植物生理学I 第9回講義
根粒とシアノバクテリアの窒素固定
第9回の講義では、根の働きの一つとして、根粒による分子状窒素の固定反応、つまり窒素固定について解説しました。また、同じくニトロゲナーゼによる窒素固定を行うシアノバクテリアについても触れました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:マメ科植物が作る根粒について詳しく学んだ。根粒が球状になっているのは体積当たりの表面積を小さくするという目的が考えられる。植物体がもつ根粒全体で考えた場合、大きな根粒一つをもつ方が体積当たりの表面積は小さくなる。だが、実際にはマメ科植物は小さな根粒を複数個もつ。これはなぜだろうか。2つの仮設が思い浮かぶ。1つ目は根粒を失った際のダメージが一つの大きな根粒では大きいため、リスクを分散させていることが考えられる。2つ目は根粒内で維管束が張り巡らされていないことが考えられる。2つ目について根粒の断面図(1)をみると、動物の毛細血管のように維管束が張り巡らされている様子が確認できない。根粒内で生活する細菌とマメ科植物は相利共生の関係にあり、物質のやり取りは師管を通じて行われると考えられる。つまり、維管束が張り巡らされていない場合、維管束と離れた場所にいる細菌との物質のやり取りは難しくなる。グルコースの分配とアンモニウムイオンの吸収が根粒が大きすぎる場合では効率が下がってしまうことが予想できる。根粒内に維管束が存在せず、菌糸を伸ばして植物体の維管束とやり取りする場合であっても維管束に遠い細菌の方が物質のやり取りが難しい。離れている細菌ほど輸送に時間と労力がかかるからである。授業で学んだが、ニトロゲナーゼ合成にかかるATP消費を無視しても細菌がアンモニウムイオン1分子を合成するためには最低8ATP消費する。細菌はミトコンドリアを持たないため、クエン酸回路や電子伝達系によりATP合成ができない。すなわち、グルコース1分子あたり2ATPしか生産できない。物質の輸送に多量のATPを消費するのは無駄である。根粒は地下部にあるため、根粒がちぎれる要因はそれほど多くないが、ATP消費にかかわる物質のやり取りの問題で、大きな根粒を一つだけ作るのではなく小さな根粒をいくつもつくることが植物が生きる作戦として適しているのではないかと考えられる。
(1) 国立研究開発法人 農業生物資源研究所HP, 窒素同定研究所, http://www.nias.affrc.go.jp/seika/abr/h06/niar94016.html, 2015.6.15閲覧
A:よく考えています。この講義のレポートはあまり長い必要はないので、後半はもう少しコンパクトにまとめた方がよいかもしれません。
Q:植物はニトロゲナーゼを利用して窒素固定ができないため根粒菌の助けが必要となる。窒素固定をニトロゲナーゼ以外の触媒を利用すればいいのではないかと考えた。アンモニアの工業的な製造方法はハーバー・ボッシュ法で、触媒の主成分はFe3O4である。しかし、この方法は高圧高温下で行う必要がある。そのような条件を植物体の中では用意できないはずだ。また、現在まだ工業的なアンモニア合成方法としては使用されていないようだが、2010年に東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の西林仁昭准教授らの研究グループによって、2窒素架橋2核モリブデン錯体を触媒に使用して、常温常圧の極めて温和な条件下でアンモニアを合成する方法が開発されている。N2+6e-+6H+→2NH3の反応が起こる。モリブデンは生物にも利用されているのでこの反応をうまく植物で行えればよいと考えた。さらに調べると、ニトロゲナーゼには、鉄モリブデンクラスターであるFeMo補因子の部位で還元するものがあるという記述を見つけた。このことから、モリブデンをニトロゲナーゼ以外の酸素に対して強い酵素を作る必要があると考えられる。(参考文献:東京大学 常温常圧の温和な条件でアンモニアが合成できる触媒の機能を解明http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/research-news/function-of-molybdenum-catalyst-in-formation-of-ammonia-under-ambient-conditions/ (2016年6月19日) Nature 生物無機化学: ニトロゲナーゼの作用の化学合成モデルhttps://www.natureasia.com/ja-jp/nature/highlights/68194(2016年6月19日))
A:これは、調べた結果を生かしたレポートに思えますが、後半の論旨がわかりませんでした。特に「モリブデンをニトロゲナーゼ以外の酸素に対して強い酵素を作る必要がある」の部分は意味不明です。
Q:根粒菌が植物細胞内に入り窒素固定を始めると、固定に必要な酵素ニトロゲナーゼの性質上、根粒菌が共生する根粒細胞内はレグヘモグロビンなどによって「できるだけ酸素が無い環境」となる。根粒菌もエネルギーを得るため、我々と同様酸素を使用して呼吸しているはずであるが、酸素が無いような環境ではどうするのか不思議に思った。調べてみると、根粒菌には2つの呼吸鎖電子伝達系(酸素呼吸を行う為の酵素系)を持っており、植物に共生している状態(バクテロイド)ではこのうち極めて低い酸素濃度に対応した方の系を使っている(情報1)ことが分かった。複数の呼吸反応系をもつことで低酸素下でも呼吸ができ、また共生中は植物から養分(グルコースなど)を得ることができるため、養分を求めて移動しなくてもよいことから多くのエネルギーを必要とせず、その結果酸素も少量で事足りるのだろうと考えられる。また共生していないときには窒素固定は行わないことから、この時は養分を自ら補給し、エネルギーを多く使用するために高い酸素濃度に対応した方の系を使っていて、状況によって呼吸系を使い分けていると考えられる。
情報1、「植物Q&A 根粒菌と酸素」、佐伯和彦、日本植物整理学会、参照日2016.6.19、https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=169
A:良いと思うのですが、情報元の論理のままで、独自の視点がやや物足りませんね。もう少し自分の考えを前面に出したいところです。
Q:今回の授業では根粒菌は植物と一対一の関係を結ぶ(つまり根粒菌の共生関係は極めて宿主特異的である)ということを学んだ。この理由として、植物の生産する栄養を奪うだけで、植物に利益をもたらさない菌が寄生することを防ぐために、信頼できる相手としか関係を結ばないという説が授業で取り上げられた。この説は合理性が高く信頼できると考えられるが、どのようにして一対一の関係の関係を築くに至ったかについて、次のような仮説を立てたい。あるところにマメ科の植物が群生していて、個体群中に根粒菌に感染しやすい突然変異体が存在したとする。この個体がある根粒菌と共生関係を結んだ場合、共生関係を結びやすいという形質は生存において有利になるという点で優性の形質であることから、集団全体が突然変異体に置き換えられる可能性も高くなる。突然変異体が集団のマジョリティになったとすれば、別の根粒菌(植物にとって同程度の利益をもたらす)と共生関係を結ぶ変異体が生まれたとしても、その変異体が集団のマジョリティになれる確率はずっと低くなる。上述のようなことが、マメ科植物が生まれたごく初期に起こったならば、「一植物に対し、一根粒菌の関係」が維持される方向に進むことは理解できる。しかし「一根粒菌に対し一植物という関係」は説明できない。そこで第2の仮説を立てる。豆植物の起源となる種において根粒菌との共生がすでに行われていて、植物の種分化の後、根粒菌と豆植物が互いに進化を繰り返すことで宿主特異性が高められていった。2つの仮説を認めれば、「一植物に対し一根粒菌の関係」が維持される(弱い宿主特異性維持)なかで植物の種分化ごとに根粒菌も種分化し、「一根粒菌に対し一植物の関係」が強く築かれる(強い宿主特異性維持)と考えられる。
A:一つ一つ論理を積み重ねていっている様子がわかってよいレポートだと思います。この仮説が正しいかどうかは、宿主と共生細菌のそれぞれの分子系統樹を比較すればわかるでしょう。
Q:今回は原核単細胞がつながっている構造を持つシアノバクテリアに関して、窒素固定をおこなうヘテロシストを形成することを学んだ。これは周りに窒素イオンが多いときはあまり作られず、少ないときにだけ空気中の窒素をイオン化して使えるようにするために作られるということであったが、この、ヘテロシストをする細胞を最低限数に保ち、残りの細胞を光合成に特化させ、さらに互いの阻害をなくすことのできる、優れたシステムだと感じた。前回の葉と茎の役割について学んだ時、植物において、組織・器官における分業システムが明確に成り立っているという印象を持ったが、多細胞生物に限らず、原核単細胞であるシアノバクテリアにおいても、細胞単位での分業が成立していることがわかった。植物が、根粒菌を強制させることで窒素固定をおこなっているのに対し、進化的に植物の前に誕生しているシアノバクテリアが自身の細胞を分化させて窒素固定を可能にしていることから、シアノバクテリアの分業システムにはなにか欠陥があったのではないかと考えた。窒素をイオン化するニトロゲナーゼは酸素を好まず、窒素固定と光合成を近くておこなうことは、植物にとって不都合であったのではないかと考察した。
A:これは、大げさに言えば、細胞の分化と多細胞生物の起源にせまる部分ですが、最後のところ、せっかくの論理がやや中途半端になっていますね。ニトロゲナーゼの特殊例を持ち出してしまうと、テーマの面白さが消えてしまうように思います。
Q:今回の講義ではマメ科植物が根粒菌との共生により窒素を得ていることを学んだ。なぜそもそも根粒菌は茎の地下部において発達するのかという疑問を抱いた。ニトロゲナーゼの活性を弱めないように酸素の少ない地下を選択したというのは納得できるが、それと同時に地下部では窒素の獲得もより難しくなる。そのため、地下部に発達する理由としてより最適な理由があるのではないかと考えた。まず当たり前のことではあるが根粒菌が土壌に生息する微生物であり、茎の地下部で生活する方が根粒菌にとってもリスクがない。そして、その理由として土壌内の方が空気中より環境が安定しているということが挙げられると考えた。温度変化もそれほど大きくなく、光量も一定である。雨風の影響もなく根粒が付着しやすく、それらの構造が破壊される心配もない。地上の方が窒素を得やすいという利点はあるが、植物体の一生を通じて窒素固定を安定して行うことを考えると、地下部に発達する方がリスクが減少されるのではないだろうか。そのためマメ科植物と根粒菌はこのような共生方法をとっていると考えた。
A:きちんとかが得たレポートだと思いますが、論理に意外性はありませんね。落ち着くところに落ち着いた感じです。もう少し独自性があってもよいかなと思いました。
Q:今回の講義では、根粒菌とある種のマメ科植物の共生についての話題が出た。互いに相手を受け入れる巧妙な共生システムが構築されており、特に植物側の、根粒菌を特定の場所へ迎え入れるような有様には驚かされた。さて、これらの共生関係について考える時に、連想されるのは細胞内共生説ではなかろうか。先述のマメ科植物のような、高度な共生関係を知ると、窒素固定に関しても、細胞内共生が起きているのではないかという疑問が生じる。ただし、ここで注意しなければいけないのは、根粒菌がマメ科植物の共生オルガネラになる可能性は、ほぼ無いという事である。共生オルガネラが発達した多細胞生物で誕生することは無いと言っていいだろう。一部の例外を除いて、共生オルガネラが科、属、種のオーダーのみで共有されていないことから、これは明らかである。ちなみに、講義で以前挙げられたウミウシの1種は、食物から葉緑体を得て、それが次の世代に受け継がれない(参考文献1)ので、真の共生オルガネラを持つとはとは言えない。さて、窒素固定機能を持つ共生オルガネラの存在の有無を、調べてみたところ、それらしきものは存在することが分かった。第3の共生オルガネラとして疑われているのは、珪藻の一種が有するスフェロイトボディと呼ばれる構造体である(参考文献2)。シアノバクテリア由来と考えられるスフェロイトボディは、ゲノムの内、光合成に必須なもの、細胞外活動に必要なものをすでに失っている(参考文献2)。これは、細胞内共生説への信頼性を高めるものであると言える。当初のスフェロイトボディと珪藻の共生関係は、根粒菌とマメ科植物の間の植物によるもののように、互いに利益があるものであったはずである。それがいつしか、寄生側は細胞内でのみしか生きられなくなる。恐らくは、この前段階として、お互いの利益のバランスの変化があるのであろう。この変化は、寄生側の宿主への依存度が激しくなることで始まる。世代を経ることで、寄生側は「宿主側の細胞内」という特殊な環境に適応してしまう。そして、寄生側の細胞は、生存に必要な要素の供給を宿主に任せるようになる。これが続けば、丁度暗所で数世代を経たショウジョウバエが視力を大幅に失うように、寄生側は生存に必要な機能を失っていく。挙句の果てには、宿主側に必要なゲノムの発現まで行わせるようになる。こうして結果的に、宿主側に飼い殺しにされる形で、細胞内共生が完了するのだ。
・参考文献
1.「盗葉緑体により光合成する嚢舌目ウミウシ」.名古屋大学 遺伝子実験施設 山本義治.http://www1.gifu-u.ac.jp/~yyy/pdf/08PhotoSynyamSeaSlug.pdf .最終閲覧日2016年6月19日
2.「ミトコンドリア・葉緑体に続く第3の共生オルガネラか?~“光合成しない”光合成細菌のゲノム解読に成功~」.国立大学法人 筑波大学.平成26年.http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/84b58bb1db64f6b07b7e9d5580ac96ef.pdf
.最終閲覧日2016年6月19日
A:着目した点は非常に面白いですね。ただ、前半の根粒菌が共生オルガネラにはならないという話と、後半の共生オルガネラの話があまりうまくつながっていないように思われます。現状の文章では、どちらかに集中したほうが良かったでしょうね。
Q:シアノバクテリアは栄養細胞の間に一定の割合でヘテロシストをつくる。これは、シアノバクテリアが窒素濃度が低くなったことを感知してヘテロシストを分化させることで起きる。しかし、窒素濃度をどうやってセンシングしているのかは未だわかっていない。私は、シアノバクテリアの栄養細胞の膜上に窒素と結合する受容体のようなものが存在し、窒素とその受容体が複合体を形成すると、ヘテロシストの分化を抑制する物質を分泌しているのではないかと思う。つまり、窒素濃度が低くなると複合体が作れなくなり、ヘテロシストが分化するということだ。これを検証するためには、ヘテロシストを過剰に分化させてしまうシアノバクテリアの変異体と野生型のシアノバクテリアを比較してどの遺伝子に異常があったかを調べ、その遺伝子がどんなタンパク質をコードしているか調べる必要がある。そして、窒素濃度の低い環境下においた栄養細胞にそのタンパク質を添加したときにヘテロシストが分化しなければ、先の遺伝子はヘテロシストの分化を抑制するタンパク質をコードしているということになる。
A:メカニズムを考えていてよいと思うのですが、このような場合は「窒素濃度」というのがどこの窒素濃度化をはっきりさせる必要があります。「細胞の膜上に」とあるところを見ると、細胞外の環境中の窒素濃度を指しているように思えますが、そもそも環境中の窒素濃度をモニターするのと、細胞内の窒素濃度をモニターするのの、どちらがより役に立つのか、という点から本来は考えるべきだと思います。
Q:今回、授業でシアノバクテリアの一種にはヘテロシストが形成され、これが窒素固定を行い、ほかのシアノバクテリアに窒素を供給していることを学んだ。この中でヘテロシストは厚い細胞壁を持つことで、酸素の侵入を防いでいるとあるが、ここで厚い細胞壁が窒素の取り込みも妨害してしまうのではと疑問に感じた。窒素の溶解度は室温(20℃)の時点で酸素の溶解度に比べて小さい(1)。このため液中に窒素が酸素と比べて豊富にあるため、多少の妨害があっても窒素の吸収を行えるとも言えない。また、液中の拡散の度合いが窒素のほうが大きいのかもしれないと考えたが、液中の酸素と窒素の拡散係数に関する文献がうまく見つけられなかった。今度はこの細胞壁が酸素の侵入のみを妨害しているのでは、と考えた。根粒菌はレモヘログロビンによる酸素の吸着と呼吸による酸素の消費でニドロゲナーゼの失活を防いでいる。このため、ヘテロシストは細胞壁にヘモグロビンに似た性質を持つ物質を内在させることで酸素の侵入を防いでいるのでないだろうか。
参考文献:(1) 「理科年表 平成27年(机上版)、編纂:自然科学研究機構 国立天文台、発行所:丸善株式会社、2014年、517p
A:これは面白いところに着目していますが、窒素の溶解度が小さいと言っておきながら、このため窒素が豊富にあると言っている論理がわかりません。実際には理科年表の数値は同じ分圧の時の話なので、大気の分圧を考えると、ここで言うとおりになるのですが、そうであれば、その部分をきちんと説明すべきでしょう。
Q:今回の授業では、根粒菌とマメ科植物との共生について学んだ。ただ、個人的には、マメ科植物以外にも根粒菌と共生する植物はいないのか、疑問に思った。調べたところ、根に根粒を作る「根粒植物」なるものは、マメ科植物にもいるらしい。例えば、ハンノキやヤマモモ、ソテツにマキといった植物が該当し、その数110種にも上るそうである。ただ、多くはマメ科植物の根粒菌とは異なる微生物である場合が多いという。マメ科植物以外で根粒を形成する植物は、ハンノキ型、ソテツ型、マキ型およびハマビシ型の4つの型に分類され、ハンノキ型の根粒は側根が伸長をやめて膨大したもので、根そのものの構成組織を形成しているため、マメ科植物の根粒とは内部構造が異なり、主に放線菌が根粒内部に共生しているという説がある。ソテツ型では根粒の内皮細胞が発達しており、藍藻が共生して窒素固定を行っているという。ただ、こちらの根粒は、本来微生物とは関係ないものであるようで、藍藻が二次的に侵入して共生を行うようになったと推定されている。マキ型における根粒は側根の変形したもので、中央維管束の発達はあまり良くなく、内生菌は内皮細胞中に分布しているという。こちらの根粒には糸状菌が共生しているとの説もあるが、詳しくはまだ分かっていないらしい。上記に挙げた種類は、いずれも根粒において窒素固定効果が認められているそうである。ただ、なぜこうした植物に根粒が形成されているのにも関わらず、マメ科植物にみられるような根粒菌が確認されないのか、疑問に感じた。個人的に推測した点として、①マメ科以外の植物は性質が分からないため共生しない(これは授業でも取り上げたが)。②既に根粒内にいる菌と養分の奪い合いになるため、共生を諦めた。③根粒に入り込む際の競争に敗れ、辛うじて行き着いた先がマメ科植物。マメ科植物と、それ以外の根粒においては、いずれも窒素固定が認められるので、その見返りに共生先の植物から養分を受け取っていると推測される。このように考えると、どちらの根粒内の菌もニッチが似通っているため、菌同士の生存においては一方による排斥が起きたのではないか、とも考えられた。
<参考URL>https://www.kubota.co.jp/siryou/pr/urban/pdf/14/pdf/14_2_5_2.pdf、「根と微生物?2 根粒菌と根粒植物」 植村誠次=林業試験場研究顧問
A:よく考えていると思います。後半が自分の考察ですが、この部分に前半の4つの型への分類の話が生かされていません。このような考察だったら、前半の話はバッサリ切ってしまってもよいと思います。この講義のレポートで評価するのは、調べたことではなく、自分なりの考察です。
Q:根粒菌は大気中の窒素を窒素固定するという。そのため空気により近い根の根元側に生息すると考えていた。根の先端(ここでは根の先端程より土壌の深層にあるとして考える)であれば土壌や水分などの障害物により通気性が悪く窒素の受容率が悪くなると考えたためだ。しかし実際には根の先端付近まで広く分布している。なぜ根粒菌は根に広く分布しているのかを考えた。まず、土壌の通気性が実際はどの程度あるのかを調べた。畑土壌でみられる団粒構造では孔隙率が61 %であり、排水性や通気性を高めることができるという。[1]よって、空気中の窒素も十分に届くと考えた。次に窒素が土壌中に生息する微生物によっても発生していることを考えた。つまり土壌の表層のみに根粒菌が存在する必要もないということだ。このように根粒菌は根のどの部分においても窒素を得られると考えれば、わざわざ根元に集中して存在する必要はない。むしろ一極集中よりも広く分布した方が効率よく窒素を受容できる。
[1]http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/ntuti4.pdf
A:問題点の設定と、それに基づく調査、そしてその結果としての考察がコンパクトにまとまっていてよいと思います。
Q:今回の講義は窒素固定についてであった。マメ科植物は根粒菌と共生し、植物からは光合成産物を、根粒菌からは窒素固定産物を供給しているということであった。そこで思ったのはなぜ自身で窒素固定をする、できる植物がいないかということである。植物からすると、共生していれば確かにメリットもあるが光合成産物を根粒菌に分け与えなければならないデメリットがある。それにも関わらず植物は共生という道を選んでいる。植物が自ら窒素固定をしない理由としては窒素固定の酵素であるニトロゲナーゼが酸素が存在すると失活してしまうからだと考えられる。植物は光合成をするためにいかに酸素を吸収するかという工夫をしている。そうすると植物内でニトロゲナーゼが働くことが難しくなってしまうからだと考えられる。
A:せっかく面白いところに目をつけているのに、論理が物足りません。ニトロゲナーゼが酸素に弱いのは、根粒菌の場合も同じです。それだけでは、植物が自分で根粒の中にニトロゲナーゼを作ってはいけない理由がわからないと思います。
Q:土壌の窒素成分と肥料について。土壌の窒素はマメ科植物を育てることによって回復する。クローバーがその例として出てきたとき、クローバーが歴史的に緑肥として用いられてきたことを思い出した。現在窒素肥料として用いられているのは油かすなどの有機質肥料と、硫安などの無機質肥料、つまり化学肥料のようだ。たまたまみつけたWebページに興味深いものがあった。無機質肥料が硝酸菌などによる硝酸様窒素として存在していたとき干ばつがあると、その後の雨のとき牧草に高濃度の硝酸様窒素が蓄積し、それを食べた家畜に害があるというものである。つまり、化学肥料は適切な窒素バランスを保つことが難しいということである。それに対しマメ科植物の根粒菌は、植物からの制御を受けることによりその濃度を調節することができるため、適切な窒素量を維持することができる。雑な結論ではあるが、人為的な作用と自然の作用の最大の違いは、その長年の淘汰による蓄積によるバランスの保持力であろう。
参考にしたwebページ:http://yuki-hajimeru.net/?p=1048、http://www.doit.co.jp/howto/detail.php?id=39
A:これも目の付け所は良いのですが、ニトロゲナーゼが作るのは小三体の窒素ではありませんし、根粒から植物体に渡されるのも硝酸体窒素ではありません。そうすると、ロジックがつながらなくなってしまうように思います。
Q:今回の授業で植物と菌の共生について学んだ。菌と共生することでそのままでは使えない窒素を使える形にして供給してもらっていると考えると効率が良くどの植物も共生したほうがよさそうだが、実際には一部の植物のみであるとのことであった。これは窒素固定のために多くのエネルギーを消費し、また菌に有機物を供給しなければならないため、植物にとっても負担が大きいからだと考えられる。では菌と共生する植物としない植物では何が違うのか考えていきたい。菌根菌の宿主となるものはマメ類、トウモロコシ、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどがあった。逆に宿主とならないものにはホウレンソウ、キャベツ、ブロッコリーが挙げられていた。1まずこれらの植物の生育環境と何か関係があるかと思い調べてみると、トウモロコシ(スイートコーン)は中米、ジャガイモは南米の東海岸沿い、タマネギとニンジンは西アジアの内陸部、マメ類のサヤエンドウとホウレンソウはイラン近辺、キャベツ、ブロッコリー(カリフラワー)は地中海沿岸となった、サヤエンドウは地中海沿岸にも原産地を持つ。2次にこれらの地域をバイオームと照らし合わせると中米、南米の東海岸、西アジアの内陸は砂漠が多く占める。地中海沿岸は硬葉樹林帯が、イラン近辺は硬葉樹林帯と砂漠の両方が存在する。まずこれらのことより砂漠のように土壌が乾いている地域原産の植物は菌根菌との共生が多くみられる。これは栄養塩を吸収しようとしても乾いた土壌では水がないため栄養塩がイオン化されてなく植物が吸収できる形になっていないためだと考えられる。一方、サヤエンドウとキャベツ、ホウレンソウ、ブロッコリーなどが生息する硬葉樹林帯では冬は降雨があるが夏は雨が少ないところであり、砂漠ほどではないが乾燥している。そのため植物の中にはホウレンソウ、キャベツ、ブロッコリーのように菌根菌とは共生せずにその分有機物とエネルギーを自分のために多く使うことを選んだものと、サヤエンドウのように有機物とエネルギーを消費しても菌根菌と共生して栄養塩を多く取り込むことを選んだものの2通りに分かれたのだと考えられる。
参考文献
1.タキイ種苗株式会社.芝・緑化・緑肥~タキイの緑肥景観用作物~.http://www.takii.co.jp/green/ryokuhi/kouka/(2016-06-18参照).
2.日本女子大学健康サポートグループ.野菜の豆知識‐原産地‐.http://mcm-www.jwu.ac.jp/~maruyama/yasai-mame-hassyou.html(2016-06-18参照).
A:植物の多様性を環境の多様性から考察していてよいと思います。せっかくなので、最後は、エネルギーの消費に関する差が、どのような環境要因の差に基づくものなのかまで考察できるとよいでしょう。当然その環境要因としてはエネルギーである光が考えられるはずです。
Q:今回の講義で根粒菌による窒素固定について学んだ。マメ科などの植物は根粒菌と共生することで窒素固定をしてもらいその代償として光合成産物を提供するという関係が成り立っている。しかしどの植物も根粒菌と共生しているわけではなく自身で土壌中から硝酸イオンやアンモニアなどの形により窒素を得ているものも多いはずである。ではなぜマメ科の植物は根粒菌と共生しているのか。可能性として考えられるのはマメ科の植物は自身で根から窒素を得ることができない、生育環境がが窒素不足である、などだ。植物は根から窒素を別の形で得ているわけだが土壌中の硝酸イオンやアンモニアなどの分布は雨水の流失などにより不均一なことが多い。植物はある部分の根における窒素飢餓があるとそれを葉が認識して他の部分の根に窒素取り込みの促進などの指示を与える(文献1)。マメ科の植物にはこのような機能がないため窒素不足が起こってしまうので根粒菌によって窒素を得ているのかもしれない。またマメ科の植物は生育環境が窒素不足の環境であり、根からの吸収だけでは窒素量が少なすぎるという理由も考えられる。他に根粒菌の機能を考えてみる。根粒菌は空気中の窒素をアンモニアの形にしている。もしかしたらマメ科の植物は硝酸イオンの形では根から吸収することが出来ず、アンモニアの形でしか吸収することが出来ないため根粒菌との共生が必要なのかもしれない。
文献1:植物の根における窒素栄養取込み効率を制御するホルモンを発見 名古屋大学、http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20141017_sci.pdf
A:よく考えていると思います。ただ、ややあれこれ思いついた点を並べている感じがしてしまうので、短くても論理の流れを作るようにすると、ストーリーのあるレポートになって、より良くなるでしょう。
Q:授業で根粒菌に関して扱った数日後、以下の参考文献1)に示した研究成果が京都大学から発表され、タイムリーな話題であった。簡単にまとめると、マメ科植物と共生している根粒菌による根粒数の制御は、宿主であるマメ科植物が行っているとこれまでは考えられていたが、ある根粒菌はジベレリンを合成し、自身で最適な窒素固定環境となるように根粒数を制御しているという話である。この記事の最後では「農作物の効率的な栽培技術への応用に進展する可能性が考えられます。」と締めくくられており、自分は具体的にはどのような応用方法があるのかに興味を持ち、考えてみた。まず、宿主が根粒数を制御しているという様式であると、その宿主の効率的な栽培を窒素固定の観点から改良しようとする際に、宿主側と根粒菌の両方を制御しなければいけなく、その両者の連絡方法である(講義にも登場した)植物ホルモンの放出量であったり、応答能であったり、制御するものが多く複雑であると考えられる。しかし、今回の研究成果である、根粒菌自身が宿主とは独立して、最適な窒素固定環境となる根粒数を制御するという様式であると、根粒菌のみを制御するだけでよいので、手順や考慮する点の複雑化が避けられる。また、根粒菌をより窒素固定効率の高いものへと改良したり、植物の成長に必要な物質を合成できるように根粒菌を遺伝子操作したりすることにより、比較的簡易に効率的な栽培が可能になるのではないかと考え、今回の発見は素晴らしい発見であると自分は感じた。
参考文献:1) 京都大学, 植物と根粒菌の主従逆転?根粒菌がジベレリンを合成し、宿主の根粒数を制御する仕組みを発見?、http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2016/160616_1.html(アクセス日時 2016年 6月19日)
A:確かにタイムリーなレポートでよいと思います。考え方もきちんとしていてよいでしょう。
Q:今日の授業ではヘテロシストについて扱った。ヘテロシストは酸素に対する防御として厚い膜をもつとのことだったが、仮に酸素を通さないのならどのようにして外部から栄養分を受け取り、また自身の働きによる窒素固定産物をほかの細胞に渡しているのかを疑問に思い、どのような方法をとりうるか検討した。ヘテロシストの写真を見てまず考えた方法として膜融合に近い形で、ごく一部だけ隣の通常の細胞とつながるという可能性を考えた。しかしこれではわざわざ光合成する細胞と分かれている意味が小さくなってしまい、あまり効率が良くなくまた酸素の濃度差がある以上栄養をもらう際に酸素が拡散して酵素が破壊されてしまう可能性も高いためあまり現実的ではないと考えた。次にエンドサイトーシスやエキソサイトーシスのような形での輸送を考えた。しかし、ヘテロシストが受け取る側ならさておき合成した窒素固定産物を送り出す際は厚い膜が障害となって小胞を作る際不利になるのではないかと考えた。(外側の「包み」ばかり大きくて内容物がほかの細胞が作ることのできる小胞と比べて使う細胞膜の量あたりの内容物の輸送可能量は小さくなると考える。)また、ただでさえ栄養を外部に頼っている中で膜をどんどん新しくするだけの余裕があるのかという疑問もある。最後に輸送タンパクでの輸送が考えられる。ただでさえ窒素固定で16ATPものエネルギーを使う中でさらにATPを使うのは負担が大きいと考えられるが、今まで考えてきた中では最も現実的、かつ酵素を破壊されるリスクも最も小さくなるのではないかと考えた。
A:よく考えていると思います。最後、「ただでさえ窒素固定で16ATPものエネルギーを使う中で」とありますが、むしろ、大きなエネルギー消費がある場合には、多少のエネルギー消費が増えても全体としての影響はほとんどない、という考え方もできるのではないでしょうか。
Q:今回の講義では、ヘチマがどうやって根から水を吸い上げるのかを学んだ。その中で、ヘチマの茎を地面近くで切るとヘチマ水が生じるということを学んだ。ヘチマ水は美容に良いということで有名であるが、なぜヘチマは美容成分を体内に含んでいるのか疑問思いました。まずヘチマの主な美容成分を調べたところ、サポニンという物質が含まれており、それは抗酸化作用があり肌の老化を防ぐようです。ヘチマの生息地域は主に熱帯地域ということを考えると、熱帯地域では紫外線量も多く、紫外線は細胞中の酸素を活性させてしまうので、人間の肌のみならず、植物の細胞にもダメージを与えるのではないかと考えます。このことから、ヘチマはサポニンを体内生産することで、活性酸素によるタンパク質の変性や遺伝子へのダメージを防いでいるのではないかと考えます。
【参考引用】http://hadalove.jp/hechima_lotion-20910、http://www.wakasanohimitsu.jp/seibun/saponin/、http://www.skincare-univ.com/article/004179/
A:サポニンの効果も否定はできないかもしれませんが、その濃度はそれほど高くないと思いますから、むしろ根によってフィルターされた「きれいな水」という観点が大きかったのかもしれないと思います。昔は、里芋の葉についた朝露で墨をするとよい、などという話もありました。
Q:単細胞のシアノバクテリアは昼に光合成を行い、夜は窒素固定を行って朝になるとその窒素固定の機構を分解してしまうという話を聞いて、ヘテロシスト細胞を作って分業しているシアノバクテリアだけでなく非効率に思われる単細胞のシアノバクテリアが淘汰されずに残っているのか疑問に思った。結果として単細胞のシアノバクテリアはイニシャルコスト軽減型、多細胞生物はランニングコスト軽減型として棲み分けを行っているのではないかと考えた。普通の細胞より大きくて特殊な機能を持つヘテロシスト細胞をつくるのにはおそらく沢山のエネルギーや多種の物質を必要とし、ヘテロシスト細胞と光合成を担う普通細胞、最低2つの細胞が存在しないと生きていけない。つまり多細胞だと最小限の体を作るのに必要とするものが多い。単細胞の中で酵素であるニトロゲナーゼを作るのにはおそらくそれよりも少ないコストですむと考えられる。よって毎日ニトロゲナーゼを作るランニングコストはかかるものの一回に必要なコストは少ないので単細胞は厳しい環境でも生きていけると考えられる。また、単細胞で構成されるので体をバラバラにされる危険性が少ないことも棲み分けに寄与していると考えられる。今回は単細胞で窒素固定を行うシアノバクテリアの具体的な生息環境について調べられなかったが、生息域と合わせて考えることによりより深い考察ができると思う。
A:これは、考えが良く整理されていていいですね。文章を書きつつ考えているのではなく、きちんと考察してから文章を書き始めているのがわかります。