植物生理学I 第3回講義

植物の葉の構造

第3回の講義では、植物の葉の形態の共通性と多様性を考えることにより、それらが何に由来し、何を意味しているのか、という点を中心に講義を進めました。


Q:授業では湿度80%の空気と飽和食塩水のどちらの方が植物にとって過酷な環境かを比較した。ここで陸上と水中のどちらが植物にとって生活しやすいのかについて考えたい。植物は、水中から陸上に進出し被子植物まで進化し、さらに進化して海草という水中に生息する植物が生まれた。水草は花を咲かせる、維管束を持つ植物であるが気孔の機能は完全に失われている。水中は酸素も薄く、光も直接当たらないためエネルギー生産効率は下がるがそれでもそこでなぜ水中に植物が戻ったかを考える。まず水中では浮力が生じているため、構造を支えるためのエネルギーを使わなくていい。また、花を咲かせ種子で繁殖する植物であるため、常に水が種子を運搬してくれる環境は適している。また、根を持ち維管束を持つため基本的には根から吸収した栄養を体全体で使っていると考えられるが、水には栄養塩が含まれていてこれは根以外にも葉などで吸収されているのではないかなと考えられる。

A:考え方はよいと思います。ただし、水中にはそれまでの藻類が存在していたはずですから、被子植物が再度水中に戻る際には、藻類との競争が生じたはずですよね。進化を本当の意味で考えるためには、被子植物と藻類を、もう少し明確に対比させて議論したほうが論旨がわかりやすくなると思います。今でも、「花を咲かせ種子で繁殖する植物であるため」といった形で、十分に考慮していることはわかりますが、藻類が胞子または細胞分裂をして増殖をするのに比較してどうなのか、という記述があると、もっとよいように思いました。


Q:第3回の講義では前回に引き続き、葉について学んだ。今回は葉の表皮の毛であるトライコームに興味を持った。トライコームは表皮の保護や保温、防湿に役立っている。日本植物生理学会のホームページ、みんなのひろばの植物Q&A(登録番号2383)ではトライコームについて「多くの植物で、トライコームは特殊な物質を貯めています。たとえば、バジル、ミント、タイム等ハーブの匂い物質はトライコームに貯められており、害虫を予防しています。」とあった。ここで私は、植物がトライコームにおいて特殊な物質を貯めているのはなぜかということに疑問を持った。トライコームに貯めるのではなく、葉の内部や茎や根に貯めておくことも考えられる。トライコームに特殊な物質を貯めておくのは、その貯めている特殊な物質をすぐに外へ放出しやすいからであると考えられる。トライコームであれば葉の表皮とつながっていて植物体内で作られた物質の輸送もしやすい。葉は植物が生きていくための光合成器官として重要な役割を果たしているので、その葉を守るには葉にあるトライコームから物質を放出して直接的に守ることが必要であると考えられる。 【引用文献】日本植物生理学会ホームページみんなのひろば植物Q&A(登録番号2328)(参照日2019-4-27) https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2383&target=number&key=2383

A:言いたいことは十分に伝わりますが、「放出しやすい」という部分がややあいまいな気がしました。これは、食害などの際にトライコームが破壊されやすいということでしょうかね。


Q:空気中のCO2濃度が上昇すると植物が気孔を閉じるという実験例は思いがけないものだった。植物が光条件や乾燥ストレスで気孔を閉じるとしか思っていなかったからだ。もしこの実験例の場合もABAシグナル伝達系によって気孔が閉じたとすれば、乾燥ストレスとは別に、空気中のCO2濃度を感知してアブシシン酸を合成するなんらかの機構が存在するはずである。このような機構の存在について、空気中のCO2濃度を変化させ植物細胞内のアブシシン酸の定量を行うことによって確かめられると考える。CO2濃度が高い時にアブシシン酸の増加が認められれば、前述したような機構の存在が確認できる。増加が認められなければ、ABAとは別に孔辺細胞のイオンチャネルなどに関与するシグナル伝達系の存在が予測できる。CO2濃度を感知する仕組みについては、空気中のCO2濃度が高くなると植物細胞内に溶解するCO2の量が増え、光合成で消費される量を上回りCO2が余るようになり、その余剰分のCO2がシグナルになるのだと予想する。
参考文献
・宮川拓也,田之倉優「アブシシン酸受容体の構造に基づく植物の乾燥ストレス応答制御の理解」(『生化学』第86巻,第5号,2014)
・木下俊則「環境変動に対する気孔開閉制御」(『化学と生物』 Vol. 53, No. 9, 2015)

A:よく考えていることはわかります。ただ、最後のところなど、予想した後、できたら、何らかの形で予想を確認できるとよいですね。例えば、その予想を検証する実験を考案するか、もしくは、別の観察結果とその予想との整合性を議論することなどが考えられると思います。


Q:今回の講義では、植物の表皮細胞には葉緑体が存在しないが、孔辺細胞には葉緑体が存在していることを学んだ。このことに興味を持ったので調べていたところ、一部のシダ植物には表皮細胞にも葉緑体が存在していること[1]を知り、なぜ存在しているのか疑問に思った。表皮細胞の役割としては、外界の環境や昆虫、病菌などのストレスから身を守ることであり、その役割に特化するために葉緑体を無くしたと考えることができる。しかし一部のシダ植物の表皮細胞には葉緑体があるということは、そもそも「葉緑体を無くす必要がなかった」か、もしくは「葉緑体が必要だったか」のどちらかであると考えられる。だが、シダ植物の方が種子植物よりも先に出現していることから、シダ植物には「葉緑体を無くす必要がなかった」と考えるのが自然である。それでは、なぜシダ植物の表皮細胞には葉緑体を無くす必要がなかったのか。それは、シダ植物の生息する周りには水分が多くあることが大きな理由なのではないかと考えた。周りに水分が多くあるということは、その水をより光合成に使うことができるということである。つまり、一部のシダ植物は表皮細胞で光合成をするだけの水が十分に確保できたため、葉緑体を無くす必要がなかったのではないかと考えた。このことは、逆に、その他の植物の表皮には水の損失を防ぐという役割があり、そのために表皮細胞での光合成をやめたとも考えることができる。
[1]シダ(羊歯)-光合成辞典-日本光合成学会(2019年4月23日参照)、http://photosyn.jp/pwiki/index.php?%E3%82%B7%E3%83%80(%E7%BE%8A%E6%AD%AF)

A:面白い考え方でよいと思います。ただ、最後の結論で少しあいまいに感じたのが、シダ以外の植物の表皮が水の損失を防ぐために光合成をやめた理由です。光合成をするだけの水が十分に確保できるかどうか、という問題だとすると、表皮だけで葉緑体がなんくなる理由の説明にはなりませんよね。そのあたりをもう少し親切に説明してほしいところです。


Q:今回は葉の表皮についての講義内容であった。その中で、コケ植物には外界と気室という穴でつながっているが、この穴は開閉できず開いたままであるということを学んだ。ここで、私は、「なぜコケ植物には開閉機能を持つ気孔が存在しないのか」と疑問に思った。この理由についてはいくつか考えつく。1つ目は気孔の開閉機能は自然選択によって進化した機能であり、植物の原始的な構造をしているコケ植物が繁栄した時ではその機能は存在せず、シダ植物、種子植物が繁栄する時になる過程で獲得したため。2つ目はコケ植物は胞子で繁殖をする植物であり、水辺で生息する。そのため蒸散して温度管理する必要性が他の環境に比べて低く、気孔の開閉機能の必要性が低いため。また、光合成に関しても、コケ植物は日光に当たらない日陰に生息するため、光量の変化による光合成量の変化が少ないため、気孔の開閉機能の必要性が低いため。以上の理由によってコケ植物には気孔開閉機能がないと考えた。

A:2つの理由を考えていますが、実は、この2つは表裏の関係ですよね。1つ目の理由で説明されているように気孔が自然選択されたとすれば、気孔をもたなかった植物は淘汰されたはずです。そのようなコケ植物が生き残っているということは、コケ植物が淘汰圧を受けなかった理由があるはずですが、それがまさにここで述べられた2つ目の理由なのではないでしょうか。


Q:今回の講義中で、植物は二酸化炭素の拡散をできるだけ速くするために、海綿状組織や柵状組織の円柱のすき間など、体内に空洞がたくさんあるという内容があった。しかし、動物は血液や組織液で物質の輸送を行っており、拡散速度は気体中に比べて遅い。では、なぜ動物は体内の物質輸送を液体で行うのか、疑問に思った。昆虫類は植物に似て体内に空洞があり、気門から取り入れた空気を気体のまま拡散し、酸素を血液中に直接取り込む仕組みを持つ。だが、昆虫類はこの体の仕組みにより体を巨大化することができなくなってしまった。一方で動物は体の巨大化を取ったために体内の物質輸送を気体のままでは行えず、液体での物質輸送となったのだろうと考えた。体が大きくなったために、酸素を気体のままで拡散するよりも血液内に溶かすことで濃度の高い状態を作り出した方が効率が良いのであろう。しかし、すぐに酸素を体内に取り入れられるように肺までは酸素を空気のままで取り込み、それ以降の運搬は血液で行うという仕組みになっている。

A:物質輸送に関してここでは、媒体が気体か液体かという観点から議論していますが、より重要なのは、それが拡散によっているのか、それとも媒体自体が移動する体積流によっているのか、という点です。血液は液体ですから、もし酸素が血液中を拡散して運ばれるとしたら、その速度は遅すぎてヒトは生きていけません。実際には、血液は、心臓のポンプ機能によって循環するからこそ、効率的に酸素を運搬できるのです。


Q:今回の講義で二酸化炭素の濃度が上昇すると水分保持の観点から気孔が閉じ、葉の温度の上昇に繋がることを学んだ。そこでその条件で植物は水分と温度の調節のどちらを重視、選択するのかという疑問が湧いたため、それに自問自答する形で考察する。まず植物が水分を失うことによる悪影響は以下の通りである。
・光合成の基質である水分を失うことでエネルギー生産ができなくなる、・植物内での物質の移動ができなくなる、・細胞内液が流出する
対して過剰の温度上昇による悪影響は以下の通りである。
・タンパク質変性による酵素の失活、・複合体の解離
もちろん両者は生命を脅かす要因ではあるが、水分を失うことによる影響は生命の維持に直結する事態であるのに対し、温度上昇による影響は一部の反応系が使えなくなるだけと考えた。また一般的に温度上昇により熱ショックタンパク質が発現し、これが上に挙げた変性や解離を防ぐことが知られている。以上のことから植物は基本的に水分を保持する選択をするだろうと考えた。これを確認するには、高二酸化炭素濃度下で水分量と温度を変数として条件を変えて気孔の開閉を確認する実験が適切ではないかと考えた。
 また、提示された実験環境そのものにも疑問が生じた。気象庁による地球の二酸化炭素濃度分布(https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/co2map/co2map.html)では地球上の二酸化炭素濃度の分布に特別大きな差はなく、どの地域でも400-420ppm程度である。したがって700ppmの環境下で気孔が閉じた、温度が上昇した、という議論は自然環境下ではあまり関係がない話なのではないかと考える。地球温暖化等で地球の二酸化炭素濃度が上昇した場合でもその上昇度は実験時より遥かに緩やかであり、その場合植物は気孔の閉鎖ではなくより進化のような根本的な適応を見せるのではないかと思う。

A:前半と後半で、2つの論点に分かれていますが、後半の論点についてコメントします。もし、二酸化炭素の濃度のセンサーが葉の外部にあるのであれば、ここで述べられた通りなのですが、葉の内側、つまり気孔を通り過ぎた葉の細胞と細胞の間隙の二酸化炭素濃度を感知していると考えたらどうでしょうか。おそらく、全く異なる結論が導かれると思いますよ。


Q:葉の表皮に水孔という組織があり、そこで余分な水を排出するという話があった。恥ずかしながら水孔という物を初めて知ったのだが、なぜそこで余分な水分を排出するのか、根から過剰な水分を吸収しなければいい話ではないのかと疑問に思った。調べると、水孔が排水(溢泌という)を行うのは気孔が開いておらず蒸散が行われていない時間で、水孔は気孔のように開閉はせずずっと開いている。光合成の行われない夜間に溢泌が行われると、朝方葉に水分がつき、朝露とも呼ばれる。  ここで、夜間に溢泌が行われるということだが、昼間は光合成で水分を大量に使いたいし呼吸も行われるため、根からの水の吸収に制限をかける必要はないが、夜間は呼吸と体内の水分量維持のための分だけ根から水を吸収すれば良いのではないか。根で水の吸収に制限をかけない、かけられない構造になっている理由を考えた。まず、植物には体全体でその時に必要な水分量を計算する仕組みが備わっていないのではないかと考える。先週の講義で最終的な葉の大きさがわかっているかのような成長の振る舞いを見せる、というような話があったが、水分量に関してはそのような機能は備わっておらず、とりあえずあるだけの水分を吸収して水分不足になることだけは防ぎ、結果として余分だった水分を排出するのではないか。次に、水を液体として排出できる機能がこの水孔しかないため、植物は水を液体として排出する必要があるのではないかと考えられる。吸収してしまった不要な土壌水分中の成分や老廃物などを、水蒸気としては体外に放出できないため、残された方法はそれらを葉にためて落葉させたり枯らしたりするか、水を液体として排出してそれに乗って出ていくという方法なのではないか。

A:面白い考え方だと思います。強いて言うと、土壌からの水分吸収のメカニズムを考慮に入れると、もしかしたら結論が変わるかもしれないと感じました。つまり、水分吸収を植物自身が調節できるものなのか、それとも、調節が効かない受動的なものなのか、によって考え方は変えなくてはならないと思います。