植物生理学I 第13回講義

光合成の効率と速度

第13回の講義では、光合成の効率と速度をどのように測定するのか、植物によって、また環境要因によって光合成の速度はどのように異なるのか、さらに光合成の速度を動物の呼吸速度と比べる、あるいは光合成の効率を太陽電池の効率と比べると何が見えてくるのか、といった点について解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。


Q:植物の葉には陽葉と陰葉が存在し、光の弱いところでは陰葉の方が光合成速度が高いが光の強いところであると陽葉の方が光合成速度がはるかに高くなる。そのため光のよく当たる個体の葉は陽葉であり、光の当たりにくい地面に近いところに生息している個体は陰葉出ることが多い。また光の当たる部分は陽葉であり、光の当たりにくい部分では陰葉であるといったような個体別でなくその個体内で2種類の葉を持つものも存在する。では、このような個体はどのようにして光の当たる当たらないかを認識しているのであろうか?初めから、ここには光が当たるから陽葉をつけようなどとはしないであろう。したがってこのような個体の祖先はまず陽葉のみを先に全体に茂らせ、落葉し、次の葉を茂らすときにここは光の当たらないという情報をもとに徐々に陰葉へシフトしていったのではないかと考える。また世代が代わるごとに、この高さの枝につける葉は光が当たらないという情報を受け継ぎ陰葉を茂らすのであると考える。このようにすることでどの葉でも最大光合成速度に達するように効率よく光を利用し光合成を行っていると考える。

A:光環境をどのように感知するのか、という視点で書かれていて面白いのですが、やや表現があいまいですね。要は、前年の葉の環境が当年の葉の性質を決める、ということでしょうか。そうだとすると、実際にそのような例を調べた研究例があります。また、その場合は、落葉樹と常緑樹でどのように違うはずか、など、いろいろ考察することが出てきそうですね。


Q:今回の授業では、なぜ草よりも木の方が最大光合成速度が小さいのかということに興味を持ったのでその理由について考察した。考察をするにあたって、授業のスライドに示された木の光合成速度の値は全て成木のものであると仮定した。草と木の最大光合成速度の違いを生み出す要因として、主に草と木の①形態的な違い、②ライフサイクルの違いがあると考えた。①は最終的な背丈の違いや葉の枚数の違いなどが挙げられる。最終的に背が高くなる木は光を独占できるため光合成速度を大きくする必要がなく、また葉の枚数についても木の方が圧倒的に多いため葉1枚当たりの光合成速度を大きくする必要がないと考えられる。②は寿命が長い木の方が成長速度が遅いと考えられ、常に光合成速度を大きくする必要がないのではないかと考えたからである。スライドで示されていた多年草と一年草の光合成速度を比較したところ、必ずしも寿命が長い多年草の方が光合成速度が小さいというわけではなかった(多年草のトマトよりも一年草のアサガオの方が最大光合成速度が小さい)が、木には何十年、何百年と生きるものもあるため草と木では光合成速度に有意な差が見られるのではないかと考えた。さらに、草(特に一年草)と木の違いとして越冬することが挙げられる。冬には光合成速度が低下し、木は何年も越冬するためそもそも葉緑体合成系を多く持つことは木にとって無駄なことであると考えられる(特に常緑樹)。ツバキの最大光合成速度が特に小さいことからもこれが裏付けられる。ただし、これらの議論はすべて草と成木についてのものであり、草のように背丈が小さく、速く成長することが必要な幼木は成木よりも光合成速度が大きいのではないかと考えられる。

A:草と木の違いについては説得力があるように思います。ただ、木の間でも競争はあるはずですよね。その場合、同じ戦略を取っている場合には光合成速度が小さいことはデメリットでしょうから、光合成速度を大きくできない積極的な理由が必要であるように思います。最後に触れられている冬場の光合成などが関係するかもしれませんね。


Q:高等動物が光合成を行わないのは太陽エネルギーの密度が薄いので合成に用いるのは非効率だからである。しかし、生存に必要なエネルギーすべてを光合成から賄おうとすればその非効率さゆえに不可能であると考えられるが、補助的役割にとどめておけば利用可能ではないかと考えられる。例えばどのような動物が利用可能であるかを考えてみると、昼行性と夜行性かどうかは関係ないように考えられる。昼行性では活動中に光合成すればよく、夜行性では休んでいるときに光合成すればいいからである。しかし、夜行性では日中日の当たる場所にいると外敵に見つけられやすくなると考えられる。また、動物は表皮、体毛を保護色として用いて擬態している。光合成を行うとなると、表皮はともかく、体毛が存在すると光吸収効率が低下するため、体毛は除去すべきである。しかしそうなると擬態できなくなる。だが、光合成を行うとすると光合成色素が存在するので、植物に紛れやすくなる、つまり擬態が出来るので夜行性の動物が休んでいる際に明らかに不利になることはないと推察される。以上のことから考えると高等動物が光合成を行っていても不思議はないと考えられる。

A:非常に面白い考察だと思います。ただ、そうするとなぜ高等植物で実際に光合成を行なっている生物がいないのか、という疑問が未解決のまま残るような気がします。


Q:タコクラゲが住む湖があるという話を聞いた。このタコクラゲは、湖に餌となるものがいないところに住んでいるので藻類を共生しているそうだ。しかし、タコクラゲは、関東以南の海にも生息しているそうで、この日本の海に住むタコクラゲも藻類を共生しているそうである。このことから、湖に生息するようになってから藻類を共生したのではなく、すでに藻類を共生させていたと考えられる。タコクラゲは、海に生息しているときから、他の生物との競争に負け、十分に餌をとることかができず、そこで藻類を共生させたのではないだろうか。そして、環境の大規模な変化が起きて湖ができたとき、タコクラゲやその他の生物が一緒にその湖に隔離されたと考えられる。その他の生物は、捕食されたり、餌がなく生き延びることができなかったりしたが、タコクラゲは藻類と共生していたことによって、湖で生き残ることができたのだと考えられる。そして、タコクラゲばかりが生息する湖ができたと考えられる。海に生息していたときは、競争で負けた生物であったが、湖で隔離されることによって逆に競争に勝ち、生き残ることができたのだと考えられる。

A:海と湖の環境の比較が面白いですね。ただ、おそらく「競争に負け」てから藻類を共生させようとしても手遅れのような気がしますから、やはり藻類を共生させたものが、餌を取らなくなったと解釈した方が自然であるように思います。


Q:今回の講義では光合成の速度やエネルギー収率について学んだ。光合成速度の紹介においては光合成はそもそも二酸化炭素と水から有機物と酸素(と水)を生成する反応であるからそれらの物質の出入りを、植物の数値的基準にできるものを基準として計測すればよいと教わった。この植物の数値的基準とは、授業でやったようにたとえば植物本数あたり、生重量、乾燥重量当たり、葉面積あたり、クロロフィル量あたりなどである。これについて他に有効な方法がないか考える。光合成速度は光合成と呼吸の速度両方の影響を受けるもので、たとえば光合成がいくらさかんに行われていても呼吸もさかんであれば差し引きゼロになることがある。光合成は細胞中の葉緑体、呼吸はミトコンドリアで行われておりこれに注目して考えた。植物全体の葉緑体の個数、ミトコンドリアの個数を簡単に数えられればこれが最も基準として正確であるがこれは困難である。そこで、ショ糖密度勾配遠心法を用いた無傷葉緑体またミトコンドリアの密度を基準とする方法を考えた。ショ糖密度勾配遠心法によりその植物の葉緑体とミトコンドリアの密度が得られ(これは相対的なものであるが)他の植物との比較に用いることができるのではないか。しかしこの方法の欠点は、遠心分離をするために葉緑体やミトコンドリアが破壊される可能性があることである。

A:この場合の「密度」というのは溶液あたりの葉緑体やミトコンドリアの数のことですね。「ショ糖密度勾配遠心法」というので、初め比重の意味の密度かと勘違いしてしまいました。鶏を割くのに牛刀を使うような感じではありますが、独自のアイデアで面白いと思います。


Q:トウモロコシの最大光合成速度は種類によって幅があることに興味を持った。そこで、なぜこんなに幅があるのかについて考察した。一つには、生息する環境の違いによることが考えられる。熱帯種といっても生息する地域の気温や雨の量には違いがあるだろう。このような外部環境によって光合成速度に影響が出ているのだろう。しかし、それだけでは28~85 (mgCO2/dm2/hr)という光合成速度の幅広さは説明しきれない。これには種の進化が関わっていると考えられる。トウモロコシには、デントコーンやスイートコーン、ポップコーンなどの種類がある。これらは種類によって、子実の外側や内部に含むデンプンなどの種類や割合に違いがある。デントコーンの子実の外側は硬質デンプン、内部には軟質デンプンを含んでいるのに対し、ポップコーンは粒全体が硬質デンプンで包まれていて内部の軟質デンプンの量はわずかである。スイートコーンは子実にデンプンの他に糖が多く含まれている。このようにそれぞれの環境に適応して進化していき、構成成分などが異なる種へと分化していった。その中で上手く環境に適応できたものは光合成速度が高くなり、その結果ここまで幅広い光合成速度の差が生まれたのではないだろうか。
YAHOO! 百科事典 トウモロコシ http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AD%E3%82%B3%E3%82%B7/

A:ここまで考えたらもう一息、なぜ、上手く環境に適応できたトウモロコシだけが生き延びて、そうでないものが絶滅しなかったのかについて一言欲しいところです。


Q:今回の講義で様々な植物の分類による光合成速度の違いを、光の強さや温度といった環境条件も絡めて学習した。私が特に関心を持ったのは、C3植物に比べC4植物は強光下でも光合成速度が頭打ちにならず、生育に有利である傾向にあるが、C3植物であるヒマワリは例外的に強光下でもC4植物に近い光合成速度を示すということであった。その理由を考察することとする。C4植物が強光下でも高い光合成速度を示すのは二酸化炭素濃縮機構が備わっていること、それにより光呼吸が阻害されるからである。二酸化炭素濃縮機構があれば気孔を閉じていられることから乾燥にも強く、またC4植物は高温にも強い。ヒマワリがC3植物であるということは、C4植物のような二酸化炭素濃縮機構は備わっていないということになる。それにもかかわらず強光下においてC4植物と同等の光合成速度を実現するには、乾燥、高温耐性さらには二酸化炭素濃縮機構に代わるものが必要である。ヒマワリは他の植物に比べ高い蒸散能力を持つという。蒸散すると植物体の温度を下げることができるので、高温耐性の面はクリアできそうだ。また気孔が開いた状態であれば二酸化炭素を多く取り込むことができる。すると結果的に二酸化炭素濃度は相対的に高い状態になるため光呼吸を阻害することができると考えられる。高い蒸散能力を有するということは、それだけ根から水を吸い上げることも可能であるはずなので、乾燥耐性の面もクリアできると考えられる。以上の点からヒマワリは強光下でも高い光合成速度を示すと結論付けた。

A:非常にきちんと考えられていますが、3つのポイントの最後だけ、ちょっと問題があります。高い蒸散を保つために気孔を大きく開けばむしろ乾燥条件には弱くなります。高い蒸散能力を持っても、根の周りに水が少なければどうにもなりませんから、何らかの形で少ない水でも吸い上げられる機構を必要とするように思います。逆に、単に気孔を大きく開けて蒸散すれば光合成速度が上がるのであれば、全ての植物がヒマワリをまねるでしょうから、他に何か要因があるはずだ、という推論も成り立ちます。


Q:光合成をする動物の例としてタコクラゲが挙げられていた。タコクラゲは珊瑚と同じで、共生させている渦鞭毛藻の光合成産物をもらって生活している。動物が光合成をする例を聞いて思い出したのが、猫がよく日向ぼっこしているのは太陽の光を浴びて体の表面にビタミンDを生成し、それを毛づくろいでなめることで体に摂取している、という話である。光合成とは光エネルギーを吸収し、二酸化炭素から糖を生成することである。ビタミンDは糖ではないので光合成とは少し違うかもしれないが、太陽の光エネルギーから生きていくのに必要な物質を生成しているという点では広い意味での光合成であると考えられる。また人間も日光に当たることでビタミンDを生成している。もしビタミンDが欠如するとくる病になってしまうので生きていくのに必須の物質である。つまり動物も餌として摂取する以外に、必要な栄養分を自分で合成するという点では植物の光合成と同じであると感じた。よって少なくとも高等な動物は狭い意味での光合成を行わないが、広い意味での光合成は高等な動物でも行っていると考えてもよいのではないだろうか。

A:うーむ。ビタミンDの合成も光合成の一種であるという論理は思いつきませんでした。大胆な主張でよいと思います。