植物生理学I 第6回講義

葉の斑入り

第6回の講義では、植物の葉の斑入り現象のいろいろを、ウイルス感染、活性酸素消去系、クロロフィル合成系などと絡めて解説しました。


Q:コノハミドリガイは動物にもかかわらず光合成をするが、動物が光合成をすることのデメリットを考えようと思う。というのも、光合成をすればエネルギーを自身で産生できるようになり、食事もとる必要がなくなるという生物にとって夢のような話なのにも関わらず、ほとんどの動物では光合成をしないからだ。第一のデメリットは光合成によって生まれるエネルギーが少ないことがあるだろう。実際、光合成ができる動物は比較的小さいサイズで、大型のものは現在発見されていない。第二に、維持コストが大きいことが考えられる。光合成でエネルギーを摂取することに特化した植物と違い、動物の場合は光合成器官に加えて消化器官も維持しなければいけないためコストが植物よりも大きくなってしまうためである。第三に、動物にとって光合成が害になる要素が多いためだろう。例として、光合成から生まれる活性酸素から身を守る必要があるためだ(文献1)。造礁性サンゴのように、植物を共生させて植物から栄養をもらう形なら活性酸素を気にする必要はないのだが。これらを考察するための実験としては、餌となる植物の特定部位を変異させ、動物への変化を観察する、といった地道な実験が必要になると考える。動物の光合成についてはわかっていないことが多いため、単純な実験一つではわからないだろう。
文献1:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/072400326/?P=3(2019/05/24)

A:いろいろ考えている点は評価できますが、もう少し前提を整理できるとよいでしょう。「第一」の理由は植物でも同じなので、動物ではダメな理由(移動のために消費エネルギーが大きい?)といったものをきちんと説明する必要があります。「第二」の理由も、「動物の場合は光合成器官に加えて消化器官も維持しなければいけない」とありますが、もし、光合成ですべてのエネルギーを獲得できるなら、消化器官はいらないはずです。それとも、硝化することを動物の定義の一つにしているのでしょうか。「第三」の理由も、活性酸素から身を守ることが、なぜ植物にはできて動物にはできないかの説明が不足しています。おそらく、何らかの自分なりの論理はあるのだと思いますが、それを他人にも理解できるようにレポートに盛り込む努力をしてください。


Q:講義では、ある林床植物が虫の食痕に擬態して白い模様を入れたり、ツバキの若い葉ではあまり葉緑体が発達したりない理由について、貴重なマグネシウムなどを使うためにコストの高い葉緑体を節約するためという説明がなされた。しかしながら、実際に存在する植物では数か月も生らない実にも「青い実」という言葉に表されるように緑の色、すなわちクロロフィルが存在すると考えられる。生ってからたいして時期も空けずに落ちる実にもクロロフィルが存在する理由について考えた。植物の果実に緑の色素がある理由について、まず考えたのは果実の由来からくる理由である。植物の実はエンドウやイネなど葉を起源として変化したとされるものが多い。そのため、植物の実がわざわざ青くなっているのではなく、もともと青かった器官が果実になったため最初は緑色に見えるものが多いのではないかと考えた。また、カボチャの実の「玉直し」から決して実の緑色が無駄ではないのではないかと考えた。畑でとれるカボチャの場合、実を均等に育てるために、実ができてから何度か日が当たる場所を変えなくてはならないのだが、このとき地面側の部分が緑ではなく白くなってしまっている様子がしばしば確認できる。今回の授業で扱っていた斑入りよりはもやしや白ウドに近いが、日が当たらない場所は白くなってしまっているのである。その一方で日が当たる場所では緑になるということはここでは光合成を行っているのではないかと考えられ、役割を持っているのならば決して無意味ではなく植物にとって何か意味があるのではないかと考えた。思えば、植物に限らず生物にとって重要なことの一つは種を存続させることである。実を緑にすることは、実が生っている間に必要なエネルギーを生み出すなどの利点があり、それは決して自然選択に不利に働くものではなかったのではないかと考えた。

A:最初に、おそらく葉緑体にとって一番重要な元素はマグネシウムではなく窒素です。もちろん、クロロフィルの中心金属はマグネシウムですので、葉緑体にとって必須な元素であることは間違いありませんが、土壌中の量を考えた時に一番不足するのは窒素でしょう。全体として考えていてよいと思いますが、もう少し論理の流れを明確にできるといいですね。考えていることをそのまま書いている感じですが、レポートにまとめる際には、それを一本筋の通った論理構成に再構築したいところです。


Q:本講義にて、若葉は貴重である葉緑体をあまり外敵に食べられないようにするため、葉緑体が少なく色が明るいと説明があった。このとき私は自宅の近所に昔から植えられているカナメモチを思い出した。カナメモチの葉っぱは基本的に緑だが、枝の先についている葉は赤いものが多い。この現象は本講義で触れられた若葉が明るいということと関係があるのだろうか。また、なにかしらのメリットがあるのか疑問に思った。カナメモチの赤い葉がどのように成長していくか観察したことはないが内側に生えている葉が緑であるので、じきに赤い葉も緑色に変化すると考える。では、若葉が赤い理由を自分は次のように考える。一つ目としては、若葉を赤クすることで外敵から身を守っているのではないかと考える。有毒な生物にも赤色がみられるように、若葉の赤も警告色としての役割があるのではないかと考える。二つ目は太陽光のUVなどから身を守っていると考える。紫外線はDNAなどにダメージを与える。若葉は成長した葉とは違い非常にセンシティブなため赤くすることで少しでも影響を和らげようとしているのではないかと考える。どちらの考察も若葉を守るためのもので、食べられてもいいように明るい色になっている植物とは逆のことをカナメモチは行っているのではないだろうか。

A:出だしの1文は今回の講義内容ですが、2文目以降は赤い葉の話なので、前回の講義内容ですね。今回の講義のレポートにするのであれば、カナメモチの葉にどの程度葉緑体があるか、などの点と絡めて議論する必要があるでしょう。


Q:第6回の講義では、葉の色について学び、若葉の色が何故薄いか、何故葉緑体が少ないかがわかった。そこでは、まだ柔らかく虫に食べられるのを防ぐほどのクチクラ層を発達させていない若葉に、生活に必須である葉緑体を多く詰めるのにはリスクが大きいからであると学んだ。それでは、若葉と成熟した葉の色の濃淡の差ではなく、種間の葉の色の濃淡の差はどう説明できるのか疑問に思った。例えば、早稲田大学にあるヤブツバキの葉とツツジの葉では、ヤブツバキの葉のほうが緑色が濃い。それは、生育する環境が関与していると考える。早稲田大学に生育しているヤブツバキの葉は、周りにヤブツバキの樹よりも大きい樹木に覆われていない場所にあった。しかしツツジの葉は周りに大きい樹木が生えていることが多かった。そのため障害物に光を遮られない植物種のほうが葉緑体が多く含まれていると考える。そう考えると、光を遮られない環境と遮られている環境におかれた同種の葉では色の濃さが違うのか、それともどのような環境に生育するかを把握して遺伝的に葉緑体の量は決定されているのか疑問に思った。これを確かめるには、光をさえぎられている環境とそうでない環境に置かれている多くの葉の葉緑体数を数え統計を行うことが有効であると考える。

A:これだけだったら、実際には、「葉緑体を数え統計を行う」代わりに、葉の色を比べてもある程度の結論は得られそうです。その場合、「これを確かめるためには」と言う代わりに、キャンパスで少し観察した結果から議論すると、非常に良いレポートになります


Q:今回の講義では若葉がまぶしい理由として、葉が未発達で食べられやすい段階でコストのかかる葉緑体を置いてておくとコストパファーマンス悪くなってしまうため、しっかりと硬くなってから葉緑体を置いているという話があったが、私はそもそも植物がそんなに器用なことができるのかと感じた。葉の硬さと葉緑体数はどのような関係性があるのか、ここでは2つの仮説を立てる。1つ目は授業中に挙げられたようにクチクラ層がある程度発達し、食害を受けにくいと判断したある時期から急激に葉緑体が増えるという説、2つ目はクチクラ層と葉緑体は時間の経過を認知し共に増加していくという説である。この2つの説を検証するにはクチクラ層を阻害する操作を加え、生育期間の違う葉を大量に集め、密度勾配遠心法を用い生育期間が同じ葉の葉緑体を抽出し、顕微鏡にて葉緑体数を数えるという方法が使えるのではないかと考えた。もし、葉緑体数が段階的に増えているのであれば後者が、増えなければ前者が正しいと言える。私はどちらの説が正しいかは前者であると予想するが捕食云々は関与しないと考えた。何を基準に葉緑体を増やすかというと葉の中心部にどれぐらい光が届くようになるかという点であると考えた。光が届きにくくなるということは葉の外側部分に強い壁のようなものができはじめているということになる。これこそが授業で挙げられた葉のセキュリティに当たる。光の感度ならば植物も感じ取ることができるだろう。よって捕食が怖いせいで葉緑体が少ないという考えではなく、光の感度からセキュリティの丈夫さを判断し葉緑体を増やしていると考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。ただ、クロロフィルは葉緑体以外には存在しませんから、いちいち葉緑体を数えなくても、中高のヨウ素デンプン反応の実験でやったように、葉からクロロフィルを抽出してその濃度を測定すれば、もっと簡単です。さらに言えば、葉そのものの分光的な特性を利用すれば、葉緑体やクロロフィルを抽出せずとも、同じ葉を使ってクロロフィル濃度を継続的に測定ができますから、よりしっかりとした解析ができます。


Q:Caladium steudneriifoliumの葉の斑が葉穿孔性のガの幼虫からの防御として食痕の擬態をなしているのではないかというお話があった。実際の論文では野生の斑入りの葉と斑無しの葉に白色塗料(修正液)でペイントして人工的に斑入りを模した葉で被食率に有意差が無く、斑が無い緑色の葉よりも被食率が低い事が示されていた。(1) 斑の存在が蛾(♀)に産卵場所として選択されない上で重要であるという主張に留められていたが、人工の斑入りの葉という条件を組み込んでいるという事は、葉の産卵箇所選択には外見の違いが効いているという意図であり(塗料の化学物質の影響ではない事は示されていた)斑の有無による外見以外の違いが働いているわけではないという隠れた意図が読み取れた。
 ただ、私は白いか白くないかという外見だけの違いだけで蛾の産卵を防いでいるとは言えないと考える。なぜなら、葉に産卵する鱗翅目の昆虫の多くは産卵葉選択の際に前脚で幼虫の植樹となる葉をドラミングし味覚細胞で化学物質を感知する。(2)もし化学物質が関与していたら人工の斑入りの葉ならもともと産卵葉である緑色の葉だから産卵誘引物質が感知されて産卵・被食されるはずという主張なのだろうが、親虫は1枚の葉の複数箇所をドラミングするため、異物を感知もしくは目的の化学物質(産卵誘引物質)の濃度が低いと子孫の生存戦略としてその葉が却下される事が考えられる。そのため、人工の斑入りの葉は白色塗料自体の成分は影響せずとも、葉表面を塞いだ事で異物となるか産卵誘引物質が検出できた面積が狭く、産卵葉にならなかった恐れがある。
 まとめると、Caladium steudneriifoliumの斑入りの葉は食痕に擬態し、被食率を下げていると考えられているが、それには斑という外見だけでなく、斑の有無による化学物質組成が関与している可能性があるのではないだろうか。検証の方法としては、ショウジョウバエの味覚受容体とタンパク質構造が似た受容体をガで同定する。そして、斑入り・斑無しの葉の抽出液の主要な成分と同定した受容体の相互作用を測定し斑入り・斑無しでの差異を検討する事を提案する。
《参考文献》
(1). Ulf S., Stefan D., Sigrid L.-S., Leaf variegation in Caladium steudneriifolium (Araceae): a case of mimicry? Evolutionary Ecology. (2009) 23:503-512
(2). 吉川寛. Special Story:共生・共進化 時間と空間の中でつながる生きものたち. JT生命誌研究館. https://www.brh.co.jp/seimeishi/journal/032/ss_4.html (2019.5.25閲覧)

A:非常によく考えていてよいと思います。一方で、受容体の同定から始める最後の検証実験はやや大掛かりすぎるかな、と思いました。葉の表面がふさがれた影響なのかどうかを調べるのであれば、白のマーカーの代わりに緑(できたらクロロフィルと類似のスペクトルを持つもの)のマーカーを使った実験をすれば、結論が得られますよね。最初の論文で、適切な対照実験をしていれば済んだ話のような気がします。


Q:今回の授業で体内に植物を取り込んで共生する動物の話を聞いた。例えば緑色のクマは、体毛の中に微小な植物が入り込み共生するという話だが、これはただ体内に入りこんでいるだけで機能的にお互いに依存した関係ではない。しかし、自然界には盗葉緑体という現象があり、例えばコノハミドリガイは植物を取り込んだとき、部分的に消化されず、体内で光合成を行うというのだ。質量数14の炭素の同位体を葉緑体組織に取りこませると、ウミウシの葉緑体に関与しない組織に転流しており、光合成によって作られた糖はウミウシが使える状態であることがわかる。先天的に持っているものではなく、後天的に取り入れたものとここまで深い関係で共生するのはとても面白い。まず、取り入れた植物の中から光合成に関する組織のみ消化せずに残すのは通常の動物では不可能で専用の消化回路が必要になるだろう。また、光合成で作られたエネルギーを自らが使うというのもエネルギー代謝の回路のレベルで共存していることとなる。盗葉緑体は哺乳類など複雑な生物でも可能なのだろうか。葉緑体が哺乳類の細胞内で生き続けられるか、また光合成で得たエネルギーを宿主と共有できるかが問題になる。ただマウスの細胞に葉緑体を移植するだけのような実験では葉緑体は活動しないだろう。成功させるためには葉緑体が部分的に残った状態で光合成の機能を保つメカニズムおよび生産したエネルギーを宿主と共有する回路の解明が必要になる。

A:まず、コノハミドリガイの話は講義の中でした一方、14Cの実験の話はしなかったと思います。議論の前提となる研究結果がある場合は、必ず出典を明記するようにしてください。あと、このレポートの趣旨があまりはっきりしません。「盗葉緑体は哺乳類など複雑な生物でも可能なのだろうか」という疑問が議論の主眼だとすると、やや前置きが長すぎますね。レポートはエッセイではないので、なるべく考えたよしなしごとを書きつけるのではなく、明確な主張を論理的に展開するようにしてください。


Q:シロイヌナズナ斑入り変異体は単一の遺伝子欠損によって生じる。シロイヌナズナにおける単一遺伝子の欠損によって葉の一部のみに変異が起き、かつその境界線が鮮明な理由について考える。私は細胞間相互作用によって葉の一部にのみ変異が現れていると考えた。細胞間相互作用とは、変異が起きている、すなわち葉緑体が形成されていない細胞からは、隣り合う細胞へ葉緑体の形成を抑制するシグナルが、変異が起きていない細胞からはこういったシグナルは伝達されない。この機構が成立していれば、永久的に細胞同士はそれぞれの性質を強め合い、斑の部分とそうでない部分の境界線は明確になる。これを検証するための実験としては、シロイヌナズナでは変異体を作る遺伝子が既に特定されている。したがって、葉になる正常な細胞の集合に、遺伝子を欠損させた細胞を入れることによって検証できると考えられる。

A:着目点は良いのですが、最後の検証実験が理解できませんでした。「変異体を作る遺伝子」って何でしょうか。斑入りにする遺伝子という意味でしょうか。また、細胞を入れたときに、周囲の細胞は野生型なのに白くなる、あるいは、その細胞は決して白くならない、といったことを想定しているのでしょうか。重要な点なので、きちんと説明する必要があると思います。


Q:講義中で木本の若い葉は被食のリスクを減らすために葉緑体を含む量が少ないという説が紹介された。これを聞いて、植物の動物による被食への対策について興味が湧いた。被食を防ぎたければ、例えば植物体が常に毒を持つようにして、食べられにくくするといった対策をなぜしないのか疑問に思った。しかし逆に、植物はすでに食べられにくいように進化しているのだと考えた。すなわち、消化されにくく栄養を少なくすることで、動物が食べるメリットを無くしていると考えられる。例えば、人間は野菜以外ではほとんど果実しか口にできない。草食動物は細菌の力を借りて大量の葉を消化し、ようやく生きるのに必要な栄養を得ている。逆に、植物が栄養を蓄えるなど食べられやすいような性質を持っていた場合、必ず被食への対策も持っていると考えられる。果実は食べられることが役割であることが多いが、種子が成熟するまでは毒を持っていたり不味い物質を蓄えているものがあると予想する。

A:この点は、生態学の分野になりますが、どこかで一度話しておいてもよいかもしれませんね。化学的防御は、被食に対する重要な防御の一つですが、鹿の過程では、その防御をかいくぐる対策がなされることを考慮する必要があります。一般的に熱帯雨林の多様性の原因の一つは、このような進化的な軍拡競争にあると考えられています。