植物生理学I 第7回講義

さまざまな根

第7回の講義では、植物の根の形態と機能の関係について講義を進めました。以下に、質問とそれに対する回答を掲載し、10のレポートをピックアップしてそれに対してコメントしておきます。

講義に対する質問と回答

Q:塊根と担根体、塊茎と地下茎の違いは何でしょう。それとも同義でしょうか。

A:担根体は、根とも茎ともつかない特殊な器官の名称ですから、根や茎とは区別して考えた方がよいでしょうね。塊根や塊茎は、塊状の形態を取る根や茎ということでよいと思います。地下茎は地中にある茎でしょう。地中にあっても、頂芽や葉がついていれば、根ではなく茎だとわかります。

提出されたレポートとそれに対するコメント

Q:今回は陸上植物の根について扱ったが、私は浮遊植物における根の役割を疑問に思った。マングローブの植物が低酸素への適応として気根を地上に形成しているのに対し、浮遊植物は気根を形成せず根が完全に水中にあるからである。まず水中の各種イオンを取り込むために根が存在するということは理解できるが、同じ水生植物の中にはマツモ属のようにそもそも根がなくてもイオンを吸収する種も存在するため、浮遊植物の根には、生存に不可欠な他の役割があるのではないかと考えられる。したがって、私は根の役割として、同化器官の転覆防止を仮設とした。浮遊植物は同化器官を地上に出しているが、波などによって葉の表裏が変わってしまっては生存に関わる。そのため、根が重しのような役割を果たし葉の上下を保っていると考える。この仮説を検証するため、飼育しているコウキクサを用いた。。コウキクサは数ミリの葉から葉と同じ長さほどの根が一本伸びているという単純構造の浮遊植物であるが、飼育下では葉が裏返っているのを見たことがない。今回は数個体根の先を短くしていき、その都度波を起こしたり一度沈めてから浮かべるなど撹乱し、表裏がどうなるか観察した。結果は、やはり根が比較的長いうちは根は常に表を向き、根がほぼ無くなると裏返る頻度も増加した。
 この観察結果は仮説が正しい可能性を示唆するものである。また今回用いた根は重しとなるには小さく軽すぎる点や、そもそも根はイオンを吸収するため親水性も持つと考えられることから、詳細には根が以下のように働いていると結論づけた。葉の表面は疎水性、葉の裏面と根は親水性を持っており、これによって通常葉の表裏の向きは保たれる。仮に葉が裏返った場合、根があることで葉はバランスが悪く左右に振れ、根が水に触れた瞬間に各器官の疎水性・親水性によって葉が再び裏返えり、元に戻る。勿論コウキクサの挙動を観察しただけであるため、実際に物性がどこまで寄与しているか議論の余地はあるが、私が考える浮遊植物の根の役割は以上である。

A:よく考えていますし、仮説を自分の実験で試してみる姿勢は大したものです。このレポートを載せると、このようなレポートを書かなくてはいけないという誤解を招きそうで躊躇したのですが、まあ載せることにしました。一応、注釈をつければ、ここまで実験をしなければレポートを書けないわけでは全くありませんので。


Q:私たちが普段食べているダイコンの部分は,胚軸と根から構成されることを授業で習った。この機能の違いと味の違いの関連を考察した。一般的にダイコンは葉に近い部分から先の方にいくほど辛いといわれる。まず,これがなぜかを考えた。調べるとこの辛み成分はグルコシノレートがミロシナーゼという酵素に分解されたときに生成するイソチオシアネートで,グルコシノレートとミロシナーゼはどちらも導管部分に分布するがお互いには離れていて,大根おろしなど調理過程で破壊されて触れたときにイソチオシアネートが生成するとのことだった。そして先の方が細く,相対的に導管の密度が高いため先の方が辛いと書かれていた[1]。これは先の方が辛い説明にはなっているが,葉に近い部分より中間部が辛い理由にはならないと感じた。なぜならダイコンの形状は,先は細いがあとは寸胴で,葉に近い部分と中間部では太さはあまり変化しないため,辛味成分の密度の違いにつながるとは考えられないからである。ここで,ダイコンは何のために辛味成分を生成するのか考えた。虫から守るためであれば導管部ではなく表面に配置した方が効率的であるし,どちらも一緒に食べなければ効果がないのでは非効率的である。よって,虫に忌避させる役割以外にこの2成分のもつ役割があると考えた。調べると,グルコシノレートに硫黄貯蔵の役割があることがわかった[2]。このことから,根の部分では貯蔵が主な役割であるためにグルコシノレートが多く,光合成も担う胚軸部分では,根の部分よりグルコシノレートが少ないのではないかと考えた。つまり胚軸と根の機能の違いが葉に近い部分と中間部の辛さの差を生み出しているのではないかと考えた。地上部を切断して根が緑化したときに,グルコシノレートの分布はどうなるのか調べてみたい。
[1] 日本植物生理学会,みんなのひろば 植物Q&A ダイコンの辛さ,2013、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2985 (最終閲覧日2020/6/27)
[2] Fayezeh Aarabi et al.,Sulfur deficiency-induced repressor proteins optimize glucosinolate biosynthesis in plants, Science Advances, 10.1126

A:「葉に近い部分より中間部が辛い理由にはならない」と考えた点が素晴らしいですね。一つ調べてそれに合う部分だけを考察しておしまいにせずに、更に考察した点が評価できます。


Q:根の役割の1つ「連絡」があり、これの例として根で繋がっている遺伝的に同一な植物体、クローナル植物が挙げられた。これは複数のラメートが根によって連絡することでジェネートを形成しているというものである。クローナル植物についてネット上で検索したところ、ラメートが地下茎や匍匐茎・枝によって繋がっている、という記述が多く、根によって繋がっている例を見つけることができなかった(情報源がインターネットのみのため検索不足です。すみません)。ここでジェネートを形成している植物における根の役割を検討してみた。植物は「①分業化による効率的な資源獲得(仲間と協力する)、②環境変化に応答するための備え(仲間とチャンスをうかがう)、③不適な環境での再生(仲間を助ける)」[i]のためにジェネートを形成する。具体的には地下茎(あるいは根)を用いて資源を転流することでこれを行う。根の役割として水分・イオンの吸収、貯蔵、植物体の固定がある。これに加えてジェネートの場合は「連絡」という役割を担っているが、「連絡」という観点に立った場合、茎の方がこれに適しているのではないかと考えた。例えば世代の経過に伴って水量に応じて匍匐茎の導管面積が増加し、資源輸送効率が向上したという研究[ii]がある。これに対して根の場合は土壌環境に適応する際、本来の役割を達成するために導管面積を増やすことよりも、例えば根毛を多く出す方向に適応が進むのではないか。また根には水分屈性があるが、連絡している根において水分屈性が働かないようコントロールすることは難しいのではないかと思った。この場合ジェネートの連絡に根を用いることのメリットとしては植物体の固定のみが挙げられる。授業では根がラメート同士を連絡している、とあったが根には水分・養分の吸収という茎には行うことができない役割がある。例えば連絡している根が切断してしまった場合、そのラメートは他個体との連絡と同時に、自身の供給源(の一部)まで失うことになる。この場合、連絡組織と自身の供給源を別にしておくことは生存の確率を高めるのではないか。よって多くの植物においてラメート同士を連絡しているのは根ではなく、地下茎ではないかと考えた。
[i] 岡浩平、「クローナル植物に学ぶ人生術」、生物工学第91巻
[ii] 伊藤允他、「不均一な土壌資源分布下でのクローナル植物カキドオシの匍匐枝維管束の解剖学的解析」、日本生態学会第67回全国大会講演要旨 https://www.esj.ne.jp/meeting/abst/67/P1-PC-339.html (6/27/20閲覧)

A:まさにその通りです。僕の説明ははなはだ安易でした。クローナる植物を「根」がつなげていると説明したのは間違いで、「地下部」とすべきところでした。お詫びして訂正します。


Q:講義の中で、静止中心と隣り合った細胞は幹細胞を維持し、離れるとコルメラ細胞に分化すると学んだ。そこで私は、静止中心が隣接した細胞にのみ作用するという機序を考えてみることにした。まず初めに考えたのは、静止中心の細胞とその周辺との原形質連絡である。原形質連絡では細胞間の輸送が行えるため、この経路でWOX5遺伝子がコードしているホメオドメイン転写因子(1)を輸送していると考えることができる。もう一つは、傍分泌による輸送である。これは単純に近くにいる細胞に向けて輸送しているという可能性で、リガンドが増えればコルメラ幹細胞も増えると考えられる。そこで改めてインターネットで調べてみたところ、シロイヌナズナのWOX5遺伝子の発現を広げた実験を見つけた。そのシロイヌナズナは、コルメラ幹細胞の層が多くなり、静止中心と隣接していない細胞も幹細胞になっていた(2)。このことから、静止中心が隣接した細胞にのみ作用するのは傍分泌によるものであると結論付けようとしたが、考え直してみると原形質連絡による輸送でも説明できるのではないかと思った。直接隣接した細胞でなくても、細胞分裂した後にホメオドメイン転写因子が残っていれば幹細胞を維持するからである。そこで、この輸送方法及び静止中心が隣接した細胞にのみ作用する機序を解明するために、細胞間隙にWOX5遺伝子がコードしているホメオドメイン転写因子が存在するかどうかを調べてみればよいのではないかと考えた。傍分泌であれば静止中心の細胞とその周辺との間にこのホメオドメイン転写因子があるはずだからである。
(1)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域. 根の先端で細胞増殖の鍵を握る遺伝子を発見. 閲覧日2020/06/26、https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=117
(2)同上

A:これも、細かいとことは置いておいても、一度考えた自分の仮説を、再度客観的に考え直しているところだけでも評価に値します。


Q:今回の授業では、植物の根について学習した。私の自宅では、中学生のころからヌマエビや熱帯魚をいくつかの水槽で飼育しており、水草としてマツモやオオカナダモを、底砂に植付けずに、水中に浮遊させた状態で入れている。今回はこのオオカナダモの根で観察される事象から考察を行った。オオカナダモは、茎の途中に節のような部位が存在しており、その「節」から脇芽が生じ、その脇芽から新たな茎が生じる。また、その「節」からは新たな茎だけでなく、根も生えてくる場合もある。このオオカナダモの根について、オオカナダモの根はそれぞれの「節」から1本ずつ生えるのではなく、1か所の「節」から多くの根が生えていることが多い。また、生え方に関して、「節」から同時に多数の根が生えてくるのではなく、一本の根が生えてくると、次々と後を追うように新たな根がその「節」から生えてくる。これらの観察結果から、「節」には幹細胞が存在しており、通常は脇芽の細胞に分化しているが、何らかの刺激を受容すると、その「節」の幹細胞が根の細胞にも分化するのではないかと考えられる。次に、この幹細胞を脇芽ではなく、根に分化させる刺激は何なのか、私の水槽で観察される事象から考察した。私の水槽には、オオカナダモや他の水草の成長具合から、貧栄養状態だろうと推測される水槽と、十分な栄養が含まれる状態だろうと推測される水槽が存在する。これらの両方の水槽にそれぞれオオカナダモを入れて育てているのだが、栄養が十分に多い水槽のオオカナダモよりも貧栄養の水槽のオオカナダモの方が、多くの「節」から根が生えていることが観察される。この観察結果から、オオカナダモの根を分化させる刺激は、水中の貧栄養状態であり、オオカナダモは通常は葉などから水中の栄養を吸収しているが、貧栄養環境下に置かれると、水中の栄養だけでは、成長に必要な量の栄養を賄えなくなるため、根を形成することで、土壌中の栄養分も吸収できるようにしているのだと考えられる。
 ところで、オオカナダモの根は、「節」から生えてきた後、他の植物同様に、重力に従って垂直方向に伸びていき、根が底砂に到達するとその中に潜り込む。この時、底砂に向かって伸びている根は、白色の円柱状であり、根毛などは一切確認されないのだが、底砂に入り込んだ根を掘り出してみると、底砂に埋まっていた部分にびっしりと白色の根毛が生じていた。つまり、オオカナダモの根は水中においては根毛を形成せず、地中に潜って初めて根毛を形成するということが分かる。この観察結果から、オオカナダモの根は、地中に到達すると、底砂による圧力的な刺激などにより、根の細胞が地中に到達したことを感知することで、土壌中の栄養分を効率的に吸収するために、根毛を形成するのだろうと考えられる。

A:これも、自分の観察に基づいて綿密に考察していて素晴らしいですね。「節」の話と、「根毛」の話は、ほぼ独立ですので、この講義のレポートとしてはどちらかだけでも十分です。


Q:今回の講義を通して、支柱根や板根などに代表されるように根には植物体を支持する役割もあることを学んだ。その中でも特にアルジェリアに生息する、10cm ほどの高さしかないZygophyllum albumの根が150 cm以上にも広がっているという話を聞き、10 cmの草本を際行くさせるのに十分なほどの栄養を吸収するのには根の分布が広すぎるように感じた。今回は「根の広がりがどの程度あれば植物体を支えるのに十分なのか」を計算し、Zygophyllum albumの根が広範囲に広がっている意味を考える。ビルなどの建造物が、風などの転倒モーメントに対して耐えうる(倒壊したり転倒したりしないこと)構造を持つための抵抗モーメントを計算するのを転倒計算というが、これを植物体に当てはめて計算してみた。実際には土壌の状態や、投影面積などを正しく計算することはかなり難しく、精密な計算は行えることができないが、誤差範囲を0.1倍から10倍のオーダーの概算だったら行えるのではないかと考えた(ここでは一旦この計算に意味があるのかどうかは置いておく)。植物体の概形をTを立体的にし上下逆さにしたものとし、高さ45 cm,茎の直径1 cm,断面は円、風速は30 m/s,空気密度を1.1 kg/m3とした。転倒モーメント=(風速)2 x 空気密度 x形状係数i x 0.5 x 荷重中心の高さで求め、抵抗 モーメント= 植物体の重さ x 底面幅(根の分布の広さ) x 0.5で求めることができ、転倒モーメントが抵抗モーメントを超えないための根の幅を求めれば良い。計算した結果、根の幅が2.72 mあれば風速 30 m/sの強風でも植物体の根がひっくり返って転倒しないとなった。この計算結果からも10 cm程度の草本の根の分布の幅が1.5 m以上に広がるということに納得がいく。この計算結果からも植物の根の広がりは、栄養の吸収という観点からだけでなく、植物体の支持にも強く寄与しているのではないかと考えられる。
i,THE ENGINEER'S BOOK,各種断面の塑性断面係数Zp、形状係数f,http://ebw.eng-book.com/heishin/vfs/book/15/PlasticSectionAndShapeModulus/

A:科学的な思考にあたって、近似は重要な手段です。このようにオーダーがあっているかどうか、という考え方は貴重だと思います。この計算が現実に即しているかどうかは別問題ですが。


Q:根からの水分等の吸収には根毛が重要な役割を担っており、樹木の太い根は吸収にあまりかかわっていないと学んだ。しかし私は植物の水分吸収においてより重要なのは太い根の方ではないかと考える。確かに根毛を持てば、根の表皮の面積が広がり、より小さい土壌孔隙からの水分吸収が可能になると考えられる。このようにシンプラスト経路で水分吸収をする植物にとっては、根毛を持つことで水分を得やすくなるという利点があると考えられる。しかし実際には、樹木の多くは菌根菌との共生関係にある。菌根菌が樹木の太い根の周り(または内部)に菌糸を伸ばし、樹木の根に水分やその他の栄養分を与え、代わりに根から有機物を受け取っている。根毛の太さが約10 μmであるのに対し菌糸の太さは約 5 μmとさらに細く、菌糸の方がより小さい土壌孔隙から水分を吸収できると考えられる(1)(2)。また菌根菌は細胞死が起こった後の細胞も水分を得るための管として使いながら、広範囲に菌糸を広げていく。つまり、根の根毛よりも菌糸の方が細く、広範囲に広がるため、はるかに吸収できる水分量が多いと考えられる。加えて、植物が自ら根毛を使ってシンプラスト経路の水分吸収をする場合には、根の内部の細胞同士の浸透圧差を作らなければならず、そのためにエネルギーを使ってイオンの能動輸送を絶えず行う必要があると考えられる(3)。それに対し、菌根菌と共生している場合植物は、菌糸に有機物を与える必要がある。植物にとって有機物は、光合成によって自ら作り出すことのできる物質であり、十分に光合成できる環境の植物では「有り余る物質」であると考えられる。対して無機イオンは、外部から取り込まなければならない「貴重な物質」であると考えられる。そのため植物体内で限りのあるイオンなどを根の細胞に集中させて浸透圧で水分を得るよりも、菌根菌に有機物を与える代わりに水分をもらう方が効率が良いと考えられる。したがって、根毛を広げて細胞ごとの浸透圧差を作り根からの水分吸収をするよりも、太い根の部分で菌根菌と共生し、菌糸から供給される水分や養分を吸収する方が植物にとって合理的であり、実際に樹木がより多くの水分を得ている方法なのではないかと考える。
参考文献
(1)「根の内部構造」Botany WEB、https://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/root2.html (参照2020-06-25)
(2)一般社団法人 日本植物生理学会 「菌根菌の菌糸は目視できるか」みんなの広場 植物Q&A https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4320&key=&target= (参照2020-06-25)
(3)吉里勝利 阿形清和 倉谷滋 筒井和義 三村徹郎 『スクエア最新図説生物neo』 第一学習社 2013年 P.234

A:講義の内容をうのみにしないで自分で考えている姿勢が素晴らしいと思います。菌根菌については、次々回の講義で取り扱います。


Q:野生のサボテンの根と比べ、家で栽培しているサボテンの根は一本一本がサボテンの体積に対して太く、本数は少ない。以前メキシコに滞在したころに砂漠で観察した高さ1mほどの野生のサボテンの根はサボテンの体積に対して一本一本が細く、生い茂るように大量の根が生えていたが、家で栽培している高さ10㎝程のサボテンからは根が数本しか生えてきておらず、その分それぞれが太くなっている。このような違いが生じる原因として以下の理由が考えられる。一つ目は日本とメキシコの気候の差によるものである。日本の気候は湿度が高く、砂漠はとても乾燥している。植物にとって重要なことは生きていくための水分を確保することであるが、家のサボテンは私が大切に世話をしているため、何も苦労せずに一定の水分量が与えられている。対して砂漠に生きるサボテンはそうはいかず、雨が降ることも少ないため地中の水分をできる限り蓄えなければならず、表面積を増やすために一本一本が細く大量のひげ根を生やしていると考えられる。2つ目の理由は物理的強度を増すためである。家のサボテンは野生のサボテンと比較して樹高は低く、それが植わっている土はある程度湿っている。そのため野生のサボテンと比較して根を張り巡らせず全身を支えるためにかけるコストを削減することができる。一方で野生のサボテンは高い樹高を支えるためにより多くの根を張り巡らせる必要がある。また、乾燥している土地に植わっているため土壌が固く太い根をのばしていくことよりも小さな隙間を見つけ根をのばしていくほうが容易なのではないかと考えられる。これらを踏まえて、サボテンは根をのばすとき、太い根を持つ能力も細く大量の根を持つ能力も持ち合わせているが何らかの調節機構により自らの生きる環境に合わせて形態を変化させていると言える。

A:考え方は面白くてよいですね。ただ、比較する2つのサボテンが、複数の点で異なっているので、実際には一つの結論に終息させるのは難しいように思います。科学的な実験や思考においては、複数の因子を同時に変化させるのを避けるのが楽な道です。


Q:コケ植物は植物全体で水を吸収しているため根は主に植物体固定の役割を担うという話から、チランジアの根に似ていると思いついた。チランジアは乾燥した砂漠地帯や湿潤な熱帯雨林に生息する陸上植物で、葉や茎から空気中の水を吸収するため根(気根)は水吸収機能を果たさず、主に植物体を樹木などに固定する役割をもつ(1)。陸上植物であるにも関わらず、水吸収を行わない根を持つようになった要因を砂漠と熱帯雨林のそれぞれで考えてみる。まず砂漠について考える。砂漠では昼と夜の寒暖差を利用した結果だと推測した。乾燥した砂漠で水を得るために昼夜の寒暖差でできる結露を利用すると仮定すると、水を吸収する器官が積極的に外気の温度変化にさらされる必要がある。また乾燥した土からの水吸収は見込めないため、水吸収を地上部の器官で行い根は植物体を固定する機能のみに特化したと推測した。チランジアと同じCAM植物であるサボテンについて、リンゴ酸の蓄積によって浸透圧が上昇し、維管束の周囲の細胞が水を引き込むことで維管束を逆流する方向に水吸収が行われるのではないかという考察かあったため(2)、チランジアでも同様の考察ができるのではと考えた。これを実証するためには、チランジアに葉や茎から色水を吸わせて拡散する方向を見ることで予測が立てられると思う。次に、熱帯雨林について考える。熱帯雨林に生息するチランジアはトリコームと呼ばれる微細な毛を多く持っているため、熱帯多雨林の湿潤な空気からの水吸収は十分に行えそうである。しかし根の吸収機能を失う要因にはならない。そこで多種との競争を考えた。熱帯多雨林では植物種が豊かであり、チランジアのような小さな植物は林冠を覆われ光合成に不利になってしまう。そのため、根をのばしで樹木を這い上がり光合成に有利な環境を獲得していると考えられる。樹木の表面は乾燥していて水吸収が行えないため、根が植物体の固定に特化し、葉や茎で吸収を行うようになったと推測できる。
(1)a tropical garden, https://a-t-g.jp/tillandsia-3503, (2020年6月26日参照)
(2)サボテンの水吸収の工夫,https://science-edu.net/student-study/echinocactus, 研究アイデアを見つける方法, (2020年6月26日参照)、(参考文献(2)の方のポスター発表を実際に見に行き、サボテンの維管束の様子をよく観察していたのが印象的だったため思い出して参照しました。余談です。)

A:これはこれで非常によく考えていてよいと思うのですが、2つの生育条件を対比して考えさせた場合、それを合わせて考えるとより深い考察に結びつく場合が多いので、そのような展開を期待していました。別々に議論するだけであれば、片方だけでも、この講義のレポートとしては十分です。


Q:田んぼによく発生する雑草に、コナギやヒエがある。どちらも水田に発生することから、沼地や水の張られた土壌で生息するのだが、コナギは代かきの回数を増やすと増えるのに対し、ヒエは代かきの回数を増やすと減るという経験則がある。これは、代かきを行うと土をかき混ぜるのと同時に冬場の水を張っていない時期に入り込んだ空気を抜けることが関係しているとのことだった。コナギは発芽時に酸素は不要だが、ヒエは酸素が必要なのでこのような結果となる。さらに、コナギは代かきを行うと種子が浮いて土壌が落ち着くまで浮遊しているとのことだった(1)。
 さて、コナギの根とヒエの根を比較すると、コナギの根は稲の根よりも浅く、ヒエの根はかなり深くまで伸びる。そのため、比較的大規模な土壌攪拌が生育中に起こった時、コナギは水に流される可能性が考えられる。また、コナギの葉は1枚が広いのに対し、ヒエの根は稲と同じく細長い。もし洪水などにより増水し強い水流にさらされると、コナギの葉が受ける水圧はヒエより大きくなり、傷害を受ける可能性が高くなる。しかし、もし根が土壌から離れれば、流されるときに葉が浮くことが期待できる。このことから、コナギは浮草から変化して土壌中に根を張るようになったものであり、ヒエは稲と同様陸上に生える植物から変化したのではないかと考えられる。また、水田では、代かきの回数を多めに行い、稲作を行っている間強めの水流を作っておけばコナギやヒエによる稲の生育阻害を最低限に抑えられるのではないかと考えられる。しかし、水流による稲への影響は未知数であり、これによって水中の酸素濃度に変化が生まれてヒエが生える可能性は否定できない。また、ほかの雑草についてどのような効果を与えるかも実際に行ってみない限りわからない。

A:コナギとヒエの代掻きに対する応答というのは全く知りませんでした。植物生理学的にみて案外面白い題材かもしれませんね。