植物生理学I 第14回講義
人工光合成
第14回の講義では、前回の光合成の効率と速度について補足したのち、人工光合成について紹介しました。今回は他の講義の試験などで忙しかったのか、レポートの提出者が少なかったですね。
Q:光の強さを強くすればするほど水の分解速度が増加するという点で人工光合成は魅力的なものであるがはたして本当にそうなのであろうか?陸上植物には光飽和点というものが存在し、ある一定の強さの光を超えると光合成速度がそれ以上増加しない。この点だけに注目すると人工光合成は陸上植物の光合成と比べて優れていると考えられる。しかし実用性を考えると強光条件のときではなく、むしろその逆の弱光条件であると考えられる。自然界において急激に強光条件になるというのはまずありえない。しかし太陽が雲に隠れる、日が暮れる、その植物の上に別の植物が生息し始めるなど弱光条件になる要素は多い。つまり、弱光条件になったときにいかに水の分解速度が落ちないか、と言うのが自然界では重要であると考える。陸上植物では陰葉と陽葉など光の強さによってその環境に適した光合成を行う手段を持っている。一方、人工光合成では弱光条件から強光条件にかけてほぼ一定に水の分解を行い、酸素を放出しており、弱光条件では分解速度が低い。したがって人工光合成を実用化するには植物のように弱光条件でも高い水の分解が期待できる機能が必要となると考える。
A:光の飽和曲線について話したのは太陽電池ですから、人工光合成全てに必ずしも当てはまるかどうかはわかりません。ただし、論理としてはきちんとしています。朝・夕を考えると弱い光の有効利用が出力を左右するということは間違いないでしょう。
Q:この植物生理学Ⅰを受けて、一番感じたことは、すべてにはメリット、デメリットがあること。また、ひとつの構造にもその構造をとる意味があると感じた。すべての生物は理にかなった構造をもち、環境に適している。この授業を通して、卒業研究などにも応用できると感じた。実用性などを比べるときは数値だけで判断してはいけないと知った。たとえば、光合成と太陽電池のエネルギー変換が、光合成は24W、太陽電池は150Wであったとき、単純に太陽電池のほうがエネルギー効率がよいと判断してはいけないということである。太陽電池は150Wで数値だけみると優れているように感じるが、太陽電池は電池をつくるためのコストも考えなければならない。このように、実験から実用を考えたとき数値だけでなくほかのことも読み取らなければならない。このようなことは卒業研究にも生かしていきたい。
A:最終回ということで、まとめのレポートっぽいですね。まあ、講義が役に立ったのであれば何よりです。講義のやり方にもメリット・デメリットがあって、このようにホームページでレポートを公開することは多くの人がどのように考えているのかを共有するという点がメリットですが、毎週ホームページを更新しなくてはいけないデメリットがあります。また、この講義ではレジメを配布していませんが、これは、レジメを配ると安心して講義をよく聞かないというデメリットを避けるためである一方、きちんとノートを取らないと後に残らないというデメリットが生じます。
Q:人工光合成と藻類による植物プラントのどちらが将来の太陽エネルギー利用方法になりうるか。両者を比較して考察した。人工光合成の利点は、第一に無機物による光合成なので、エネルギーが大きくなれば直線的に合成量が増加し、条件によっては植物による光合成よりも効率がよくなる可能性がある。第二に、触媒技術が確立されれば、増産が容易であることがある。しかし、難点として、現在の技術では実現性が低く、未だに1.5%程度のエネルギー変換効率しかない。植物プラントの場合、光合成は植物に元来備わっている能力なので、実現は容易である。また、藻類を用いれば、藻類を培養するだけなので、生産も容易である。さらに植物のエネルギー変換効率は30%と、人工光合成よりも高い。だが、藻類の場合、培養規模を大きくしても生産量が増えない。生命なので、維持するコストがかかると言った難点もある。エネルギー変換効率の面でも、実現可能性でも植物プラントの方が太陽エネルギー利用の主流になりうると考えられる。しかし、人工光合成に必要な触媒で、植物の光合成効率を上回る物が開発されれば、人工光合成が使われるようになる可能性がある。だが、現在の技術で考えるなら、植物プラントの研究を重点的にするべきなのではないだろうか。
A:植物を利用したエネルギー変換という意味では、サトウキビやトウモロコシを栽培してのエタノール生産が実用化しているわけですから、現時点では優位に立っていることは間違いないでしょう。ただし、本当は食料と競合しない形でのエネルギー生産が望ましいわけです。
Q:葉の傾きが、明るい場所では直立で、暗いところでは水平になっているという話があった。暗い場所では理論的にはどちらの形でもいいのだが、直立の葉と水平の葉がそのような場所で混生した場合、直立の葉が不利になってしまうからだという。このような競争を考えると、他にも植物の「高さ」の成長が重要になってくるということが想像できる。高く成長し、高い位置に葉を広げることで、競争に勝つことができる。そうすることで下層を陰にし、他の成長を抑えるのである。しかしそのような光をめぐる競争において最も有利な性質を持っているのは「蔓植物」であると考える。他の植物のように頑丈な茎を作らず、他の植物を支柱にし、葉を上層に急速に広げることが可能であるからである。勝手な想像だが、蔓植物を暗い場所で育てたら、成長スピードが上がると考えた。より高い位置に光を求める性質があるはずであるので、そのような結果になるのではないだろうか。
A:これは、論理は単純ですが、文句のつけようがありませんね。非常に独創的というわけではありませんが、よいレポートだと思います。
Q:藻類の最大光合成速度に関して、藻類を強光で培養するとクロロフィルを減らすのでクロロフィルあたりの光合成速度は上昇するという話に興味を持った。そこで、なぜ藻類は強光でクロロフィルを減らすのかについて考察した。強光であってもクロロフィルをそのままにしておけば光合成量は増えるであろう。しかし実際は、そうせずにクロロフィルを減らしている。これより、藻類が使用できる光合成産物の上限が一定である、もしくはクロロフィルを維持するのにコストがかかっていることが考えられる。前者の場合、強光条件でクロロフィルの量をそのままにしておくと光合成産物が上限を超えてしまい、無駄になってしまう。そこで、クロロフィルの量を減らして光合成産物が上限を超えないようにしているのだろう。後者の場合、強光条件で光合成速度が高くなるとクロロフィルを減らしても必要最低限の光合成産物を得られるため、コストがかかるクロロフィルを積極的に減らしているのだろう。
A:これもよく考えています。ここまできちんと考えたら、もう一歩、2つの仮説のどちらがより正しそうか、自分なりの意見を表明してほしい気がします。専門の論文を読んでいても、この可能性もあります、別の可能性もありますと、並列して書いてある論文よりは、まず自分の考えを打ち出して、そのあとに別の可能性にも触れる、という形の物の方が読みやすいですし。