植物生理学I 第9回講義

根粒とシアノバクテリアの窒素固定

第9回の講義では、光合成生物における光合成と窒素固定の関係について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回の授業では、窒素固定で有名なマメ科植物と窒素固定細菌の共生の話から、シアノバクテリアの話になり、シアノバクテリアは「ヘテロシスト」と呼ばれる窒素固定を専門に行うような細胞を分化させるということを学んだ。窒素固定を行うニトロゲナーゼは酸素に弱く、従ってヘテロシストは光化学系Ⅱを持たず、細胞壁を厚くして酸素の侵入を防いでおり、完全に通常のシアノバクテリアの細胞とは異なっている。つまり、全ての細胞がヘテロシストになってしまっては光合成ができず、生き延びれないため、ヘテロシストには一定の間隔で分化させるために抑制物質を出す機構が存在するということも学んだ。私はこの説に疑問を持ったため、それについて考察することにする。
 一番の疑問点は、一番初めにヘテロシストができる時のことである。ヘテロシストが抑制物質を出すなら、そもそもヘテロシストがない最初の状態では、抑制物質が存在しないわけであり、ほとんど全ての細胞が一様にヘテロシストに分化してしまうのではないかと思ったのである。調べてみると、初期には4個の細胞がセットになっていて、この両端の細胞がヘテロシストになりやすいこと、一度も分裂することなくヘテロシストになる細胞もあることがわかった(1)。これらのことから、通常の細胞もわずかながらヘテロシストへの分化を抑制する物質を出しているのではないかと考えた。その濃度は1細胞分だけでは不十分で、したがって4細胞のセットのうち中央の2細胞はヘテロシストに分化しにくいのだと考えた。また、一度も分裂せずにヘテロシストになる細胞はこの抑制物質遺伝子に異常があり、ヘテロシストになってしまう。するとヘテロシストからは高濃度の抑制物質が分泌され、他の細胞の分化を抑制しているのだと考えた。これらを考えると、初期のシアノバクテリアでヘテロシストが大量にならない理由が説明できる。これを証明するためには通常の細胞でヘテロシストの抑制物質をコードしている遺伝子周辺を調べ、発現調節した場合に、初期のシアノバクテリアのヘテロシストが有意に多いという実験結果が得られれば良い。
・参考文献 1.東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻・生命環境科学系 、佐藤直樹研究室ホームページ「ヘテロシスト形成のパターンがなぜできるのか」 (http://nsato4.c.u-tokyo.ac.jp/old/kihonGenri/kihongenri3_hetero.html) 2017/06/18閲覧

A:「ヘテロシストになる」という現象をもう少し特定してから考えたほうが良いかもしれません。ある栄養細胞が任意の時点でヘテロシストになれる場合と、分裂直後に片方もしくは両方がヘテロシストになる場合とでは、考え方がだいぶ違いますよね。ここでの議論は前者でしょうか。


Q:大豆の根粒菌についての講義を聞いて、農家の祖父が枝豆の収穫時に「根粒菌がいっぱいついているから来年は肥料を多めにしないとな」という内容のことを言っていたのを思い出した。当時は何を言っているか分からなかったが、大豆はダイズ根粒菌を自らに感染させることで窒素固定を行わせて足りない窒素を獲得し、代わりに光合成生産物をエネルギーとして与えるという共生関係にあると知った。そして大豆の根と葉がシグナルを送りあうネットワークが存在し、根粒菌の数をコントロールしている。そのため土壌中に十分な窒素がある場合、また大豆がこれ以上窒素を必要としない場合、根粒を作らないという制御シグナルが根へ送られると考えられる。このことから祖父は、化学肥料で土壌中の窒素を増やすことで、大豆が根粒菌に極力依存しない環境を作り、光合成生産物の損失を抑えて枝豆の高品質化を図っていたと考えられる。しかしながら根粒菌に一切依存しないで生育するのは、根が細くて小さく栄養の吸収能力が低い大豆にとっては難しいといえる。そこで根粒菌に一切依存しないで生育できる大豆を品種改良で生み出すことができれば、光合成産物を失うことなく栄養が凝縮された大豆や枝豆ができるのではないか。根を太く長く広範囲に伸ばすよう遺伝子操作を行い、十分な窒素を含む化学肥料を与えればそれが叶うと思われる。しかし、根の成長に用いられるエネルギーが増えることで豆の成長に使われるエネルギーはその分減るため、本当に効果的な品種改良かどうかはわからない。

A:一番最後に考察されているように、これらのことは、量的な関係を考えないと結論できないかもしれませんね。光合成産物の損失についても、これがそれほど大きくなければ、化学肥料の効果はあまり期待できないでしょう。強光環境では光合成産物に余裕があるし、弱光環境ではそれほど窒素が必要ない、というようなことがあれば、案外、化学肥料の効果がない場合も考えられます。


Q:以前訪れたシンガポールの熱帯林や小笠原の山では、腐朽菌は見られるものの、菌根菌の子実体であるキノコの数が極めて少ないことに驚いた。菌根性のキノコは特定の植物と共生すると、教えてもらったことがあるため、マツやブナといった、外生菌根菌と共生する樹木が熱帯には少ないからだと納得していたが、それでは熱帯林の木々は、どのようにリンを吸収しているのか疑問に思った。今回の授業では、リン濃度が高いところでは菌根菌に感染する必要がない、と聞いた。そこで熱帯は豊富なリン土壌なのかと考えたが、一般的に熱帯降雨林は低リン土壌であるという(参考1)。また、熱帯樹木はアーバスキュラー菌と共生関係を作っているという報告(参考2)があったため、キノコの出番はないことが分かった。では何故温帯では外生菌根菌と共生する植物がいるのだろうか。一種類のキノコの周囲には他種のキノコが生えないことから、キノコには他の菌を抑制する抗菌性があるのではないかと考え、実験したことがあるが、その時は抗菌性を示す結果が出た。そのため、外生菌根菌に感染するメリットの一つとして、他の菌の感染を防ぐことが挙げられるのではないだろうか。温帯の肥沃な土壌では多くの菌が存在するため、土壌が貧しい熱帯とは違い、外生菌根菌に感染することを選ぶ植物が生まれたと考えられる。
参考1:日高周「低リン土壌に成立した熱帯林における光合成の効率的リン利用と葉内リン最適分配の関係」、https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-08J03021/、参考2:山田俊弘「熱帯樹木の根の形態とその生態学的意義」、http://root.jsrr.jp/archive/pdf/Vol.14/Vol.14_No.3_091.pdf#search=%27%E7%86%B1%E5%B8%AF+%E5%9C%9F%E5%A3%8C%E3%83%AA%E3%83%B3%27

A:きちんと考えていてよいとは思います。ただ、仮説から結論がそのままつながっているので、意外性はありませんね。


Q:今回の講義でマメ科植物と根粒菌の共生について扱った。この共生関係についてどちらが先に相手と共生しようとしたのか気になった。「しようとした」というと生物が選択的に自らの形態を進化させているようで語弊を招くかもしれないが、進化というものは偶発的な遺伝子変異の積み重ねであり共生が始まっていない段階で片方の呼びかけに応じてもう片方が適応できるよう進化したなどといったことはありえないのである。片利共生、片害共生などであれば利益を享受している方もしくは害を受けていない方が最初に共生を始めたと考えられるが相利共生となるとどちらかが共生を始めもう片方がその共生を利用できるよう進化したと考えるのが適当である。例えばアリとアブラムシの共生の場合アブラムシが蜜を出さない段階でアリがアブラムシを守るとは考えにくいので先にアブラムシが蜜を出せる体になりそれを知ったアリがアブラムシを守るようになったと考えた方が理屈は通る。同様にマメ科植物と根粒菌ではほとんどの場合移動能力のない植物が根粒菌を誘引するとは考えにくいので最初に根粒菌が植物に寄生、窒素固定を行い植物側が根粒菌のnodファクターに反応してルテオリンを分泌するようになったと推定される。

A:「先にアブラムシが蜜を出せる体になり」とありますが、もしその時点でアリに守ってもらえないのであれば、栄養分を垂れ流しているわけですから、蜜を出さないアリとの競争に負けて、単に消えていくのではないでしょうか。


Q:今回の講義ではマメ科植物と根粒菌の窒素固定について学んだ。また調べてみると、このような1対1の共生関係の例として、ソテツにシアノバクテリア(藍藻)など他にもあることが分かりました。ここで、ではなぜ、共生関係になる菌を1つにしてしまうのかと疑問に思った。複数種類いた方が様々な利点がありそうだという印象を持つからである。ここで、考えたことは、まず共生関係において宿主の植物が数種類になることは難しい。したがって複数種類になるのは寄生する菌の方であると考えられる。もし複数菌が同じ場所に寄生した場合、植物からの栄養や縄張りの競争が起こる。それによって最終的にはその競争に勝った菌や環境条件に適した菌が生き残り、結局は1種類に落ち着くことになるのでないかと考えた。つまり、進化の過程で最初からこの菌と共生関係になろうと決めるのは難しいのではないか。競争を経て自分と共生するのに最も適した菌は何かを見つけ、結果今の共生関係を1対1で結んでいるのはないかと考えた。もしかしたらこの先、環境の変化、また新種の登場で共生する相手を変えるときが来るのかもしれないと思った。

A:ここでは「宿主の植物が数種類になることは難しい」を、場所が同じである場合に限定して考えているようですが、ある細菌が2種類の別の植物にそれぞれ感染しても問題はないですよね。ある一つの場面での共生関係と、共生関係を結びうる能力とを区別して考える必要がありそうです。


Q:今回の講義では、シアノバクテリアのヘテロシストについて学んだ。酸素の存在下では、窒素固定を行うニトロゲナーゼの活性が下がるという話があった。(情報1)によると、現生のシアノバクテリアには、好気性の呼吸の機能が備わっているようである。そこで疑問に思ったのが、ヘテロシストにおいては好気性の呼吸を行っているのだろうかということである。ヘテロシストで好気性呼吸を行っているとすると、ニトロゲナーゼの活性が下がるのでこれは考えづらい。ヘテロシストが活動してくためにはエネルギーが必要であるから、恐らく嫌気性の呼吸手段が発達しているのだと思われる。シアノバクテリアは栄養細胞で好気性呼吸を、ヘテロシストで嫌気性呼吸を行っているのではないだろうか。
参考1.”日本植物生理学会”、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=2467 (参照2017年6月18日)

A:「好気性呼吸を行っているとニトロゲナーゼの活性が下がる」というのは、ロジックが少しずれています。「酸素があるとニトロゲナーゼの活性が下がる」は正しいですし、「好気呼吸には酸素が必要である」もよいのですが、「好気呼吸によって酸素を使い果たす」という場合も考えられますよね。その場合には、「好気性呼吸を行っているとニトロゲナーゼの活性が下がらない」ということになりませんか。


Q:今回の講義では主に根の共生によるメリットなどを学んだ。根は植物の生育上、植物体への栄養の供給という面でとても重要であると感じた。その中で私が興味を持った内容は、講義の最後に触れられた根における自他の認識実験についてである。それを聞いた時、葉においても光に対する生存競争が行われているのだから、根においても土壌中栄養素の奪い合いが起きているはずであると考えた。しかし、その原理は未だに解明されていないようである。したがって、他個体をいかにして認識しているか、仮説および考察を行う。まず根において他個体を認識する方法として、土壌中栄養の量を根が感知し、より多くの栄養が含まれる土壌に向けて根を伸ばすことが考えられる。つまり、他個体が生育している土壌においてはその個体が栄養を吸収しており、土壌中の栄養が少なくなっていることが考えられる。その少なさを根で感知することにより、他個体の生育している土壌を自然と避けているのではないかと考えられる。ここで、土壌の少なさというものを定義しなければならない。これは、自個体が生育しまだ栄養を吸収していない土壌に対しての栄養の量が少ないこととここでは定義する。したがって、これを感知するためには根の先端に感知器官があることが必要である。根の先端は根冠であるため、根冠のまだ発見されていない新しい働きとして栄養素量の認識をしていることが考えられる。

A:根の栄養吸収の話と、自他の認識の話が、一緒に議論されていますが、わけないといけないのではないでしょうか。そもそも、同じ栄養濃度の場所でも、他個体の根がある場合には根を伸ばし、同個体の根がある場合には伸ばさないという観察から自他の認識がなされていると結論したわけです。根は確かに栄養を吸収しますが、その吸収の仕方が同じであれば、栄養によって根の存在は認識できても、自他の認識はできませんよね。


Q:今回の講義では根粒菌やシアノバクテリアのヘテロシストによる窒素固定の話があった。根粒菌はマメ科植物と共生し、大気中の窒素分子をアンモニアに変換することで植物に窒素源を提供する役割を持っている。故に、マメ科植物はやせた土地でも生育できるという特徴を持つ。このように根粒菌を寄生させることで大きなメリットを得られるにも関わらず、マメ科植物以外ではこのような戦略を取っている植物は見られない。これはなぜなのか疑問に思い、考察することにした。窒素固定反応では、1分子の窒素から2分子のアンモニアを生成するのに16分子のATPを必要とする。これは1分子のグルコースから呼吸によって得られるATPのおよそ半分である。窒素固定をするために大量のエネルギーを消費する根粒菌を養うために、大量の栄養を植物は提供する必要がある。したがって、窒素源を受け取る代わりに植物は高い給料(有機物)を払う必要がある。それならば、マメ科植物は他の植物よりも光合成による有機物生産に長けているのだろうか?マメ科植物は羽状複葉の葉を持つ種が多いようである。羽状複葉の葉は「光合成効率を高める」とか「ガス交換効率を高める」などそのメリットは諸説あるようだが、いずれも有機物生産の向上に関わっていそうである。以上より、根粒菌との共生は植物の有機物生産能力、ひいては葉の形状とかかわりがあるのではないかと考えた。

A:もし、羽状複葉の葉をもてば有機物生産が向上するのであれば、羽状複葉の葉をもたない植物は世の中から消え去るように思いますが・・・。


Q:シアノバクテリアは光合成と窒素固定を生物時計によって分けて行っている。では生物時計はどのようにしてその切り替えの時間を計っているのか。これは、砂時計のような仕組みがあると考えられる。光合成から得られる光合成産物の中に時間計る物質(a)が含まれており、このaはaのみを貯蔵する容器のような器官に送り込まれる。このaが一定量たまることで時間を計っているのではないだろうか。この仕組みなら天気が悪い日でも一定量の光合成を行うまで切り替えを行わずに光合成を行うことができる。しかし、ここで問題点として考えられるのは容器に貯まったaはどうするのかだ。これは、窒素固定をする間に容器ではaを分解する反応が行われると考えたがこれでは無駄なエネルギーを使っていることになる。このことから、aを貯める容器の数、aの寿命を考えてみた。生体内に容器が2つあるとし、1日おきにその容器の蓋が開く。よって1日に1つの容器にしかaは貯まらない。このことから、蓋がしてあるほうには新しいaは入ってこない。このとき、aの寿命を24時間とすると蓋が閉じている間にすべてのaが死亡し、容器の一部として構成される。よって、翌日には容器にはaが含まれていないことになり、新たに時間を測定することができると考えられる。

A:あまりにもユニークなので、ここに載せることにしましたが、いくら何でも複雑すぎませんか。もう少し、簡単なやり方があるように思いますが。