植物生理学I 第2回講義

葉にみる生物の共通性と多様性

第2回の講義では、植物の葉の形態の共通性と多様性を考えることにより、それらが何に由来し、何を意味しているのか、という点を中心に講義を進めました。


Q:今回の授業で、植物の葉の形にはその形である目的があるということを学んだ。授業の中では植物の葉の形は個々の植物の置かれた環境によって異なるということであったが、その環境を判断するのは成長のどの段階で判断するのかという疑問を持った。遺伝子が変わると葉の形が変わる、基部で細胞分裂しているうちに先端の大きさが決まる、というメカニズムによって形が決まるということであったので、葉の大きさや形を決定するのは遺伝子と細胞分裂の2種類の段階であると考えた。では、成長する途中で環境が変化させた場合はどのような影響が表れるのだろうか。例えば、成長途中に環境が変化し植物の葉が環境変化後に適した形に成長したのならば環境を判断するのは成長途中の細胞分裂にあると考えられる。植物の葉が変化前の環境に適した形の特徴と変化後の環境に適した形の特徴の両方を持っていた場合は、植物の成長前と成長後の両方で環境を判断しているということがいえると考えられる。

A:この場合、後半の部分に絞ったほうが論旨が明確になると思います。問題設定として「成長する途中で環境が変化させた場合はどのような影響が表れるのだろうか」というのは、悪くないと思うのですが、その答えがやや「当たり前」に感じられます。例えば、代わりに仮想実験を考えて、そこから結論を導くようにするなどの工夫ができると面白いと思います。


Q:本講義では、クチクラの役割として「病原体から葉を保護している」ことが紹介された。その一方で、クチクラによって阻まれる諸々を交換するために葉の背軸側には気孔が存在することも紹介された。気孔がこの役割を持つためにはクチクラで覆われていてはいけないため病原体が気孔から侵入することが予想され、これに対する防御応答の存在も予想される。実際、植物細胞の細胞膜上には病原体特有の分子パターン(PANP)を認識して防御反応を増幅する機構1や、これを防いでしまう病原体のエフェクターを認識して誘導される防御反応1がある。この機構に注目して植物の構造を見てみると、植物の背軸側に並ぶ細胞が不規則・不定形であることは、空気との接触面積を増やすことによって細胞膜上で起こる防御反応を増強することにも寄与していると考えられる。一方で向軸側では細胞が整列しているのは、間隙を減らして感染機会を減らすためだろう。ここには植物の葉の中で光合成をメインに行うのはどちらなのかということが表れていると考える。また、維管束が周囲を細胞で覆うのは、病原体を全身に広めるのを防ぎ、もし葉全体が感染しても落葉することで個体全体には広がらないようにすることに寄与すると考える。
参考文献:1. 桜井英博, 柴岡弘郎, 高橋陽介, 小関良宏, 藤田知道 著. 「植物生理学概論」.改訂版. 培風館. 2017. pp. 203-208

A:感染防御をテーマとしたのは面白いと思います。複数のポイントを取り上げていますが、やや個別論を並べたイメージになっていますから、できたらポイントを一つに絞って論理構成をすると、もっと主張がはっきりすると思います。


Q:植物の葉の、一様に扁平な形をしているという共通性は、植物の何か本質的な機能に起因し、その機能が光合成であることについて授業内で考察した。薄く広く降り注ぐ日光のエネルギーを効率よく集めるには単位体積あたりの面積を大きくする必要があるということだ。ここで、少なからず存在する扁平でない葉をピックアップして考察したい。授業中に学んだ内容を前提とすると、扁平でない所謂“葉のような形”でない葉にとっては、光合成の必要性は低く、その形にすることで得られるメリットが光合成の効率向上よりも大きいということである。マツの葉が代表的だ。マツの葉は細い形をしていて、扁平ではない。マツが葉を細くすることで得られるであろうメリットを、マツの生えている環境から考える。アカマツやクロマツは日当たりがよく乾燥した海沿いの砂地に生えていることが多い。日光が十分にある代わりに風や乾燥のストレスがある環境である。よって以下の二つのメリットが考えられる。
・葉を細くすることで強い海風に耐えることができる
・葉を細くすることで表面積を少なくし、保水性をあげている
一見光合成効率を下げるように思われても、生存全体を考えた場合にプラスに働く場合があると考えられる。

A:生育環境から特定の構造のメリットを推定するのは、単純ではありますが、わかりやすい論理構成だと思います。ただ、テーマとしてのマツは、何人もの人が取り上げていたので、あまりオリジナリティーがあるとは言えないようです。


Q:今回の授業で葉の形はどのような種類があるか?という先生の問いに対して生徒が様々な葉の形を列挙していった。そのとき挙げられなかったイチョウのような扇形の葉が生まれる仕組みが気になった。葉は葉の根元で細胞分裂が行われ、先にいくにつれ細くなる形になると自分は理解している。この考えで授業で挙げられた葉の形については納得できたが、葉の先に行くにつれ幅が大きくなるイチョウの形は納得がいかなかった。そのためこのレビュ-で取り上げ考えることにした。 私は、イチョウの葉の細胞分裂は根元ではなく先端で行われているため、普通の葉とは異なり扇形になると考えた。実際調べてみた結果、予想した通りであった。では、なぜわざわざイチョウの葉は扇形をしているのだろうか。私は、イチョウが針葉樹であるということに着目した。針葉樹の葉はマツやスギのように小さくは細長いものが多い。しかしその形状だと葉面積が小さく日光を多く受けることができないため、独自の進化をとげてより面積の大きい扇形になったと考える。

A:目の付け所は面白いと思います。ただ、最後の論理で光を受けるために葉を広げたというのであれば、光を集める必要性が、イチョウと、マツやスギとの間で異なるはずです。前半は調べるだけの話なので、後半に焦点を絞って、光を集める必要性の違いまで議論してほしいところです。


Q:第2回の講義では葉の形はいろいろな種類(2次元的な観点から3次元的な観点まで)があり、そのような形になるのは意味があることを学んだ。たいていの葉は平たいという共通性が見られることを学び、光合成という機能を優先するため厚さが制限されることがわかった。しかし、植物の種類によって多様である葉の形がなぜその形であるのかは講義ではわからなかった。私が疑問に思う葉の形の一つにカエデのような葉に切れ込みが入っているものがある。なぜそのような形をとるのか、「葉に雪が積もるのを防ぐため」という仮説を考えた。レモン型のような葉は中央に太く葉脈が存在するためその葉脈を起点に葉全体が窪んでいるように見え、雪などが降った場合葉に雪が積もりやすいと考えた。カエデのように切れ込みがある葉は葉脈が5本以上に分散し窪みがない。そのため雪が降っても積もることなく下に滑り落ちることができると考えた。一般的に葉が強固なことは有利と考えられるが、カエデのような雪が降る地域で生育する植物はこちらのほうがあっていると考えた。

A:話の論理としては、仮説がやや唐突なので、最初に葉脈の観察をもってきて、次にそこから仮説を立てて、最後に何らかの論理をつけて仮説を検証するのがよさそうですね。あと、事実としては、カエデは落葉樹ですから、雪の議論にはやや無理があります。ヤツデかなにかにした方がよいでしょうね。


Q:初回授業で自ら問題設定をして解き明かすと好ましいという趣旨の事を伺ったため、今回の授業スライドにあった問題設定とは内容をズラして書く。  葉柄が平たくない理由として、光合成が主たる目的の器官でない、葉柄の役割は光合成を担う葉を維持したり、長さを調節し幹から葉を遠ざけてより光合成に適した配置にしたりするといった内容の事を伺った。私としては、「長さを調節し…」以降に疑問を覚えると共に、植物を上空から見たときの葉柄間の角度こそが重要であると考える。葉柄のつき方がすなわち葉の配置となるため、ある植物がどれだけ光合成できるかを葉柄が(ゲノムレベルまではいかない訳だが)根本的に決定している点で重要であると考える。確かに中心(茎)から葉を遠ざければ葉の重なりが防げて日光に当たる表面積を増やし光合成の効率化ができる。しかし、同じく先生が授業内で話されていた重力の影響で葉がだんだん先端の方が垂れ下がってくるという現象と同じく葉柄も垂れ下がりそれに支えられた葉も垂れ下がり、その葉の下層には影を作ってしまうという問題が生じると考える。更には植物の生理現象で不可欠な光合成を主として担わない器官を巨大化させるメリットはコストを考慮すれば薄いと考える。そのため、「長さを調節し幹から葉を遠ざけてより光合成に適した配置にしたりする」のは平面に伸長する植物では有効かもしれないが、葉を階層状につける植物に対しては有効とは言えないと考える。葉柄が茎に適切な角度でつく事で葉が重なりづらくなり、適切な葉序となり下層に光が届く。実際に、葉序の角度は成長段階で変化するが発生時はその後の葉序転移のコストが最小となる137.5度(黄金角)である事が知られる(1)
 ではここで低木を用いた実験系を企画する。葉柄の長さ条件を1.オーキシン応答遺伝子とブラシノステロイド応答遺伝子をノックアウトして葉柄を短くした条件(2)、2.操作は施さないコントロールの2条件設定する。さらに葉柄間の角度の条件をⅰ.無色透明なクリップを用いて全ての葉が上空から見て重なるように固定して0度にした条件、ⅱ. 操作は施さないコントロールの2条件設定する。1条件ずつ組み合わせて計4条件でCO2吸収速度を晴天下で測定する。CO2吸収速度の結果を比較して(1.,ⅱ)と(2,ⅱ)の差よりも(2.,ⅰ)と(2,ⅱ)の差が有意に大きければ、植物には葉柄の長さよりも葉柄のつく角度の方が重要であると光合成効率面から評価できると考える。
《参考文献》
(1) Okabe, T. Biophysical optimality of the golden angle in phyllotaxis. Sci. Rep. 5, 15358 (2015).
(2) Kozuka, T. et al. Involvement of Auxin and Brassinosteroid in the Regulation of Petiole Elongation under the Shade. Plant Physiology. 153, 1608-1618 (2010).

A:面白いと思います。ただ、実験で光合成を測定する意味はあまりないかもしれません。この実験条件だと、葉の重なりの有無で光合成の速度はほぼ決まってしまいそうですから。例えば、日差しの角度は時間とともに変化していくわけですから、その場合には直感的に光合成速度を予測しにくくなります。そのあたりを論点に持ってくれば、光合成を調べる実験が必要になりますので、より論理がはっきりすると思います。


Q:第二回の講義のなかで、遺伝子の変異や細胞数で葉の形が変わるということを学んだが、私は「もし、細胞数を制御しないよう遺伝子を操作すれば、自由自在に葉の形を変えることができるのか」という疑問を持った。このことが可能であれば、葉面積を大きくし、光合成をより効率よく行うことができるはずである。しかし、この疑問に対して私は「葉の大きさには限度がある」と仮説をたてた。今回の講義でもあったように、先端の細胞の大きさは細胞分裂を繰り返すうちに決まるため、例えば細胞数を増やすように操作をしても、一方で細胞の大きさを小さくするように作用が働くのではないかと考えたからである。しかし、細胞の数を2倍、3倍としていったとき、細胞の大きさが1/2、1/3となっていくとは考えにくいため、この二つの関係性を実験で調べることで、「遺伝子操作によって、本来の葉に比べてどれくらい大きな、あるいは小さな葉までつくることができるのか」ということを解明できるのではないかと考えた。さらに、植物の種類によってこの値に差が生じるのかどうかという点に関しても、考察の余地があると考えている。

A:補償作用まできちんと考えていてよいと思います。ただ、現実の植物は、自然界での適者生存を生き残ってきているわけですよね。遺伝子の発現の変化だけで光合成の効率が上がるのであれば、そのような植物が、過去に出現して現在の地球上で優占しているはずではないでしょうか。


Q:第2回の講義では葉の形についてお話がありましたが、その講義内での葉の形とはいわゆる”本葉“についてでした。本葉の形については、葉の平面的な形と立体的な形の2つに注目しまして、前者は丸形、針状型、卵型や手のひら型のように多様性を持ちますが、後者は平たいという共通性を持ちました。そこで私は、”子葉の形”には多様性または共通性があるのかという疑問が浮かびました。例えばインゲンの子葉の機能としては子葉の間の茎葉に栄養を供給するという役割がある。一般的な子葉の主な役割として、種子状態下の栄養貯蔵器官、発芽直後の簡易的な光合成器官、単子葉植物における基部での茎頂の保護器官としての3つがあることがわかった。つまり、本葉のように光合成だけに特化した器官ではないため光合成に適した形になるとは限らないことが考えられたが、調べた限りでは子葉の形は本葉に近しい形になっていると思われる種が多かった。子葉に厚みはなく、面積も小さい共通性を持つ。これは子葉は発芽からある程度時間が経過し、本葉で十分な炭素同化が行われるようになると子葉は枯れ落ちる。また、種子内での折り畳み構造に制限され、発芽後に子葉自体の成長もないことも理由に挙げられる。結局よくわかっていません。

A:目の付け所は非常に良いと思います。ただ、実際に、マメ科植物などでは、子葉が厚みを持ったもの、あるいはそもそも子葉が地上に葉として現れないものなどがあります。そのような実例を挙げて議論できると、レポートの完成度が上がったと思います。


Q:葉が共通して薄い構造をしているのは表面積を大きくするためであることが分かった。理論上一定質量(体積)で薄さを限りなく小さくしていけば、表面積は無限に大きくなる。しかし葉の機能を保つために、あるいは物理的強度のため、限りなく薄くなることはない。表面積を大きくするにはほかに表面に凹凸を作ることなどが考えられる。例えば小腸の柔毛は表面積を大きくすることで吸収効率を高めている。葉の表面にこのような構造がない(あったとしても小腸の様に顕著ではない)理由としては以下のことが考えられる。
・葉の構造的に不可能。
・ただ単に表面積が大きければいいというわけではない。葉の太陽光を受ける面と太陽光の角度が小さくなるほど吸収効率が小さくなり、垂直の時最大となると考えられる。よって葉が小腸の柔毛のような構造を持っていたとしても、光の吸収効率が小さい部分、あるいは光が当たらない部分ができてたいして吸収効率の上昇が見込めない。

A:問題設定は面白いと思うのですが、理由(特に二番目の方)は、やや当たり前に感じます。もう一段考えられるとよかったですね。