植物生理学I 第5回講義

いろいろな葉

第5回の講義では、紅葉や斑入りなど、緑色以外の色を示す葉について解説するとともに、植物以外の生物における光合成について触れました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:私は講義の中で、新芽の葉の緑がなぜ明るいかということを学んだ。そこで、個人的にずっと気になっていた新芽のみ赤い色を示すレッドロビンと呼ばれる植物の新芽が何故赤いのか考察してみたいと思う。まず葉緑体があるのかどうか光合成活性から調べることができる。光合成をしていた場合、葉の赤い色は赤い光を吸収していないことになるので、強光疎外の抑制のためであると考えられる。光合成をしていなかった場合、青色光受容体による植物体内の反応(成長抑制など)が促進されているのではないかと考えた。他にも新芽が赤い葉があることからもこれには適応的意義があると考えた。

A:レッドロビン(もしくはその近縁種のベニカナメモチ)の光合成については「赤い葉っぱは光合成をするか」で調べています。


Q:今回の授業で、食痕に擬態し虫に捕食されるのを防ぐ植物がいることを知った。しかし、葉の一部に食痕のような白い部分を作ることで光合成をする部分が減ってしまう。この問題への対策としては、葉の枚数を増やすこと、食痕以外の部分の光合成能率を上げることが考えられる。これらの対策について考察してみた。まず前者についてだが、この植物の写真を見る限り比較的低木であったと記憶している。また、生息地が熱帯雨林であり、周囲に高木が多いため漏れてくる光の量は少ないと考えられる。そのため、様々な構造物を新たに作ってまで葉の枚数自体を増加させても光が当たらず、さほど光合成量は増えないためこれは不適だと考えられる。一方、食痕以外の緑の部分の光合成能率を上げるのは可能であろう。緑の部分で葉緑体を多く作り、単位面積当たりの光合成量を増やせばよい。これが実際に行われているかどうかは、この植物の食痕以外の部分と、食痕を作らない近縁の植物の単位面積当たりの葉緑体量を定量的に調べ、比較すればよいだろう。もし実際に葉緑体が多く作られており、その機構が遺伝子レベルで分かれば、ゲノム編集技術などにより他の植物より光合成能率の高い植物を生み出すことができるかもしれない。

A:論理的に考察を進めていてよいと思います。特に前半の生息地を考慮しての推論はきちんとしています。一方、後半の単位面積当たりの光合成については、光合成を挙げることができるのであれば、なぜ普通の植物も光合成を挙げないのか、という点の説明があったほうが良いと思います。


Q:今回の授業で、紅葉の話から赤い色素を持つアカカタバミの話があった。このアカカタバミの分類には緑色のカタバミも存在する。通常、葉が緑色であるのには光合成を行うために、比較的効率の良い赤色光、青色光を使うと同時に緑色であるからこそ緑色光の吸収効率をあげ、裏側の葉緑体を駆動させるという理由がある(1)。そうであるとすれば、なぜアカカタバミは赤色である必要があるのか、また、なぜ光合成の観点から見ると劣っていると考えられる赤色でも生存し続けているのかが気になったので、それについて考察しようと思う。
 一つ目に考えたのが、住み分けである。カタバミは緑色であることから光のよく当たるところに生息し、アカカタバミはどちらかといえば暗めのところに生息することで生き残ってきたのではないか。実際に日陰には緑色ではなく赤色の植物が多いような印象がある。これを調べるには光合成曲線を作成し、カタバミが陽葉の形、アカカタバミが陰葉の形を示せば、この仮説が正しい可能性が高いと考えられる。
 もう一つ考えたのは、赤色であっても大して光合成の効率に差がないのではないかということである。緑色が適しているとはいえ、実際に赤色との差がどれほどあるのかはわからないので、近縁であるカタバミ、アカカタバミを用いて光合成効率を調べる実験系を組めばその違いが分かると考えられる。
・参考文献1.日本植物生理学会ホームページ「みんなのひろば 植物Q&A どうして植物は緑色光を使わないのか」 (https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1855) 2017/05/17閲覧

A:考える道筋は良いと思います。ただ、例えば一つ目の考え方の場合、赤い色素をもつと、暗いところで有利になる理由がよくわかりません。そのあたりの説明をもう少し丁寧にした方がよいでしょう。


Q:今回は斑入りの葉について考えていこうと思う。斑入りの葉には、ウイルス感染の場合、遺伝子的な要因のように分けられる。ウイルスや虫食いなどによる斑入りではなく、遺伝子的な要因に絞って考えていく。斑が入る原因や理由というものは、はっきりとはわかっていない。そこで私は白という色に着目することにした。葉は光を受けるための組織であることから、白という色が光とどのような関係があるのかを調べた。白は「太陽の光線をあらゆる波長にわたって一様に反射することによって見える色」(参考文献1)である。この説明から、葉の機能と正反対なものであることが分かる。そうすると、何らかの原因で葉が光を拒絶したのではないかと考えられる。その原因の一つとして考えられるものとして、日差しが強すぎると起こる葉焼けがある。この葉焼けを防ぐために白色の斑を入れているのではないかと考えた。現にシルバーレースやシロタエギクのように白い短い毛のようなもので覆われた植物がある。シロタエギクは「日照不足だと葉が緑色になる」(参考文献2)ようで、逆に考えると日差しから守るために白い毛で覆われていると言えるのではないだろうか。斑入りの葉とは少し違いがあるが、植物が身を守るためにこのような変化を遂げていることは事実である。そのため斑入りの葉は日差しの強さが原因で現れたとも考えられるのではないだろうか。
参考文献:1.新村出 広辞苑 第六版 岩波書店、2.矢澤秀成 住友化学園芸 植物栽培ナビ シロタエギク、http://www.sc-engei.co.jp/cultivation/details/368.html

A:よく考えています。ただ、「白い」ということと「部分的に白い」ということが、ごっちゃになって説明されているのでわかりづらいですね。白い毛の場合は、全体に白いわけですよね。そのあたりが改善されるとよりよいレポートになります。


Q:今回の講義の内容から、カナメモチの若葉について考察を行う。カナメモチはバラ科の常緑樹であり、特徴として若葉が赤いことが挙げられる。この特徴について私が疑問を感じた点は、葉の色が赤色から緑色へと変化するメカニズムについてである。通常植物の葉は、講義にもあった通り表皮細胞の液胞にアントシアニンを貯蔵することで赤く発色する。これはカナメモチについても言えることだが、この植物では更に一定期間後に葉の色が緑色へ変化する。つまり、何らかのメカニズムで液胞に蓄えられたアントシアニンが分解されていると考えられる。私はこれについて、葉が受ける熱エネルギー(日光、気温の影響)によって、アントシアニンが分解されるのではないかと考えた。文献1によると、アントシアニンの半減期は38℃で10日、20℃では54日となっている。またカナメモチの若葉の鑑賞期が4-5月であり(文献2)、温帯(東京)の4、5月の平均気温は15度前後である。これらの情報は、私が立てた仮説を裏付けていると思われる。この仮説を証明する実験系を以下に示す。1つの株のカナメモチについて、その一部の枝をビニールハウスで隔離し、その内部の温度を変化させる。これにより温度を高く設定すると赤色から緑色への変化が速くなり、低く設定すると遅くなるという結果が得られれば、上記の仮説が証明できると考えられる。
文献1:アントシアニンの脱色原因,株式会社エアーグリーン,2017/5/21,14:59アクセス(URL:http://www.airgreen.co.jp/black%20carrot/colorless.html)、文献2:カナメモチとは,みんなの趣味の園芸,NHK出版,2017/5/21,15:01アクセス (URL:https://www.shuminoengei.jp/m-pc/a-page_p_detail/target_plant_code-890)

A:僕自身、あまりアントシアンの分解については考えたことがなかったので、感心しました。良いところに目を付けたと思います。


Q:今回の講義では主に葉の色に関して学んだ。その中でユキノシタという植物が気になった。ユキノシタの斑はほかの植物と異なり、葉に空気の層をもち光を反射して白く見せている。白い斑が入っている場所も緑の部分と変わらず葉緑体があるというのは、コストの面でデメリットのように思われる。ユキノシタが斑をもち、そこに葉緑体を持たせる理由ついて考えてみる。ユキノシタの名前は雪の下でも緑の葉を出すことや白い斑を雪に見立ててそう呼ばれているらしい。つまりユキノシタは冬を越す際に、雪が上に積もったときに直接内部を冷やさないように空気の層が断熱材の役割を果たしているのではないかと考えられる。そうすると白い斑の部分に葉緑体があることが疑問として残る。ここで考えた仮説は以前は空気を出したり入れたりして空気の層を調節できていたとするものである。そうすれば冬を越してから空気の層をなくし葉の全面で光合成をすることができる。それが観賞用として白い斑が好まれたため、空気の層を調整できないもののみが残ってしまった。白い斑にある葉緑体は名残だと考えることができる。

A:考え方がユニークでよいと思います。説得力があるか、と聞かれるとあまりない気もしますが、この講義のレポートとしては高く評価されます。


Q:植物の斑入り葉がウイルス感染や遺伝子の変異が原因となって生じることを学んだ。授業を通じて、クマザサの模様に疑問を持った。高山に登った時に、葉が茶色く縁どられているクマザサをしばしば目にした。若葉には縁取りがなく、全体が青々している様子も観察された。縁が茶色くなるのはクマザサの一般的な特徴であり、縁が変色してしまうというよりは枯死しているように見える。若葉に斑が入っていないのは、葉身全体を使って光合成をし、植物体が成長するための養分を生成する必要があるからだと予測できる。大きくなると株自体が大きくなるため、葉の一部が光合成機能を失っても養分は賄えると考えられる。クマザサの生態を考えると、高山に生え冬を越す植物である。冬、高山に生えるクマザサには、周囲の木々は落葉するため陽光が直接降り注ぐと考えられる。また、降雪があれば陽を反射するため、光ストレスが大きくなるだろう。降雪があると低温のストレスにも曝される。そのように考えると、越冬時に最低限の葉緑体を残すために縁を枯死させる、その分葉を大きく成長させるのではないだろうか。強光、弱光、寒冷、温暖の環境を作り、生育させることで斑の入り方に変化があるか検証してみたい。

A:面白いところに目をつけていてよいと思います。ただ、一部を完全に枯らすよりも、全体を均一に薄くしたほうが良い気がしますが、そのあたりはどうなんでしょうね。


Q:今回の講義で「植物の葉にふ入りのものがあるのは食痕に擬態して食害を防止するためである。」という仮説を扱った時、昆虫と人間では検知できる光の波長が異なるという話を聞いたことがあったのを思い出した。岩崎電気株式会社のホームページ(参考資料1)によると人間の目は約550nm付近の光を最もよく感じるのに対し虫は360nm付近の光を最もよく感じ、虫が感じることのできる光の大部分は人間にとっての可視光線外の低波長であるという。つまり人間が見ている世界と虫が見ている世界は異なるということであり人間から見てふがあっても虫から見れば通常の葉と変わらない可能性があるのである。従ってふ入りの葉とそれ以外の葉の紫外線吸収率を比べてふ入りの葉が通常の葉と比べて低いようなら虫にとっても食痕として見えているということであり防御機構として成立しているということになる。しかし吸収率に大きな差が見られないようならば少なくとも視覚的には防御機構として機能していないということなのでその他の要素、例えば虫が忌避する化学物質の存在などについても考慮しなければならない。
参考資料1:岩崎電気株式会社ホームページ URL:http://www.iwasaki.co.jp/product/lighting_field/factory/02.html 最終閲覧日:2017年5月21日

A:これは確かにその通りですね。この話の元論文ではスペクトルまでは議論していなかったように思います。紫外線の吸収率をきちんと調べる必要はあるかもしれません。


Q:ユキノシタの斑入り部分には、光合成能を持たない葉緑体が存在しているという話があったが、このことについて少し考察してみる。葉緑体を作ることは、非常にコストがかかるという話が講義中にもあったが、光合成能を持たない葉緑体を残す意味として、ユキノシタにとって葉緑体の構造を作ることが簡単ではないということが考えられる。ユキノシタの場合、葉緑体を構成する物質の一連の遺伝子群の発現及び修飾などに非常に時間がかかるのではないだろうか。葉緑体の構成には葉緑体DNA中に含まれる遺伝子から合成されるタンパク質と核のDNAから合成されるタンパク質が必要である。(情報1)シアノバクテリア由来の葉緑体構成の中枢を担う葉緑体DNAの遺伝子に変異が起きていれば、光合成を行う葉緑体であっても光合成能が極めて低くなると考えられ、ユキノシタは現代まで生育できていないと考えられるので、ユキノシタの葉緑体構成を律速しているのは、恐らく核DNAで合成されるタンパク質の合成過程の時間や、それらのタンパク質が葉緑体構成を補助する酵素となったときの活性であろう。進化の過程で葉緑体構成を補助する酵素をコードする核DNA中の遺伝子に変異が生じたことが考えられる。葉緑体構成に時間がかかるために、光合成能を持たない葉緑体構造を早期に作っておいて、ユキノシタで光合成を行っている葉緑体が壊れるなどの何らかのトラブルがあった場合(恐らく過去にそういった出来事があった)、光合成において重要な働きをする光化学系の酵素などを、光合成能を持たない葉緑体に移し替えているのではないだろうか。このような機構が備わっているならば、ユキノシタは、予想外のアクシデントにも適応することができる。
参考:1.一般社団法人 日本植物生理学会、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3104 (参照2017年5月17日)

A:考え方は斬新でよいと思うのですが、進化の過程で葉緑体をつくるのに時間がかかる変異が生じたら、そのような植物は競争に負けるでしょうから、すぐに絶滅してしまいませんかね。また、この仮説が可能であれば、最初から均一にしておいて、部分的に障害を受けたときには障害を受けない部分から葉緑体を移し替えることも可能である気がします。そうすると、斑入りにするよりもむしろ効率的な気がしますが。


Q:今回の講義で興味深いと感じた内容は、葉緑体は大変な貴重品であるということである。そのために若く柔らかい葉は食害を受ける可能性が高いため葉緑体密度が低く葉の色が明るく鮮やかになり、一方でクチクラ層が発達し硬くなった葉は葉緑体を増やし深みのある緑色になると知った。しかしながら草本は短期間のみ生息するためこのようなシステムを持たず葉は使い捨てのような認識と知り、草本も同じ葉緑体を持ちそのためのエネルギー消費をしているのにどうして同じような仕組みを持たないのか不思議に思った。そこで、樹と草本の個体としてのコストベネフィットを考える必要があると考えた。樹は大きく成長し多くの葉をつけることができる一方で、多くの葉をつけるためのエネルギーが必要となる。さらに虫などの餌となりうる葉が密集して存在しているため多くの葉が食害を受ける大きなリスクを持っており、それに対抗するために葉緑体の数を変化させているのではないかと考えられる。対して草本は、葉は数枚程度であるが個体数が多いので一個体が食害でやられても多数の個体存在しているため、子孫を残すことができる。したがって、樹は少ない個体数を長期的に存続させようという戦略であり、草本は多く個体を作りいくらかが食害を受けても多数の個体がいるため死なない個体がでる可能性を上げることで生き残るという戦略であると考えられ、それに適した葉緑体生産を行っているのではないかと考えられる。そのため、樹と草本では土壌の栄養消費量が異なり、草本は多数の個体集団で多くの葉緑体をそれぞれが生み出すため、草本の短期間における土壌栄養消費量はとても多いと考えられる。

A:論理的に考えていてよいと思います。ここでは数の問題に還元して考えていますが、寿命についても考える必要があるのではないでしょうか。草の場合、成長するにしたがって下位の葉はすぐに陰になるので、老化させてその資源をより上位の葉に振り分けます。その場合、虫に食われても食われなくても老化により葉はなくなるわけですから、防御対策の必要性自体が少ないはずですよね。そのような視点も必要でしょう。


Q:今回の講義の最後で、田んぼアートについての説明を受け、そこから遺伝子組み換えで色を変えることについて調べた。近年使用される遺伝子組み換えの方法にCRES-Tという方法がある。これは、リプレッサーに注目し、それをキメラリプレッサーに変換することによって、重複した転写制御因子が複数存在する場合にも優勢的に他の支配下にある遺伝子の働きを抑え、機能を欠損させることができるというものである(文献①)。もう一つ、重イオンビームを使った方法がある。こちらは、C,N,Neなどのイオンを加速し、照射することによって、突然変異を誘発する方法である。これによって、有用な性質にさらに変化を与え、より付加価値の高いものを作り出すことが可能である(文献②)。以上の二つの方法は、その原理は異なるもので、この二つを組み合わせることでより多くの研究が進むものと考えらる。前者後者ともにランダムに行うものであり、行ってみたっけか出てきたものを、スクリーニングすることによってそれを大量生産に持ち込めるかを判断、さらにそのコストパフォーマンスが認められた場合、生産に移行する。そのため、個人的には、その花や植物自体を販売するという考え方よりも、田んぼアートのように、ある種のものをたくさんの人に届けるのではなく、ある一本のものをたくさんの人に見に来てもらう、という方が商業的にも費用的にもよいものであると考えられる。ある土地由来の植物や花に対してクローニングを行い、その環境への効果を計測したり、植物から動物に応用し、環境保護のシンボルたる色の個体を生み出し、それをグリーンイノベーションにつなげていくという方法が、現代においては最も賢い選択ではないだろうか。まだまだ改善するべき点は多く存在するし、大量生産にこぎつけるためには様々なステップが必要である。あくまでグリーンイノベーションというものに視点を置いていくのがよいのではないだろうか。
①http://www.aist.go.jp/Portals/0/resource_images/aist_j/aistinfo/aist_today/vol10_10/vol10_10_p08_p09.pdf、②https://www.naro.affrc.go.jp/flower/research/cres-t.html

A:話としては面白いのですが、結局何を論じたいレポートなのかがよくわかりませんでした。最初と真ん中と最後で、論点が次々に移動している感じです。できたら、一度書いたレポートを読み直して、例えばこのレポートの場合、もし、最後に出てくるイノベーションの応用に焦点を絞るのであれば、最初と真ん中を書き直すことによって問題点を明示するところから出発して論理展開をした方がよいでしょう。


Q:植物は葉緑体を持ち光合成によって自らエネルギーを作り出せる独立栄養生物であり、動物は従属栄養生物であると一般的に分類される。しかし今回の講義で一番驚いたのは、食べた藻類の葉緑体を消化せずしばらく保持することで光合成を行い糖を合成するコノハミドリガイという動物の存在だった。まず葉緑体を狙って消化を避けられるのは葉緑体に特異的に反応しない酵素で分解しているのかそれとも体内で葉緑体になにかコーティングをすることで分解を避けているのか。そして葉緑体を取り込んだはいいものの、それが細胞小器官としてコノハミドリガイの中で同じ様に機能するためにはコノハミドリガイ自体が葉緑体を利用するための遺伝子を生まれ持つ必要があると考えられる。実際植物の核遺伝子が遺伝情報の補佐を行っているため葉緑体が機能するためには他3000以上の遺伝子が必要とされている。(1)葉緑体は植物から取り出し単独で機能させられない点を踏まえるとコノハミドリガイがなにかの補助を差し出していると考えられる。これを解くために注目したいのが葉緑体を体内で保持し光合成を行うのは数週間~数ヶ月(1)なことである。コノハミドリガイが葉緑体に遺伝情報の貸出を行っていると仮定すると光合成する期間としない期間で転写されるDNAが異なるはずである。まず藻類から細胞分画法によって葉緑体のみを除去したものをコノハミドリガイに与え生育し、クロロフィル蛍光の観察により光合成が行われていないことを確認した上で細胞からcDNAライブラリーを作成する。次に葉緑体を正常に含む藻類を与え光合成が行われていることを確認し、細胞から同様にcDNAライブラリーを作成する。この二つのライブラリーの比較から転写されている異なる遺伝配列を割り出し、光合成に関わる候補が絞れたところで次はコノハミドリガイのこの候補をノックアウトし作成することで光合成ができない個体を探す。光合成ができない個体が作成された場合、それが葉緑体が機能するために重要な遺伝情報であると考えられる。
参考文献(1) 自然に学ぶ環境事例 第88回 積水化学工業株式会社、http://www.sekisui.co.jp/csr/contribution/nextgen/bio_mimetics/1220704_27856.html

A:よく考えていると思います。後期の植物生理学IIで扱う予定ですが、シアノバクテリアが葉緑体に変化する際には、シアノバクテリアのゲノム中の遺伝子の中で1割以下のものしか葉緑体の遺伝子として残りませんでした。残りは、失われるか、核に移行したことになります。本当は、そのあたりを考慮して考察する必要があるでしょう。


Q:小学生の頃、春から初夏にかけて通学路にある生垣に赤い葉っぱが混じっていたことを思い出した。調べてみたところ、ベニカナメモチという植物で、春に紅葉し、冬に緑色の葉をつける植物であるようだ。ここで、植物の紅葉のもととなる色素であるアントシアニンを通して、春の紅葉と秋の紅葉について考えてみようと思う。春の紅葉については、初夏の日差しによって若葉がダメージを受けないよう、抗酸化作用を持つアントシアニンが葉に多く存在するのではないか、という説があった。となると、秋の紅葉においてアントシアニンが必要となる理由はなんだろう。秋は陽射しが弱くなっていくのだから、落葉樹の葉はわざわざ色が変わる必要はないのではないか。これは、離層の形成と関係があるのではないかと考えた。落葉樹は、陽射しが弱い冬に無駄に養分を使わないよう葉を落とすが、葉を落とすという機能のどこかで、秋の陽射しですらダメージになるような出来事があるからなのではないかと考えた。アントシアニンが増加するから光合成が阻害されるのではなく、光合成の機能が落ちるからアントシアニンが増加する、という理由があるのではないかと考えた。
参考文献:日本植物生理学会 植物Q&A、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=1653

A:考えの道筋は良いと思います。ぜいたくを言えば、もう少し具体性が欲しいですね。「葉を落とすという機能のどこか」といった部分を、例えば「葉緑体の分解」などとして、その理由を自分なりに説明できれば完璧です。


Q:講義で斑入りの葉はなぜ生じるのか、という話があった。ウイルス感染の場合の話は講義で扱ったが、それではなく突然変異系の斑入りの植物が普通に生き残っていることについて考えてみる。突然変異系の個体が生存している理由として一番に挙がるのはその方が生存に適しているからということだろうが、通常の個体が共存している以上、それが最適解かと考えると恐らくNOだ。では他に何かあるのかと考えた時、人間の全体が同じものを好きになることは絶滅を避けるために絶対に無いという話を思い出した。これが根拠のある話かどうかはさておき、考え方として当てはめたい。つまり、同一種であっても同じ環境下で同時に絶滅しないために斑入りが発生するのではないか、という理論である。例としてユキノシタは白い部分の下にも葉緑体を持つという話を講義で扱ったが、この白い部分が強光条件に適応するために作られたものなのではないだろうか。通常の葉では強光下で光合成系にダメージを負ってしまうとした場合、理に適っていると思われる。これを検証するためには前年以前に強光環境が続いた年があったかどうかを調べるか、あるいは人為的に強光環境を作り出して通常のユキノシタを生育し、強光環境の有無で翌年以降の遺伝子変異に繋がるかどうかを年単位で調査する必要があるだろう。こう考えていくと先にNOだと言った生存に適しているという話と同じに聞こえるが、同時に絶滅しないことが目的であるならば調査ですべての株が斑入りになること、あるいはそれに準ずる目には見えない遺伝子の変化は無いと考えられるだろう。

A:進化を考える上で、現在の環境以外の環境要因が進化に影響を及ぼすのか、という点は、よく議論になります。たとえば、100年に一度津波に襲われる環境に生える植物が、その津波に適応した形質を発達させるかどうか、という問題です。基本的には、その形質が通常の環境(残りの99年間)ではマイナスに働く場合は、その形質が進化的に固定される可能性はやはり少ないでしょう。このユキノシタの仮説も、その意味ではなかなか難しいように思います。


Q:本講義で緑色以外の葉についての話がありました。主な要因として、①クロロフィル合成系に異常がある、②酸化ストレス防御系の遺伝子変異によるもの(黄金ガジュマルの例)、③斑入り変異体である、の3つが取り上げられていました。今回は③:葉の一部の色素が先天的に抜けている斑入りの葉に着目し、葉が後天的に斑入りになることはあるのかという問いについて考えました。
 斑入りになるメリットとしては、葉緑体の数の減少によって受ける日光の量が減るという点で、日照量が強い環境では葉を守ることが出来ることが挙げられると思います。一方で、斑入りになることのデメリットとしては、葉全体の光合成量が下がるので、通常の葉と比較してエネルギーの供給量も下がるため弱くなることが1番に挙げられます。更に、先ほどメリットとして述べた点についても、②のケースのガジュマルのように直射日光に当たった時に選択的に日光の量を調整出来る機能を持つ植物種がいるので、日射量を調整する方法が斑入りである必要は無いと考えました。後天的に斑入りの葉が出来るという現象があった場合、”斑”は部分的に葉緑体を欠落させるため、不可逆的な反応であり、葉にとってのリスクが大きいと考えられます。
 ここで、色素が部分的に抜けるという現象としては、人間にも白斑という病気があります。これは自己免疫系の異常による先天的な色素の欠落ですが、これについて後天的なケースを調べたところ、ストレスによって引き起こされることが分かりました。(http://www3.plala.or.jp/vitiligo/information/information00.htm#jump02)ストレスが加わることで脳から放出される物質が免疫細胞に異常を来して、白斑を後天的に引き起こすそうです。
 上記の内容をまとめると、植物そのものにとって後天的に斑入りの葉になるメリットはなく(存在しても斑入りになる必要はない)、デメリットの方が大きいと考えた一方で、後天的に色素の欠落を起こす例は動物(人間)では存在していることが分かりました。よって、葉は選択的に斑を作るのではなく、外的な要因によって結果的に斑になる可能性しかないのではないかと考えます。つまり、葉が後天的に斑入りになる可能性があるとすれば、非常に強力な日光もしくはpHが極端に高い(か低い)環境条件に置かれた時にその刺激・ストレスにより組織の内部構造である葉緑体が破壊されるなど、何かしらの異常を起こすことによって斑のようになるのではないかと考えました。

A:独自の視点をもとに議論を進めていてよいと思います。ただ、冒頭の問題設定は、「後天的に斑入りになることはあるのか」となっていますが、植物の部分の議論の内容は「後天的に斑入りになることが有利なケースはあるのか」について議論されているようです。一方で、人間の部分は病気ですから、有利かどうかについては議論されていません。そのあたり、問題設定が揺れてしまうと論理的な展開になりませんから、どちらかに統一して考える必要があるでしょう。


Q:今回の講義では植物の斑について学習した。そこで斑入り植物を人工的に作り出すにはどうしたらよいかということを考えた。調査すると突然変異や化学変異によって発生した斑入り植物を掛け合わせることで作成する方法が考えられていることが分かった。日本植物生理学会のHPには、植物は強い日の光により光合成器官が破壊されることを回避しようとするため、これを利用して強い日照環境下に置くことで葉緑体の減少を促し斑入りを鮮やかにするという案が記載されている。植物が環境の変化によって葉緑体を減少する現象が明らかにみられるならば、逆に日照が全くない環境下で品種改良を進めていけば、葉緑体の必要性の消滅により他の器官にエネルギーを利用する方向にはたらき、斑入り植物が造られるのではないかと考えた。例として白アスパラの育成やネギの白い部分を広げるための遮光などが挙げられる。しかし同時に植物の斑入りに関してはメカニズムが分かっていない部分も多く、品種改良以外の方法、遺伝子操作による斑入れの手法は確立されていないとみられる。そもそも植物は斑入りによって体躯が弱るため、観葉目的以外で人工的に斑入りにする方法を確立するだけの需要がないと考えられる。
参考(1)HP「一般社団法人日本植物生理学会」https://jspp.org/ (参照2017/5/21)、(2)HP「国立大学法人 信州大学 ヒト環境科学研究支援センター 生命科学分野 遺伝子実験部門」最終更新日2017.5.2 http://gene_rc.shinshu-u.ac.jp/index.html (参照2017/5/21)

A:これも、視点は面白いのですが、「色素が薄くなる」ことと「斑入りになる=色素が部分的に薄くなる」ということがごっちゃに議論されています。ここでの議論は色素の量の話だけなようなので、「斑」という言葉を使わないほうがよさそうですね。


Q:キャベツは内側の葉が柔らかくて白く、外側の葉が固くて緑色である。そして今回の講義で「若葉は柔らかく虫に食べられる恐れがあり、葉緑体を食べられる恐れがあるため葉緑体をあまり作らず白色で、成長すると葉が固くなり、葉緑体を作り緑色になる。」と習った。以上のことから私はキャベツは内側から葉っぱを作り、成長すると新しい葉に追い出され外側に行き、緑色の葉になると考えた。なぜなら①内側の葉は柔らかいので、虫から守るために葉緑体を作らず、固い外側の葉に守られるので食害から守るのに効率的である。②外側に行くと太陽の酸化ストレスで変色する、以上の2点を理由として推測した。この事を確かめるためにある実験を考えた。まず成長途中のキャベツを用意して、その内側の白い部分の葉っぱに印をつける。(白や緑に同化しない色を使う。)そのキャベツを成長させて印をつけた葉っぱが最初の時より外側に移動し緑色になっていれば、「成長すると新しい葉に追い出され外側に行き、緑色の葉になる」という仮説が証明される。

A:僕自身は「植物は内側の方が若い」というのを当たり前に考えていたので、それをこのように考えているレポートが新鮮に感じられました。とは言いつつ、問題設定としてはややナイーブな印象を受けました。


Q:今回の講義の終盤において、盗葉緑体の話題が紹介されたが、以前より採集していたプラナリアについて発見、観察してきた事象について盗葉緑体の可能性があるのではないかと考えてきたことがある。プラナリアは本来、負の走行性を持つので、暗い川底の石の裏にじっと張り付き、好物としている屍肉の類が流れてきたり、その匂いがしてくるのを我慢強く待っている生き物である。なので、大抵が食べた肉そのままの赤色か、自身の元の色の焦げ茶色をしているのであるが、稀に藻を食べて美しいエメラルドグリーンになっているものを見つけることがある。多くは石の裏をめくって採集するのだが、このエメラルドグリーンのの個体は、「日向ぼっこ」を行うかのように、藻の隙間で動き回っていることが殆どなのである。このことからかねてより私は、プラナリアが藻をとりこんで盗葉緑体することにより、その光合成代謝物を取り込んでいるのではないかと考えていた。その実証のための実験系としては、エメラルドグリーンのプラナリアと通常色のプラナリアをそれぞれ光に当てるグループと当てないグループの計4つのグループを作り、餌をあげないまま、水温(20℃程度)を保ちながらグループ毎の時間経過による生存率を確認するのが有効と考えられる。もし、エメラルドグリーンのプラナリアが盗葉緑体を行なっていた場合、日光に当たっているグループで有意に生存率の差が出るのに対し、当たっていないグループではあまり変わらない生存率となるものと予想できる。

A:これは面白いですね。そのプラナリアを園池研にもってきてくれれば、光合成をしているかどうかをクロロフィル蛍光カメラですぐに調べることができますよ。


Q:今回の講義ではアカカタバミが実の部分でも光合成を行っていることが特に興味深かった。今までは葉が光合成器官であると考えていたが、緑色の部分であれば光合成をしており、葉が唯一の光合成器官ではないことが分かった。そこで今回のレポートでは葉以外の光合成について考える。光合成の反応式
6CO2+12H2O+光エネルギー→C6H12O6+6H2O+6O2
から、二酸化炭素を体内の有機物に変換して自身の成長に役立てているのがわかる。未熟な果実が多くの場合緑色であるのは、果実自身で光合成を行うことで成長を促進するためであると考えられる。しかし、果実は熟すと別の色をつけ、大きさにも上限がある(大きさに上限がないと茎などで支え切れなくなってしまう)。これは、果実の成長が進むにつれて光合成色素が減っていき、やがて光合成を行わなくなるからだと考えられる。未熟な果実と熟した果実の光合成色素の含有量を比較すると、熟した果実のほうには光合成色素がほとんどないと予想できる。光合成色素が残っていれば鮮やかな赤色や黄色などにはならないはずである。また、未熟な果実のほかに、花の咢や蕾、茎も陸上に出ている以上葉と同様に光を受け取ることができるため、光合成を行うために多くの場合緑色になっていると考えられる。特にブロッコリーは蕾が頂上部分にあり多くの光を受け取ることができるため、蕾が重要な光合成器官になっていると考えられる。根の場合は多くが地下に存在し、光を受け取ることが困難であるため、緑色でなく、光合成もほとんど行っていないと考えられる。また、ジャガイモのように地下茎を持つ場合も、茎は光を受け取ることができないため光合成色素をもつ必要がないと考えらえれる。以上より、葉以外の部分でも陸上に出て光を受け取ることのできる環境下に存在すれば、光合成色素を持ち光合成を行うと考えられる。

A:よく考えていると思います。欲を言えば、もう少し独自の視点が欲しいかな、と。果実や根の光合成について考えてみなさい、と言われたら、かなりの割合の人がここに書かれたようなことを考えると思います。とは言っても、今回寄せられたレポートには同様のレポートがありませんでしたから、良いと思います。


Q:緑色にならない葉として、クロロフィル合成系に異常がある場合と、遺伝子変異の影響の2パターンを学んだが、そもそも葉に葉緑体を含む必要のない植物の葉も緑色にはならないだろう。サボテンは、一見葉に見える部分は茎が肥大化したもので、本来の葉はとげの部分にあたる。つまりサボテンにおいて光合成の場となっているのは茎であって、葉ではない。こういった場合でも、茎が若いころは色が薄いのかどうか考えた。葉が若いうちに色が薄いのは、外敵に食べられやすいころに葉緑体を持つのは避けた結果であった。この点から考えると、サボテンにはとげという外敵からみを守る武器をもっているので、サボテンの茎は若いころでも成長してからでも、葉緑体の量は変わらず、色も変わらないと思われる。

A:目の付け所が独自でよいと思います。ただ、そもそもサボテンの場合、時間とともに茎の固さが変化するのでしょうか。芽生えの時期は別として、サボテンらしき形になってからはあまり変わらないような気もします。