植物生理学I 第4回講義
植物の茎とその形、茎の肥大成長と植物の進化
第4回の講義では、裸子植物において形成層を獲得することにより肥大成長をする能力を得た植物が、再び形成層を失っていく進化の道筋を中心に講義を進めました。以下に、質問とそれに対する回答を掲載し(この部分はMoodleと重複します)、また10のレポートをピックアップしてそれに対してコメントすることにより、この講義ではどのようなレポートを求めているのかを示したいと思います。なお、今回、(僕の目から見た)レポートの平均的なレベルは格段にアップしました。多くの皆さんが十分に考えてレポートを書いているのが伝わってきました。レポートの多くで、事実関係は調べた結果に基づいていても、論理は自分の考えになっている点をうれしく思いました。ただし、70名以上受講者がいるので仕方ないとは思いますが、同じ話題がいろいろな人から取り上げられていました。話題は同じでもよいのですが、その「自分の考え」の部分は、なるべき人と異なる独創的なものにするように努力してみてください。
講義に対する質問と回答
Q:講義の中で「ポプラの木の材では呼吸をしている細胞は8%しかない」という話が出ました。その件について木ではなく植物の茎では呼吸をしている細胞の割合はどのくらいなのか気になりました。前に調べたところ、木には厚壁細胞という言わば死んだ細胞が存在しているのに対し、植物の茎には繊維細胞や厚角細胞が多いという検索結果が出てきたので、植物の茎ではほぼ全ての細胞が呼吸しているのだろうと予想しているのですが実際のところどうなのでしょうか。
A:結論から言うと、予想の通りと言ってよいと思います。ただし、多年草の古い部分などはかなり木質化しているのが見られる場合がありますから、程度問題という考え方もできます。その場合でも、樹木と草本で比べたら、生細胞の割合は、圧倒的に草本で多いでしょう。
提出されたレポートのうち10の例とそれに対するコメント
Q:今回の講義を受け、真っ先に思いついたのはつる植物の茎である。小学生の頃朝顔を育てていたが、その茎は同じ背丈の植物に比べるとかなり細く、支柱に巻き付いて育っており、自立していなかった。自然界において、つる植物が樹木なしでは自立できなければ場所を選ぶことになる。さらに、細長い茎で植物体に十分な水を吸い上げるのは困難であると思う。このように、一見デメリットが多いように感じられるため、それを超えてまでこの形態になったメリットを考察する。目を付けたのは、講義に出てきた「茎の長さのトレードオフ」の2つのグラフである。通常、光を獲得しようと茎を長くするとより太くする必要があるため、葉のバイオマスの割合が低下するとの内容であった。さらに、茎を太く成長させるには資源を使用することになる。しかし、つる植物の場合長さのわりに細い茎を持つ。そのため、資源を使うコストを抑えられる他、地上部に占める葉のバイオマスも、講義内のグラフに比べて少なくならないと考えた。これにより、葉の光合成生産を高くするために茎を長くしても、葉のバイオマスの割合も大幅に減らさずに済むため、コストを抑えながら光合成生産を高めた効率のより生存略なのではないかと推察した。しかし、樹木に依存しているため、樹木が倒れれば共倒れになってしまうリスクがある。上記のメリットがこのリスクを上回っていると仮定すれば、つる植物は巻き付く樹木よりも世代交代のスピードが速く、リスクはそれほど重要ではない可能性が示唆される。また、水の吸い上げが困難であるという懸念に関しては、茎の細さに対し道管の直径を太くすることで解消している可能性が考えられた。これを確かめるためには、様々な植物とつる植物の茎の断面を観察し、道管の直径/茎の直径の比を比較すれば良いのではないだろうか。
A:トレードオフの概念をしっかり中心に据えることで、論理がわかりやすくなっていますね。よい論理展開だと思います。
Q:今回の講義「植物の茎とその形」の最後に、丸いではない茎の形が紹介され、その機能についてもっと深く考察したいと思う。角のある茎は、曲げを防ぐ以外その断面積の違いにおいて、維管束の密度と輸送効率に影響するかという疑問を持っている。まず、茎の断面は三角形であるカヤツリグサと断面は四角形であるシソ科植物の維管束観察例から見ると、シソ科植物オドリコソウの茎の外見は四角形に見えるが中空構造を持ち、維管束は四隅と各辺の中央に集まっている。繊維細胞や厚角細胞が周辺部に集中して茎の強さを支え、モーメントが大きい四角形断面とともに風を対応するための形と考えられるが、曲がらないので強い風により折れる危険がある。しかし大分のシソ科植物は草本植物、高さは平均10~30㎝の低くで、強風を受ける可能性が低い。カヤツリグサの断面は三角形であり、それはシソ科植物と同じように風を対応するための形と推定できるが、オドリコソウとは違いカヤツリグサの維管束は茎の中心部に集まっている。その形で維管束と隅の細胞の間に距離があり、水と栄養物を送りにくいではないかと思う。続けて調べるとカヤツリグサ科に湿地性と水中生活する植物が多い、水分が豊かな環境しか生存しないから水分不足の心配がなく、三角形の茎は風と水流の力を対処するだけでよいと考えられる。
A:オドリコソウとカヤツリグサの茎の形態を比較することによって、角の有無だけではなく、三角の茎の意義を考察している点が評価できます。ただ、「カヤツリグサ科に湿地性と水中生活する植物が多い」といったざっくりとした記述は、どの程度定量的な裏付けがあるのかが重要なので、調べた結果なのであれば、きちんと出典をつけたほうがよいでしょう。
Q:「茎の肥大成長と植物の進化」の講義の中で出てきた材の半径と蒸散流量のグラフにおいて、イチジク属とフタバガキ属では他の種属と比較して明らかに幅広く通導部分が分布していた。通導部分が多く分布するのであれば、水の流量も多くなると考えられる。このような特徴をもつイチジク属とフタバガキ属には何らかの共通点があるのではないかと考え、それぞれの生育環境に着目してみると、イチジク属は熱帯や亜熱帯で生育する。フタバガキ属は熱帯雨林で生育し、大木に成長しラワン材にされることで有名である。また、イチジク属もガジュマルやアコウのように高木となる種が多い。高木に成長するとより高い位置まで水分を輸送する必要がある。また、植物体自体が大きくなれば水の消費量も増えることが推察される。さらに、これらの種が生育する熱帯雨林や亜熱帯気候では降水量が多く、土壌中の水分量も多いと考えられる。以上の点から、水に恵まれた環境で高木に成長し、体内で大量の水分を輸送できるように通導部分が幅広く分布しているのではないかと考える。グラフで他に示されていた植物種を見てみるとポプラ属はフタバガキ属ほどの大木には育たず、また地中海気候の土地で栽培されるオリーブのように比較的乾燥した地域で生育する種が含まれることからも、イチジク属とフタバガキ属の通導部分は降水量の多い地域で高木に成長することへの適応なのではないかと考える。
A:講義の中で紹介したデータと植物の特徴を合わせて考えることによって、データの違いの生理学的背景を推測している点が評価できます。
Q:今回の授業においては、植物の茎とその形を学習した。特徴的な茎を持つ植物として「つる植物」が挙げられる。そもそもつる植物のつるは植物体を保持することを目的としていると思われるが、単に植物体を保持するだけならば、他の植物と同様に茎を太くすればよいのではないか。そのため、つるを展開することによるメリットとデメリットについて本授業で学習した3要因の観点から考えてみた。まず、メリットについて、つる植物のつるは植物体の保持を目的としているため、つる植物のつるを他の植物に絡みつければ、太い茎・幹を形成するよりも少ない資源で十分な力学的安定性を得られる点が挙げられる。デメリットとして、植物の密度が高い場所においては、植物体同士が密接になるため、受光効率は低下する点が挙げられる。また、そもそも自重を支えきれるほどの茎を持っていないため、植物の密度が低い場所だと植物体の力学的安定性は低下し、仮に風散布種子を持つ植物種の場合であれば、種子を広域に散布することも難しくなり繁殖効率も低下するという点も挙げられる。これらの考察から主に受光効率および力学的安定性、一部の種においてはさらに繁殖効率の要因が全て周囲の植物の密度に依存しているため、適度に植物が繁茂している環境でしか限定的に生育できないという点もデメリットとして挙げられる。
一見、デメリットの方が多い様に感じられるが、現在、つる植物が存在しているということは、つるを持つことによるメリットがデメリットよりも大きいと考えられる。そのため、つる植物のうち、ウツボカズラを例につるを持つことによるメリットがデメリットよりも大きいということについて考える。つる植物であり、食虫植物でもあるウツボカズラは熱帯雨林に生息しているが、この植物は消化液の入った大きな捕虫袋を持っており、この捕虫袋を自身の茎だけで支えるには多くの資源を茎の肥大に回す必要がある。もともと熱帯雨林は植物の密度が高いため、つるの有無にかかわらず、太い茎・幹を持たない植物は常に受光効率および繁殖効率が高くない。そのため、これらの観点の周囲の植物との競争は、他の環境より激化しにくく、それらを巡る競争に資源を割かなくても生育出来ると考えられる。また、前述したように熱帯雨林では確実につるを他の植物に絡みつけることができるため、少ない資源で十分な力学的安定性を得ることが出来る。つまり、元々受光効率と繁殖効率が高くない熱帯雨林において、ウツボカズラはつるを持つことで、少ない資源で力学的安定性を維持でき、つるを持つことによるメリットがデメリットよりも大きいということが言える。
A:つる植物のメリットとデメリットを論じたレポートは他にもたくさんありましたが、食虫植物との組み合わせ方が面白いと思いました。ただし、最後に食虫植物以外のつる植物をどのように考えるのかについて、一言あったほうがよいでしょうね。
Q:講義中タンポポの茎の形態より「茎を作ったから通導の機能を持たせたのであって通導のために茎を作ったのではない」、という話があった。確かに茎の目的が高さを得ることであることはわかるが、通導は二次的に付加された機能ではなく、むしろ高さと同様に必要な機能ではないかと考えた。植物の分子系統図においてシダ植物はタンポポ(真正双子葉植物)よりも上流に位置するシダ植物は地下茎を持つ。シダ植物に着目して茎形成の理由を考えた。シダ植物の祖先は古生代ペルム紀に「維管束の原型のようなものも発達し(中略)水分吸収の効率も大きくなり、より高く成長することができるようになった。」[i]維管束の原型が発達した理由が未発達な根の役割を補うものであるならばこの時期の植物が「通導」の役割を担う器官を求めていたことになるのではないか。また現代のシダ植物(マツバラン科)を用いた研究では「地上茎は最初から地上茎として分岐していたのではなく、地下茎の側枝として形成されたのちに、地上茎への転換が起こった」[ii]こと、また「地上茎が地下茎に転換することも知られている。」[iii]ことから「地下茎と地上茎の転換は可逆的であり、(中略)分化はあまり進んでいないと言える。」[iv]という報告がされている。茎が高さを得るために獲得された器官であるならば、地上茎の形成は通導の役割を担っていた地下茎とは別に発達しているはずではないのか。また分化があまり進んでいないことからも現代の植物においても通導という役割が重要視されている(分化の過程で淘汰されていないと評価できるのではないか)と判断した。
以上より「茎を作ったから通導の機能を持たせたのであって通導のために茎を作ったのではない」よりも「通導のために茎を作り(地下茎)、それが長く伸び地上部に出た時に地上茎に転換した。その際に「高さ」という新たな目的が茎に付与された」が正しいのではないかと考えた。
[i] https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57728?page=2「わらび餅と石炭、古生代が生んだ「黒い貴重品」」Japan Business Press
[ii] 今市涼子、「根の起源と下等維管束植物の体制」、『根の研究』1992年1巻4号p6-10(1992)
[iii] Bierhorst,D.W., "Systematic changes in the shoot apex of Psilotum.", Bull. Torrey Bot. Club85:231-241(1958)
[iv] 今市涼子、「根の起源と下等維管束植物の体制」、『根の研究』1992年1巻4号p6-10(1992)
A:講義で話したことをうのみにしないで、批判的に論じているという点で、高く評価できます。ただし、引用は、元の記述を変えずに表記する必要があります。この場合、[iii]は、あくまで今市さんの論文の中で紹介された記述でしょうから、元論文は参考文献として挙げるにとどめて、直接の引用は今市さんの論文を挙げます。
Q:つる植物のアサガオでは、茎を支柱に巻き付けて上に成長していく。アサガオは普段から回旋運動をしており、支柱に触れるとその支柱に巻き付いていく。実験的に、支柱を取り去ってしまうと頂芽の代わりに側芽が成長していく。しかし、アサガオの茎を筒で囲んで、茎は支えられているが巻き付くものがない状態にすると、ある程度は上に伸長していくが、正常に成長できなくなることが分かっている。なぜある程度上に伸長できて、光を受けることができていても、巻き付けないと成長が止まってしまうのか疑問に思った。この実験から、実験では支えがあったため上に伸長できたが、自然の中で、支柱に巻き付けない状態(まっすぐ伸長する状態)というのは、必ずしも上に伸長できるわけではなく、効率的に光を得ることができないため、伸長が停止したと考えられる。つまり、光を得られていたとしても、支柱に巻き付けていないことの方がアサガオにとって重要なことなのだと考えた。巻き付くことがそれほど重要でなく、光を得らればいいのであれば、正常に成長するはずである。これは、機能的な問題(何かに巻き付けない時点で異常を感知して成長が止まってしまう)なのか目的の問題(何かに巻き付けていないということは生存に不利になる可能性があると察知した)なのかだと考えられる。自分が考えた仮説としては、正常なアサガオの頂芽が支柱から外れて下を向いてしまった場合、側芽が代わりに成長するわけだが、この実験では支柱に巻き付けていないものの、一番上を向いているのは頂芽であるため、何とか頂芽が支柱に巻き付こうと成長を続けた。しかし、アサガオには支柱に巻き付いて上に登っていくという性質が備わっているため、巻き付く支柱を感知できない状態では、接触などの、茎の伸長成長に対しての正常なシグナルを送ることができず、最終的には伸長が止まってしまうということを考えた。
(1) 和田 清俊. アサガオのつるの巻き方.アサガオの生理学. 2005-03-02.https://www.sc.niigata-u.ac.jp/biologyindex/wada/index2.html
A:面白い話題を見つけて、それを題材にレポートを展開していてよいと思います。ただ、途中で自分でも書いている「目的」と「機能的な制限」の問題を、もう少し整理して書くとすっきりした論理構成になると思います。生物の進化を考える上で重要な点は、自然界であり得ない環境を作ると、「目的」と「機能的な制限」が齟齬をきたす場合があることです。
Q:単子葉植物の茎を観察しようと思い冷蔵庫をのぞくとタケノコの水煮があった。そこでタケの生態について調べたうえで観察してみた。タケノコの中心部のひだは成長すると節になる部分であるが、このひだのちょうど外側の円周に白い粒が底面と平行に何列も並んでいる。この白い粒の正体は,煮た際に染み出てきたチロシンが変性してできたものであると袋に記載されていた。つまりこの観察から,節になる部分の周囲にチロシンが多く存在することが推定される。チロシンはイネ科の植物がリグニンの生合成を行う際に必要となることがわかっていて,リグニンは細胞壁の主成分である[1]。よってタケは節の周りを強固にしているのではないかと仮説が立てられる。なぜ節の周りを強固にすべきなのだろうか。単子葉植物であるタケは形質層を持たず,独自の成長方法で速い成長を可能にしていることが知られている。それは節ごとに分裂組織を持つというものである。ここで分裂が起きるときの1つの節と節の間の空間について考えてみる。節で区切られた状態というのは,空気が閉じ込められた状態である。節の分裂組織が節間の長さを伸ばしていくことは,空気を封じ込めたシリンダーのピストンを引くのと似ている。ピストンを引くとき,ピストンに戻ろうとする力が働くのと同じように,節間の長さが伸びることで閉じ込められた空気の圧力が下がり,収縮しようとして節を引っ張る力が働いているのではないだろうか。この空間がいくつも連なっているため,節には両側から引っ張る力が働いていて,これに耐えられるように節の周りを強固にする必要があったのではないかと考えた。この考え方が正しく,成長過程で節に両側から力が働いているなら,成長過程では節自身は弾力性を持った方が耐えられる。タケノコの節部分の弾力性と成長し終えたタケの節の弾力性を比較することで確かめてみたい。
[1]Hiroshi A. Maeda,(2016) Lignin biosynthesis:Tyrosine shortcut in grasses, Nature Plants , Published online 03 June 2016
A:意識したものなのかどうかはわかりませんが、最初の一文に漂うほのかなユーモアが、僕の好みにぴったりです。その後の展開も、論理が独創的でよいと思います。事実とはやや異なるかとは思いますが、この講義のレポートは、論理的に考えられていれば、それが事実かどうかは問いません。
Q:今回は茎の機能的意義について学習した。茎には植物の構造を支えるという重要な役割があるが、光獲得という観点から茎の機能的意義を考えると、茎に対する葉のつき方を表す葉序は不可欠な概念であると私は考える。植物ホルモンの中には光や重力に特異的に反応するものがあるが、単に茎の成長ということを考えると、このような物質の存在で簡単に理解はできる。しかしながら茎の成長に伴う葉の空間的な配置については、どのような機序で輪生や互生、対生といった対照的な配置を作り出すのか非常に不思議に思う。仮にも初めに偶然発現した複数の葉に重なりがなかったとしても、どうしてその後に発現した葉が非常に精巧な比率で葉同士の重なりを避けて行ったのかは、自然淘汰の過程で選択的に遺伝して行った結果と捉えざるを得ない。このことを踏まえると、茎による葉の空間配置そのものが植物が自然環境で生きていく中で進化してきた結果を顕著に表現していると私は考える。
A:面白い話題ですし、それらしく文章は進むのですが、話が抽象的なレベルにとどまっているのが残念です。もし、一定の空間配置が進化の過程で選択されてきたのであれば、異なる葉序には、異なる選択圧があるはずです。中学生でも、対生・互生といった葉序の違いは知っていると思いますので、そのようなぐらい例を選択圧と結び付けて考えると面白いレポートになるでしょう。
Q:ヒメジョオン (Erigeron annuus L.)とハルジオン (Erigeron philadelphicus L.) は外見がよく似ている植物である。この2つの植物を見分けるポイントの一つにハルジオンは茎が中空であるが、ヒメジョオンの茎には髄が詰まっていて、中空にはなっていないということがある。外見は似ているのになぜこのような大きな違いが茎に生じているのかということを検討したところ、これはヒメジョオンが1年生植物、ハルジオンが多年生植物であるということに起因しているのではないかと考えられた。茎は外から加わる力に対する抵抗力は断面の外側に近い部分で大きく、中央部分はあまり大きな抵抗力を発生していないため、同じ断面積の場合、中空の茎とそうでない茎では抵抗力の観点からはあまり違いがない(1)。すると、髄が存在している方が細胞を維持するコストが余分にかかるだけということになる。では髄にはどのような役割があるのかというと、水分や養分の保持である。ヒメジョオンは1年生であるから一度花をつけて種子を残すとその個体の一生が終わるため、植物がつくるエネルギーをこの1年間ですべて消費することができる。しかし多年生のハルジオンは数年間生存するために常にエネルギーを節約する必要がある。よって、エネルギーをふんだんに使うことのできるヒメジョオンは髄の維持にもエネルギーを割くことができ、髄を水分などの貯蔵の場として利用しているが、ハルジオンはなるべく無駄なエネルギーを使わないようにするために髄を失ったのだと考えられる。 (1) みんなのひろば 中空な植物についてhttps://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2282 (参照2020.6.4)
A:中空な茎の意味を考察するレポートは、この他にも多数ありましたが、一年生と多年生に結び付けてトレードオフを用いて説明している点が、高く評価できると思います。
Q:今回は主に茎に関する講義だった。茎の形状を考察する際はよく横断面が用いられるが、縦断面に関する考察は見たことがなかったため、縦断面における形態と機能を考察していこうと思う。まず、ホウセンカの茎における倍率7.5倍のサフラニン・ヘマトキシリン染色(NNP PHOTO LIBRARY, ホウセンカ 茎の縦断 / 写真素材・ストックフォト, https://www.nnp-photo.co.jp/products/detail.php?product_id=7496 参照 2020年6月6日)を見ると、最外側の表皮①は正方形近く比較的小さな細胞が一層並び、一つ内側の柔組織②は縦長の長方形細胞が4層並び、外側ほど細胞の横幅が小さくなっている。また、さらに内側の柔組織は、先ほどの細胞群の半分ほどの縦幅の長方形細胞が5層ほどならび、維管束細胞③は師管・導管の区別がつかないほど染色液で濃い赤紫に染まっている。なお、維管束周辺の形成層④は、正方形の比較的小さい細胞が一層ずつ並んでいる。加えて、中央部にある髄の細胞⑤はおよそ20層で、六角形で縦方向の部分のみ比較的濃く染色されていた。
次に、これらの形態から機能を考察していく。①は、最外部で一番外部刺激を受けやすいところである。仮に②のように大型の細胞の場合、外傷を受け細胞死した際に細胞が大きい分再生にエネルギーが必要であることから、細胞を小型化し細胞の入れ替えを効率化していると考える。②は、茎の横側への耐久性を上げるため縦長ではあるが、外側の細胞ほど①同様外傷を受けやすいことから、細胞死した際のエネルギーロスを防ぐために体積を減らしていると考える。また、最外層の②は①と横幅が同じであることから、①へ分化途中の細胞群の可能性もある。③は、特に濃く染色されていることから、サフラニンで染色するリグニンが多い細胞壁が多く、細胞壁は縦横に発達しているとわかる。これは、維管束細胞が植物の生命活動に必須であることから、細胞壁で強度を上げて物理的障害を防いでいると考えられる。④は、維管束の両側に見られることから、維管束細胞への分化途中で、小型で細胞数を上げることで、維管束細胞の入れ替わる部位や範囲に柔軟に応じることができると考えられる。⑤は、ハニカム構造であり、力学的強度と衝撃吸収力を上げている。さらに、縦方向の細胞壁を肥大化させることで、縦方向の強度を上げていると考えられる。1000字を超えてしまったため、以上とするが、植物細胞は3次元的に各細胞構造を工夫することで、より生存力を上げていることが示唆された。
A:一つ一つ考えた面白いレポートだと思います。これはこれでよいのですが、なんとなく合わせ技一本という感じですね。これだけしっかりと考えるのであれば、どれか一つの点に絞ってもう少し深く考察してもよかったかな、と思います。