植物生理学I 第11回講義
C4光合成、CAM
第11回の講義では、C4光合成とCAM型の光合成について解説しました。今回は講義の内容をなぞったようなレポートが多く、「○○と考えた」とあっても実際には僕がしゃべった内容だったりするものが数多くありました。聞いてないんでしょうね、きっと。この講義では、至極まっとうなことをきちんと常識的にまとめたレポートはさほど評価されません。比較的自分の考えで書いていると思われるレポートを以下に取り上げました。
Q:気温が20℃以下であるときC3植物の方が光合成速度は大きく、20℃以上であるときはC4植物の方が光合成速度は大きい。しかし現在、C3植物とC4植物は9 : 1の割合で地球上に存在している。気温20℃の境目は地球の約半分くらいであるにもかかわらず、なぜこのような存在比になっているのか考えてみる。それぞれの植物にとっての最適温度である場合C4植物は光飽和点に入らないためC3植物よりも光合成速度は高く、光の強さを強くすればするほど光合成速度は増加していく。このように考えると地球上ではC4植物の方が生存に有利であるように見える。しかしこれは現在の地球であって、かつての地球の環境条件とは異なる。植物が誕生した当時はCO2濃度が高かった。高CO2濃度での光合成速度はC3植物の方が高い、したがって初期の地球ではC3植物が誕生したのではと考えられる。そして徐々にCO2濃度が下がっていき、その環境に適応するC4植物が誕生した。たしかに現在の地球においてC4植物の方が光合成速度はC3植物に比べて高いが、C3植物にとってそれほど不利な環境ではない。したがってC3植物は淘汰されず現在地球上に多く存在していると考える。またC4植物はCO2を濃縮できるという利点が存在するがこれにはエネルギーを必要とするため、光の弱い環境では生存に不利になる。これもC4植物が少ない原因であると考えられる。
A:前半部分、9:1などと具体的数値を出すのであれば、きちんと引用元を示してください。地球上の存在割合などは推定した人によって大きく異なります。後半の議論ですが、講義の内容をなぞっている感じです。「それほど不利な環境ではない。したがって」という論理の部分だけが講義から外れていますから、そこが重要ですが、このままだとやや説得力に欠けると思います。「それほど」差がなくても、少しでも有利な方が長い年月のうちには優先するようになる、という考え方に対する反論が必要です。
Q:今回の授業ではルビスコの進化について学習し興味を持ったのでそれについての考察を行う。ルビスコは植物の進化につれてVmaxは高いがO2に対するCO2の反応性が低いルビスコからVmaxは低いがO2に対するCO2の反応性が高いルビスコに変化していることがわかっている。またこれは陸上と海とで大きな差がある。これは陸上と海との差である水が大きく関係していることが考えられる。CO2の吸収を行うためには気孔を開け続ける必要があるがそれには水を失うことを伴う。海ならば水が豊富なために水を失う心配をする必要はないが陸上においては大きな問題になっている。よってO2に対するCO2の反応性が高いルビスコに変化することで気孔の開く時間を減らすことにより陸上への進出を可能にしたと考えられる。
A:これは、独自の考え方だと思うのですが、やや説明不足ですね。「O2に対するCO2の反応性が高いルビスコ」だとなぜ気孔を開く時間を減らすとこができるのかは自明でありません。片方は「親和性の比」、もう一方は「最大活性」です。この2つの意味合いの違いをよく考える必要があります。
Q:今回の授業ではルビスコの進化に興味を持った。原始的な藻類のルビスコも高等植物のルビスコも一長一短で理想のルビスコではないということだったが、なぜ高等植物になるにしたがってルビスコがそのように変化{O2に対するCO2の反応性の比が大きく、最大活性(反応効率と考える)が小さく}していったのか考えた。ルビスコによる光呼吸の触媒はエネルギーや還元力の無駄遣いであるので、植物の進化の過程でルビスコのCO2との反応性が向上するのは必然的(*)である。私はさらに、この変化には植物の陸上進出に伴う光環境の変化が関わっているのではないかと考えた。陸上では水中よりも光が強いため、光を資源と考えれば、陸上には光合成の資源が豊富にあるといえる。資源が豊富にある場合、その資源を用いる反応の効率は重視されないと考えられるため、高等植物には光合成全体の反応効率を向上させるような要因がなかったのではないかと考えられる。それが必ずしもルビスコのCO2との反応効率の低下と結びつくとはいえないが、ルビスコがその構造上、CO2との反応性の向上と反応効率の両立が難しいと仮定すれば、この変化は起こりうると考えられる。一方で、(*)の論理では植物が陸に進出した後ルビスコのCO2との反応性が上昇していない(シダ植物もC3植物も反応性が同じ)ことを説明できない。私はこの現象にも光の強さが関係していると考えた。陸上では光が強いので、光阻害の影響が無視できない。つまり、ルビスコのオキシゲナーゼ活性が光阻害の回避に重要となるのでCO2との反応性の向上は一定のところで抑制されると考えられる。このため陸上植物のルビスコのCO2との反応性は植物間でほぼ等しいのだと考えられる。
A:全体として面白い議論だと思います。スライドの図から、非常に多くの情報をきちんと読みとっていることがわかります。一つだけ気になるのは光合成の反応全体を一つのものとして扱っていることです。いわゆる光を使う光化学反応と、炭素同化系は、ATPとNADPHを仲立ちに車の両輪のように働いているわけです。その場合、光という資源が十分にある条件では光化学反応が進み、光のエネルギーを使わない炭素同化系がむしろ足りなくなってルビスコの重要性が増す、という方が通常の考え方だと思います。
Q:C4回路を持つことで植物は高温乾燥の土地に適応することができた。この変化は植物が生存するための変化であると考えられる。そのためC3回路がもつルビスコは炭素の放射性同位体を用いないのに対し、量は少ないが自己の生存生育にかかわることなのでC4回路で用いるPEPCでは放射性同位体も用いることができると考えられる。また授業で取り上げたC3、C4植物を行き来出来る水草は、授業では酸素と二酸化炭素の比率が水中と陸上では大きく異なる結果、C3回路は水中、C4回路は陸上で用いているのではないかということであった。しかし、さらに水中と陸上では周辺の水分量に大きな差があり、周囲の温度も水中と陸上では変化の仕方が異なる。この植物が主な生育場所は水中であり、生育するならばその場所は自身の最適温度であると考えられる。温度変化は水中より陸上のほうが大きい。このような要因により、水中を主な生育場所としている植物にとって、陸上は水中より高温乾燥な場所であると考えられる。そのためこのような植物が陸上に進出した結果、C4回路を得たものと考えられる。
A:全体としてややあいまいなので、1つの論点に絞って議論した方がよいかもしれません。例えば最後に議論されている、水中と気中の温度の差などは、それだけで面白いレポートの題材になると思います。
Q:C3回路とC4回路をその環境によって使い分けている植物Eleocharis viviparaを知り、植物の炭素固定における独特の工夫をみた。ここでCAM植物などその環境に適応する進化を知った際に、その他の炭素固定、またはCO2濃縮系は存在するのだろうかと疑問に思った。そこで調べてみたところ、C3とCAMを使い分ける常緑キリン草なるものや、水中に生育するシアノバクテリアやクラミドモナスはC4回路とは異なるCO2濃縮系を持つことがわかった。さて、今回調べた中にあったシアノバクテリアは共生説の際に出てきた光合成細菌であるが、現在の植物のもつ葉緑体が共生説によるシアノバクテリアを祖にしているのであれば現在の炭素固定回路等は、このシアノバクテリアやクラミドモナスのもつ異なるCO2濃縮系が祖なのではないか、すなわちC3、C4、CAMと異なるこの光合成細菌の炭素濃縮回路はそれぞれの祖先型なのではないだろうかと思った。しかし、このクラミドモナスのCO2濃縮回路は能動的なものであるらしく、濃縮にATPを用いるC4植物やCAM植物、濃縮回路そのもののないC3植物に進化したとは言いづらい。これはおそらく植物の多細胞化、陸上進出の代償なのではないかと私は考える。
参考文献:二酸化炭素による転写調節機構 http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/molecule/pdf/pne2005.pdf、常緑キリン草.com
A:藻類のCO2濃縮機構と比較してC4,CAMを論じている点は評価できます。ただ、「能動的」というのはエネルギーを使うという意味ですから、「濃縮にATPを用いる」方式なのですけれども。
Q:今回の講義ではC3植物、C4植物、CAM植物についての講義であった。C4植物は通常のC3植物とはことなり高温条件下で蒸散量を減らすために低CO2条件下で発達した光合成機構をもつ植物である。ここで、この違いからこれからの環境変化とC3、C4植物の生存競争について考えてみた。近年、環境は温暖化でCO2濃度の上昇が著しい。つまり、特に低CO2条件で機能できる光合成機構は不要になっていくと考えられC3植物が生存有利である。しかし、一方、温暖化はCO2濃度上昇だけでなく温度上昇も引き起こす。高温条件下での光合成が必要になるのである。するとC4植物も生存に有利な可能性も否めない。ひとつの考えとしてはどちらにも有利な条件があるということで先に生育した種類が繁殖に有利に働くということが考えられ、光の競合にも有利に働くはずだ。もう一つとしては気候変動である。最近でもよく見られるが異常気象による降水量の変動だ。降水量の偏りが生じればC4の葉の蒸散抑制機能など競争に無意味となる可能性があるだろう。
A:可能性をいろいろリストアップするのはよいのですが、最後は独断でもよいので、自分はこう考えるというスタンスを明らかにしたほうがよいでしょう。
Q:C4植物とCAM植物では、光合成の用いる回路は非常によく似ているが、C4植物では二種類の細胞に回路が分担されている一方で、CAM植物では回路が時間的に分担されている。どちらの植物の仕組みが先に生まれたのかを考察する。CAM植物、C4植物ともに乾燥した地域に生息しているが、特に乾燥の厳しい砂漠地帯においてはCAM植物が生息している。したがって、C4植物がさらに厳しい乾燥に適応するために、CAM植物が生まれたと考える。C4植物は厳しい乾燥地帯に進出したときに、昼間はほとんど気孔を開くことができなくなっただろう。このとき、二酸化炭素を必要とする反応ができなくなる。しかし、オキサロ酢酸から先の過程は進めることができる。このとき、リンゴ酸を蓄積するようになったと考えられる。リンゴ酸を蓄積するようになったのは、リンゴ酸がオキサロ酢酸よりも安定な物質であったためだと考えられる。またCAM植物では一つの細胞内で反応が行われるようになった。調べてみたところ、PEPCとルビスコが同じ細胞内に存在すると、PEPCの方が二酸化炭素に対する親和性が高いため、PEPCによって二酸化炭素が固定される反応ばかりが進み、ルビスコが二酸化炭素を使った反応を起こせなくなるそうである。したがって、C4植物では、二種類の細胞が必要である。一方、CAM植物では、PEPCは夜間にデンプンからPEPが供給されることで働くことができるので、昼間は働かない。したがって、一つの細胞内にPEPCとルビスコが共存しても問題ないと考えられる。リンゴ酸やピルビン酸を細胞間で輸送するよりも、一つの細胞内で反応を行った方が効率がよいと考えられるので、PEPCとルビスコの親和性の差によって起こる問題が解決されると、一つの細胞内で反応が行われるようになったと考えられる。
参考文献 http://cse.niaes.affrc.go.jp/yyoshi/c4cycle.html
A:これは、是非はともかくとして、いろいろ自分で考えていて評価できます。前半と後半でやや異なる話題になっていますから、どちらかに絞ってもよかったでしょうね。
Q:以前、シジミをおいしく食べる方法として、コハク酸を蓄積させる方法を習った。それと似たような考え方をCAM植物、たとえばパイナップルなどに応用できないだろうか?CAM植物は夜間にリンゴ酸を蓄え、朝方のpHが低いという話を聞いた。つまり、朝にパイナップルを食べると、とても酸っぱく、しかも糖も合成されていないため甘さが抑えられてしまう。日中に屋外の日差しを十分に浴びさせて糖を合成させ、リンゴ酸の消費に伴ってpHも中性に近づいた夕方頃、パイナップルは一番おいしく食べられるのではないだろうか。
A:「以前」というのは電子伝達の時の話ですね。単純ですが、自分なりの発想で面白いと思います。植物から葉緑体を取り出す実験をするときには、デンプンがたまっていると葉緑体が壊れやすいので、植物をしばらく暗い場所に置いたのちに実験をします。それも似たような話ですね。
Q:CAM植物はホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼによって二酸化炭素をホスホエノールピルビン酸に結合させてオキサロ酢酸を生成し、さらにNADPHによって炭素4つの化合物であるリンゴ酸にする反応を行っている。そしてこの反応を夜間に行い生成したリンゴ酸を液胞に保存しておき、昼間リンゴ酸から二酸化炭素を取り出し光合成を行うということを学んだ。ここで疑問に思ったのはなぜリンゴ酸であるのか、ということである。もちろんオキサロ酢酸からリンゴ酸を生成しやすいというのはクエン酸回路を見ると分かるが、炭素数が4つの化合物は他にもフマル酸(C4H4O4)、コハク酸(C4H6O4)などがある。またわざわざリンゴ酸(C4H6O5)に変換せずに、オキサロ酢酸(C4H4O5)のまま液胞に保存しても良いのではないかとも考えた。そこでそれぞれの化合物の水への溶解度を調べた。なぜかというと液胞に保存するには水への溶解度が高くないと保存に適さないからである。結果はコハク酸:58g/l (20℃)、フマル酸:6g/l (25℃)、リンゴ酸:558g/l (20℃)であった。このことから水への溶解度を見ると圧倒的にリンゴ酸が最も高いということが分かった。またオキサロ酢酸は常温では不安定な物質であり、脱炭酸され炭素数3つのピルビン酸(C3H4O3)に分解されてしまう。よって保存には適さない。以上からオキサロ酢酸のまま保存するのは不可能であるためリンゴ酸に変換せざるを得ないということが分かる。また他の炭素数4つの化合物の中でリンゴ酸が一番水に溶けやすいということも液胞に保存しやすいという理由でこのリンゴ酸が使用されていると考えられる。
A:素晴らしい。講義で得た情報と、自分で調べた(ある意味で単純な)情報を組み合わせてCAM植物の産物としてリンゴ酸が用いられている理由をきちんと推論しています。レポートの鏡ですね。