植物生理学I 第5回講義
いろいろな葉
第5回の講義では、植物の色とミクロの形に注目して、紅葉と撥水などを取りあげつつ講義を進めました。
Q:サトイモやハス科などの葉は水を弾く。このことが生存競争を勝ち抜くにあたりどのようなメリットとなっているのかについて考察していこうと思う。睡蓮のような沈水植物の葉の表面には気孔が存在する。これは、葉の裏側は水と接しているために、気体の二酸化炭素は葉の表面からしか得ることができないためと考えた。そのため、葉の表面に泥などの汚れなどが付着すると二酸化炭素を吸収できないため死活問題となる。よって、葉の表面にドライコームを設け、水を弾き、葉の表面を清潔にしている(水が流れる機構にすることで汚れを落ちやすくしている)のではないかと考える。葉の構造のみに注目すると、水を弾く機構を持つことで乾燥状態に陥りやすいのではないかと思うが、ハス科の植物やサトイモのように水に浸っていても育つことのできる植物は水辺に生息しているために、そもそも水に困ることはない。そのような環境もこの機能の獲得を促したのではないかと考えた。また、他の植物でこのような機能が見られないのは、葉の表面が塞がれても二酸化炭素の吸収には困らないことや乾燥への対策などからこの機能が失われていったためではないかと考える。
A:撥水のメリットについては良いのではないかと思いました。一方で、「他の植物でこのような機能が見られない」も非常に重要です。その部分を考えている点は評価できますが、もう少し、詳しく考えてもよいように思いました。
Q:授業にて、野生の植物の形質は生存に有利か不利かで決まり、作物などの人工の植物の形質は生存に関係なしに決まるという話があった。紫キャベツは作物であり、その形質は生存の有利不利に関係なしに決まっていると考えられる。しかし、紫色が発現した理由は当時の環境に有利だったと考えられるので、それはどういった環境であったのかを考察した。紫キャベツの紫色はアントシアニンによるものであるが、アントシアニンには抗酸化作用がある。そのため、水分不足や極端なpH・温度などの強いストレスにさらされ酸化の進行が促進される環境にて、キャベツに多くアントシアニンが発現したのではないかと推察される。
A:議論の進め方はよいと思いますが、あと少しだけ考えを進めてほしいところがあります。もし抗酸化作用が重要ならば、なぜすべての植物がアントシアンで赤い葉をもたないのかという点です。逆に言えば、紫キャベツがどのような点で特徴的であったのか、という点の議論があるといいですね。
Q:今回の講義では水中の植物と陸上の植物の植物の二酸化炭素の取り込みについて学んだが、その中間であるハスのような植物はどのように二酸化炭素を吸収しているのか、という疑問が生じた。ハスは水生植物であり発芽直後は水中にて生命活動を行うが、成長すると茎を伸ばして水面に顔を出すという特殊な植物である。この際、当然水中でも呼吸、光合成を行なっており水中から二酸化炭素を吸収する必要があるが、そこから水面に顔を出した時、今まで水中の二酸化炭素を葉の表面で吸収していたハスはなどのようにして水上の環境に適応するのか、という疑問が生じた。その疑問に対して2通りの回答が考えられる。1つめはオタマジャクシからカエルへの変化のように徐々に気孔が発現して空気からの吸収に適応するというものである。2つめは人間の胎児のように、へその緒からの酸素供給から出産のタイミングで肺呼吸になる、というように空気に適応した気孔が準備されており、水から出たタイミングでその気孔による二酸化炭素吸収へ切り替わるというものである。恐らく植物にとって使いもしない気孔を水中に晒しているのはリスクである。であるから病原菌の侵入やクチクラ層がないことによる組織保護的な観点からも前者の方が植物の生存に適していると考えられる。細胞表面の二酸化炭素濃度の変化や日光によるストレスを感知し、気孔発現を促すホルモンが放出されることによって成長に応じて孔辺細胞に分化する細胞の割合が調節されると考えられる。
A:このように発生の途中の段階の生理学的な状態を考えるというのは、ユニークでいいですね。おそらく、これまでにこの点を議論したレポートはなかったと思います。考察の進め方もよいと思います。
Q:今回の講義において、水中葉と気中葉の2種類の葉を同一個体において所持するキクモについての話を受けたが、私はこのキクモの水中葉が、針の様な形状をしていることに疑問を感じ、なぜ針の様な形状を選択したのかについて考えることとした。確かに水中においては水流に晒された場合、面積の広い葉には強い水圧がかかるために葉が細長いことが有利に働くことは理解できるが、水中葉のみをもつオオカナダモはもう少し水平方向に広い葉を有しており、キクモがこの針の様な水中葉で他の水生植物との光競争を繰り広げるのは不利であると推察される。にも関わらずキクモが針のような葉を選択したのは、水中と気中では他の植物との光競争の様子が異なることが原因であると考える。キクモは休耕田や湖沼に生息するが、これらの場所の特徴として、自身の上部に光を遮る高木や草本が存在しにくいことが挙げられる。よって、水中では他の水生植物と光競争を行う必要があるが、気中に出てしまえば競争相手のいない、極めて良好な光環境を手にすることができるという訳である。したがって、キクモは光合成を水中葉を主として行うのではなく、良好な光環境に位置する気中葉で主に行い、水中葉は水面に到達するまでの光合成を行えればよいわけであるから、出来るだけ低コストで作ることのできる形状を選択した結果、針状になったと考える。また、水中部へ広い面積を持つ気中葉を支える必要があることから、可能な限り水の抵抗を無くし、尚且つ支持できるほどの頑丈な茎を形成する必要があるためにそちらを優先する必要があったことも理由の一つであると考える。
A:キクモとオオカナダモの比較から、キクモの葉が非常に細い理由を考察していて面白いと思います。実際には、二種の生物種だけから議論するのは危険ではありますが、この講義のレポートとしては高く評価できます。
Q:前回の授業ではサトイモやハスなどが葉の表面を撥水性にすることで、水分が葉の表面に広がり、細胞からイオンなどが水中に流出してしまうことを防いでいるということを学んだ。しかしその後に学習した水生植物などでは植物体全体が水分におおわれてしまうような環境下に置かれることもありうると考えられる。このとき細胞から水中へのイオン流出は起こり得ないのかという疑問を抱いた。この疑問への答えとして、雨水と比較して河川や池沼の水は土壌から溶け出したイオンを多く含んでいるため、細胞との間の濃度差が生じにくいという事が考えられる。濃度差がなければ水中植物細胞から水中へのイオン流出も起こりにくいと考えられる。またもう一つの解としては、水中植物はクチクラ層が存在しないため、葉の表面から積極的にイオンを取り入れることで、葉から流出する分を補っているということが考えられる。
A:独自の視点の議論になっていてよいと思います。雨水によるイオンの流出(リーチング)がどの程度おこるかは、植物の種類によっても大きく違うでしょうね。また、イオンの濃度差が問題になる場合、淡水産の植物と海水産の植物を比較して議論する必要もあるかもしれません。
Q:今回の講義で紅葉になると光合成をおこなわなくなるということについて学んだ。私は紅葉が光合成を行うことができないならば、落葉したほうが植物にとって効率的で、次の葉を生やすことができるのではないかと考えた。落葉する前に紅葉になっておくようなメリットが何なのか調べた。気温が低下すると光合成活性が低下し始め、太陽光の照度が同じでも葉には光が過剰に与えられるため、クロロフィルが分解されるようになる。ここでアントシアニンが葉の光合成をできるだけ長く継続させるため、太陽光の一部だけを吸収して葉緑体が受け取るエネルギー量を過剰にならないようにするという機能がある(1)。よって、アントシアニンは葉緑体失活を防ぐためにあるため、紅葉になることは葉にとって必要な落葉までの過程であるということが分かる。
参考文献:(1)日本植物生理学会 紅葉現象 https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=388
A:これは、中高の調べもの学習としては問題ないのですが、この講義のレポートとしては不適切です。調べることは重要なのですが、レポートには、調べたこと自体ではなく、調べたことに基づいて自分が考察したことを記述してください。最後の一文だけでは不十分です。
Q:今回の講義で、赤い葉を持つ植物が光合成を行うのかどうかについての話題があった。家から最寄り駅まで歩く途中に赤い葉があり、その葉は光合成をするのかな?とちょうど気になっていたところだったので、その疑問が解消された。しかし、光合成は葉緑素があれば赤い葉でも茎や実でも行われるということは分かったが、なぜ赤い葉をつけるのだろうかということが気になった。赤い葉でも光合成ができるとはいえ、確実に光合成量は減る。緑色の葉であったほうが成長していく上で都合が良いのではないか。調べてみると、葉を赤くする色素はアントシアニンなどで、表皮細胞の液胞に存在している。よって葉緑素を含む柵状組織よりも葉の表面にある赤色が強く現れる。この表層部のアントシアニンを含む細胞で吸収した光を除いた光が葉緑素に届くことになる。植物の中には葉緑素が光に当たることで作り出される活性酵素の毒性に弱いものがあり、そのような植物はアントシアニンを表層部におくことで、その活性酵素の合成を抑えられるため、赤い葉を持つと考えられる。つまり光に弱いということだが、光合成によってしか基本的には栄養を得られない植物として光に弱いというのは致命的なのではないだろうか。そのような植物でも大きく成長するものは多数あるので、少ない光で効率的に光合成を行うシステムが備わっているのではないかと考えられる。
A:「調べてみると」について、二点注意しておきます。第一に、調べた知識を書く場合は、必ず出典を明記してください。調べたことについて自分の言葉で書く場合は、著作権法上は出典の明期義務はありませんが、レポートとしてのエチケットとして。第二に、ここで書かれたことの半分程度は、講義で説明したことです。講義で一所懸命に説明したことを、後から「調べてみると」と言われると、自分の講義は何の役に立ったのだろう、とネガティブな気分になります。教員の精神衛生の為にも、講義はよく聞いてレポートを書いてください。
Q:今回の講義では水中植物について学んだ。植物にとって重要な活動である光合成は水、光、二酸化炭素の要素を必要とするが水中植物にとって水は大量にあり、二酸化炭素も空気中と水中では平衡状態にある。水中植物の特徴として葉全体で二酸化炭素などを吸収するので、陸上植物と等しくもしくはより効率よく二酸化炭素を吸収してると考えられる。つまり水中植物にとって光合成の効率をあげる要素は光であると考える。水中植物には緑色のものだけでなく赤色などのものも多く見られるが、陸上植物などに多く存在するクロロフィルとは違う色の方がより効率よく光を吸収するためではないかと考える。
A:「効率をあげる要素は光であると考える」の所まではよいと思いますが、最後の一文とのつながりが不明瞭です。ここが論理の肝になるはずなので、なぜ赤色だと光吸収の効率が上がると考えるのかを丁寧に説明するようにしてください。
Q:水中葉は気中葉に比べ、さらに薄い要因について授業中でも考察していた。これを参考にし自分自身で要因を考察する。まず、薄くなることでのメリットは何なのか。まず、第一に思いつくのは浮力や水流である。これらの外的圧力によって、植物の生体が被害を受けにくくするためである。実際に薄い葉はしなりやすく、力をスムーズに受け流すことが可能である。また、その他の要因として、光の量があげられる。授業内でもあったが、水中は気中よりも光の入る量は少ないと考えられる。なぜなら、水辺には多くの植物が生息しており、影ができやすい。また、水は光が屈折して散乱するためである。この事により、気中の葉より、葉緑体量が必要ではなく、海面上組織などは必要性が低い。更には、授業中で詳しく説明されていたCO2量の関係を除いて考えると、蒸散の必要性がないこと、つまり、気体の吸収、排出以外の気孔の使い道がないことが考えられる。このように、様々な要因が合わさって薄い葉が作り上げられており、どれが1次要因か、2次要因かはわからない。
A:これも、全体として悪いわけではないのですが、「授業内でもあった」部分の比率がやや高いですね。もう少し独自の考察が欲しいところです。
Q:今回の講義を聞いて、初めて紫キャベツの紫色の葉の部分が光合成をしていないことを知り、紫キャベツの葉について興味を持った。単純に紫キャベツの方が普通のキャベツに比べ、光合成量が少ないことから、生存する上で不利であるように思える。なぜ紫キャベツはこの形質を維持したまま生存しているのだろうかと疑問に思い、「紫キャベツが普通のキャベツよりも生存する上で有利な点」を考えることにした。実際、紫キャベツは栽培植物であり、普通のキャベツよりもポリフェノールの一種であるアントシアニンや、カロテンやビタミンC、ビタミンKなどの栄養素が多いと言われていることや、サラダなどの色味として利用されることから、人為的な選択という要因で普通のキャベツよりも有利なことが挙げらる。さらに、生態的に有利な点としては、まず紫キャベツは普通のキャベツよりもクロロフィルを生産するためのエネルギーが少なくて済むことが1つの利点として考えられる。紫キャベツは光が直接当たらない結球部分は紫色の葉であり、その部分にはクロロフィルを持っていない。そのため、無駄なクロロフィルを生産する必要がないからである。次に、紫キャベツは普通のキャベツよりも食害が少ないのではないかと考えた。虫が緑色と紫色をどのように認識しているかは想像できないが、一般的に緑色の葉では光合成がよく行われており、栄養があると判断し、緑色の葉の方を好んで食べるのではないかと予想し、緑色の葉をつけている普通のキャベツよりも紫色の葉をつけている紫キャベツは食害の少なさという点でも有利なのではないかと考えた。
A:これは、一つずつステップを追って考えていてよいと思います。ただし、この手の考察をするときには、必ず、利点と不利益を同時に考えて、異なる二種の生物がどのように住み分けているのかについて考えてみてください。つまり、もしキャベツに比べて紫キャベツの方が、食害が少ない一方で、光合成量は逆にキャベツの方が少ない場合、その生育環境はどのように違うことが予想されるでしょうか。この点は、生理学というよりも、生態学の分野の考え方ですが、生物の本質的な理解という面では非常に重要です。
Q:今回の授業では里芋の葉の撥水性について学んだ。授業では撥水性を持つことで葉に水滴の影ができ光合成が阻害されることが紹介されていたが、今回は撥水性を持つことで里芋にとって有利になる点について考える。葉が撥水性を持つことで考えられるメリットは大きく分けて2点ある。1点目は撥水性により発生した水滴が葉から落ちる際に小さな虫を絡め取り落ちることでの防虫効果である。2つ目は撥水性によって精製した大きな水滴が葉から流れ落ちる時に葉に付着したホコリやチリを絡めとることで葉の表面が汚れにくくなり結果として光合成の効率の上昇である。このように葉を撥水性は里芋にとって有利に働く点が複数あると考えられる。またこの里芋の撥水性の構造は汚れの防止などで私たちの生活にも大きく役立つ可能性が考えられる。
A:悪くはありませんが、アイデアを二つ出しておしまいという感じで、あまり論理の流れが感じられません。せっかくここまで書いたらば、では複数の有利に働く点のうち、一番重要なのはどれなのか、という点を、何か別の観察から結論できると、立派なレポートになります。
Q:水中に存在する植物は、気孔による呼吸及び光合成が行えない。どころか水中に届く光エネルギーも少なく成育環境としては適さない様にも思える。にも関わらず現在、水中に存在する植物は数多く存在している、これは水中に根ざすメリットが多いからの証左である。まず第1に、これは水中に有るが故当然なのだが、植物として必要になる水分が豊富で有ること、これによって水分が不足することによって成長が阻害されることがない。次に地上にはない浮力が働くこと。これによって葉や茎が丈夫で有る必要がなく、機能を追求した形態をとることができる。
A:これも、内容的にはほぼ講義で紹介したものの繰り返しに感じられます。レポートは、講義をよく聞いて書くようにしてください。
Q:授業では紅葉の仕組みについて学んだ。そこで成葉に比べて若葉が黄緑色に見える理由について考える。まず1つ目の要因としてに成葉に比べて、分解されているクロロフィルが少なく濁っていないからであると考えられる。2つ目に光を吸収している色素が成葉と異なることが考えられる。光を吸収する色素のそれぞれの絶対数が違う場合と光吸収の相対量が違う場合が考えられ、それぞれの場合について考えてみる。
<色素の絶対量が違う場合>成葉に比べて緑色が少ないことからクロロフィルの量、すなわち葉緑体数が少ないと考えられる。葉の成長段階と葉緑体数の関係については葉が形成されてからの日数の異なる葉における葉緑体数を測定し比較を行えばいい。色素の絶対量が違っていた場合、クロロフィルは成長を阻害するまたは、クロロフィル量で植物の大きさなどの成長をコントロールしていると考えられる。
<色素の相対量が違う場合>緑色がうすく、黄色っぽく見えることから相対的なクロロフィルの光吸収量が減少し、カロテノイドなどの黄色の色素の光吸収量が増加していると考えられる。それぞれ主要な色素の成葉および若葉における含有量を測定することで確認できる。含有量の測定には、葉をすり潰しバッファーに溶かし、その溶液の吸光度を測定することで色素量が測定できる。相対的な色素量が違っていた場合、若葉の段階では葉は光合成の効率よりも葉を守ることや、食害を防ぐことに優先的に色素を利用していることがわかる。
A:何かの「理由」については、WhyとHowがあることを講義の最初に紹介したと思います。ここで書かれているのはHowの方ですが、Whyについては次回の講義で説明します。このように実験系を考えることは良い習慣ですが、あくまでも何が面白くてやる実験なのかが明確である必要があります。単に、数が多少なのか、組成の違いなのか、という問題設定だと、それを実験で確かめても「それがどうした?」と言われておしまいです。ここでむしろ重要なのは、「若葉の段階では葉は光合成の効率よりも葉を守ることや、食害を防ぐことに優先的に色素を利用していることがわかる」という点です。若葉は、なぜ光合成効率が低そうに見える色の薄い葉なのだろうか、という問題設定であれば、生理学的な面白みをもちますから、そこを最初にもってきて、それを確かめるために、色素の量や組成を調べる、という展開に議論を進めると、レポートの面白みはぐっと増えます。