植物にとって欠かせない。葉の表に気孔を共存する際の気孔の数の確保の問題を考えた。「通常、気孔は葉の成長のはじめの方に形成され、その後に葉が大きくなっても気孔数はさほど増えないことが知られています。(中略)これは、おもに気孔でない普通の表皮細胞が分裂および成長することによって、葉が大きく展開するためです。」(1)とある。気孔でない普通の表皮細胞の分裂・成長により,葉が大きくなるため気孔の数はあまり増えない。よって気孔の数ははじめの方に決まる。気孔が植物にとって重要なのであれば気孔の数を調節できれば,植物自体の生産性を高めることができると考えた。そこで気孔の数を増やすことはできるのかと考えた。「JST研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)の一環として、北陸先端科学技術大学院大学の大木進野教授と石川県立大学の森正之准教授らは、植物の気孔の数を増やす働きをするペプチドホルモン「ストマジェン」の立体構造を解明しました。」(2)とある。ストマジェンというペプチドホルモンの立体構造を解明したことにより,気孔の数を増やすことが可能になる。よって光合成の効率を増やすことができ,二酸化炭素の削減や食糧問題の解決への応用が期待できる。
参考文献(1)佐藤 公行.気孔の数の決まり方.日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&A.2018-05-01. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4048. (参照2022-10-22).、(2)JST.世界で初めて植物の気孔の数を増やす分子の構造を解明-光合成に必要な二酸化炭素の取り込み能力向上が可能に-.JST.2011-10-26. https://www.jst.go.jp/pr/announce/20111026/index.html. (参照2022-10-22).
A:これも、調べもの学習で、大学のレポートとしてはものたりません。特に最後の1文まで調べた結果なので、自分なりの論理が欠落しています。繰り返しになりますが、この講義のレポートで評価の対象となるのは、自分の頭で考えた論理です。
Q:孔辺細胞について、気孔の内側が硬くなっているとのことであった。気孔の外側が硬く、水分が多いときには閉じ、水分が少ないときには開くのではいけないのだろうか。第一の可能性として開閉の調節が困難なことが考えられる。柔らかい細胞であれば閉じようとしたときにしっかりと閉じることができない可能性がある。第二の可能性として周りの細胞に影響を与えることが考えられる。気孔の開閉により孔辺細胞の近くにある表皮細胞との隙間が変化する。外側が柔らかければある程度柔軟に変化することができるが、硬いと隙間の有無がはっきりとしてしまう。第三の可能性としてリービッヒの最小律に従っていることが考えられる。植物は孔辺細胞が膨潤すると開口するようになっている。膨潤するということは植物に水が十分あると考えられる。ここに大量の二酸化炭素が送られれ、十分な光があれば多量のエネルギーを産出できる。逆に植物の孔辺細胞が収縮したときに開口するようになっていた場合、乾燥により植物の中に十分な水がないのに大量の二酸化炭素を吸収しようということになり、無駄な作業である。
A:自分なりに考えているという点は評価できます。少し気になったのは、水の存在を光合成の基質としての必要性から考えているのではないかという点です。実際には、蒸散される水の量と比べれば、光合成の基質として分解される水の量は微々たるものです。
Q:今回の講義では、植物は葉の表皮に水孔という排水組織を持つことを知った。水孔の役割は余分な水分を排出することである。しかし、気孔にも蒸散で水分を排出するという機能がある。このように、似たような役割をする気孔と水孔であるが、なぜ組織を分ける必要があったのか考える。 考えられるのは、気孔の蒸散量では水分の排出が追い付かないためである。蒸散は光合成を行う昼間に活発になり、気孔は光合成を行わない夜は閉じるため夜から朝方にかけて蒸散量は落ちる。しかし、根からの水分の吸収は昼夜問わず行われる。そのため、蒸散量が少なくなる夜や朝方には水分の排出が賄いきれないために余分な水分が出てしまうと考えられる。このように、気孔が閉じているときに水分を排出するための組織として水孔があるのだと推測できる。ただ、余分な水分を排出するなら根からの吸水を停止するメカニズムは生まれなかったのかということは疑問である。しかしこれは、根からの生命を維持するために必要な栄養塩類等を吸収するためであると推測できる。また、蒸散では水分を水蒸気として放出する。その際に熱を必要とするため、植物の温度が上がりすぎないようにするという効果があることも一つの理由として考えられるだろう。水孔は水を押し出す形で液体として排出するので熱を除去することはできない。前述のとおり、気孔と水孔はお互いがお互いを補うように働くため、別の組織として独立したのだと考えられる。
A:これは、複数の面から、自分なりに考えていて評価できます。最後の熱の部分は、温度が低い時には水孔を使った方がよい、という主張なのかどうか、よく読み取れませんでした。