植物生理学I 第15回講義
植物生理学の研究
第15回の講義では、植物生理学Iの講義の最後として、植物生理学研究室でどのような研究が行われているのかについて紹介しました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:私は講義でリンドウの花に葉緑体をもつ斑点があるということを知り、なぜ花にその小さな斑点をわざわざつけているのかということに疑問を持った。光合成を効率よく行いたいのであれば、花びらに微小な斑点をたくさんつけるよりも葉を一枚増やした方が光合成を行う葉緑体の面積は大きくなるのではないかと思った。それなのになぜリンドウは葉を一枚増やすことを選ばず、花に緑色の斑点をつけるのか。私はこの斑点は光合成を行うためだけにできたものではないと考えた。他の斑点をもつような花を調べてみるとみな受粉のために虫によって来てもらうための目印として斑点を発達させているということが分かった。そのためこのリンドウの花の斑点は、最初は光合成のできないただの斑点で虫を呼ぶための単なる目印であったが、年数を経るごとにその斑点が葉緑体をもち光合成もできるようになっていったのではないかという仮説を立てた。この仮説を立証するには花にある斑点内の葉緑体を別の緑色の物質に置き換えても花が育っていくかということを調べればよい。仮に花にある斑点内の葉緑体を別の緑色の物質に置き換えても花が順調に育っていった場合、花にある葉緑体はあくまでも葉での光合成を助けるためのもので、目印として斑点を発達させている可能性が高いと考えられる。逆に花にある斑点内の葉緑体を別の緑色の物質に置き換えると花が育たなくなった場合、花にある斑点が重要な光合成器官であると考えられるため、目印として斑点を発達させている可能性は低く、単純に光合成を行うために花に斑点をつけたということが考えられる。
A:仮説を立ててきちんと考えているのは良いと思います。ただ、「目印」という点からすると、異なる花色の花弁の品種でも、同じ緑色斑点がある理由をどのように説明するのかがポイントになるように思います。
Q:最終講義では研究室で研究している内容が紹介された。園池研究室では光合成について深く研究しており、さまざまな変わった光合成をする植物や動物を用いて実験を行なっている。この紹介された植物の中で、アイスプラントについて興味を持ったので簡単に調べた。アイスプラントは基本的に他の植物と同じ光合成を行うが、乾燥していたり得た水分の縁濃度が高かったりするとCAM光合成に遷移する。この光合成の遷移は成長に依存することなく、環境によって変わることがわかっている。研究が進められているためCAM植物のモデル植物としてよく用いられている。この遷移に成長の度合いが関係ないことから、与えられた環境の変化に反応する機構がアイスプラントは所持していると考えられる。ただそのような機構をどのようにして得たのか、例えば通常の光合成を行う植物とCAM植物が異種であるにかかわらず交配しアイスプラントが誕生した、または長く乾燥または塩分濃度の高い状況に置かれた植物がCAM植物に変化するのがなんらかの要因で止まってしまったため途中で変化することのできる植物が誕生したなど、不思議ではある。既知の情報から新たに疑問点を探し出し、それを改名するために研究をするのであるから、どのような話題でも色々な観点から注目し、自分なりの疑問と考察を持てるようにしていきたい。
A:よく考えていると思います。この辺りは、光合成についてきちんとまだ講義をしていないので難しいかもしれません。実際には、例えば必要な酵素といった違いは、C3植物とCAM植物の間でそれほど大きくありません。C4光合成の場合などは、独立に何十回と進化していると考えられていますから、成育途中でCAMに変化するのもそれほど難しくないのかもしれません。
Q:今回の講義の中にソラマメはさやだけでなく中の豆の表面でも光合成をするという話があった。さやは分厚いため豆まで届く光の量は数パーセントとなってしまうが弱光下に適応した光合成能がみられるという。その状況にもかかわらずソラマメの種子で光合成能が見られる理由について考えたい。種子では発芽に必要な栄養を蓄えるにあたって必要なエネルギーを生産するために盛んに呼吸を行わなければならないが、その呼吸に用いる燃料の有機物(糖)を産生することが必要である。葉など他器官での光合成で得た有機物を回してもまかなえるかもしれないが、他器官から豆まで糖を能動輸送することになり輸送にかかるエネルギーを追加で生産する必要がある。その点を考慮すると全て他器官に頼るのではなく、ある程度は豆自身で有機物(糖)を生産すべきではないかと考えた。また、もう1つの理由は呼吸で発生した二酸化炭素の再固定である。豆では盛んに呼吸が生じているため二酸化炭素濃度は高いと思われる。その二酸化炭素を気孔を介して放出するよりも再固定した方がソラマメにとって効率が良いのではないかと考えた。種子は生殖に必要な重要な器官であり害虫の侵入を対策する必要がある。呼吸で発生した二酸化炭素を再固定することで気孔の開閉の回数を減らし害虫や菌が入りにくいようにして内部を保護していると考えられる。
A:気孔は、確かに微生物の侵入口になりますから、気孔の数を減らすことは、ある程度のメリットになるかもしれません。ただ、二酸化炭素濃度の上昇自体は、ヒトと比べればそれほど有害ではないように思います。
Q:今回は、講義中にISSの話が出てきたので、宇宙での植物の形態について考察しようと思う。特に今回は、重力にのみ着目し、重力は地球と比べると限りなく小さいと考え、重力以外は地球上と同じ条件だと仮定する。まず、この条件下だと植物一つ一つのサイズが大きくなり、根が太く深くのびるようになると考えられる。重力による成長の妨げがなく、また、風などの小さな衝撃ですぐに飛ばされてしまうのを防ぐためだ。さらに、茎や根はまっすぐに伸びなくなると考える。これは重力がないために上下の感覚がなくなると考えたからだ。ただし、茎に関しては日光という目印があるため、根ほど蛇行はせずに成長ができるだろう。なにより問題なのは種子散布ではないだろうか。もし、一度種子を空気中に飛ばしてしまえば、かなり遠くへ飛ばすことができるが、なかなか土壌へ着地しなくなってしまう。このことから、従来の風散布や重力散布は向いていないと分かる。1つとして、動物散布型が増えるという方法で解決ができる。もう1つ考えたのは、根に種子を作るということだ。土壌中に根を張わせ、遠くに伸びた根に種子を作り、繁殖するということだ。
A:考え方は非常に面白い一方で、「重力以外は地球上と同じ条件」という考察の条件が今一つはっきりしていないように思います。種子をつくる以前に、どのような形の植物になるのかさえ、よくわからない気がします。
Q:光合成するウミウシの話があったが、移動性の動物が光合成をするのは一見有利に見えるがほとんどいないということは有利でないことがほとんどであると考えられる。光合成をする動物が植物と同様の光合成という機構をとっているということは、植物の光合成と同様の起源をもつ可能性が高いと考えられる。つまり、光合成をする細菌が動物と共生して動物細胞が光合成能力を得たと考えられる。多くの場合そうなると動物ではなく植物という形態をとっているということは光合成をする場合動物ではなく植物でないとならない理由があると考えられる。動物と植物で根本的に違うのは細胞である。また、それにより移動性に違いがあるとすると、移動して捕食した方が移動しながら光合成するより有利であると考えられる。では従属と独立の栄養摂取を同時にやればいいのであると考えられるが、移動には移動のエネルギーが必要である。そう考えると、移動に必要とするエネルギーは光合成で賄える量ではないのではないかと考えられる。このことから、植物量は動物に対して多く必要になるのではないかと考えられる。
A:最後の一文は、いわゆる生態ピラミッドのようなことを言っているのでしょうか。その部分だけ、論理展開が今一つわかりませんでした。その他は、論理的に考えていてよいと思います。
Q:講義内で、ウミウシがクロロフィルを持っていることが紹介されていた。今回は、この事実について考えようと思う。まず、他の生物では、食べることによる葉緑体の獲得はみられない。ウミウシがこのような方法で葉緑体(クロロフィル)を獲得するメリットとしては、必要な時に葉緑体を確保できることだろうと考えられる。一般的に、ウミウシは葉緑体をもたない生物を食することも多いが、周囲の環境や自身の成長段階に応じて新しく養分を確保できる方法をもっておくことで、生存に有利な状況を自ら作り出すことことが可能となる。そうすると、葉緑体を生かすも、殺すもウミウシが決定するということになる。葉緑体自身は単離された場合は生きていけず、なぜかウミウシに取り込まれたときには生きていけるという事実があり、ウミウシの体内で、葉緑体をどうするか、について機能調節が行われているものと考えられる。そして、この機能はちょうどウミウシが光合成動物と非光合成動物の間に位置することが関係していると考える。通常なら、光合成をするかしないか(葉緑体をもつかどうか)を決定するときに、必要な遺伝子領域が保持または破棄され、自身の栄養獲得方法に沿った遺伝子が残されるはずである。しかし、ウミウシの場合は、自身で葉緑体を合成しないという方法で、それに関連する遺伝子を破棄する代わりに、他生物から奪った葉緑体を生かすために必要な遺伝子を強化的に保持しているものと考える。(一種のトレードオフではないかと考える。)ウミウシの葉緑体を活用する生態は謎が多いが、周囲の光合成動物の数やそれ以外のエサとなる動物の多さ、活動量の多さなどの多くの条件を一つずつ比較していくことで、どの条件がその不思議な生態に影響を最も与えているのか、どのような遺伝子が、どの場所で働いているのを解明していくことは可能ではないかと考える。
A:ウミウシは、種によって、どの程度の期間葉緑体を保持できるのかが異なるようです。逆に言えば、「葉緑体の保持に必要な遺伝子」が何かは、実は、保持する時間によって異なっていて、遺伝子発現に必要なコストと葉緑体おの維持によって得られるメリットはトレードオフの関係にあるのかもしれません。
Q:今回の講義で、光合成をするウミウシで藻類からの遺伝子移行はほとんど認められないことが紹介されたが、ではウミウシはどのようにして体内で葉緑体を働かせているのか考える。ウミウシが藻類を食べて葉緑体を得ても、通常の葉緑体単体では、藻類や植物の細胞核の遺伝子によって光合成に必要なタンパク質が生み出されないと長くにわたり働くことはないと考えられる。しかし、ウミウシの葉緑体は最長10カ月にわたって光合成を行うことが可能(*1)である。よって、ウミウシが捕食する葉緑体は光合成に必要なタンパク質をもともとため込んでいる可能性、もしくは光合成に必要なタンパク質をウミウシがもともと作り出すことができる可能性の二つが考えられる。一つ目の考えを立証するにはウミウシが捕食する藻類の葉緑体を調べ、その葉緑体が光合成に必要なタンパク質を保持しており、ウミウシの体内と同じような環境で単独で一定期間光合成をおこなうことが確かめられることができればよいと考えられる。二つ目の考えを立証するためには、ウミウシのゲノムを調べ、ウミウシが捕食する藻類が持つ光合成に必要なタンパク質をコードする遺伝子があるか調べることができればよいと考えられる。
(*1) 光合成するウミウシ、チドリミドリガイのゲノム情報を解読.基礎生物学研究所.https://www.nibb.ac.jp/press/2021/05/27.html
A:今回紹介した新しい研究結果では遺伝子の水平伝播が認められませんでしたが、過去の研究には、水平伝播の痕跡が認められたとするものもありました。同じ盗葉緑体と言っても、その相互作用は種によってだいぶ異なるのかもしれません。
Q:ウミウシの葉緑体を藻類から奪って、更にそれを利用するという話があったが、そのメカニズムについて気になったので考えてみた。まず、葉緑体を藻類から機能できる状態で取り込むことについて、おそらく小胞を利用した食作用を使っていると考えられる。食作用では、葉緑体を傷つけることなくそのまま細胞内に取り込むことが可能なので、残りな植物細胞はセルラーゼやプロテアーゼなどで消化されるものと考えられる。次に、ウミウシの体の構造から、どの部分で食作用による吸収が行われているのか考えた。ウミウシは人体とは違って口→消化管→肛門の3部分しか消化器官がない。そのため口の構造を考えると、消化管を構成する細胞が、葉緑体の取り込みを行っていると考えられる。これを消化管細胞と呼ぶことにすると、この消化管細胞は、もともとの植物細胞同様に、1細胞内が取り込むことのできる葉緑体の個数に特に制限がないものと考えられるので、極端な話では細胞内に入り切る限界まで、葉緑体を詰め込むことができるのではないかと考えている。最後に取り込んだ葉緑体はどのように機能しているのか推測してみた。葉緑体はそのまま取り込まれているので、取り込まれた先の消化管でも今までどおりの光合成反応を示すと考えられる。よって材料となる水の供給源は取り込まれた先の消化管細胞の細胞質基質や原形質連絡などによって流入するウミウシの体液に含まれる水分であると考えられる。また二酸化炭素に関してはウミウシの静脈血内のCO2であると考えられる。最後に日光については、ウミウシの体を見ればわかるように、水分量が多いことに加えてゼリー状のそうで覆われており、体自体も半透明の部分があったりと光の透過性が、陸上生物より高いと考えられる。また、ウミウシは、よく浅瀬や塩溜まりで観察されることから一般的な水中植物の葉と同様になるべく水面に近い位置にいるのも、日光をなるべくたくさん得るためであると考えられる。
A:これは、盗葉緑体が可能な条件を論理的に考えていて非常に良いと思います。なお、光合成の基質として必要な水の量は、一般的に無視し得ると言ってもよい量です。