植物生理学I 第8回講義

植物の根と栄養塩の吸収

第8回の講義では、根による栄養塩の吸収を中心に、根粒菌による窒素固定なども含めて講義を進めました。


Q:シアノバクテリアの中に窒素固定と光合成を時間で分けて行っているものがいるという話があった。植物にも体内時計があるといえるが、この体内時計は植物体のすべての細胞に存在しているのか、それともある特定の組織が担っているのか疑問に思った。これは時間遺伝子の発現を組織ごとに阻害して、それにより植物の成長にどのような影響があるか実験することで確かめることが出来るだろう。組織ごとに発現を調節することが出来れば、葉・茎・根といったおおざっぱなくくりではなく、茎の維管束・表皮というように細かく確認することが出来るのではないだろうか。

A:少しあっさりしすぎていますね。いきなり「疑問に思った」だけで、その時点までには論理展開がありませんし、それを証明する実験系にも工夫が感じられません。もう少し、論理性を重視したレポートにしたいところです。


Q:今回はマメ科植物と根粒菌の共生について学んだ。そこでなぜマメ科植物以外は共生しないのか進化の過程を踏まえて考察する。根粒菌と同じく植物と共生する菌としてアーバスキュラ菌根菌がある。これは土壌中に普遍的に存在し、およそ80%の陸上植物と共生することができる。この共生菌類は今から4億年前に陸上植物の出現とともに進化してきた。一方でマメ科植物が登場したのは中生代から新生代への変わり目、約6400万年前である(「根粒菌と根粒植物」http://www.kubota.co.jp.pdf)。このことから、陸上植物は既に土壌微生物と共生する仕組みを持ち合わせていたことになるが、あえて根粒菌との共生の道を選ばなかった。つまり、マメ科以外の植物も共生は出来たが、ある時点で必要がなくなったので共生しなくなった可能性を考えた。不必要になった要因として根粒菌との共生過程の複雑性があげられる。根粒菌と共生するには、マメ科植物から根粒菌誘因物質の分泌、相互認識、根の形状変化、感染糸の形成と多くのステップを踏まなければならない。実際にマメ科植物と根粒菌も互いに独立して3回ほど進化させ、試行錯誤を行ってきた歴史があることから、これが容易に得られるシステムでないことがわかる。さらに、現システムに至るまでに根粒菌の認識ミス(害となる細菌を体内に入れてしまう)といった危険性もあるため敢えてこのシステムの取得には至らなかったと考えられる。以上がマメ科植物以外が根粒菌と共生しない理由と考える。

A:そもそも、講義では、窒素固定の大きなデメリットとしてエネルギーの消費を挙げているわけですよね。講義をリピートすることはむしろ避けるべきことですが、このような論理展開の中で、講義で説明した重要な要素を無視しては、きちんとしたレポートとは言えないでしょう。


Q:今回の授業ではそれぞれのイオンをそれぞれの性質に合わせて取り込むことができるということを学んだ。オオカナダモは葉からもリン酸を吸収できるということを聞いたため、ほかの植物でもそれを用いて根からだけではなく葉からも栄養を吸収できるのではないかと思い、調べてみた。葉面に肥料を塗布する方法があり、葉面吸収は根の場合と同じようにエネルギーを消費して行われる積極吸収である。葉の表からも、裏からも共に吸収する[http://n-seikaken.co.jp/item/leaf/about.html]。だが、葉からの吸収は調べたように人工的に塗布した場合しか吸収しないらしく、どんなに調べても出てこなかった。また、葉面吸収でもその割合は案外少ないため[http://www.shk-net.co.jp/web/img/webdata019.pdf]根からの吸収が効率がいい。イオンの吸収については根の方が効率のいいしくみができているらしい。

A:これは、単なる調べものレポートですね。高校までならばこれでもOKかもしれませんが、大学のレポートとしては不十分です。もう少し、自分の頭を使ったレポートを書いてください。


Q:今回の講義で、根粒は丸い形をしているが、なぜ丸い形であるかというと表面積を小さくするためだということを知った。根粒とは、マメ科植物の根に付いているこぶのようなもので、その中には根粒菌という細菌がいる。根粒菌は、宿主のマメ科植物から栄養をもらい生きており、一方で植物がつくれない物質をつくることができそれを宿主に与えている。植物がつくれず根粒菌がつくれる物質というのは、窒素化合物である。根粒菌は空気中の窒素ガスをもとに窒素化合物をつくり、さらに窒素と水素を結びつけてアンモニアにする窒素固定を行うことで植物が窒素を利用できるようになる。窒素を多く取り込むには表面積が大きい方が効率が良いのではないかと考えたが、植物がヘモグロビンを発現し酸素を吸収してニトロゲナーゼの働きを守るほど、窒素固定する根粒菌のニトロゲナーゼは酸素に弱い。その理由から、酸素に触れる表面積を小さくするために丸い形をとっていると考えられる。葉の表皮に存在するクチクラ層が、酸素や窒素など空気は通すが水は通さないように、窒素は通すが酸素は通さないという層をつくることができれば表面積を大きくすることができると考えられる。そうなれば、丸い形ではなく細長い形や根に似た形に変形すると考える。マメ科植物と根粒菌は共生しているため、根粒菌はより宿主に似た形になり外敵から身を守るため外部から区別がつかないようになるのではないかと考えた。

A:最初の2/3は、単なる知識ですから、この講義のレポートの採点対象にはなりません。最後の部分には、わずかに独自性が認められますが、論理展開と言えるレベルにはなっていません。もう少し、きちんと論理を考えてレポートを書いてください。


Q:食虫植物は土壌の栄養が少ない湿地に生息している。土壌の栄養が少なく、土からのみでは十分な栄養を取れない為、虫を捕獲し溶かすことでそこから栄養を得るという形態を持つようになった。そのため根は栄養をとる必要がないため食虫植物の根は他の植物に比べてかなり退化している。これは根の栄養を吸収する役割がとても重要と示すものであると考えられる。根には支え、水の吸収、栄養塩の吸収の3つの役割があるがこの1つの栄養塩の吸収がなくなっただけでかなり退化するので栄養塩の吸収は根を発達させるのに重要な理由であると考えられる。ただし食虫植物は湿地に生息しているので水の吸収には苦労しないことも考慮する必要があるので退化の原因が栄養塩の吸収だけとは言えないがそれでも栄養塩の理由が一番の大きな理由であると言える。

A:食虫植物が湿地に生えている、という事実だけをもとに論理を展開しているので、やや苦しい面はありますが、一応、考えて書いていることはわかります。後は、もう少し論理に厚みをつけることができるとよいでしょう。


Q:今回の講義で土壌含水率が減少すると水よりもイオンの取り込みの方が大きく減少すると聞いた。そこでどうしてイオンの方が影響を受けやすいのか疑問に思い、自分なりに考察することにした。まず、土壌中のイオン濃度は元々低い。そのため浸透圧で取り込むことができずエネルギーを用いて取り込む。土壌含水率が減少すると水分の吸収量も減少する。含水率が減少し植物体の水分量も減少する中、土壌中の微量なイオンを吸収するためにエネルギーを使用することは非常に非効率である。また、講義の話でも出たように土壌含水率が減少するとイオンの拡散係数も減る。つまり元々微量なイオンを吸収するためにはエネルギーが必要であったのに、含水率が減少した状況ではさらなるエネルギーが必要となってしまう。つまり含水率が減少すると、根ではイオンの取り込みが減少するというより、エネルギーを大量消費しないために取り込みを抑制していると考えた。ではエネルギーを消費したくないから取り込みを減らすのか。ここで含水率が減少するとアクアポリンが増加することで取り込む水分量を増加させる仕組みに着目する。つまりエネルギーを使って外部に働きかけ、拡散しにくい状況下で吸収しにくい水やイオンを吸収するのではなく、アクアポリンを増加させるという植物体内の構造を変えることにエネルギーを消費しているのだと考えた。

A:考えようという姿勢は感じられます。ただ、ロジックが必ずしも明確ではありませんね。文と文をつなぐ際に、もう少し論理展開を厳密に考えた方がよいと思います。


Q:【カリウムから考える植物にとって重要なもの】講義で、根粒菌によって窒素をアンモニアにすることで植物が利用できる形にしていることを学んだ。しかし、窒素をアンモニアに変換する反応では大量のエネルギーが必要であった。そこで、植物で最も必要とされているカリウムについて探求してみることにした。カリウムは、細胞の浸透圧維持や酵素の活性に用いられていて非常に重要なイオンである。植物が最も使うイオンにカリウムを選んだのには、植物機構と密接な関係性がありそうなので、今回はカリウムという観点から植物を読み解きたいと思う。カリウムと同じ1価のナトリウムの方が、原子半径も小さいので水との親和性がよく、簡単に手に入れられそうですが、カリウムを選んだ理由として2つが考えられます。1つ目がナトリウムをメインにすると海水など塩水が近くにある場所が生息しやすい地であると考えられるが、海水の近くは風や土などの環境要因が悪く生息には適さなかった。2つ目がナトリウムの方がカリウムより親和性が良くても、水分子の活動はカリウムの方が活発だということが分かっている。つまり、代謝活動などの生命維持を最優先に考えると、水分子の中で移動させやすいという観点が非常に重要と思われる。水分子の中で移動させやすいので、細胞の浸透圧維持や酵素の活性を素早くできて生命維持に繋がるからカリウムを植物は選択したと考える。

A:面白そうなポイントを考えているのですが、表現が今一つ厳密でないので、論理がきちんと読み取れません。例えば、「水分子の活動はカリウムの方が活発だということが分かっている」というのは、何のことでしょうか。「分かっている」ということは、何かを参考にしているのだと思いますが、出典が明示されていないので、検証することもできません。参考にしたものがある時は、出典を明示するとともに、もう少し厳密な表現を使うようにしてください。


Q:本講義ではマメ科の植物と根粒菌が共生していることを学んだが、それを聞いて疑問に思ったことがある。それはマメ科の植物以外にも根粒菌と共生する生物はいないのかという点だ。マメ科以外で根粒の形成が報告されている植物はハンノキ、ソテツ、マキなどがある。根粒菌とマメ科とは共生するためのシステムがゲノム単位で構成されており、はるか昔から共生状態を維持してきたことがわかるが、非マメ科の植物ではこのような根粒は見られても、内部構造は大きく異なっており、窒素固定の多くは微生物などが担っていることが多い。ではなぜ根粒が確認されるのにもかかわらず、マメ科と同じような内部構造をとっていないのであろうか。ここからは自身の考察となるが、マメ科も根粒を形成する非マメ科の植物はゲノム単位の共生状態であるため、太古からのシステムをそのまま維持していると考えられる。よって、太古の養分の不十分な土地でマメ科の植物は根粒菌と共生状態になることで植生を保っているが、非マメ科の植物もこのようにして太古に独自の共生生物を選択し、それが現代でもそのまま維持されているのではないかと考えた。

A:これも、考えようという姿勢は感じられますが、概念をあいまいにしたままで議論を進めてしまっている気がします。「ゲノム単位の」や「内部構造は大きく異なる」といった表現によって、何を言わんとしているのかがつかめません。また、非マメ科植物について「窒素固定の多くは微生物などが担っている」とありますが、これはマメ科植物でも同じですよね。以心伝心のような表現ではなく、一段ずつ論理をかっちり積み上げていくことが重要です。


Q:今回の講義では植物の根について学んだ。特に根における栄養の吸収の仕組みが面白かったため調べてみた。窒素系の肥料は植物にとって有用なものであるが、動物の糞といった有機物肥料を大量に使った場合にアンモニアが発生し葉に対して有害な影響を及ぼす「ガス障害」というものがある。これはアンモニアが気孔から葉に入り込み化学的な影響を及ぼすというものであるが、根に対しても影響があると考えられる。肥料から発生したアンモニアが土壌中に飽和しているということは土壌中において他の気体が入る余地がないということだ。根の呼吸によって発生する二酸化炭素が土壌中に排出しにくくなれば呼吸速度が低下して根における細胞の活動が低下し、発育などに影響を及ぼすと考えられる。
文献:ガス障害 ルーラル電子図書館、http://lib.ruralnet.or.jp/genno/yougo/gy266.html

A:これだけだと、一つの思い付きにすぎません。そのように考えること自体は良いのですが、それについて、さらに考察を重ねることによって確からしさを増すことが重要です。そうして、初めて文章に論理が生まれます。


Q:今回の授業において、細胞間隙における水銀イオンの光合成阻害について学習した。一般に、植物は葉緑体、基質として二酸化炭素、水を用いて光合成を行っている。その際に、この光合成の反応系に水銀イオンが関与することで、なんらかの影響により光合成が阻害されてしまう。以下ではこの原因について言及したい。私は、水銀が常温において液体であることから、他の金属とは異なり、このような光合成阻害に影響をもたらすのではないかと考える。また、植物の水分供給はアクアポリンを介して行われており、この水銀イオンが液体としてアクアポリンを通過し、化学反応を起こすことで光合成の基質である二酸化炭素、水の相対量が減少してしまうことで光合成阻害が起こると考えた。

A:これだけだと、原因について思いついたことを一つ述べたにすぎません。「原因について言及」とありますが、言及ではなく、考察してほしいところです。


Q:大豆には窒素の供給源として根粒菌がいる。そして、ゴリラなどの草食動物は窒素の供給源として腸内細菌がいる。草食動物は主食が植物であるため、食事から得られる窒素分が少なく、不足するアミノ酸を得る解決策として、腸内にアミノ酸を合成する細菌を共生させていると考えられる。授業では土壌中に窒素が少しでもあると、窒素固定能力はエネルギーがかかりすぎるため、進化の過程で失われると習った。ここで、私が疑問に思ったのは草食動物などにアミノ酸などを人工的に投与した場合、草食動物の腸内フローラが変化するのかということである。もし腸内のアミノ酸を合成する細菌が消える、もしくは減少した場合、これはやはり、共生細菌に窒素を供給させるのはコストパフォーマンスが悪すぎるのではないかと考えた。

A:これは面白い点に注目していますね。ただ、草食動物の代表例にゴリラを取り上げるのはどうかな、と思います。また、草食動物の場合は、食べるものの主成分がセルロースである、という点も重要なので、窒素だけで議論を進めるのは危険でしょう。


Q:今回の講義で、オオカナダモは根以外の葉の表面からもリン酸(栄養塩)を吸収しているという話題があった。この進化的・生物学的利点について考察したい。文献によると、オオカナダモは湖沼、河川、水路などの日当たりのよい浅い停滞水域を好み、低温やアルカリ性に耐性がある、とある。オオカナダモは水面を覆うように高速で繁殖する性質を持つ沈水植物である。浅い停滞水域を好むとはいえ高速に繁殖した状況で、根のみから葉や茎の量に対応するほどの栄養塩を供給するのは困難である。また湖沼の底は粘土質で、水ポテンシャルと同様に栄養塩類も土粒と強固に結びつき吸収は困難であると考えられる。またアルカリ耐性があるとあるが、基本的に植物はアルカリ性条件下では栄養塩の吸収効率は低下すると考えられる。文献2ではウキクサでpHを変化させたときのリンの吸収率が示してあり、至適pHは6であるとある。pH8ではpH6の20%程度の吸収率である。オオカナダモはこのような条件下でも、根だけでなく葉の表面でもリン酸を吸収可能にすることで有利に繁殖を行うことができるのではないか。
参考文献:“侵入生物データベース オオカナダモ”.国立環境研究所.https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/80670.html

A:全体として、オオカナダモ特有の話をしているのか、それとも沈水植物一般の話をしているのかを明確にして議論した方がよいでしょう。ここで述べている事項は、沈水植物一般に共通である様の思われます。


Q:今回の講義では根の吸収や窒素固定について主に扱われていた。植物は土壌中のアンモニウムイオンを根から吸収し、それをアミノ酸の材料として用いる。したがって土壌中にアンモニウムイオンが十分量存在しなければ植物はタンパク質を合成することができず、成長できなくなる。通常は空気中から土壌へと窒素分子が入り込み、土壌中の微生物などによってアンモニウムイオンに変換されることで植物が利用できるようになるが、そういった微生物が少ない土壌や、土壌含水量が少ないために生成されたアンモニウムイオンが効率よく植物に吸収されない土壌では植物の生息は難しい(1)。マメ科の植物は土壌中のアンモニウムイオンが少ない土壌でも生息することができるが、これは「根粒」と呼ばれる組織を持っているためである。根粒中にはシアノバクテリアなどが生息しており、これらのバクテリアの多くはは窒素分子からアンモニウムイオンを生成する「ニトロゲナーゼ」と呼ばれる酵素を持つ「ヘテロシスト」という異形細胞を持っている。したがって土壌中のアンモニウムイオンに頼らずとも十分量のアンモニウムイオンを得ることができる。この根粒という組織を遺伝子組み換えで他の農作物に応用することで、農地の土壌条件(アンモニアイオンの量や土壌含水量など)に合わない農作物を育てることができるようになるのではないかと考えられる。根粒中のバクテリアは窒素固定の代償としてその植物が光合成で合成したタンパク質を受け取っており、また窒素固定には大きなエネルギーを必要とするため、光合成によって十分量以上のでんぷんを合成する能力がある植物種のみしか成長することができないと考えられるが、もし根粒を持たせても十分な収穫が得られる農作物があれば農業にとって大きなメリットになると考えられる。
参考文献(1) http://www2.tokai.or.jp/seed/seed/mijika10.htm (参考 2018.6.16)

A:多くの植物では、実際に窒素源として取り込むのはアンモニウムイオンではなくて硝酸イオンです。この辺りは、僕の講義では生化学IIで取り扱います。また、土壌中の微生物によって窒素固定が行われるという記述は不正確です。だいたい、参考文献として挙げあられているのは、根粒菌の説明のページですよね。そこには、土壌中の微生物によって窒素固定が行われるという記述はありません。そもそも、この講義のレポートとして求めているのは、事実の記載ではなく、頭で考えた論理です。調べたことを書くのではなく、人には思いつかない、自分独自の論理の展開を書くようにしてください。


Q:根毛や小腸の柔毛は表面積を大きくし、外部からの物質の吸収効率を上げる効果がある。しかし、同じく「表面積を大きくし、気体の交換効率を上げている」と習った肺胞はなぜ球形をしているのだろうかと疑問に思った。同じ体積で表面積を最小にする形が球体であるのなら矛盾しているのではないだろうかと感じたためだ。根毛・柔毛と肺胞の違いを考えてみると、接している外界から物質を取り込むという点において、根毛や柔毛は取り込む場所によらないのに対して、肺胞は血管に取り込む必要性があるという違いがある。肺胞を根毛のような細い構造にしてそこに毛細血管をぐるぐる巻きにすればいいのではないかと思ってしまうが、棒状のものに糸をぐるぐる巻きにするには糸の一端が固定されている状態では難しいかもしれない。一方で球状の場合、ネット状に広げた毛細血管をピタッと張り付けることは容易な気がする。また、球状は圧力に対して最も強い形状であることが関係しているのではないだろうか。根毛や柔毛では外界の圧力が大きく変化することはあまりないだろうが、肺の場合は呼吸によって絶えず内圧が変化するため、それに耐えるために丈夫な球体型になったのだと推測できる。そしてもう一つ重要だと思うのは、気管支が非常に細かく枝分かれしており、根のように張り巡らされていることである。これらのことを踏まえると、「表面積を大きくして気体の交換効率を上げている」のは気管支の構造であり、肺胞は表面積を広げるという点よりも、毛細血管がくっつきやすくするという点が重要なのではないだろうか。もちろん肺胞構造によって表面積はさらに大きくなっているが、表面積を大きくするだけが目的だとすれば植物の根毛の先端も肺胞のような構造になっているのではないだろうか。もしかすると実際にそのような根をもつ植物が存在するのかもしれないが、肺胞の球形は血管との関係が強いのではないだろうか。

A:面白い点に着目したと思います。でも、一番大きな違いは、真ん中ぐらいで触れられているように、呼吸する必要性ではないでしょうか。肺胞に空気を出し入れするためには、肺胞自体を膨らませたりしぼませたりしなくてはならないはずですから、それを例えば細い針状の組織でやるのはあまり現実的ではないと思います。


Q:今回の講義の中で、土壌含水量が減ると拡散係数が減少すること、イオンの拡散係数はさらに激しく減少することなどが触れられた。土壌含水量の違い、すなわち水やイオンの拡散係数の違う環境において、植物の根の形状に特徴が現れるのかどうかを考えるため自宅にある植物の根を観察することとした。土壌含水量の極めて少ない環境(砂漠)で生育する植物としてサボテン、極めて多い環境(熱帯・亜熱帯)で生育する植物としてランを例に取り、両者の鉢植えを掘って根を観察した。サボテンの根は、双子葉類であることもあり太い主根のようなものも確認できたが、それぞれの根の先端は非常に細く枝分かれし、高密度で土壌中に存在していた。一方ランの根は単子葉類であることもあり、ひげ根が高密度で土壌中に存在していたが、それぞれの根は太く枝分かれは少なかった。また先端は細くなっておらず根毛のようなものも肉眼ではまったく確認できなかった。両者は系統的にも離れており根以外の構造も大きく異なるため、土壌含水量以外の要因によって根の形状が決定している可能性や、鉢植えであるため野生環境と形状が異なってい可能性も考えられる。しかしそのことを除いて考えると、今回の観察から土壌含水量が少ない環境で生育する植物(サボテン)は土壌中の水が拡散しづらい環境に順応して、土壌含水量の多い環境で生育する植物(ラン)よりも、先端に行くほど細くなったり、根毛を多くしたりと、細かい密度で根をはる傾向にあると考えられる。

A:面白いと思います。ただ、一つだけ注意すべきことがあります。それは、熱帯で生育するランの中には、樹上性のものがかなりあり、それらは、土壌に根を生やしていないので、熱帯雨林の中でありながら、常に乾燥にさらされています。したがって、一口にランといっても、その実際の生育環境は、全く異なっているものがいることになります。


Q:今回の授業で、シアノバクテリアは窒素が欠乏するとヘテロシストという細胞を分化させ、窒素固定を行うということがわかった。このメカニズムには、窒素が不足していることを感知し、ヘテロシストを分化させる機構が必要であり、その機構を担っているのが制御タンパク遺伝子cnfRであるという発表が近年されている(文献1)。私はこのcnfRを活用していく方法があるのではないかと考えた。土壌の栄養が不足している地域でcnfRを発現させた植物を育てることによって、生育困難だと考えられていた場所で植物を育てることが可能になるのではないだろうか。cnfRの発現方法や、窒素固定の酵素が酸素に弱いことから、嫌気呼吸の調整の必要性などの課題はあるが、実現の可能性はあるのではないかと考えた。
参考文献 1.シアノバクテリアの窒素固定に必須の制御タンパク質を世界で初めて発見、https://www.jst.go.jp/pr/announce/20140422/index.html

A:「課題はあるが」といって問題を素通りしてしまったら、単なる思い付きレポートになってしまいます。この講義で求めているのは、論理の展開です。窒素固定の制御タンパク質を変えたら、窒素固定が変わるだろう、というだけでは、何の面白みもありません。


Q:塩害に強い植物を開発するために行う根に対してのアプローチについて考察する。過剰な塩分によって植物に与えられる影響は①細胞内での塩分の蓄積によるストレス②浸透圧ストレスである。イオンの細胞内蓄積によるストレスは、根からの塩分の吸収を減少させれば緩和することができると考え、根でそういった機能を持つ部位を強化すれば良いと考えた。調べたところ根の内皮を取り囲むように存在し、塩分の流入を防ぐ部位としてカスパリー線があることを知った。カスパリー線の発現遺伝子のはたらきを促進するような品種改良を行えば耐塩性を強化できるのではないだろうか。根からの塩類の排出機能を高めるためにナトリウム/プロトン対向輸送体の発現を多くすることも効果的であると考えられる。また、塩分の存在による浸透圧ストレスに対しては、細胞内への糖類の蓄積を促進する遺伝子の発現強化によってかなえられると考えた。

A:これも、3つの点に関してそれぞれ対応策を挙げているだけなので、考えていると言えば言えますが、この講義のレポートで求めている論理の展開とは言えません。