植物生理学I 第3回講義

植物の葉の構造

第3回の講義では、植物の葉の構造について、気孔や葉の中の組織を中心に解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:今回は植物の葉と環境についての講義であったが、そのなかでも植物にとって非常に大事な気孔について考察したいと思う。植物における気孔の役割は主に、二酸化炭素の取り込みと、蒸散であるということを習った。このことから、気孔に最も適した形はなにか、考えてみた。通常、気孔は、2つの孔辺細胞が向かい合った、人間のくちびるのような形をしている。気孔の構造上の主要な機能は「開閉」である。その開閉の仕組みは、簡潔に言うと孔辺細胞の浸透圧上昇による吸水で生じた膨圧で気孔が開き、蒸散が起こるというものである。(参考:視覚でとらえるフォトサイエンス)これは高校生レベルの説明であるが、気孔の開閉のシステムについてはまだ未解明のところもあるようだ。「開閉」という目的だけで考えると、初めに頭に浮かぶのが箱のようにパカパカとふたが開くものだが、これが植物の気候に不向きであるということは想像に容易い。もし気孔が蓋状の構造であったら、外部からの物理刺激によってふたがポロリと取れてしまったり、ふたのサイズが合わなくなって気孔を完全に閉じることができなくなってしまったりする可能性がある。またふたが開いているとき葉の表面はおそらく平面的でなくでこぼこになってしまい、風の抵抗を受けるということも考えられる。次に思いつくのが、リング状になっている一つの細胞である。中央に穴が開いている構造を考えたが、この構造の細胞を開閉するには、なにか外側から引っ張る力が必要であり、浸透圧や膨圧では不十分という結論に至った。3つめに思いついたのが、傘のように同心円状になっており、3つ以上の複数の細胞が機械仕掛けのように複雑に組み合わさったものである。しかしこの構造は場所を非常にとる上、敢えて2つの細胞の動きを増やして複雑にするメリットを見出せなかった。以上のようなことを考えたうえで、気孔の構造には人間のくちびるのような、二つの孔辺細胞が組み合わさったものが最適なのだと考えざるを得なかった。開閉の構造には、今思いつくことのできなかったものがまだまだあると考えているので、気孔になり得る形状のものを、日常の中でも探していけたらいいと思う。

A:このように、生物が現実に持つメカニズムについて、別の可能性を考えてみるやり方は、物事を複数の視点からみることにつながり、科学的なものの見方の訓練としてよいと思います。


Q:今回の講義は植物で光合成の基質である二酸化炭素の取り込みや水分の調節を行う気孔の開閉や進化の過程での獲得機構などについて学習した。そこで私が気になったのは気孔を葉の裏や表で一定に保つシステムである。気孔密度は一定に保たれるために形成過程でフィードバック作用が働き、また、その植物体の成熟葉を用いて環境応答することができることがわかった。つまり、既に形成された下位葉における二酸化炭素や光が上位における新しい葉の形成の際に伝わり、気孔量の調節を環境に応じて行うことができる(参考:気孔密度の調節機構とその環境応答 京都大学大学院理学研究科植物学系)。この環境応答システムがどのように働くかまだ未解明であるが、気孔量に関わる二酸化炭素や光のシグナルを受け取ることのできる場所として考えられる葉緑体が存在する孔辺細胞つまり気孔が何らかの伝達物質ないしホルモンなどを上位にとどけることができるのであろう。また双子葉植物では一連の分泌性ホルモンが関与しており、表皮細胞から気孔への変化を抑制するペプチドホルモンや、そのペプチドの活性をオフにし気孔の作製を促すペプチドホルモンの存在が示されている(参考:2つの相反するペプチドホルモンの競合による気孔の数と分布の制御 名古屋大学)。こういったペプチドホルモンの増減を二酸化炭素や光で変化させる作用機構が気孔には存在しているのだろう。

A:きちんと調べていて、自分の考えも述べられていてよいのですが、やはり論理が、調べた研究のものに引きずられてしまっていますね。この講義のレポートで重要なのは、自分の独自の考え方です。調べた研究のなかで展開されている論理に引きずられずに、それとは全く異なる自分の考え方をレポートに盛り込むようにすると、さらによいレポートになります。


Q:今週の講義の最後で葉の付いている角度にもその場の光の強さに合わせて多様性があり、フジのように光の強いときは葉を立て、弱いときは葉を寝かせるような種もいるということを学んだ。そこでフジの葉はどのように葉を動かしているのかについて考えたい。そのときに参考になるのが気孔の動きであると考えられる。あまり動かない植物において、周りの気体の状態をくみ取って開閉する気孔と光の強さをくみ取って開閉するフジの葉は似ているところがある。気孔は孔辺細胞が水を取り込むと膨圧が大きくなった開口し、水が抜けると膨圧が下がり閉鎖される。これにはイオンポンプを使って細胞内にカリウムを取り込むことによって行っているそうだ(1)。また葉が動く代表例としてオジギソウがある。これは葉にものが触れると電気信号が主葉枕に伝わり、葉柄の外側の細胞のアクチンの束がばらばらになり水を細胞内に保てなくなって膨圧が下がり、葉を水平に保てなくなって倒れるのだそうだ(2)。これらのことを参考に考えていくと、フジの葉の開閉も細胞内の水分量を変えることによって膨圧を変化させることによるのではないかと考えられる。葉を閉じるには向軸側の細胞の膨圧を下げ、逆に背軸側の膨圧を上げることによって行っているのではないだろうか。また膨圧の変え方はオジギソウのように細胞骨格を変化させる方が素早く行えるが、変化させる範囲が細胞レベルであるため消費エネルギーも多そうである。逆に気孔のようにイオンポンプを働かせると刺激を受けてから反応が起きるまで時間はかかるが細胞内で起きる現象であるため消費エネルギーは小さいであろう。フジの葉の場合いきなり太陽光が致死量にまで強くなることはないと考えられるため反応の速さよりもエネルギー消費の少なくする方が優先されると考えられる。そのため膨圧を変化させるには気孔のように細胞内のイオンの量を変化させているのではないだろうか。
参考文献:1.木下俊則.“気孔の働きと開閉の仕組み”.一般社団法人日本植物生理学会.https://jspp.org/hiroba/essay/kinoshita.html(参照2016-04-27).2.アットホーム株式会社.“オジギソウの「おじぎ」は、なぜあんなに素早い?その秘密は、細胞の骨格をつくるタンパク質にあるのです。”.at home教授対談シリーズ こだわりアカデミー.http://www.athome-academy.jp/archive/biology/0000000114_all.html(参照2016-04-27).

A:気孔の場合も、細胞骨格の関与が示されていますから、必ずしも、メカニズムの差が応答時間の差を生み出しているとは言えないかも知れません。また、エネルギーの面からすると、そのメカニズムが何であれ、動かすものの重さと移動距離に比例した最低限のエネルギーは必要でしょう。そのあたりは、もう少し考慮の余地があるかもしれません。


Q:葉の表皮細胞には大方葉緑体が含まれていないことを学んだ。全身くまなく葉緑体があった方がエネルギーを生み出せるだろうと思ったがどうやらそう単純ではないようだ。コストや二酸化炭素輸送の問題もあるかもしれないが、授業を聞いていて私は表皮細胞に葉緑体を置かないのではなく置けないのではないかと考えた。それは、表皮細胞内の環境がその他の細胞と著しく異なるのではないかという勝手な思いつきからである。表皮細胞の役割は外界からの侵入者に対する防御である。動物では死細胞が積み重なっていたり、汗によって表面に付いた外敵を撃退できる。生体内に侵入されたとしても細胞内を移動できるマクロファージなどの細胞が外敵の排除を試みる。しかし、植物では死細胞は積み重なっておらず、クチクラ層があるが汗も出ない。特に、マクロファージのように移動できる細胞がなく、動物のような免疫機能をもっていない(1)ことがポイントである。クチクラを突破されれば、細胞表面にウイルスや細菌が付着し、植物体内に侵入されるおそれがある。植物体内に侵入を許した場合動物のような免疫機能は働かない。そのため、侵入された植物細胞自らが何らかの防御策を講じる必要がある。pH変化、RNAi、制限酵素などが思い浮かぶが、外敵からの防御のため表皮細胞内の環境が他の細胞と違っているのではないかと考える。具体的には、成長した植物細胞では液胞が発達しており、その中に抗菌物質や分解酵素を蓄えている(1)。形態学実習で葉の断面を観察した記憶の中では、表皮細胞で液胞を確認することができなかった。液胞ではなく細胞質基質内に抗菌物質や分解酵素を蓄えており、細胞内環境が他の植物細胞と異なり、異なるゲノムDNAを持つ葉緑体が生きていけないのではないかと考えた。
(1) 西村いくこ 著, 植物の新しい免疫メカニズムの発見?細菌の感染に対抗するための植物の戦略? 京都大学HP, http://www.kyoto-u.ac.jp/static/ja/news_data/h/h1/news6/2009/091015_1.htm, (2016. 4. 27閲覧)

A:防御機能に特化しているため、光合成ができないのではないか、というところまでは誰もが考え付くことだと思いますが、そこに、免疫の研究例を持ってきて、具体性を増したところがこのレポートのよいところです。さらに、細胞内の環境自体を変えているのではないかという発想は、研究例から来ているのではなく、独自の考えであることも評価できます。


Q:今回の講義で、植物によって気孔の形態はさまざまであり、コケ植物には気室はあるが気孔は無く(一部の胞子体には気孔が存在)、蘚類の一部には1つの細胞からなる気孔があることを学習しました。これらの植物は原始的であると言うことが、気孔の形状からも言うことができますが、実際どの程度まで原始的なのか、を気孔形成の観点から考えることにしました。全ての気孔は、葉の表皮の未分化の細胞から作られます。そこから気孔原始細胞(メリステモイド母細胞)ができ、それが数回の非対称分裂を繰り返して孔辺母細胞となり、最後に二つに分裂して中心に気孔が出来上がります。各形態変化の過程は、それぞれ別の転写因子によって制御されている(嶋田、菅野、西村ら、2011)ので、気孔に近い順に、各過程の転写因子をコケ植物の配偶体(気孔が無い)や蘚類(原始的な気孔を持つ)の細胞内のDNAに導入し、気孔ができるかを調べれば、気孔が未発達なこれらの植物がどの程度まで気孔形成のメカニズムができているのかを調べることができ、また同じ仲間のコケ類と比べることによって、より進化や系統の関係を詳しく調べることができるのではないか、と考えました。(たとえば、SPCHというパラログは、最初の段階で原表皮細胞から気孔原子細胞への分化を促し、MUTEは気孔原子細胞の非対称分裂を促し、FAMAは最後の過程で孔辺母細胞の分裂を1回に抑える因子である。他にもさまざまな因子が存在するが、FAMAのみ→MUTE+FAMA→SPCH+MUTE+FAMAのように気孔に近い段階の因子から加えてゆくことで、気孔形成のメカニズムがどの程度まで備わっていたかを調べられるだろうと考えました。この考え方を利用すると、おそらく、蘚類では孔辺母細胞においてFAMAが働かず、細胞分裂が起きなかったため1つの孔辺細胞となった、とも考えることができます。)

A:アイデアは面白いと思います。以前は、進化を実験的に追いかけることは不可能だという考え方の方が主流でしたが、現在では、難しい点は数多くあるにしても、実験的に手がかりを得ることは不可能ではなくなりました。ただ、気孔形成のメカニズムが部分的には保存されている、という仮定が正しいかどうかはわかりませんから、その前提が間違っていると、結果は出ないことになりますね。


Q:今回の授業において、シダ植物には通常の孔辺細胞があり、苔類にはそれがないことを知った。また、葉緑体にCO2を運搬する方法として隙間を開けるようにしたことで効率的に行きわたらせるようになったことを学習した。その知識を用いて、植物生理学の観点から石炭紀において苔類ではなくシダ植物が巨大化した理由を考察する。まず、石炭紀におけるシダ科は「中には高さが30mを超えるものも見つかって」(1)いることが分かっている。しかし、それより前に出現したコケ植物には見られない。どちらも葉(葉状体)の内部にある程度の隙間が存在しているが、孔辺細胞はシダ植物のほうしか存在していない。よって、孔辺細胞の存在が巨大化の一因になったと考えられる。理由としては、孔辺細胞の発達により乾燥に強くなったからであると考えられる。孔辺細胞を持たないコケ植物は内部が常に空気にさらされるため乾燥に弱く、水分が豊富な地上付近にしか生育できないが、孔辺細胞を持ったシダ植物はある程度ならば孔辺細胞の開閉の制御により乾燥に耐えられるので、乾燥しやすい高所に葉をつけることができ、また葉の内部の隙間の存在によるCO2の効率の良い分配方法を身に着けていることで有機物の生産も盛んに行えたと考えられる。生産した有機物を使用して遮るものが少ない高所まで成長することで光合成効率が良くなり、さらに有機物を生産することを繰り返していった結果、高所まで成長したシダ植物が誕生したと考えられる。つまり、孔辺細胞を所持し、乾燥に強くなり地面から葉が離れても内部乾燥しなくなった結果、乾燥を気にせず巨大化することができた、これがシダ植物の巨大化を可能にした要因であると考えられる。なおこの考えを証明する方法としては、その時代の苔類の化石とシダ類の化石に存在する孔辺細胞を確認する方法が最適であると考えられる。しかし、これには保存状態の良い化石が必要になってくることがネックではある。
1.JAXA宇宙情報センター 植物(2016年4月28日 参照)、http://spaceinfo.jaxa.jp/ja/plant.html

A:これも非常に面白い視点でよいと思います。ただ、しだ植物とコケ植物の間には、維管束の有無という非常に大きな違いがあります。やはりその点は、何らかの形で考察する必要があるでしょうね。


Q:今回の授業を聞いて表皮細胞には葉緑体がないのに孔辺細胞には葉緑体があることに関して大変興味を抱きました。葉緑体がある理由は気孔の開閉に関わっていて、二酸化炭素が十分になり光合成で合成されるグルコースで浸透圧が内部で大きくなり水分を吸収して気孔が閉まるというメカニズムが考えられるようだが、ここでまだ解決していないと思うのが通常葉の裏側に多い気孔に葉緑体があっても光がうまく吸収できないではないかということだ。ここで自分は葉の表よりでは通常葉緑体が吸収する青や、赤の光を吸収するが、葉の裏側にある孔辺細胞の中の葉緑体ではそこで使われなかった黄色やオレンジ色が光合成に使われるような光合成色素があるのではないかと考えた。

A:事実上、2つ文だけからなるレポートですが、目の付け所はよいと思います。ただ、やはり、もう一押し論理展開が欲しい気はします。