植物生理学I 第2回講義
光合成と生命
第2回の講義では、エネルギーとエントロピーの側面からみた生命と地球生態系について解説しました。比較的似たような話題にレポートが集中してしまいました。なるべく人が考えないようなテーマを思いつくよう努力してください。科学はオリジナリティーが大事ですから。
Q:太陽の放射エネルギーと人間の放射エネルギーを比較すると、後者の方が大きいことはとても意外であった。ヒーターの近くに近寄ると温かいように、図において燃えている様子が示されている太陽はより温かさを感じるのだと想像出来る(むしろ熱いだろう)。しかし、1kgあたりの放射エネルギーがより大きい人間同士は直接触れ合えば温かいと感じられるが、近くに寄っただけで熱を感じることは少ない。熱を感じる機会は満員電車ではないか。この際は、暑いと感じ人間の体温が放出しているのを実感する。この違いは空気が関係すると考える。ある一人と近づいても周りには空気がありエネルギーが放出され、空気中に分散していく。しかし、満員電車ではある限られた領域に人間が密集しており、それぞれが放出したエネルギーが分散しきれないと言えるのではないか。すなわち、二人が密着せざるを得ない部屋では、放射エネルギーが分散しきらず暑いと感じると考えられる。太陽の放射エネルギーが全体としては大きいが薄いように、人間の放射エネルギーは空気中においては薄い。むしろ全体(1個体)が大きいわけではない為、現在太陽のようにエネルギー源として放射エネルギーが使用されていないと考えた。
・空気は熱を通すが、通すがゆえに分散していく
A:いわゆる温室効果というのは、温室のように暖かくなるということですが、いわば温室はなぜ暖かいかということですね。ここで述べられたような換気がされないという側面のほかに、ガラスは可視光は通すけれども赤外光を通さないので、可視光が差し込んで温まっても赤外光が出て行かないので温室は暖かいという説もあります。でも実際にはどうもガラスの透過率の寄与はあまり大きくないようです。
Q:授業でエントロピーについて話していただいたとき、先生は「エントロピーとは直感的に言うと乱雑さである。」と仰っていた。わたしはそのあと授業を聞き、エントロピーとは実現可能性であると考えた。先生のお話の通り、ある状況で散らかっているという状態は今考えただけでも何通りも存在する。しかし整っている状態というのはひと通りほどしか思いつかず、少なくとも散らかっている状態よりは少ないと考えられる。散らかっている状態を実現可能性大と考え、整っている状態を実現可能性小と考えると、可能性全体から一つだけ選ぶのならば可能性が低いものが選ばれる率が低くなるのは当然である。先生は「生物は生きている間は秩序立った状態である。」と仰った。これは実現可能性の低い状態である。先に述べた通り可能性が低いものは選ばれにくいので、低いものを意図的に選び続けるには「力」が必要であると考えられる。授業では、生物では代謝がこの「力」にあたると習った。生物は静止していても代謝によりエネルギーを消費し続けいている。またヒトの発熱量(代謝と捉える)は太陽の10000倍であるとも授業で習った。太陽とヒトとのエネルギー比較はおおざっぱなもので正確なものではない。しかしこの比較は秩序を保つことは多くのエネルギーを要することを象徴しているのではないかと考えられる。
A:レポートの内容は特に問題ないのですが、その論理が講義をなぞってしまっているのが気になります。なるほど、と講義の内容に納得することも重要ですが、それ以上に、講義では触れられていなかった独自の視点に関するレポートを書くように努力してください。
Q:ヒトは体内のエントロピーを低い状態に保つためにエネルギーを使っているということを学習した。このことについて考察したい。ヒトは呼吸によってエネルギーを得る。
C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O+エネルギー
上式は左辺をヒトの体内、右辺を外界と見ることができる。この上式のように、ヒトはエネルギーを得て、エントロピーを低い状態に保っている。だが、この式をみると、ヒトの体内(細胞内)を表す左辺では分子の数が7であるのに対し、外界を表す右辺は12分子となっている。つまり、外界ではヒトの呼吸によって、エントロピーが増大していると言える。一方、植物の光合成はこの式の逆であるので、外界のエントロピーは減少する。つまり、植物は光合成によって外界のエントロピーを下げる働きをしていると考えられる。動物は地球のエントロピーを増大させる方向に働いており、一方で植物は光合成によってエントロピーを減少させる方向に働いている。地球上では、このようにエントロピーのバランスがとられているのではないかと考えた。
参考文献 1.鈴木 範男. 初歩からの生物学. 三共出版, 2008,
A:光合成と呼吸についてそのエントロピーのバランスを考えるという着眼点はよいと思います。分子の数が増えたらエントロピーが増えるか、というとちょっと乱暴かもしれません。エントロピーが増えるとした場合でも、着眼点からの論理展開がやや物足りない気がします。その部分がもう少しきちんとすると完璧です。
Q:自然現象の多くは熱力学の第二法則に従っているが、なぜ生物はわざわざエネルギーを使ってまで新陳代謝を繰り返すことによって動的な秩序を保っているのか。もし何もせずに同じ細胞が機能し続けていれば生体は機能するはずであるのに、である。これは古くなった細胞の機能が低下するからである。古くなった細胞はその組織での機能を果たさなくなってくる一方で分裂は続けるため、組織の機能を阻害してしまう。例えば、植物細胞では古くなった細胞において老廃物の貯まった液胞が発達し、細胞の大部分を占めてしまうため、植物の生育に必要な植物ホルモンなどの輸送を阻害してしまうと考えられる。したがって、生物はわざわざエネルギーを使って古い細胞と新しい細胞を入れ替えることとエネルギーを使わずに古い細胞を使い続けることを天秤にかけたときに後者のほうがリスクが高いために新陳代謝を行っていると考えられる。さらに付け加えると、(授業でも扱ったが)消費したエネルギーはなくなるわけではなく生態系を循環し、再利用できる形になるため、エネルギーを使って細胞を入れ替えることは、よりいっそう効率的なことであると言える。
A:エネルギーについてはちょっと誤解があります。確かにエネルギーはなくなりませんが、利用可能なエネルギー(自由エネルギー)は基本的に減少していきます。講義で紹介したように、物質は循環しますが、エネルギーは流れるのです。あと、着眼点はよいのですが、ある意味で一番重要なのは「古くなった細胞の機能が低下する」のはなぜか、という部分です。当たり前のことに聞こえますが、それこそが今回の講義の内容から伝えたかったところです。
Q:太陽の単位当たりの発熱量の約10000倍ヒトの発熱量があるということは、ヒトが内部に発熱していることを差し引いても、ヒトが利用するエネルギーを作り出すことは可能なのではないかと考える。わたしはライブに行ったりスポーツをすることが好きで、そういうことをするときヒトは汗をかく。熱気が漂う。これは発熱しているからであり、こういった熱量を利用できるエネルギーに変えることが可能な装置や機械を考案することは、主力にはなり得ないかもしれないが、新たなエネルギー源になるのではないかと考える。
A:いわゆる排熱利用ですね。これも上と同じなのですが、糖のエネルギーと、そこから呼吸の結果生じた熱のエネルギーを比較すると、量は同じでも自由エネルギーという側面からみると減ってしまっています。室温と体温という小さな差からさらにエネルギーを取り出すのは至難の業です。ただ、機械的な駆動を必要としないようなエネルギー源としては使えるかもしれません。
Q:自然界では太陽からのエネルギーをもとに全ての生物がエネルギー変換を行い生存している。地球においては植物が太陽からのエネルギーを吸収し変換する。このエネルギーが食物連鎖を通じて生物間を循環することで地球上の生物の生態系が成り立っている。食物連鎖について考えてみよう。食物連鎖とは植物は動物に食べられその動物は他の動物に食べられという鎖的につながっていく生態系の関係を表した言葉である。食物連鎖を決定するには多くの方法が考えてみた。1つは直接生物が食べるところを見ることである。これは大変確証的な事実として受け入れられるが、食べる可能性があるものを全て網羅できないという欠点がある。またもう一つ考えられるのは、『生態系とエネルギー』(注1)によれば、「ある地域でそこにいるすべての種の標本を集めその消化物を調べる方法」である。しかし、「消化管内容物調査のためには研究者は生物の体全体からだけでなく体のバラバラになった一部分からもその種名が分かるほど生物の分類に詳しい必要がある」。食物連鎖を解明する方法として2つの例をあげたがどちらの方法でも少なからず欠点があり地球上のすべての生物の食物連鎖を網羅することは大変な仕事である。
注1)『生態系とエネルギー』1980年10月25日初版第1版 著者:Edward Arnold 訳者:清水誠 発行所:朝倉書店
A:ちょっと一部日本語が乱れていますが、要は「食物連鎖を決める方法」がテーマですね。レポートの問題設定としてはよいと思いますが、結局回答を単に教科書の知識に頼ってしまった形になっているのは感心しません。やはり、自分なりの論理を何とか追及してください。
Q:講義では太陽と人間の放射エネルギーについて話を聞き、単位質量あたりでは人間が太陽の1万倍発熱していることを知った。では植物はどうなのか?と植物の発熱量を調べてみたが、それについて書かれた文献が見当たらず、植物の発熱量を求める方法について考えた。そもそも人間が発熱するのは体温維持や感染防御のためである。植物に体温があるのか、あるいは気温と同じなのかわからないが、前段階として植物の温度を調べる必要があるだろう。植物の温度を直接測定できる装置があるのかわからないので、もしそのような装置がなければ、植物中の酵素の至適温度を調べればいいのではないかと考えた。2年の生物実験でヒトのアルカリフォスファターゼで調べたときは37℃に至適温度が見られたので、同様にして植物の体温を知ることができるのではないか。
A:面白い着眼点ですが、そもそも「人間が発熱するのは体温維持や感染防御のため」というのがちょっと。確かに積極的に発熱量を「増やす」のは体温維持や感染防御のためですが、ベースとなる発熱は、呼吸の代謝量を反映しています。また、温度の測定と発熱量の測定は全く別のものです。発熱量は体温を測定して求めるわけではありません。呼吸の基質の分解により計算から発熱量を求めるのが普通です。とすれば、植物の発熱量をどのようにして求めればよいか、わかりますか?