植物生理学I 第15回講義
光合成の効率
第15回の講義では、光合成の効率について、個々のステップの効率を考えるとともに、太陽電池などと比較しながら解説しました。動物と植物の光合成と呼吸の比較の中で、タコクラゲやウミウシが共生をしている話をしたところ、レポートの話題としては、それがかなりの割合を占めてしまいました。
Q:今回の授業で、ウズベンモウソウと共生して生きているタコクラゲについての話が出てきた。多くのクラゲは通常触手を持ち、触手などにある刺胞に含まれる毒をを用いて動物性の餌を取り、捕食生活をしている。一方、タコクラゲは触手を持たないため、自力で餌を取ることができない。自力で餌を取れない動物は自然界の中で淘汰されてしまってもおかしくないはずであるが、タコクラゲは褐虫藻を体内に細胞内共生させ、褐虫藻から受け取る光合成産物よりエネルギーを得て生きているのである。ここでふと思ったのは、全ての生き物が褐虫藻を体内に共生させれば、褐虫藻にとっては外敵から身を守ることや、生物から二酸化炭素などの代謝産物を光合成基質として利用することができ、生物にとっては光合成によるエネルギーをもらえ、両者にとって益になると考えられる。しかし、褐虫藻を共生させている生き物は一部に留まっているのはなぜだろうか。これは、他の単細胞生物を体内に生息させることは、自身の体組織の一部がのっとられていることでもあり、宿主側にとってもリスクがあることが考えられる。自分で餌を能動的に取ることができるのであれば、わざわざあまり多くもないであろう光合成産物に頼る必要はなく、また光があまり当たらないところでも生息でき、生息範囲の幅が広がる。よって、自らの力で餌を取ることができない、またはその量が少ない生物のみが褐虫藻と共生し、共生することにより生存が可能になっていると考えた。
A:最後の部分、どのような生物だったら共生が可能で、どのような生物だったら不可能だ、という結論が重要だと思います。ここでは「餌をとることができない」場合に共生を選ぶというのが結論のようですが、共生を選んだから餌をとらなくなった、と考えることもできます。そのあたりの論理構成にひと工夫必要ですね。
Q:今回の講義の中で自分にとって一番興味深かった項目は、タコクラゲが体内に生息する褐虫藻の光合成の恩恵を受けている、という話です。光合成によってその動物の必要な有機物を、すべてではなくとも一部でも賄えるようになれば、食糧難解決の一手助けになるのではないかと考えました。しかし自分は、有機物ではなく酸素を生産できるという方が更に興味深かったです。植物とは少し話がそれますが、酸素ボンベなしに水中で人が長時間の滞在を可能にさせる方法の一つとして、酸素を閉じ込めた液体を体内に注入する液体呼吸という技術が存在します。今は火傷等によって肺に大怪我を負った患者や未熟児等の治療法として活用していますが、将来的には潜水や宇宙船外活動などへの発展も考えられています。そして、今回学んだ体内で光合成を行う方法も、この液体呼吸の手助け、ないし取って替わるような人の水中での長時間の活動を可能とするものの一つとなれればと自分は考えました。必要面積や、水中という更に光が弱くなる場所となるなど、いまだにいくつか問題は存在しますが、水中での運動ならば地上で運動するよりも浮力による補正がかかり、更に割り切って泳ぐことをやめてそれこそクラゲのように漂えば、海水浴と日光浴の間のようなものが楽しめるのではないかと自分は考えました。
A:なかなかユニークでよいと思います。ただ、酸素を光合成に頼ってしまうと、夜の間どうするか、また、悪い天気が続いた時にどうするか、などが気になりますね。
Q:タコクラゲは体に褐虫藻を共生させている。タコクラゲは褐虫藻が光合成しやすいように移動し、褐虫藻は光合成で得た有機物をタコクラゲに渡している。これは両種にとって利益があるので相利共生であると言える。動物は自分で餌を求めて動きまわるので、光合成でそのエネルギーを得ようとすると非常に難しい。クラゲは自分で動き回り、プランクトンなどを食べて生きる動物らしいクラゲが一般的である。タコクラゲは餌をとる必要が無いから動き回る必要はない。しかし、褐虫藻のために、より光合成しやすい環境へと移動する必要はある。移動する必要があるのなら、タコクラゲにとって光合成に依存する今の状況はエネルギー的に節約を強いられている状態ではないかと考えた。一般的なクラゲとタコクラゲを比較してみる。一般的なクラゲにとって最もエネルギーを消費するのは餌を採るために移動するときと実際に餌を捕まえるときだと考えられる。移動は前述のようにタコクラゲもしているが、餌を捕まえることはしない。つまり、刺胞というシステムを生物的に捨てることで他のクラゲよりもエネルギーを節約しているのではないかと考えた。刺胞を持つということは針や針を出す部分を構成するタンパク質をアミノ酸から合成し、かつ毒物になる物質も合成しなくてはならない。それらを行わずに済むならエネルギーの節約になるだろう。また、餌を求めてあてもなく移動するよりも、昼間は上層、かつ日光の当る場所、夜間は下層というように移動する方が、細かく動き回る必要はないのでエネルギーは少なく済むのかもしれない。タコクラゲは、光合成に依存しているから餌を食べないのではなく、餌を食べるという行為を捨てたからこそ使用するエネルギーを減らすことに成功し、光合成に依存する生き方を獲得できたのだと考えた。
参考文献:http://www.kagiken.co.jp/new/kojimachi/animal-takokurage_large.html、科学技術研究所 タコクラゲ 2013.07.28閲覧
A:動きの質に関して考察している点が面白いと思いました。ただ、これも、「光合成をする」「餌をとらない」という2つの性質のどちらが原因でどちらが結果か、という問題が解決されていないように思います。
Q:今回の授業で、光合成と葉の寿命について学んだ。光合成速度が大きくなるほど、一枚の葉の寿命は短くなる傾向にある。また、草本植物では、光合成速度が大きく、葉の寿命が短いのに対して、木本植物では、光合成速度が小さく、葉の寿命が長い。このことは双方の植物にとってどのような意義があるのかについて考えてみた。まず、草本植物の場合は、生育できる時期が限られている。その生育期間内で急速な植物体の成長や種子の形成を行なうためには、寿命が短くても光合成速度が大きい葉をつけることが必要だと考えられる。速い成長は、他の植物との生存競争の上でも重要である。一方で、木本植物では、生育期間が長いため、寿命の短い葉をつけるよりも、寿命の長い葉をつける方が、葉を新たに生産するコストを少なくすることができる。また、葉を多くつけることにより、一枚の葉の光合成速度が小さいのを補っていると考えられる。さらに、多くの葉をつけることは、一部の葉に光が当たらなくなっても、他の葉で、光合成を補い、植物体を維持することができる可能性を増やすことができると考えられる。このことから、草本植物が植物体の成長を優先しているのに対し、木本植物は個体の維持を優先していると考えられる。
A:きちんと考えていると思います。最後の「個体の維持」というのがややあいまいでしょうか。
Q:今回の講義で紹介されていた光合成と太陽電池との比較について関心を持った。植物の光合成と太陽電池では光エネルギー変換効率という点で違いがある。太陽電池では飽和点がなく光が増えれば増えるほど効率は上がる。これは一見植物の光合成より効率が良いと感じるかもしれない。しかし自然環境下で光が増え続けるという現象は考えにくい。つまり植物の光飽和は環境に合わせ進化した結果であると考えられる。ここで私が考えたのは太陽電池の変換効率を上昇させるためには植物のような光吸収を行うものを作成できればよいのではないかということだ。光の弱い環境下で光の吸収率をあげることができれば現存の太陽電池より効率の良いものが作れるのではないかと考える。
A:「飽和する」という現象は、あくまで光が強い領域で速度の増加が抑えられるのであって、飽和したから弱い光のもとでの速度が大きくなるわけではありません。そこだけを変えても太陽電池を追い抜くのは難しいと思います。
Q:今回の授業で一番興味深かったのは、ソーラーパネルと光合成によるエネルギー出力の飽和の形に違いがあることです。葉のグラフでは傾きがだんだん小さくなっているがどうしてこのような形になったのか、疑問に思いました。効率の面で考えた場合、ソーラーパネルのように比例関係であったほうが葉を真横に伸ばして葉の枚数を少なくすることもできるし、そのぶん養分も少なく済むと思います。しかし、実際にこのような形がとられていないのはこの考え方が間違っているからでしょう。あるいは光合成ではソーラーパネルのような出力を出せないことにあるでしょう。いずれにしても人間の生み出したソーラーパネルは無駄のない効率的なものになっているのに感心しました。
A:太陽電池の場合は物理反応であるのに対して、光合成は化学反応です。化学反応の場合は、分子同士の反応が速度の上限を決めますから、例えば化学反応速度論を考えると、基質が飽和すると反応速度が飽和することになります。人間が考えたかどうかではなく、物理反応であるのか、化学反応であるのかが大きなポイントになります。
Q:タコクラゲと渦鞭毛藻の共生の話があった。タコクラゲは渦鞭毛藻の最適な光合成条件のため、昼間は海面付近に上昇し、光のない夜は深く潜って、渦鞭毛藻が栄養塩を吸収するのを助け、産生された光合成産物の一部をタコクラゲが利用することができる。では、このタコクラゲの行動を制御しているものについて興味を持った。この行動がタコクラゲの自律的な行動によるものか、それとも渦鞭毛藻が支配しているのかという2つの可能性がある。この可能性を調べるために、渦鞭毛藻の共生のないタコクラゲがどのような行動をするのか共生のあるタコクラゲと比較、観察をする。もし、渦鞭毛藻を有するタコクラゲと同じ動きをするならば、タコクラゲの行動はタコクラゲの自律的な行動と言うことができる。渦鞭毛藻からの作用はないということだ。この自律的な行動を引き起こす原因として、昼間はタコクラゲの光走性であり、夜になると、水面が冷やされ、下向きの流れが生じるため、この流れにのっていると考えられる。反対に、共生しているタコクラゲと異なる運動をしたとすると、タコクラゲの運動は渦鞭毛藻から作用を受けていると考えられる。この作用として考えられることは、渦鞭毛藻からの供給される光合成産物の量である。夜になり渦鞭毛藻の光合成速度が低下すると、渦鞭毛藻からの光合成産物量が低下し、その刺激を受け取ったタコクラゲが深く潜るという走性がプログラムされていると考えられる。また朝になり光を少しでも受容すると、光合成が開始されるため、その分タコクラゲが受け取る光合成産物の量が多くなるので、その刺激を受け取ってタコクラゲは上昇すると考えられる。
A:面白い考えですね。これをぱっと調べるには、除草剤のような、光合成の阻害剤を使ってみるのが一番ではないでしょうか。光合成を阻害するとタコクラゲの行動が変われば、間違いなく渦鞭毛藻の要因が働いていると考えてよいでしょう。
Q:講義では,日当りのよい場所に育つ植物はたくさんの葉を斜めに張り,暗い場所に育つ植物は葉を水平に張って効率良く光合成を行っているという説明があった。この葉の張り方に関して,水の輸送との関連を考えてみる。葉を斜めに張る場合,一枚の葉の中で高低差ができる。イネなどは葉柄から葉先に向かって高さが大きくなる。すると葉を水平に張る場合にくらべ,葉先に水を輸送するのにより強い力が必要となる。逆に,葉を斜めに張る植物はその力を作り出せる環境下に置かれる必要がある。つまり,日当りが良いという条件がこの高低差のある水の移動を可能にしているということである。水の移動の原動力となる葉の蒸散は日射による葉の温度上昇によって促進され,浸透圧差は光合成によって得られたエネルギーによって生み出される。光合成によるエネルギー出力が飽和となる位の光環境下でなければ水を葉先まで十分に輸送できるほどの蒸散,浸透圧差を作り出すことはできないのだろう。
A:一枚の葉の中の高低差は、せいぜい数十cmですよね。それに対して、例えば木と草では比べ物にならない高低差があるわけですから、やや論理に無理があるのでは?着眼点は面白いと思いますが。