植物生理学I 第7回講義
導管
第7回の講義では、植物における水輸送を導管を中心に講義を進めました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。
Q:今回の講義では、導管に関しての説明が行われた。その中で、導管の壁にはらせん状の裏打ち構造が存在することの説明がなされた。この構造により、根からの水分の吸い上げが行いやすくなっていた。そこで、同じく液体を吸うための道具であるストローの構造について考えていきたい。ストローには、曲がる構造のないタイプと蛇腹の部分(フレックス)があり曲がるような構造になっているものがある。また、直径も異なっている。シバセ工業株式会社の製品紹介1)を確認すると、飲み物によってストローの直径やフレックスの有無が異なっていた。カクテル用、コーヒー用、ジュース用、シェイク用、タピオカ用の順に直径が太くなっていた。そして、ジュース用にのみフレックスが存在していた。直径について考えていくと、ジュース用とシェイク用の差はポアズイユの法則2)「単位時間当たりに流れる流体の体積は、管の半径の4乗および間の両端の圧力差に比例し、管の長さおよび流体の粘性に反比例する」から考えると流動性の低いシェイクを飲むには直径を太くする必要があったと考えられる。カクテル用、コーヒー用。ジュース用の差は、カクテルのようなアルコールがジュースと同じ量一度に飲めてしまうと危険であるため、先ほどと同様にポアズイユの法則よりカクテル用の直径を細くしていると考えられる。コーヒー用に関しては、コーヒーを急いでのみたいという需要が喫茶店などの提供側にも飲むお客さんなどの消費者側にも少ないためジュースほど直径を太くしていないと考えられる。そして、ジュース用にのみついているフレックスであるが、もともとフレックスは子供やお年寄りなどストレートのストローでは、机の上で飲みにくいというところから作られていると考えられる。このため、子どもやお年寄りに需要が少ないコーヒー用やカクテル用にはフレックスがないと考えられる。また、フレックスは授業内容から吸引を助ける。このことからも吸引する力の弱い子供やお年寄りの需要が多いジュース用にのみフレックスがついているのは理にかなっていると考えられる。また、ポアズイユの法則と蛇腹の構造が吸引を助けるという二つのことからもう少し蛇腹構造の部分を増やし、直径を細くしたストローを作成することで、吸引する力が弱い方が飲み物を飲みやすくなるのではないかと考えられる。
参考試料:1)シバセ工業株式会社HP 製品紹介 (2021/05/29 閲覧)https://www.shibase.co.jp/drink/index.html、2)ポアズイユの法則 デジタル大辞泉 (2021/05/29 閲覧)https://kotobank.jp/word/%E3%83%9D%E3%82%A2%E3%82%BA%E3%82%A4%E3%83%A6%E3%81%AE%E6%B3%95%E5%89%87-131526
A:よく考えていてよいと思います。強いて言うと、レポートのテーマは流体力学なので、生物学に還元できるような一言が最後にあると完璧ですね。ただ、この講義で求めているのは考えることなので、このままでも合格点です。
Q:角があることにより、強いところと弱いところが出来る。それは確かに正しいと私は考える。しかし、弱い部分が出来てしまうと、そこからその植物が折れてしまい、枯れてしまう可能性も十分に考えられる。反対に、丸くてしなる茎は、いろいろな角度に対応できるうえ、水の吸い上げなどで茎内部に圧力がかかった際にも、一様に力が加わり、一番安定した形だと私は考える。それでも角のある茎をもつ植物がなくならない。それでも角をもつ茎をもつ植物は、ある一定の角度に対しては強度を得るため、少し弱くなってしまうという犠牲を伴うのだと私は考える。例えば、その植物が年中生えているわけではなく、ある一定の場所・時期に、同じ向きに茎が生えるから、ある一定の角度にしか強度が必要ない、といった可能性が考えられる。そしてこれは、茎の断面の形が植物によって違う理由に等しいと私は考える。このことから、茎の断面の形が植物によって違うのは、その植物が角を得ることによって生じるデメリットよりも、メリットの方を優先した結果であると私は考える。
A:一般論としてはよいのですが、やや具体性に欠けますね。例えば、「ある一定の角度にしか強度が必要ない」というのは、自然界でどのような状況を考えればよいのでしょうか。また、最後のデメリットとメリットの比較も、一般論としては当たり前と考えることもできます。生物学では、考えることだけでなく、それを自然に還元して具体的に当てはめることも重要です。
Q:本講義でパイプモデルが説明された。枝の断面積の合計は同じであり、葉の量と枝の断面積はおよそ比例の関係になるという考えを知った。木本植物はおおよそ当てはまると聞いたが、草本植物はどうだろうか。もちろん、幹・枝と茎の違いはあるが、葉をつけるために導管や篩管が必要であり、比例の関係が生まれるのは両者理解出来そうである。しかし、管径の4乗に比例して通道能力が変わることを考えると、草本植物の茎より木本植物の幹・枝の方が表面積が大きいので、付けれる葉はもっと多くなるとともに、木本植物の方が単なる比例式になりにくいと予想する。また、木本植物の幹は特に、上に付ける葉や枝の重みにつぶれない耐久性が必要なので、幹が木化して肥大成長する。そのため、維管束に着眼して表面積と葉量を比べたならば、精度高い相関を得られると思うが、幹・枝の表面積で考慮するとその分考えるべき要素が増えると予想できる。木本植物にパイプモデルがおおよそ当てはまるならば、草本植物もそれくらいか、それより当てはまるのではないかと考えた。
A:着目点は面白くてよいと思います。ただ、「木本と草本」で議論しているわけでありながら、論理展開には「大きさ」の概念が使用されています。例えば、同じ背の高さの木本と草本を比較した場合には、ここの議論は修正が必要にならないでしょうか。そのあたり、少しだけ論理にあいまいさがあるように感じました。
Q:第7回の講義では植物の形態について、複数の環境要因の相互作用により適応度が変化し、成長を制限する環境要因が多くなるとその分一つの要因に対する適応度が下がり、少なくなると逆に一つの要因に対する適応度は大きくなるというトレードオフの考え方を学んだ。この結果植物の多様性は確立されているが、具体的には環境要因がどのように植物の形態に影響を与えているのかを考察する。温泉地帯に自生する植物は通常とは異なった形態を持つと考えられる。一般的に植物の成長に影響を与える環境要因として挙げられるのは光や水分、大気、温度、土壌などである。これらの中で温泉の湧いている地域にユニークなのは大気、温度についてである。まずは大気についてであるが温泉には硫化水素や二酸化炭素、メタンなどのガスが通常の大気より高濃度に含まれる。温泉植物はこれらのガスを代謝して無毒化する機構を持っていると考えられる。硫化水素を光合成基質としている硫黄細菌などを利用している可能性も考えられる。温度について、地中では地熱に、地上では高温の大気にさらされている温泉植物は熱に強いタンパク質を持ち、水分を保持するためCAM型の光合成回路を持つことも考えられる。
A:これは、珍しい点に着目しましたね。ただ、読んでいて、考えていることを言葉にする際にすり抜けている部分がかなりあるように感じます。硫黄細菌のところも、無毒化機構の一つとして考えているのだろうということは理解できますが、やや言葉足らずですし、最後の水分のところも、「温泉が湧きだしているなら水分には不足しないだろう」という考え方もあると思います。別にレポートを長くする必要はないのですが、なるべく自分の論点を過不足なく言葉にすることは大切です。
Q:今回の講義の中で、植物の導管要素の話があった。植物は、液胞をアポトーシスすることで導管を作っているということだったが、ここで動物の構造と比較したい。動物における血管は、その生物の生存に欠かせない物質を運搬しているという点で、植物における導管と同じ役割を持つ構造物だといえる。しかし、血管はアポトーシスでできるわけではない。その違いはどこにあるのだろうか。その決定的な違いとして、私は「循環」を考えた。まず植物の導管から整理すると、導管は根から葉へ、もしくは葉から根への一方通行である。一方で、動物における血管は体内を循環している。内容物が一方通行であることは同じであるが、血管は大きく見ると環状と見ることができる。循環しない場合、内容物は片方の出口から出ていくため、それを行う構造としてそこまで強固である必要はないと考えられる。だが、循環する場合、内容物を環状に循環させる必要があるため、それを行う構造として、より強固である必要があるのではないだろうか。以上のことから、動物における血管は、植物の導管に比べ「内容物の循環」という役割があるために、アポトーシスによる形成ではない方法で形成される、と私は考える。
A:このレポートの前提には「アポトーシスによって作ると強固にならない」ということがあるのだと思いますが、なぜそのように考えたのかが述べられていないので、その点が残念ですね。また、循環の方が構造が強固である必要があるとする理由も、多少「片方の出口」といった説明があるものの、あまりはっきりしません。もう少し論理的に詰める必要があるように思いました。
Q:導管と篩管の違いの一つに死細胞か生細胞かという点がある。みずから細胞死を導き,生きている細胞を減らすことはコスト低減となるため,導管を死細胞とすることは生存に有利な戦略と言える。篩管も導管と同じように輸送を担うものの,死細胞ではない。したがって,生細胞でなければならない機能を持っていることが考えられる。篩管を「生細胞」と言っても,「核,リボソーム,液胞,細胞骨格を欠いている」1)。どのような点で「生きている」と言えるのか。たとえば,「細胞壁近くにタンパク質を多く含む細胞質が残存する」2)という。このタンパク質が篩管の機能に影響を与えている可能性がある。導管と篩管の機能の違いは,輸送する物質にある。導管は水を蒸散によって吸い上げる一方,篩管は水を満たした管の中に,光合成産物などの物質を溶かし,濃度勾配により拡散によって輸送する。輸送した後,導管/篩管から各細胞に届けるときのことを考えると,導管は壁に穴をあけることによって各細胞とつながり,その孔を水が通ることによって目的地に達する。一方篩管では,水に溶けている物質(溶質)のみを各細胞に届けなければならない。溶液の状態で送れば,水も送られてしまい,不都合である。その際に,このタンパク質が機能しているのではないか。すなわち,タンパク質が溶質と結合し,各細胞壁まで運び,その後細胞壁にある,選択的に物質を輸送する輸送体に溶質物質を手渡すことによって,溶質だけを目的地まで運ぶことができる。これを示すためには,各細胞壁付近に存在すると言われるタンパク質の機能を明らかにする必要がある。
1) 池内昌彦ほか監訳,キャンベル生物学 原書9版,2016年.2) 福原達人,「1-3.木部・篩部」,
A:よく考えていることはわかりますし、考え方の方向性もよいと思います。ただ、キャンベル生物学を読んだのであれば、篩管の輸送のメカニズムが分かったと思いますので、もう少し具体的な議論ができるのではないかと思います。
Q:今回の授業では、道管をつくるきっかけとなる遺伝子としてVND7というタンパク質が働いているということを学習した。道管はいくつかの細胞がつながったものであるため、道管のまわりにある細胞も道管になる必要がある。仮にVND7が常に分泌されていたとすると周りの細胞がすべて道管の細胞になってしまうため、VND7の分泌は何かのタイミングでストップするだろう。では、それはどのようなタイミングの時であるのか考察してみた。道管の働きは植物の体に水を運ぶことであるため、最低限道管の内側に水が十分に通ることが出来ればよい。水が十分に通ることが出来ていればそれを道管の細胞が感知して、VND7の分泌をストップすれば良い。しかし、道管は死細胞であるため、そのようなことを感知することは出来ないだろう。また、道管内に水が十分に通っていたとしても、それが植物全体にとって十分な量であるとは限らない。植物全体に水が十分であるか感知できるのは葉の細胞であると考えた。葉に水が十分届いていればVND7の分泌量を抑制し、適切な道管の数を維持することができる。このような仕組みがあると、植物が成長してより多くの水が必要になったときにVND7の分泌量を増やすことで道管の数を増やすこともできる。以上のような過程でVND7の分泌量を調整しているのだと考えた。
A:これもよく考えていて、途中では導管がし細胞であるために環境シグナルの感知ができないといった面白い論理を展開していますが、最後になると「多くの水が必要になったときにVND7の分泌量を増やす」という漠然とした説明になっているのが残念です。せっかくなので、その細胞で感知して、どのようにして分泌量を増やすのか、といったメカニズムについての議論がほしいところです。