植物生理学I 第4回講義

植物の葉と環境

第4回の講義では、植物の葉と、周囲の空気との相互作用について取り上げました。物質表面の境界層抵抗と風の関係を中心に講義を進めました。レポートの話題しては、マドカズラとタビビトノキが人気でした。できたら、話題は同じでもなるべく人と違う考え方のレポートを書くようにしましょう。


Q:複数の穴のあいた葉が特徴のモンテスラにも、穴のない葉ができるようだ。家にある小さなモンテスラには、穴の無い葉もある。一方で、写真で見た、ハワイの公園で育つモンテスラの葉は穴がふつうの倍以上の数あいていた。ここで予想できることは、モンテスラの穴の数は環境要因、とくに光と風の強さによって決まるということだ。穴をあけ、葉の大きさを小さくすることは、空気の動かない層を薄くして、二酸化炭素の取り込み速度を大きくできるという利点がある。ここで、ハワイの自然の中で育つモンテスラが二酸化炭素の取り込み速度を大きくするのは、光の強い環境のため、その光を光合成にできるだけ多く利用しようとするためである。家の中のモンテスラがそれを行わないのは、届く光が弱く、穴をあけて二酸化炭素の取り込み速度を大きくしても、光合成速度がそれほど上がらないからだ。むしろ穴をあけるコストの方が上回るのかもしれない。

A:葉の形態が異なる原因を、環境の違いを考慮しながら議論していてよいと思います。ただ、「光と風の強さによって決まる」と言っているので、後段で、光だけでなく風についても触れたほうが議論の流れは良いように思いました。


Q:今回の授業で印象に残っているのは、葉の表面に接する部分の空気は動いていないこと、その表面からの距離は風の強さが強いほど、葉の面積が小さいほど短くなり、また風に煽られた際に葉が大きすぎるとちぎれるので風の強さが中間くらいで葉の大きさが1番大きくなるという話です。そこで私は、日本の植物の葉の大きさから日本の風の強さを推測できると考えました。もちろん植物の種類によって違うものではありますが、日本によく見られる植物の葉の大きさは極めて小さいか、数cmといったものが多く、ヤシやバナナのようなとても大きな葉を持った植物はほとんど見られません。ここで、ヤシが生えているのは海沿いで海風があるため風が強いと考えられ、バナナがよく生えている熱帯地域は雨が多く、日本よりは暴風雨に見舞われていると考えられます。つまり日本の植物の大半は風が弱く空気の動かない層が多いために葉が小さいと考えられます。

A:きちんと考えていますし、論理も通っていますが、非常に多様な日本をひとくくりにしているのがやはり気になりますね。日本は亜寒帯から亜熱帯までありますから、その場合には、むしろ熱帯だけが違う、ということになるのでしょうか。


Q:今回の講義では、風の強さと葉の大きさの関係に関して、風が弱いと葉を小さくしないと二酸化炭素を取り込めず、風が強いと葉を小さくしないとちぎれてしまうことから、風の強さと葉の大きさの関係のグラフは山のような形になり、植物によって、最適な葉の大きさがあることを学んだ。ここで私は、もしその地点の平均風速を"風の強さ"としているのであれば、同じ植物の中でなぜ葉の大きさが異なるのか、という疑問を持った。この疑問に対する仮説として、光合成の優先度が関係していると考えた。というのも、陰葉と陽葉の構造の違いにも表れているように、植物にとって光合成は非常に重要な活動であり、欠かすことができない。そのため、葉によって大きさを変え、それぞれの位置で最適な葉の大きさに育っているのではないかと考えた。つまり、風の強さと葉の大きさの影響よりも、いかに効率よく光合成を行うかの方が、植物にとって重要なのではないかという考えに至った。

A:考え方はよいと思います。ただ、光合成の優先度、あるいは光合成の効率が、葉の大きさとどのように関係するのかについて触れられていないので、論理が完結した感じがしません。「葉によって大きさを変え、それぞれの位置で最適な葉の大きさに育って」という部分について、もう少し具体的に議論できるとよいですね。


Q:今回の講義で、クスノキは常緑だが4-5月に葉だけでなく枝も落とす現象(落枝)が見られると学んだ。老朽化により呼吸のコストを上回る光合成のパフォーマンスが見込めなくなった葉を除き、光合成の効率化を図っているという話だがそれならば葉だけ落とせば良いのではという話だった。私は枝も落とす理由は単純な風雨による構造上の老朽化による取り替え必要性の他に以下ではないかと考える。
 クスノキは葉、材部、根部に殺虫成分として知られる樟脳を含んでおり、昆虫(アオスジアゲハ幼生を除く)、鳥、哺乳動物によって食べられるのを防ぎ、カビや細菌による感染防御にもなっていると一般的には知られている(1)。樟脳の合成システムは調べても不明だったが、恐らく根といった特定の器官で合成されて木全体に運ばれ、結果として木全体に存在しているのではなく、木全体に合成システムが存在しているのだと考えられる。そのため、枝が老朽化すると樟脳は昇華して失われる一方で、枝で防御に十分な樟脳の合成が出来なくなるのではないだろうか。つまり、もしも古い枝から古い葉を落とし、つけておいた側芽を芽吹かせた場合、樟脳が不足した古い枝である所為で枝が材食性昆虫(カミキリムシなど)、カビや細菌に侵食されて完全に朽ちて道管・師管が途切れて成長に高いコストを要した新芽・若葉も枯れて大きな損失を負う恐れがある。それを未然に防ぐために、古い葉だけでなく枝ごと落とすのではないだろうか。
 広葉樹のクヌギやコナラなどはナラ枯れで知られるようにカビには勝てないが、ボクトウガやカミキリムシの成虫・幼虫に穿孔されて樹液を流し、巨大な樹洞を作るほど朽ちたとしてもそう簡単には枯れず木全体としての生命維持能力が高い。一方でクスノキは2種のように損失を負いながらも生命維持する能力の代わりに樟脳による防御体制を獲得した。そのため、樟脳という防御体制が無ければ虚弱であり生命に関わるため、樟脳が減り防御機能が衰退した枝はつけていられないのではないだろうか。
《参考文献》(1). クスノキの葉に、他の植物の発芽抑制をする働きがあるか?|みんなのひろば. 日本植物生理学会. https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1171&target=number&key=1171 (2019.5.6閲覧)

A:これは面白いところに目を付けましたね。アイデアとしては素晴らしいと思います。話の流れもよいと思います。強いて言うと、その思い付きが正しいのかどうかを検証する系、何か別の論理なり実験なりがないため、「だろうか」というところで終わってしまうのがやや残念ですね。


Q:今回の講義では風の強さと葉の大きさの関係について学んだが、講義で示されたグラフで風が弱すぎるとCO2を取り込めなくなり、風が強すぎてもちぎれてしまうため葉は小さくなる。つまり適度な風の強さほど葉を大きくすることができることがわかった。私はこのしくみを水中や水上に生育する植物に置き換えて考えた。水の流れが速すぎても遅すぎても葉は小さくなり、程よい水の流れでは葉が大きいという仮説を立てて考察する。
 まずは、水の流れが速い川などに生育する植物の葉について考える。代表例はオオカナダモを挙げる。オオカナダモの葉は確かに小さいが、先端部分が細くとがったような形をしておりちぎれてしまいそうである。なぜ、マドカズラの葉のように水が抜けるよう穴が開けるなどの工夫がされていないのだろうか。それは水には空気と比べて大きな抵抗力があるからだと考えた。また、大きさだけでなく非常に柔軟なちぎれにくい構造をしている。続いて水の流れがほとんどない池や学校のビオトープなどに生育する植物の葉について考える。代表例はオゼコウホネを挙げる。この植物は水面に大きく葉を広げる形で生育している。この状態では光がとても当たりやすく生育には最適であると考えられるが、水面に葉を広げる以上強風にさらされることもある。そんな状況下でも葉を大きくできる理由としては、やはり水の抵抗が考えられる。私がかつて小学生であったときビオトープ内で風に吹かれたオゼコウホネの葉が水面を流れていく様子を見たことがある。このように強風が吹いても水面を流れることで葉がちぎれることは考えられにくい。またオゼコウホネが水中に入っている場合でも水の抵抗で最大限大きな葉をつけることができる。以上のことから風と葉の大きさのような関係を見いだすことはできなかったため、今回の仮説は正しくないと考えた。しかし、葉の大きさと水の流れの関係ではなく、葉の柔らかさと水の流れの関係であれば講義で示されたグラフと同じ曲線を描くかもしれないと考えた。

A:面白い考え方ですが、水の中と空気中で、そもそもCO2の取り込み方が全く違う点を考慮する必要があるかもしれません。そのあたりは、次回の講義で触れる予定です。


Q:今回の講義では、境界層という空気の動かない層が物体のまわりには存在し、その層の厚さは葉の大きさや風速によって変化することを学んだ。境界層が厚いほど空気が循環しないためCO2が取り込めず光合成効率が低下する。そのため植物は葉の形や大きさを変化させて工夫している。その一つとしてマドカズラという植物が例に挙げられた。葉自身の大きさを変化させたり、葉に切れ込みを入れたりする植物とは違い、葉自身に穴を開ける植物である。風通しを良くする一方で、穴を開けているためその分葉緑体は少なくなり光合成の効率は下がる可能性があるということも学んだ。風通しを良くし光合成の効率を上げることが目的であるはずなのに、矛盾が生じていると疑問に思った。そこで私はその他にも穴を開けることのメリットがあると考えた。それは光を下の葉に通すことである。マドカズラを画像検索してみると、1本の木から生えるマドカズラの葉は密集し下の葉と重なっている部分が多く見えた。また、生えたばかりの幼葉には穴が開いていないことからこのような仮説を立てた。

A:生物の機能の意義を考えるためには、その機能と環境をセットにして考える必要があります。「矛盾」とありますが、穴は二酸化炭素の取り込み効率を上げる一方、光合成をできる面積を減らすわけですよね。つまり、二酸化炭素の取り込み能力の上昇が、面積の減少を補って余りある場合は穴をあけたほうが得になるし、面積の減少の方の影響が大きい場合は、穴をあけない方が得になります。矛盾というよりは、環境条件によって穴の損得が変化すると考えたほうがよいように思います。


Q:今回の授業において興味を持った話題は、葉の形や構造が自生している地域の風の強さに対応しているということについてです。確かに、光合成を効率よくするために葉を大きくしても、風が強ければ風を受けやすくなり落葉のリスクが高まり本末転倒な結果となってしまうため、葉に切れ込みを入れたり穴をあけたりすることで対策を取っているというのは理解できますし、いろいろな例を授業でも列挙していただき実際に対策している植物の存在も分かりました。そこで、モミジの葉はなぜ切れ込みがあるのに、葉の形が平らで風を受け流す形になっていないのかということに疑問に思いました。そこでモミジについて調べてみたところ風を媒介に種をまき散らす花らしく、モミジは落葉のリスクよりも子孫を残すことに重きを置いているのかなと思いました。そこで他の風媒花の葉の形を調べてみたところ、葉はどれも細くモミジとは異なっていることが分かりました。なので、モミジにはほかに何か特徴があるか考えたところ、紅葉という特徴がありました。紅葉というのは、葉から幹に栄養を移し落葉させるので、このことからモミジは紅葉を前提にしているので、風による落葉のリスクをモミジなりに考慮してあのような中途半端な形になったのだと考えました。

A:考え方は、一つ一つのステップを追っていて面白いと思います。ただ、種子の散布と花粉の散布は、別の事です。また、紅葉することと、落葉することは別のことで、紅葉しない落葉樹でも、落葉する際には葉の栄養は植物の本体に回収します。そのあたりの知識をもって、もう一度考えると、だいぶ結論が変わるかもしれませんね。


Q:今回の授業で、タビビトノキの葉が千切れているのは遺伝によるものか風によるものかという疑問を確かめるため、風のない環境で育てると千切れなかったのでタビビトノキの葉が千切れるのは風によるものだ、という話があった。ここで考えたのは、タビビトノキの葉が単に風によって千切れたという解釈ではなく、タビビトノキの葉は風のある環境では千切れやすくなるという遺伝情報を持っているのではないかということだ。実際にも、タビビトノキの葉は強い風に吹かれて折れるのを防ぐために歯が非常に割れやすくており強い風が吹いても受け流すことができる、とある(オーガスタの葉はなぜ割れる?.彩植健美.jp http://www.saisyokukenbi.jp/blog/200903/secret77.html)。タビビトノキの葉が遺伝によって風で千切れやすくなる方法として、タビビトノキとそのほかの植物を風のある環境で育ててタビビトノキの葉のみが千切れることを、確認できればよい。

A:同じような考え方のレポートは他にもありましたが、きちんと考えていてよいと思います。あと、このような考え方をする場合、最初から切れている葉を出すのと、出した葉が風で切られるのと、どちらが得だろうか、という比較も必要な気がします。


Q:今回の講義では、蒸散のための拡散輸送の効率化というお話の中で、マドカズラの例が登場した。講義を聞いて疑問に思ったのは、マドカズラの葉に穴が開いている理由である。拡散輸送の効率化を目的とするならば、他の植物と同様に、小さい葉をたくさんつけたり、切れ込みをいれたりすれば良さそうである。穴をあけると、光合成ができる面積が小さくなる他、空気抵抗が大きくなり、風によるダメージが大きくなるなど、デメリットが多いと思われる。当初、マドカズラが葉の「大きさ」(穴の部分を含めた面積)を大きくしているのは、マドカズラと同じく熱帯に生息する他の植物と同じメリットを享受するためだと考えた。熱帯の植物の葉が大きいことは広く知られており、その理由(メリット)としては、枝のコスト削減と、朝、光合成至適温度に素早く上昇することができることが考えられている(1)。しかしながら、ここで提唱されている理由の両方とも、葉に日光が当たることで得られるメリットであり、マドカズラの場合には当てはまらない。そこで、マドカズラの生態の観点から考察することにした。マドカズラは、ツル性の植物であり、他の植物に巻き付いて成長する。そのため、茎に近い側(葉の基部側)は、巻き付いた植物の影になってしまうと考えた。よって、巻き付いた植物から離れた位置で光合成を行う必要があるため、葉の「大きさ」を大きくしていると考えた。この仮説を立証するためには、マドカズラの葉の葉緑体の密度分布を調べるのが良いと考えられた。すなわち、葉の先端側では、光合成を活発に行うために葉緑体の密度が高く、基部側では、巻き付いた植物で日光がさえぎられるため、密度が低くなっていると考えられる。
参考文献 (1) Wright et al. Global climatic drivers of leaf size. Science. 2017, Vol.357, No.1, pp.917-921

A:非常に面白いと思います。ただ、これが理由だとすると、葉柄を長くした方が得ではないでしょうかね。葉柄を長くすることも物理的な強度の低下をもたらしますが、風が弱い生息地ではそれほど問題にはならないような気がしますし。


Q:今回の講義ではクスノキのように落葉だけでなく落枝をする植物が存在することを学んだ。落枝のメリットについて考えてみようと思う。そもそも枝には光合成を効率よく行うために、葉を太陽光が当たりやすい場所に位置させる役割がある。よって植物は様々な方向に枝を伸ばし、葉を展開することで余すことなく太陽光による光エネルギーを受容することができる。しかし、時間の経過とともに気候の変化や隣接する植物の葉の生え方などによって場所によっては十分に光が当たらず光合成量が減ってしまう部分ができてしまう。そうするとえだは光合成はしないが呼吸はするので、生み出せるエネルギー量が見かけ上赤字になってしまう。そのことを防ぐために枝を落とす、つまり植物自らが“剪定”をすることでエネルギー産生量を黒字にしようとしていると考えられる。

A:面白いアイデアですね。しかも、これだったら、実際に一本の木において枝の日照を記録しておいて、その枝が落ちるかどうかと照らし合わせることによって検証可能です。研究テーマとして十分に成り立つかもしれません。


Q:今回の授業の中で植物は空気の入れ換えや水分量の調節のために気孔の開閉を行うことに触れた。その中で自分は、根の乾燥を感知しそれにより気孔の開閉を促すアブシシン酸について注目した。アブシシン酸は植物ホルモンの1つで周囲が乾燥すると、アブシシン酸が合成されて量が増え、気孔が閉じて植物体内に水分が保たれる。逆に乾燥状態でなくなると、アブシシン酸が分解されて気孔が開くというシステムで働いている。自分はアブシシン酸の量を人工的に調節できれば気孔の開閉をより効果的に行えるのではないかと考えた。実際に理化学研究所で似たような研究が行われているようで、アブシシン酸を分解する酵素であるCYP707A3遺伝子とアブシシン酸を合成するAtNCED3遺伝子を人工的に操作することで植物中のアブシシン酸の量を1/3~2倍へと人為的に操作することに成功したそうである。これによって乾燥に対する植物の耐性が向上し農業効率があがると考えた。

A:気孔の数の調節については、同様な議論を生物学演習で取り上げたと思います。アブシシン酸による開閉の調節の場合も同じで、もし、植物が乾燥状態を感知して気孔の開度を調節することにより水分損失の抑制と光合成を両立させているのであれば、人間がそれを変えてしまったら、かえって生育に悪影響があるはずではないでしょうか。一方で、もし人工的な操作により生育が改善するとしたら、野生の植物はなぜアブシシン酸濃度を最適化していなかったのか、という問題が生じます。そのあたり、もう少し丁寧な議論が必要かもしれません。