植物生理学I 第10回講義
水と栄養塩の吸収
第10回の講義では、根からの水と栄養塩の吸収の仕組みについて講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:植物は根から水を吸い上げるが、これは葉の水ポテンシャルが根の水ポテンシャルより低いので、葉から水が蒸発すると葉は根から水を吸い上げることができ、根は土壌などから水を得なくてはいけないからである。ただ植物というのは地上だけでなく水中にも存在する。水生植物は蒸散を行わないので、根からは養分や気体を吸い上げており水分を得ることはない。これより水生植物における水ポテンシャルは基本的なものとは違うのではないかと考えられる。葉は通常水ポテンシャルが低いことで周りから水を吸収するシステムを所持しているので、葉が触接水につけられているとすると細胞に水が過多に入り込み壊れてしまうと思われる。しかし水生生物でそのような事態は起きていないことから、水生生物の葉の水ポテンシャルは地上の植物よりも高いと推測される。根の水ポテンシャルとの比較では、葉が根から水を吸い上げることはなくなっているので最低でも根の水ポテンシャルが葉の水ポテンシャルより高いとは考えにくく、反対に葉から根に水を送っているのかというとただえさえ水生植物は酸素不足に悩んでいて茎や根に空洞を作り空気を通していることから水を送っているとは考えにくく、根と葉の水ポテンシャルに違いはないと推測できる。
A:ちょっと中途半端に理解してしまった感じですね。葉の水ポテンシャルが低下するのは、何回か前の講義で紹介したように、周囲の水ポテンシャルが非常に低い空気へと水が蒸散していくからです。とすれば、周囲が水の時には葉の水ポテンシャルが低くなることはないことが理解できると思います。おかしなことに、最後の結論だけは正解のようです。
Q:今回の講義では、生体膜は疎水的で水が通りづらいが、水を通すアクアポリンが存在することを学んだ。そして、アクアポリンの発現量は細胞の種類、細胞の状態により大きく異なることを学んだが、ではどういった条件でアクアポリンは発現するのか。これを考察する。 例えば、 「イネのアクアポリンは33種類あり、このうち3種類が葉身で、6種類が主に根でそれぞれ発現し、10種類は葉身と根の両方で発現している。残りの14種類は葉身と根においてほとんど発現しない。」(文献より引用) とある。ここから葉身より根の方が、アクアポリンの種類が多いことがわかる。これは、根の方が水を通すことが多いということが考えられる。このように、水を通すことが多い器官でアクアポリンは多く発現するのだと考えられる。 【参考文献】 イネがもつ33種類のアクアポリン遺伝子とその発現部位 https://www.naro.affrc.go.jp/org/tarc/seika/jyouhou/H20/suitou/H20suitou034.html
A:ここでは、アクアポリンの種類数の違いから結論を導き出していますが、単に「考えられる」とするだけで、文章全体で論理だてて一定の結論にもっていくスタイルになっていません。そもそも発現量が多いことと、発現する種類が多いことは、別のことですよね。もう少し考えてレポートを書くようにしましょう。
Q:本講義では大根に関して、緑色の上部が胚軸であると紹介された。根と共に肥大したために見分けがつきにくいと言える。同じく共に肥大した植物としてニンジンがあるが根と胚軸が地上からは出ない。なぜだろうか。胚軸は幼根と葉芽を繋ぐものと考えると、大根に上向きに成長する作用が働くというよりも、ニンジンに下向きに成長する作用が働いたのではないかと考えられる。地下に可食部が存在することは、害虫などの攻撃を受けにくく、寒気に耐えられると予想できる。大根農業には、あえて越冬させるものもある。そのような大根の胚軸が地上にあるならば、種として大根は胚軸を地上に出すという性質であり、胚軸が地下にあるならば、環境や季節に応答する形で胚軸を地上に出すか出さないかが決まると言える。
A:最後の一文が結論部分だと思うのですが、何を言いたいのかよくわかりませんね。もう少し論理的に議論を進めたいところです。ダイコンとニンジンの違いに注目した出だしは面白いと思ったのですが。
Q:植物で一部のアクアポリンが二酸化炭素も通すということであった。水や二酸化炭素は光合成で必要にもなり同時に取り込めることは反応をスムーズにできるのではないかと考えられる。動物の場合でも水は多くの生体反応に関わるが、基本的には一つの物質に対して一つのチャネルが存在している。同時に二つ通すということはその二つが完全に同じタイミングで必要になるということであるのでかなり限定的なものであると考えられる。植物は集中制御でないので動物に比べて別々の器官での相互関係が少なく、それぞれが別々に制御している。これによって、一つ一つの部分での反応に対してそこだけで使える機構を生み出すことができるのではないかと考えられる。動物のように体の中で循環する部分があるような機構では一つの部分だけで独自なシステムを使うのは難しいのではないかと考えられる。
A:授業ではあまり明確ではなかったかもしれませんが、紹介した実験で明らかなことは、アクアポリンの阻害剤が二酸化炭素の取り込みも阻害するということです。つまり、正確には、アクアポリンと相同性のある一群の遺伝子産物の一部が二酸化炭素を通すということでしょう。もちろん、水と二酸化炭素を同時に通す可能性もある一方で、水しか通さないもの、二酸化炭素しか通さないものがあっても不思議ではありません。
Q:講義のアクアポリンに関する話で、細胞壁は細胞膜の1000倍水を通しやすいと教わった。僕のイメージでは細胞壁はカタいことが売りなので水を通さないと考えていたから意外であった。そこでふと疑問に思ったのが、水中植物が細胞壁をもつ理由とは何だろうか、ということである。水を通さないのであれば、浸透圧による細胞内への吸水を防ぐ、という役割が想像されるが、そういうわけではなく、さらに言えば、水中では、水の流れに従う「柔軟さ」が求められる中で、「カタさ」を担う細胞壁は必要のない、無駄なコストと考えられる。その中でも細胞壁が存在する理由について考察する。細胞壁の役割には、第一にそのカタさで植物細胞に物理的な強度を与える点が挙げられる。次に考えられるのが、原形質連絡である。これは、陸上植物で一般的に見られ、「イオン、植物ホルモンなどの低分子だけでなく、ある特定のタンパク質やmRNA、低分子量RNAなど」*1を細胞間で物質をやり取りすることである。このことは水中植物でも大いに言えるのではないかと考えられる。講義内でもあったように、水中植物は葉からリン酸などの栄養塩類を取り入れるという特徴を持っており、その移動手段が、拡散によるものだとすれば、多くの必要な物質は細胞ごとにかなりの格差が生まれてしまうと考えられる。その差を埋めるために活躍しているのが、細胞壁の原形質連絡ではないかと考えられる。ちょうど、物質を届ける架け橋的役割である。発想を変えると、植物は水中から陸上へと進化し複雑化した訳で、その過程で細胞壁を獲得し、上記に挙げた役割を獲得していった。そして、再び水中に生息域を求める際に、これまでは必要のなかった(小さいため拡散でも均等に物質が行き渡っていたと考える)細胞間輸送役に、細胞壁がちょうどフィットしたのでは、とも考えられる。
参考文献:*1 植物生理学概論 桜井英博ほか共著 培風館 改訂版 2017.9.7
A:面白い考え方だと思いますが、用語の使い方がちょっと。「原形質連絡」は確かに細胞壁を貫通していますが、同時に細胞膜をも貫通しています。確かに、細胞壁を通り抜けている点が特徴的ではありますが、細胞壁が細胞間の物質のやり取りに役立つわけではありません。おそらく、言いたいのは、水輸送などにおけるアポプラスト経路ということでしょう。体内でありながら細胞外である部分がアポプラストで、そこが水輸送に使われることは、授業で話したように実際にあるわけです。
Q:今回の講義の中で、「植物の根にも緑色になる潜在能力があるが、地上部で合成されるオーキシンにより抑制されている」という話があった。この現象に興味をもったので、実際にどのようにオーキシンによって抑制され、オーキシンがなくなるとどのように緑色になるのか、仕組みを考えていきたい。まず、根は、一般的な状態では色素体として白色体をもっている。授業内容から、白色体に光を与え、かつオーキシンの影響をなくすことで葉緑体となり、緑色になることが考えられる。また、白色体が葉緑体になるということは、どこからかクロロフィルを得るということである。ここで、参考文献(1)より、クロロフィルはグルタミン酸から合成されることがわかる。このことから一つ目の可能性として、オーキシンは、グルタミン酸がクロロフィルになる化学反応のいづれかの部分を阻害しているのではないかと考えた。次に二つ目の可能性を考える。オーキシンは植物ホルモンであるから、高分子化合物である。したがって、オーキシンという高分子化合物が存在することで、クロロフィルという別の高分子化合物が生成されることが抑制されている可能性も考えられる。以上の考察から、この二つの仕組みにより、根における色素体はオーキシン存在下では白色体であるが、オーキシンの影響をなくすと葉緑体となるのだと私は考える。
〈参考文献〉(1)クロロフィル代謝と植物の発育 田中歩 他著 公益社団法人 日本農芸化学会 化学と生物 Vol.42 No.2 2004 p.93-98
A:なかなか大胆な仮説でよいと思います。ただ、参考文献はかなり専門的なもので、古くから知られているもやしの緑化過程の話は省略されています。もう少し教科書的な参考文献にあたると、より一般的な緑化過程に根の緑化過程を位置づけることができると思います。
Q:カナダモのリン酸の吸収と輸送に関する,放射性同位体32Pを用いた実験が紹介された。根のみ水中に浸かる状態にするとリン酸は根から吸収して茎にまで輸送され,葉も水中に浸かる状態にすると,葉から吸収して茎にまで広がるが根まで輸送されないという結果が得られたという。後者の状態では,根も葉も浸かっているのにもかかわらず,葉のみからリン酸を吸収している。このような仕組みをもつということは,根よりも葉からリン酸を吸収することに,生存戦略的な観点から見た場合のメリットがあると予想される。考えられるメリットの一つに,光合成速度を高めることに寄与するということが考えられる。光合成では,チラコイド膜でのADPとリン酸を用いたATP合成と,ストロマでのATP分解がある。チラコイド膜において合成されたATPを用いて,ストロマにてカルビン・ベンソン回路の反応を進めるが,このときにリン酸の濃度が高くなると,ATP合成が促進され,ATP濃度が高くなるとATPを用いたカルビン・ベンソン回路の反応速度が高まり,ATP分解速度も大きくなる。したがって,光合成における各反応が進みやすくなり,有機物の合成を速く行うことができ,それゆえこのような仕組みを持つようになったのではないか。これが実際に起こっていることを示すには,リン酸を加えた場合の光合成速度を測定し,そうでない場合と比較すればよい。
A:実験について少し誤解があります。実験は、茎・葉・根がすべて水中に浸かる状態で行い、茎葉の部分か、根の部分かのどちらかにリン酸を与えてその吸収を見ています。一方で、リン酸と光合成との関係を考えた部分は非常に面白いと思います。実際には、植物生理学IIで紹介する予定ですが、光合成産物を葉緑体からサイトゾルへ輸送する際に、リン酸は大きな役割を果たします。
Q:今回の講義では、アクアポリンの量は細胞の種類や場所によって大きく異なることを学んだが、実際にどのような場所で多く存在しているのか考えていく。アクアポリンは水にかかわるタンパク質であるため、水が大きくかかわる器官を考えていくと、真っ先に思いついたのは腎臓である。腎臓は一度血液から原尿を作り出し、原尿から体に必要な水分やアミノ酸、糖などを再吸収するため、再吸収をする箇所、つまり尿細管の表面の微絨毛にアクアポリンが多く存在しているのではないかと考えた。しかし、尿細管では水のほかにもイオンや糖などを吸収する必要があり、イオンはチャネルを使用しているものの糖などはどのように吸収されているのだろうか。そこで、原尿を作りだす時のように尿細管の中に穴が開いていると考えたが、これでは分子の大きさによってしか選別できないと考えられるため、体に不必要な物質まで再吸収してしまうと考えられる。ここで、分子の大きさという問題もあるものの、糖、アミノ酸は極性が高く、水も極性が高いという点に注目すると、水だけでなく低分子の糖などを通すことのできるアクアポリンも存在しており、それを使用して再吸収しているのではないかと考えられる。
A:考え方としては面白いのですが、生物はいろいろなものを一度に通すということをあまりやらないようです。そうしてしまうと、あるものだけを制御したくなってもできないから、という理由が大きいでしょう。面倒でも、それぞれの物質に特異的な輸送体を使った方が、結局は理にかなうと考えられます。