植物生理学I 第6回講義
原核から真核へ/光合成色素
第6回の講義では、前回の講義の補足として原核生物から真核生物への進化の過程と色素体の分化について触れたのち、光合成において光の捕集にかかわる光合成色素について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:今回、ホストにシアノバクテリアが共生体として入るときに大量の遺伝子が細胞核へ移行するという話を聞いた。ここでなぜ核を移行させる必要があるのか考え直してみることにした。そして私は実はこれは「遺伝子抜き取り奴隷化」なのではないかと考えた。シアノバクテリアが取り込まれ、ホストは使えると判断すれば「こいつに光合成をさせよう。」と考えるようになるわけである。これは私の想像の域であるがシアノバクテリアも隙を見て逃げ出すことをするであろう。ホストとしてはシアノバクテリアにはおとなしく自分の手足となってもらいたいわけであるから、どうにかして逃げられないようにしたい。その手段の1つとして遺伝子を抜き取り、光合成という最低限のものだけ残し脱出しないようにしたのではないだろうか。確かに中には、ホストが栄養分を与えてくれるということで脱出しないものもいるであろう。しかし、これはシアノバクテリアにとっては子孫を残せないという時点で死活問題だ。逃げようとしない方が実は不自然ではないだろうか。 書いていてアメリカの奴隷制度が思い出されたが、きっと太古の生物の歴史でもそんなことが行われたのではないだろうか。
A:生物の進化を考えるうえで、その生物の身になって考える(=擬人化)は役立つこともありますが、注意も必要です。進化をするのは個体ではなく、集団です。大多数の個体の死につながるような進化は、擬人化していると考えづらいですが、実際には生き残った一握りの集団が大きく繁栄するのであれば、そのような進化が起こる可能性は十分に考えられます。
Q:今回の講義で気になった点は、一定のコード領域だけをランダムに細胞核に導入すると、一定の割合で遺伝子の発現がみられるという点である。遺伝子のコード領域をランダムに細胞核へ導入すると、一定の割合で遺伝子の発現が見られるが、その時プロモーターの新生が起こっている。しかし、”一定の割合”であるため発現されない遺伝子も多いのである。また、この一定の割合の遺伝子が、全てその生物にとって良い方向に働くとは限らないとも考えらえる。必要な遺伝子が発現しなかったり、生存に不利な遺伝子が発現する可能性もあるからである。もしそのようになれば、その細胞の生存率は低下し、その遺伝子は次の世代へと引き継がれる可能性は少なくなってしまう。このことから、ゲノムの役割は遺伝情報を保存しておくだけの場ではなく、遺伝子を変異する場でもあると考えられる。
A:せっかく面白そうな話題を取り上げているのですが、最後の「このことから」という部分の論理がはっきりしません。科学的なレポートは論理が命ですから、他人に論理展開がきちんとわかるように書くことが大切です。
Q:今回は葉緑体にスポットを当てた授業でした。授業内で葉緑体は植物細胞内に約10~100個ということを教わりました。ここで、なぜ植物によって10倍ほどの差が生まれ、さらに葉緑体の数がこの数なのかということに疑問を感じました。植物にとって光合成は生命を支えるとても重要なことであり、それには葉緑体が必要不可欠となれば、あればあるだけ困らないように感じました。調べてみると、葉緑体の数と大きさはPDV1、PDV2というタンパク質によって調整されていることがわかりました。さらに、PDVの量が植物ホルモンであるサイトカイニンによって制御され、組織ごとに、葉緑体分裂の速度が変化していることもわかりました。このことは調べると記載されていたのですが、植物ごとの葉緑体の数に関する記載は見つかりませんでした。単純に考えて、日光の多い地域に生える植物は日光に当たる時間が多いので葉緑体の数が少なくても光合成を行えるが、逆の場合は少ない日光をフル活用しないと生きていけいないので、葉緑体の数も増えるのではないかと考えました。また、葉緑体の数が多すぎると、ほかの細胞内小器官の機能に支障が出るために、最適な葉緑体の数が10~100個なのではないかと考えました。
参考文献:理化学研究所 広報活動 報道発表資料 http://www.riken.jp/pr/press/2009/20090701/
A:ここでおしまいにしてしまうのはもったいないですね。もしそうだとしたら、植物が置かれた光環境を変えれば、葉緑体の数は変わるはずです。では、どうやって光環境によって葉緑体の数を調節するのでしょうか。そのように、一つのアイデアが次々に別のアイデアに発展していくのが研究の面白いところです。
Q:今回の授業で、葉緑体のゲノムは核のゲノムへと組み込まれ進化してきたことを学んだ。真核生物の核に原核生物のDNAが組み込まれることが可能なら、全ての遺伝子が組み込まれた方が効率がよいと考えられる。例えば細胞分裂の際に大まかに半分にし、葉緑体を含まない細胞がでてしまうような危険を冒すより、他の細胞小器官のように核の指令から細胞小器官を複製した方が効率的である。遺伝子が核へと移行したものと、そのまま留まった理由について考える。まず考えられるのは、葉緑体の働きの中で真核細胞でも似たような働きがある遺伝子のみが、移行したことである。似たような働きをすでに持っていれば組み込まれてから発現しやすいだろう。授業内で、緑藻からマメ科への間に、伸長因子やリボソームタンパク質、などに関係する遺伝子が細胞核へと移行していたと習った。これらの働きは、似たような働きを真核生物の細胞内でも行われていたものである。次に、葉緑体の遺伝子が細胞核へと全て移行している過程であることである。葉緑体はいろいろと進化をしていく過程でゲノムが核へと移行している。原核生物から真核生物へと組み込むことは、複製や発現の仕方が異なることから、難しいことは授業でならった。そのため時間がかかることも考えられることである。
A:遺伝子が移行した理由と移行しなかった理由をきちんと考えている点は評価できます。一面的な見方をするのではなく、物事の両面を判断することは、生物学の研究にとってはとても重要です。
Q:葉緑体のゲノムが細胞核へと移行する事に2段階ある事を聞き、とても興味深く思いました。ホストにシアノバクテリアが共生した際に大量の遺伝子が細胞核へと移行する第一弾の遺伝子移行があると聞き、なぜ二段階にする必要があるのか、またなぜ、共生するにあたって、大量に遺伝を細胞核に移行する必要があったのかが疑問となりました。細胞核への遺伝子の移行に関してはシアノバクテリアが共生にあたってホスト体内のシステムを利用する事ために自らのシステムと連結させる必要があったからではないかと考えました。それに伴い、現在の進化した生物と違い、生命維持に必要なシステムのほとんどを共有する必要があったために仕方なしに大量の遺伝子を移行する事になったと推察しました。また、二段階の移行に付いて私は、共生をして行くにあたって、ホストも進化し、シアノバクテリアの初期の遺伝子移行では対応し切れなくなってしまう部分が生じたからだと考えました。
A:いわば、結婚して家を新築した後、子供の成長に伴って改修工事を続けるイメージでしょうか。これも一面的ではない考え方をしていてよいと思います。
Q:生物によって見られる葉緑体遺伝子の違いから葉緑体の遺伝情報が細胞核内に移行したのではないか、という話を聞きその遺伝情報が気になった。葉緑体遺伝子の情報量というのはゲノムサイズを見ることで大まかにわかる。講義で非光合成(寄生)藻類の色素体のゲノムサイズが光合成(寄生)藻類の色素体のそれの半分ほどであると言っていたように不必要の情報量は減少しているようだ。緑藻類→コケ類→裸子植物類→被子植物類→マメ科と見られなくなっていく葉緑体遺伝子の推移を見たが、これも同じように考えられるはずだ。しかし、その不必要な情報は失われること無く細胞核へと移行したと考えられている。情報量を言葉通り現代のパソコンの情報量、また細胞核や葉緑体のゲノムをそのデバイスであるパソコンと考えてみると、不要な情報は放棄した方が良いだろう。しかし失われていないことから、少なくとも必要最低限であるのだろう。では細胞核はその情報量を自身に移行することにメリットはあるのだろうか。情報量とデバイスの関係性から考えると情報量の累積はそのデバイス(細胞自身)に負の影響を与えるだろう。情報移行の謎を解明するために、まずtufAやrp121、chl1、rp123のはたらきを調べることが必要である。はたらきから、全体に対しての発現率や、その遺伝子の効率性を調べることでゲノムサイズの減少がオルガネラ(ここでは葉緑体)の効率化につながっているか、探ることができるはずだ。効率化等の正の影響が見つかれば、オルガネラの効率化が自身に対してポジティブに働くからこそ、遺伝情報の移行が行われてきたことが証明されるのではないだろうか。
A:今どきの比較で言えば、ローカルなデバイスに情報を書き込むか、クラウドを利用するか、というところでしょうか。クラウドに依存する場合、当然、そのクラウドの運営会社に生殺与奪の権利を与えることになってしまいますから、それは、共生体にはリスクになりますし、場合によってはホストにはメリットになるととらえることもできるかもしれません。
Q:今回の授業では葉緑体のゲノムサイズの話が上がった。シアノバクテリアでは数百万bpだが、葉緑体は数十万bpであり、葉緑体の必要な機能分のゲノムしか残っていないということであった。今回、気になったのは、二次共生によって生まれたヌクレオモルフのゲノムサイズである。ヌクレオモルフは真核生物の核が変化したものであり、初めは真核生物の核と同じ程度のゲノムサイズであったと考えられるが、ヌクレオモルフのゲノムサイズは文献によると「ヌクレオモルフゲノムサイズが比較的大きな(450 kb)Lotharella vacuolata と最小(330 kb)のL. amoebifolmis」とあり、代表的な真核生物の出芽酵母の12000 kbと比べて非常に小さい。これは二次共生の際、光合成の機能(葉緑体)だけが必要とされ、真核生物の機能は必要とされなかったため、スプライシング等の原核生物が持たない機能だけが残ったため、このような小さなゲノムサイズになったと考えられる。三次共生、四次共生と共生のレベルが上がるにつれ、必要となる機能、宿主が持たない機能は減少するため、高次共生生物のオルガネラのゲノムは小さくなると考えられる。
文献:石田 健一郎「ヌクレオモルフゲノムをモデルとした共生者ゲノムの縮小進化に関する比較ゲノム解析」(http://lifesciencedb.jp/houkoku/pdf/B-53_final.pdf)(参照2014-05-25)
A:単に、調べた結果を記述するのではなく、そこからきちんと考察しているので、よいと思います。もう少し考察にひねりがあってもよいとは思いますが。
Q:今回の講義では色素体について学んだ。色素体にはさまざまな種類が存在しており、今回はそれらの多様性について考察してみたい。以前、講義で扱われたように、色素体の一種である葉緑体はシアノバクテリアとの細胞内共生によって生じたオルガネラであると考えられている。では、すべての色素体は同一のシアノバクテリア由来のものであるのだろうか。『生物辞典』(旺文社)によると、色素体はプロプラスチドが分化することによって生じたり、色素体が相互変化したりすることが知られている。各々の色素体の起源が異なる場合、原型が共通であったり、相互変化が起こったりすることは考えにくい。ゆえに、先程の疑問の答えは“YES”であったのではないかと考えられる。加えて、細胞内共生を行う以前には、シアノバクテリアのみで生き延びていたことから、もともとは独立栄養的に生きることができる葉緑体様の状態であり、細胞内共生後に様々な種の色素体が生じたと考えられる。以上のことから、色素体が持つ多様性は細胞内共生が行われた後に獲得された特徴であり、また、このことは細胞という特殊な環境で行われた進化の一種であると言えるだろう。
A:異なる色素体が異なる起源をもつ可能性について注目していて、面白いと思います。できたら、どのように「様々な種の色素体が生じた」のかについて考えてみるとさらに考察が深まるでしょう。
Q:今回の実験ではオルガネラから細胞核への遺伝子移行、そして少し光合成色素について触れた。細胞核への遺伝子移行、そして移行した遺伝子が発現すること、これらにはまだ謎が多いらしく、それについて幾らか授業で紹介された。それとは別に、私は、「どのようにオルガネラは自己の遺伝子を切断し、どのように送り出したのか」という疑問を抱いた。想像するに、切断の方法としては「制限酵素」が浮かんだ。DNAの中に、共生状態に入って暫く経つと発現する、制限酵素のような蛋白質をコードした部分があるのだろう、と想像する。制限酵素であれば、期待した部分でDNAの切断が出来るので、自分自身で持っていたい遺伝子とそうでない遺伝子を仕分けることが出来るのではないか。では送り出す方法は何だろうか。動力は不明であるし、核膜を通過してクロモソーム構造の中に入り込む方法も不明である。もしかすると、動力は無く、細胞質中を漂わせているのかもしれない。クロモソームは、先に言った制限酵素のように、クロモソーム構造を緩める蛋白質をオルガネラがコードしており、それも遺伝子と同様に漂わせているのだろうか、と考えた。
A:実際に、どのようにDNAが移行したのかについてはほとんどわかっていないと思いますから、自由に想像力を働かされることができる話題でしょう。最後、「クロモソーム構造を緩める蛋白質をオルガネラがコードしており」という部分、なぜ、そもそもそんな遺伝子を持つことになったのか、説明が必要でしょうね。