植物生理学I 第4回講義

植物の葉と環境

第4回の講義では、植物の葉の形態を決める一因として、二酸化炭素取込みの抵抗となる気孔と境界層の問題について解説しました。以下に、いくつかのレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

Q:今回の講義で葉の大きさと風の強さに相関があり植物は環境に適した葉の形をとっていることを学んだ。そこで私は、空気の薄い高山に生息する植物の葉の形に疑問を持った。今回は高山に生息する「コマクサ」について考察する。コマクサは草丈が10-15 cmほどと低く深く分裂した針のような線状の葉が密に集まっている。このような形態の理由の1つ目は高山には高い樹木が生えていないからである。高い樹木は風を防ぐ役割があるが樹木がないため植物体自身が飛ばされないように耐えなければならない。そのため風を受けにくくするためにも細く分裂した形を取ることが適する。ただし、植物体が十分に光合成を行うためには葉が十分多くある必要があるため草丈が低い分1つ1つのファイトマーの距離が短くなり葉が密に集まっているのだろう。また、高い樹木がないことということは光を遮るものがないということになる。そのため草丈が低くても十分光を吸収することができるため草丈が低くても生息できると考えられる。理由の2つ目は高山の気候が厳しいからである。高山は気温が低いため夏の暖かい時期にしか生育できない。そのため、短い生育期間で新しい器官を高く高く作る時間的余裕がなく草丈が低いと考えられる。また、冬の間は雪が積もるため雪の重さに耐えるためにも葉を細くし雪が葉の上に積もらないようにしていると考えられる。

A:よく考えていると思います。1つ目の理由は、環境要因としては2つにわけることができますから、全部で3つですね。ただ、最後の雪の話は、コマクサの生活形を考えれば当てはまらないことがわかると思います。


Q:本講義において、気中葉と水中葉の両方の形質を出現させることが出来る植物として、ミズハコベとアマモが紹介された。気中葉と水中葉の出現はいつ決まるのか、疑問に思ったためそれについて考える。例として、一個体の中に水中で生息する部分、気中で生息する部分があったとする。そうならば、(1)それぞれの部分で水中葉、気中葉をつけること、(2)どちらか一方をつけること、の2通りが考えられる。例の結果が、(1)ならば、形質がその葉ごとの環境への適応を生んでおり、(2)ならば、子葉が生えた時点でその個体がどちらの型が現れるか決まってしまう。ここで、高木の葉について考えるが、木の頂上付近と最も地面に近い場所では、葉の内部の様子が変わってくる。柵上組織の厚さなどは光が強く当たる頂上付近の葉の方が厚い。このように葉ごとで細胞の様子が変わることはある。気中葉と水中葉はこれとは異なり、形質の話であるが、葉がそれぞれの環境で形を決めるということはあり得る。何時の時期に葉の形の運命が決まるのかを調べるためには、水中で育てた個体を陸上で育てること、またはその逆を行うことによって、さらに子葉が芽生えた時点や子葉が芽生える前など時間的にもずらして行うことによって、植物が生きれなかったら、運命が一定の期間で決まるということになるし、植物が形を適応させたならば、葉ごとの運命になると言える。浮力や重力の問題があるため、実験は難しいが実際、個体を寝かせてあげるなどして実験を行うことで、その答えは出ると予想する。

A:講義で説明したのはミズハコベとキクモです。アマモは気中葉は出さないと思います。環境が変化したときにどの時期に葉の形が変わるのか、というのは非常に良い視点だと思います。また、植物の環境応答を考える上で、可塑性の大小は非常に大きな問題です。実際には、一度気中葉として発生した葉を水につけても大きな構造の変化は起こらないようです。


Q:今回の授業では風の強さと葉の大きさの関係について学んだ。そこにも足し引きが関係していて、二酸化炭素を効率よく吸収するために抵抗が小さくなる強風下では葉は大きくなる。一方で、強風下で葉を大きくしすぎても千切れ、植物にマイナスがでるため大きさをセーブする。このことでは風を中心に葉身の大きさを議論しているが、葉の形態を決めるには光も関わってくる。そこで私は風の強さは葉柄にも関わってくるのではないかと考えた。第2回の授業で葉柄は葉を支えるための役割と、長さを変えて葉の重なりを防ぐ役割があると教わった。光を効率よく吸収する必要があるからだ。もし、強風下で葉柄を長くしすぎてしまえば、風に煽られて葉柄ごと折れることも危惧できる。そうなれば植物にとってはマイナスしか残らない。葉柄の長さにおいても葉の大きさと風の関係が成り立つのではないかと考えた。調べるには与える光の強さを一定にして、無風下と強風下で育てた場合の葉身の大きさ、葉柄の長さや太さ、葉の枚数を測定する。そして変化率を比べれば、風にさらされた状態では葉の保存と光の吸収の形態へ影響を調べることができると考えられる。

A:ここで提案された実験系では光の強さを一定にしていますが、葉柄の主な目的が光の有効利用であるとした場合、光が十分にあるところと、暗いところでは結果が変わる可能性もありますよね。複数の環境要因の影響が絡み合う現象を調べるときには、いろいろ工夫が必要になります。


Q:今回の授業では水中の植物についても少し学んだが、ここで疑問に感じたのが水中植物は体内に水分を貯蔵する必要があるのかということだ。オオカナダモの形態を顕微鏡で観察したとき、液胞があったり原形質流動が起こっていたり、細胞内には水が豊富にあった。陸上の植物は蒸散して水分を放出したり、常に周りに水があるわけではないので、水を貯蔵することは大事である。水中植物で水を貯蔵する理由を考えると、細胞の形を保つために浸透圧を一定にするというものが考えられる。また、これに関しても海水と真水でちがいがあると考えられる。海水の場合、外の水は塩水なので内との浸透圧を保つ必要があると思うので、体内に水分を貯蔵することは必要である。真水の場合、細胞は外界の水で細胞内を浸しても構わないのではないか。葉面で不純物を取り除きスポンジ状にして水を給水して蓄えれば細胞内でいちいち貯蔵する必要はなく、ほかの細胞小器官にエネルギーを回せるのではないかと感じた。また海水の場合でも海の栄養塩類を利用するためにより多くの水分を回せたら良いと思うので、体内に貯蔵せず多くの水を取り込む形があってもいいのではないかと考える。

A:視点はユニークなのですが、水が豊富にあることと、水を超蔵していることとは、必ずしも関係がありませんよね。もし、体に1リットルの水があったとして、それが0.99リットルになったらば死んで(枯れて)しまう場合には、貯蔵していると言える水は0.01リットルでしかありません。そのあたりをもう少し考慮する必要があると思いました。


Q:今回の講義で、風が強い地域では、葉は小さくなると教わった。マツは海辺に生えていることがあることから、風が強いので、葉が小さくなることに合点がいく。しかし、海辺などでは塩が葉に付着してしまうことで、枯れてしまい、うまく育たない植物が多い。しかし、マツは海辺でも生育しており、防砂林や防風林などとして役立っている。これには菌類が関係していると考えられる。マツは菌類と共生している。なので、菌類が吸収した栄養をマツに与え、マツが光合成で得たエネルギーを菌類に与えるという共生関係から、痩せた土地でもマツが生育することができると考えられる。また、共生していることで、マツの根元にキノコが生えると考えられる。なので、海辺に生えているマツから山の幸である松茸などのキノコ類が取れる可能性があると考えられる。

A:「風が強い地域では、葉は小さくなる」というのは、きわめて誤解を招きやすい表現だと思います。「葉が小さくなる」ことと「小さい葉が有利である」ことは全く別です。そして生物において有利不利は多くの場合、競争関係においてのみ重要になることも考慮に入れる必要があります。競争相手がいなければ、相対的に不利であっても、生育速度がプラスでありさえすれば、その環境で増えていくことができます。レポートの論理としては、なぜ菌類が突然出てきたのかがわかりませんし、キノコが取れることがレポートの論旨とどのように関係するのかもわかりませんでした。


Q:今回の講義で学んだことの一つに植物における水中と陸上での環境の違いがあったが、そこで水中において気孔の開閉が行われるのかどうかについて疑問に思った。一般的に気孔の閉口は、1)「雨が降らず晴天の日が続き植物周辺の水分が不足気味になると、植物内で合成された植物ホルモン・アブシジン酸に応答して気孔は閉じ、植物体からの水分損失を防」ぐために行われる。このことから水中において植物は水分損失になる危険性が無いため、気孔は開いたままになると考えられる。
参考文献 1)気孔の働きと開閉の仕組みhttps://jspp.org/hiroba/essay/kinoshita.html

A:講義も4回目になるのに、こんなレポートを書いていては困りますね。今までのレポートに対するコメントは読んでいますか?


Q:私は昼と夜で境界層の厚さがどのように違うかについて授業で教わった境界層の厚さの経験式を用いて考察する。「典型的な海風の陸へと向かう流れの風速は5~6m/sで、陸風の海へと向かう流れの風速は2~3m/sである。」(1) ここで、海風の風速を5.5m/s、陸風の風速を2.5m/sと仮定する。昼には海風が吹くので、昼の境界層の厚さはΔ=0.004√l/5.5である。また、夜には陸風が吹くので、夜の境界層の厚さはΔ=0.004√l/2.5である。(0.004√l/2.5)/( 0.004√l/5.5)=2.2になるので、境界層の厚さは、昼と比べると夜では2.2倍に厚くなると考えることができる。したがって境界層の厚さが薄い昼に光合成や蒸散を行うのが植物にとって適しているといえる。境界層の厚さが薄くなる昼間にCO2を取り込むという植物の生態は生きていくうえで非常に有利なものだと考える。また、蒸散が夜間より昼間に行われるのもこの境界層の厚さの違いが関係しているのではないかと考える。
参考文献(1) 東京航空地方気象台 羽田空港 WEATHER TOPICS, https://www.jma-net.go.jp/haneda-airport/weather_topics/rjtt_wt20140731.pdf, 2014年7月31日発行 (閲覧日 2021年5月1日)、(2) ゆずぱ 海風と陸風は3つの自然法則とストーリーで理解しよう https://katekyo.mynavi.jp/juken/16471,2020年1月6日 (閲覧日 2021年5月1日)

A:このような定量的な考察は貴重です。一方で、考察にあたっては、講義でほかに学んだ内容も考慮する必要があります。光合成には光が必要ですから、夜に一般的な光合成はできません。また、二酸化炭素取込みの律速となる気孔は、光によって開口するという話もしたと思います。それらの知識を考え合わせれば、最後の結論はだいぶ変わってくるのではないかと思います。


Q:講義では水中植物の葉は、水中の中で二酸化炭素を取り込むために気中植物よりもさらに薄い葉を持つと学んだ。しかし、同じく水中に生息する光合成生物である藻類の中には、例えばコンブ、ワカメといい水中植物のオオカナダモなどに比べると葉は大きく、分厚い。同じ水中の光合成生物で、このような違いが生まれるのはなぜだろうか。ここで、仮説として海のほうが川より溶存二酸化炭素が多いという説を立てる。溶けている二酸化炭素が多ければ、光合成量も増え、大きい体も養うことが出来るからだ。授業の中で「水中植物は気中植物より葉がさらに薄くなる」と学習した。しかしワカメやコンブは海藻として海の深くのところに生えているが、葉は通常と同じ厚さ、さらには厚いものもある。海の深くなのでより光が届かず、また二酸化炭素も吸収しにくい。ではなぜこのような構造になっているのか?まず初めに水圧や海流に耐えるためというのが考えられる。水は深くになればなるほど周りからの水圧が大きくなる。海流もテレビの映像で流れるようなダイビングの映像で、大きく揺れる海藻が映る映像がある。それだけ過酷な環境に耐えるために葉を厚くしていると考えられる。また、海流が存在するということは水中でも風があることと似たような状況になり、そういった点でオオカナダモやミズハコベなどの水草とは違い二酸化炭素を入手しやすい状況にあるため、葉を大きくしやすく、それに伴って厚さも太くすることができたのではないかとも考えられる。

A:海藻の葉の厚みを取り上げたレポートは他にもありましたが、海流を結論にしたものは他になかったので、面白いと思います。ただ、海流を原因として考えるのであれば、当然川の流れなどとの比較を議論する必要があるでしょう。また、最初の部分は、同じロジックが二度繰り返されています。できたら、レポートを書き終わった後に、読み直して論理がスムーズに流れているかどうかを推敲するとよいでしょう。


Q:今回は葉の多様性についての講義であった。私は複葉について、三出複葉や五出掌状複葉など小葉の数がほぼ奇数の場合が多いことに疑問を持った。実際三つ葉のクローバーなども三出複葉である。ではなぜ奇数が多いのだろうか。ネットで調べてみたところあまり有益な情報は無く、よくわからなかった。そこで私なりに考えてみると、シュートの構造上頂芽(正確には違うが)に葉が一枚だけ付いているような場合にそんなことはありえないのでそれが複葉であることがわかることから、他の小葉が偶数個であっても先端についている一枚の商用のおかげで奇数になってしまっているのではないだろうかと考えた。

A:アイデアは面白いと思います。ただ、ちょっと日本語が舌足らずですね。僕にはわかりますが、講義を聞いていない人にはシュートの構造の所の話など、何を言っているのかが非常にわかりにくいと思います。