植物生理学I 第14回講義

植物の生殖

第14回の講義では、植物の生殖を題材に、受粉、自家不和合性、花粉管誘導、重複受精、胚乳形成、種子散布のしくみなど、植物に特化した生殖のしくみについて講義をしました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の講義で、種子散布について学んだ。ハルジオンの種子には冠毛があり、風によって種子が散布される。なので今回はハルジオンの冠毛と種子の落下時間について考察する。冠毛の数が異なるさまざまなハルジオンの果実を、40 ㎝の高さから落とし、30 cmの高さから机に落下するまでの時間[s]を計測した。冠毛の各本数(18本、16本、14本、6本、0本)に対する落下時間を測定した。すると、冠毛の数が大きくなると、落下時間は増加した。これは、冠毛は落下時間を長くさせ、浮遊を継続しやすくする効果があると考えられる。また、ハルジオン種子の冠毛の数が大きくなるほど落下時間の値のばらつきが大きくなった。これは、冠毛の開き具合が関係しているのではないかと考えられる。冠毛が水平方向に開いているもののほうが、閉じているものよりも空気の影響を大きく受け、落下時間が長くなったと考えられる。

A:これは冠毛の本数だけを考えて議論していたら、少しで気の良いレポートぐらいですが、値のばらつきについて議論しているのが素晴らしいですね。研究室に入って卒業研究を始めるとそのあたりを考えるようになりますが、2年生の段階でそこを考えられるのは大したものです。


Q:私は今回の授業を受けて、ツクシの胞子にある弾糸がなぜ4本であるのかということについて疑問を持った。4という数字を見たときに最初に思い出したのがヘモグロビンである。ヘモグロビンは四量体であり、ヘモグロビンの酸素解離曲線はシグモイド型曲線である。その事実を踏まえて私はツクシの弾糸の広がり方と湿度の関係もシグモイド型曲線で表されるのではないかと考えた。ツクシは胞子を飛ばすか飛ばさないかの2つの場合しかないので、弾糸もすべて巻き付いているか、巻き付いていないかの2つの場合が顕著に表れ、2, 3本巻き付いている状態が少ないと考えたからである。具体的にはツクシの胞子にある弾糸は湿度が高くなると1本目が巻き付くまでは時間がかかるが、1本目が巻き付いてからは2本目、3本目と弾糸が巻き付きやすくなるということである。そこでこの仮説が正しいかどうかを確かめるための実験を考えた。まず、湿度が10%に保たれた装置の中にツクシを一定時間置く。その後、ツクシの胞子を取り出し、顕微鏡で弾糸が巻き付いている本数を確認する。この作業を、湿度を10%ずつ変えていきながら湿度100%まで行っていく。得られた結果をもとに横軸に湿度、縦軸に弾糸が胞子に巻き付いた本数を取ってグラフを作成する。このグラフがシグモイド型曲線になっていれば最初に立てた仮説は立証されたといえる。

A:発想が飛躍しているところが素晴らしいと思います。4という数字だけでつなげる強引さは大したものですし、シグモイド曲線により弾糸の展開をスイッチングしているという考え方は独創的だと思います。


Q:今回の講義では種子散布について学んだ。種子の運ばれ方には動物に食べられることで運ばれるもの、動物の体に付着して運ばれるもの、風により運ばれるものなど様々な戦略がある。中でも最も興味をひかれたのは水に運ばれる植物である。森林の川辺に生息するオニグルミやトチノキなどがこれらに相当する。種子の発芽と休眠の要因となっているのは温度や光などをきっかけとしたジベレリン・アブシシン酸の分泌であるが、これらの水散布植物はどのような休眠解除刺激を知覚することにより発芽が制御されているのか考察する。森林の河川付近に生息するオニグルミやトチノキは温度によって発芽の制御が成されると考えられる。理由としては森林地帯の川には日光が届きにくく流れがあるため水の温度が上がりにくいことで陸との環境の違いが生み出されていると考えられるからである。海洋の場合はどうだろうか。海洋で種子が運ばれる植物として代表的なのはヤシである。流れが緩やかで日光をさえぎらない海で陸との違いが明確に出るのは塩分濃度である。海水中にあるヤシの実では高い塩分濃度で発芽が抑制される機構が働いていると考えられる。

A:観察される現象と、それが見られる環境を考えることによって関与する要因を推測するというやり方は良いと思います。ただ、後半は塩分濃度の他にも異なる要因がたくさんあるように思いますから、もう少し比較検討が必要かもしれません。


Q:花粉管伸長における誘引物質について紹介された。シロイヌナズナについて,助細胞から分泌されるシロイヌナズナの“LURE”を受容する受容体PRK6タンパク質も花粉管上に見つかっており,両者の結合状態の構造も明らかとなっている1)。一方,講義では花粉管が花柱を通ることで胚珠に到達できたという実験例も紹介されている。誘引物質が明らかとなった今,花柱が花粉管伸長に及ぼしている影響は何か,その仕組みと生存戦略の観点から見た意味について考える。まず,花柱は花粉管伸長に対してどのような仕組みによって影響を与えていると考えられるだろうか。ひとつの仮説として,花柱を通ることによって誘引物質の受容体の発現が促進されるということが考えられる。花柱の細胞から分泌されるシグナルを花粉管細胞が受け取ることで,花粉管細胞における誘引物質受容体の遺伝子を発現させ,受容体を細胞膜上に配置する。これを示すためには,花柱を通る前と後で細胞内の受容体遺伝子の発現状態が異なることや細胞膜上の受容体の有無を確認する必要がある。次に,花柱を通る場合に限り胚珠への誘導を可能とする仕組みには,どのような意味があるのだろうか。もし前述の仮説が正しい場合には,受粉が成功し,正常に花柱を通る花粉管においてのみ誘引物質受容体がつくられるという利点がある。受粉をしなかった花粉や正常には花粉管伸長できなかった花粉管において,受容体をつくるコストを避けることができ,資源の無駄がより少なくなると考えられる。
1) Zhang, X., Liu, W., Nagae, T.T. et al. Structural basis for receptor recognition of pollen tube attraction peptides. Nat Commun 8, 1331 (2017).

A:仮説をきちんと立てているところがよいと思います。後半の誘引物質受容体については、コストと言っても花粉管だけの話ですから、それほど大きいようには思えません。もう少し別の考え方が必要かもしれませんね。


Q:今回の講義ではイチゴのランナーが紹介されたが、イチゴは有性生殖も行うことができる。そこで、イチゴはどのようにして有性生殖とランナーの無性生殖を使い分けているのか考える。まず、イチゴの果実ができる時期、つまり有性生殖をおこなう時期を考えると春である。イチゴの本体は、ランナーを作り、そのランナーが根付いて自分で栄養を作ることができるようになるまではランナーに対しかなりのエネルギーを消費すると考えられるため、有性生殖をおこなうことでただでさえエネルギーを消費しているこの時期には行わないと考えられる。さらに、ランナーに対しエネルギーを消費するという点に注目すると、植物が一番成長する季節は基本的には夏であり、太陽光も強く、生産できるエネルギーが大きいということから、夏にランナーを伸ばしていると考える。つまり、季節によって生殖を使い分けていると考えられる。また、その仕組みとしては、夏になりある一定の温度以上になると細胞が反応する、もしくは短日植物のように6月の夏至を過ぎ一日の日照時間が短くなっていくと、ある一定の日照時間を切ったところで細胞が反応し、ランナーを形成するホルモンなどのシグナルを出すなど、温度刺激や光刺激によっておこるものだと考えられる。

A:これは、有性生殖と無性生殖の使い分けについて季節性を考えていて、視点はユニークだと思います。ただ、花芽形成については、講義でかなり詳しく取り扱ったわけですから、季節性のしくみについてはもう少しその知識を反映させたレポートにしてほしいところです。


Q:授業資料の「種子の散布」を読んで以下のことについて疑問をたて、自分なりに考察してみた。食べさせる戦略ということに関して、ある番組で、熱帯林に住むサルの生態が紹介されているような番組があった。そのサルは樹上の高いところにある木の実をたくさんとって食べていて、またその果実自体も固い種子の周りに柔らかい果肉がついているベリーのような果実で、これは食べさせる戦略を取る植物であると判断した。しかし、そこから考えられるのは、たくさん実をつけていたとしても、同一個体のサルに一度にたくさん食べられてしまうのは、より生息域を広げるという点においては不利になるのではないかということだ。そこで、植物が何かしらの対策を行っているのかについて考えた。まずは単純に成分について考えた。一匹のサルに食べられる量を少なくする工夫としては、次のようなものがあると考えられる。最初はおいしいと感じられるが、次第に酸味が増したり、塩味が増したりなど相手の味に関する神経に影響を与える物質が含まれているもの。または、一度にたくさん食べられないようにより満腹感を感じるように誤解させる成分が含まれているのではないかと考えた。さらに、食べた相手がより下痢や排便をするペースが速くなるようにすることで、一度にたくさんの種子を排泄されないようにするという成分もあるのではないかと考えた。一方で、実の特徴や生態に関して考えると、小さい実をたくさんつけてしまうと、果肉目当てにたくさん食べられてしまうので、果実一つ当たりの持つ果肉の量を出来るだけ増やして、なるべく少ない数しか食べられないようにしているとも考えられた。実のつけ方に関しては例えば、一度に成熟するのではなくて、段階的に成熟していくようにすれば、サルにとっての食べられる実の数を減らすが、植物全体の種子の数を変えないということが可能になるのではないかと考えた。時間の関係上、全て仮説のようなレポートになってしまったが、この後調査を行い、その結果得た新たな考察を次回のレポートに追記していきたいと考えている。

A:レポートの背景となる考え方は非常に良いと思うのですが、ある意味で一般的に考えられている考え方をなぞることになっているのが残念です。つまり、考える代わりに調べても、同じところに落ち着いてしまいます。もう少しユニークな視点を持ち込めるといいですね。