植物生理学I 第12回講義

マングローブの根の光合成

第12回の講義では、少し視点を変えて、野外実験を計画し、現場での結果をフィードバックしながらその計画を変更し、場合によっては研究目的自体を変更しながら、研究を進手めていくプロセスを紹介しました。


Q:沖縄の調査結果では根の光合成は午後から行われていた。なぜ昼ではなく午後から光合成するのか疑問に思い考察することにした。葉では昼にも光合成が行われている。昼は日差しが強く光量も十分であるため光合成量が不足することはなく、葉で産生するエネルギーで十分なため根で光合成が行われなかったのだろう。しかし日差しが強い分、光合成が飽和状態になり阻害される可能性も高くなる。午後の根における光合成は昼の日差しによって損害された分を修復するために行われたのではないかと考えた。しかし日の長さも長いため光合成量が足りなくなることはない。それでも葉だけでなく光合成を根でも行うのは膨大なエネルギーを必要とするシステムがあるからではないかと考えた。そこで着目したのはマングローブの根は水中に浸かっている点だ。以前の講義でも取り扱ったように、水中では酸素の拡散速度は減少し、内部に伝わりにくくなる。陸上植物は土壌間隙から酸素を取り込むが、その間隙にも水が入り込む水中では更に酸素が取り込みにくく、わずかな酸素を取り込むには膨大なエネルギーが必要となる。更に淡水や海水であるため塩濃度は高く、その塩濃度に対抗するシステムにもエネルギーを消費する。塩濃度の高い水中で生息するためのシステムにエネルギーが必要となったのではないかと思った。午前の満潮時における酸素不足やお昼日差しによる損傷を補うため午後から根で光合成が行われるのではないだろうか。

A:光合成の必要性を、エネルギーの産生の観点からではなく、エネルギー消費の観点から見た点は高く評価できます。研究だけではなく、仕事全般にとってそうなのだと思いますが、物事を別の角度から見る、という姿勢は非常に重要です。


Q:植物に関する実験で、自分達で実験を組み立てて次の日に結果を見て考察したことがある。根の呼吸速度が塩濃度によってどのように変化するのかを調べるため、塩濃度の異なる3種類の水を同量与えて一晩置き、約24時間後に根の呼吸速度を測定した。塩分を多く含む水を吸収することで根の細胞の浸透圧が上昇し、水分が奪われることなどによって細胞内の様々な機構がうまく働かなくなると考えられたため塩濃度が上昇するほどに呼吸速度は小さくなると予想した。しかし実際には呼吸速度は塩濃度によらず、特に法則性は見られなかった。葉を見てみると塩濃度の高い水を与えたほうが明らかにしおれていて、根よりも葉の呼吸速度を測ったほうがよいのか、また根に影響が出るのはもっと時間が経ってからなのかを考えた。短い時間で実験を行うときは、条件をよく検討になにを調べたいのかをしっかり考えるべきである。また思わしい結果が出なかったときや時間が足りなかったと考えられるときもあるので、その場合は再実験することも選択肢に入れたほうがよいと思われる。

A:「再実験することも選択肢に」とありますが、この辺りについては生物学演習において、研究と実習の違いを解説したと思います。研究は、実習と違って、結果からのフィードバックによりどれだけ計画を変更できたか、という点が、その面白みを大きく左右します。


Q:今回の講義はいつもの授業とは異なり、園池先生が夏の間に行った調査についての講義であった。普段の教壇に立つ先生とは違う一面を見られた気がします。自分も沖縄のマングローブを見たことがあり、独特の植物や動物に驚きました。今回の実験では1つ調査するごとに新たな問題点が次々と出てきて、それを解決するために次の調査をすると新たな問題点が見えたくるという実験の苦悩を知ることができました。限られた調査期間のなかであれだけの問題点を見つけ、またそれに対する調査を行ったのはすごいと思いました。この実験に結論をつけることはできませんでいたが、自分で実験を考えて行うさいの姿勢や考え方など参考になりました。

A:まあ、今回の講義内容だとある程度しょうがないのかもしれませんが、やや感想文的ですね。内容は研究紹介であっても、その中に問題点を発見して論理的なレポートを書くことは不可能ではないと思います。


Q:今回の講義の冒頭で研究のPR動画を見たが、このPR動画は何のためにつくったのだろうか。個人的な趣味や思い出としてつくったのか、研究の紹介として一般の人に興味を持ってもらうためにつくったのだと考えられる。では、このPR動画をもっと活用することはできないだろうか。そこで、このPR動画をyoutubeで配信することを考えた。世界配信なのでより多くの人に見てもらうことができるという点と、動画の再生回数で研究費を集められるという利点が考えられるからである。iPS細胞でノーベル賞を受賞した山中教授は、iPS細胞の研究費を集めるためにマラソンを走ったと聞いたことがある。その仕組みは、山中教授がマラソンにチャレンジすることを応援するという形で支援金を集め、集めたお金をiPS細胞の研究の費用にあてるということである。現在ユーチューバーという職業は大変な人気であり、平均年収は約700万という一般のサラリーマンの平均年収が約500万だとされることからも比較的高収入だといえる。人気が出ると年収1億以上稼いでいるユーチューバーもいる。再生回数×0.1の値が収入である。より多く人に研究を知ってほしい、興味を持ってもらう動画をつくる、動画の再生回数を得る、結果的に収入も得ることができる。一石二鳥のアイディアだと考える。

A:着想はよいと思うのですが、これだけだと単発のアイデアという感じが少しします。この線で論理展開をきちっとしようとした場合、例えば、再生回数など基準にした場合の一般の動画に対して研究動画がもつメリット・デメリットを論じるなど、いくつかの方向性が考えられると思います。あと、「ユーチューバーという職業は・・・平均年収は約700万」という部分、科学的なレポートとしては、せめて出典を明記してください。ユーチューバーをどのように定義するのか知りませんが、「ユーチューブに投稿する人」=「ユーチューバー」ではないですよね。もし、「ユーチューブへの投稿だけで十分に収入を得ることができる人」をユーチューバーと定義するのであれば、その平均年収を議論するのは、「高い収入がある人は収入が高い」という同義反復にすぎません。


Q:今回メヒルギの呼吸根は光合成をするのか、クロロフィル蛍光測定を行ったが、根自体の光合成か根に付着した藻の光合成を示しているのかわからないということであった。これに対する解決策を考える。この場合、藻を除去するのが最も手早く簡便な解決策であると考えられるが、ただ洗浄するだけでは完全に除去されたとは言えなかったとおっしゃっていた。また、藻だけを枯死させるような薬剤を散布する方法も考えられるが少なからず根も弱体化させ、光合成活性に影響を与えてしまうと考えられる。そこで、私が考えたのは洗浄を水で行うのではなく、塩水で行う方法である。本来植物にとって塩分は害となるが、メヒルギは海水にも耐えうるように塩を体外に放出する機構を獲得している。この機構によるメヒルギと藻類の塩耐性の差を利用して藻類のみを枯死させることでメヒルギ単体の光合成活性を測定できると考える。どの塩濃度まで耐性があるのか予め実験し、耐えうる塩濃度の塩水を定期的に散布する。この作業は数日にかけて行う必要があるがその際、新たな藻類が付着しないように、付着抑制物質を塗布する作業を並行して進めるのが良いだろう。付着抑制物質については船の底への付着を抑制する塗料などの使用が考えられる。

A:このような考え方は、一般的に言って非常によいと思います。ただ、一般的に陸上植物と微生物の耐塩性を比較した時には耐塩性の微生物を見つけることの方が容易であること、そして海水を定期的にかぶる環境では、そのような耐塩性の微生物が選択的に増殖することを考えると、塩に対する抵抗性の差を利用するというここでの提案に関しては、実現可能性は低いように感じました。


Q:マングローブの根の外側は茶色、内側が緑色であるのはなぜか疑問に思った。光合成のためには光を多く受け取れる外側に葉緑体があった方がいいはずである。ここで2つの理由が考えられる。一つ目は、強い日差しから葉緑体を守るためではないだろうか。マングローブは沖縄などの赤道付近の直射日光の厳しい環境に生息している。そのため、根の内側でもしっかりとした日光を受け取ることができ、むしろ強光に当たりすぎると紫外線により葉緑体が傷つく危険性もある。このような理由から葉緑体を根の内側に多く配置しているのではないだろうか。二つ目は、変わりやすい周囲の環境から葉緑体を守るためである。マングローブの根は干潮時には空気中にさらされているが、満潮時には海水に浸かってしまう。根の周囲の環境は一日の中で水分量だけでなく塩濃度の面でも大きく変化するといえる。マングローブにとって大切な葉緑体を、変わりやすい環境に直接さらすのはあまり良くないだろう。そのため、葉緑体を内側に配置して外側の細胞が葉緑体を守っているのだと考える。

A:わかりやすい論理だと思います。ただ、樹木の樹皮は死細胞からできているという話をしましたよね。とすれば、そもそも、空気中にさらされた根の場合も、表面は死細胞に覆われている可能性が考えられるでしょう。その場合は、当然ながら、表面に生きた葉緑体を配置することはできません。


Q:【最先端の研究はLow Technology!?】もし誰もやったことがないような実験をしようとしたときは“Low Technology”が重要になると感じました。誰も行ったことがない実験の場合、恐らく実験に適した実験器具はないと思われます。そのようなときに身近にあるものや既にある実験器具をいかに活用できるかで、実験の成功を決めると思いました。というのも、東京大学の理学研究科に遊びに行ったときに、実験で使っていた実験器具の多くが手作りだったのが印象的でした。既存品からやれる実験を決めるのではなく、やりたいこと(目的)から1番目的を実現できそうな実験系を作るのが研究室に入ったら重要になると思ってます。

A:その通りだと思います。完璧に整えられた環境でしか研究をできない研究者は、どこかで消えていくことになるでしょう。これは、野外実験により当てはまりますが、実際には研究室内の実験でも同じです。一方で、レポートとしては、感想以上のものが少しほしいところです。


Q:短期間で研究をされたということで、とてもすごいなと思いました。さらに、研究の難しさも同時に感じました。途中で何がしたかったか見失ったり、欲しかった結果が得られなかったり、いろんなことがあってなかなかうまくいかないことが多いんだと思います。いま私たちが行っている学生実験はプロトコルがしっかり組まれているので、何度も繰り返し行う字何度も繰り返し行う実験は行ったことがないですが、このような実際の話を聞かせてもらうことで少しだけではあると思いますが研究の醍醐味でありむずかしさがわかったきがしました。

A:これも、内容自体はまっとうなのですが、この講義のレポートとしては、感想以上のものが欲しいですね。


Q:今回の講義ではマングローブの植生の実験についてを学んだ。実験内容としてはマングローブの根の光合成方法であった。マングローブの根には葉緑体を持っているということは講義中に学んだが、ここで考えたのはこの葉緑体を用いて光合成を行なっているのは根が水中にない時のみで、潮が満ちて根が水中にある時は根で光合成が行われていないのではないかということであった。よって、根が水中にある時は根の葉緑体ではなく海藻などの水性植物を根に共生させることによって、光合成を行なっていると考えた。ここで必要なことは根の光合成量と、共生している水性植物の光合成量を別々に計測した上で、根が水中にある時の光合成量と比較する必要がある。実験では根と藻を分けた光合成量の検出に難航していたが、今回のレポートではこの方法について考察していく。自分の考える根と藻を分けた光合成量の検出方法は水中にあるときの水性植物とマングローブとを合計した光合成量からマングローブの根に共生している藻を種類別に量の多いものから個々で計測し、量の割合と同じ比率で平均を取ったものを引けばマングローブのみの光合成量がわかるというものであった。しかし、『いくらサンプル量を増やしても個々の差を考えずに一つのサンプルから引いたものをマングローブの光合成量としていいのだろうか』など、問題も多く、改善や、改良が必要である。

A:問題設定は非常に良いと思います。ただ、やはり解答にたどり着いていない感じですね。といっても、実際に光合成の測定方法の経験があるわけではないので、具体的に実験系を考えるのは難しいでしょう。いずれにせよ、このように考える努力をするところが重要です。


Q:本講義では、マングローブについて言及するものであった。私は、以前に沖縄旅行に行ったことがあり、その時にマングローブについての話を耳にした。ここで現在、地球ではCO2濃度上昇により地球温度化が進行しており、そこでマングローブ林が生育することで光合成によりCO2吸収を行い、地下部で他の植物以上に炭素を貯蔵し、固定している。ここで、私は、どのようにしてマングローブの方がより地下部に炭素を固定できることに疑問を抱いた。これはマングローブの炭素蓄積量が他の亜寒熱帯・温帯林・熱帯高地林に比べ、地下部に深く分布しており、物理的に根から地下深くまで炭素を有機物として固定していることが起因したからである。

A:この論理の成否は、「地下部で他の植物以上に炭素を貯蔵」という部分が、どのような実験によって得られた結果なのかに依存しますね。その意味でも、調べた結果を書く場合には、必ず出典を明記するようにしてください。


Q:今回は趣向を変えて実際に実験系を作る際にどういった事柄を重要視し、どういった検討をし、どういったトラブルに直面するかという、これからの私達にとってためになる授業であった。私が当講義を聞いて感じたのは比較実験の重要さである。例えば根の光合成を一つとってもそれに付加されてる生物による光合成なのか、本当に根による光合成なのかが比較を行わないとわからないし、光阻害に関することでも同様である。私達が普段行う学生実験においても対照がなければ何の意味も持たなくなってしまうのだなと実感した。そのため、今後実験系を組み立てるに当たって、比較検討を行い、そこから更に疑問や発見をディスカッションなどで見つけていくといったスタンスが重要なのではないかと感じた。

A:これも、内容自体はまっとうだと思います。それでも、この講義へのレポートとしては、もう少し論理が欲しいところですね。