植物生理学I 第11回講義
C4光合成、CAM
第11回の講義では、C4植物とCAM植物が行なう光合成の特徴とそのメリット・デメリットについて解説しました。講義に寄せられたレポートとそれに対するコメントを以下に示します。
Q:C3植物は13CO2よりも12CO2を好んで使うという話が気になったので、考察する。13Cは安定同位体であるが、12Cよりはもちろん重い。その分各反応は遅くなると考えられるので、二酸化炭素固定の効率を上げるためにも、遅くなるのを避けるためだと考えられる。一方C4植物はこのえり好みが少ないが、C4植物はC3植物とは違い二酸化炭素を濃縮することができるので、多少固定の効率が悪くても被害は少ないからだと考えられる。またC3植物は光呼吸でエネルギーを用いてルビスコを再利用しなければならないので、それを補うためにもより二酸化炭素固定の効率を求めた結果がこの激しいえり好みなのではないだろうか。しかしC3植物も葉内二酸化炭素分圧が低いと13CO2とり込み量が増加するので、背に腹は代えられないようである。
参考:光合成の生理生態学講座 http://hostgk3.biology.tohoku.ac.jp/hikosaka/13C.html
A:ルビスコとは異なり、C4植物のCO2固定酵素であるPEPカルボキシラーゼはC13をあまりえり好みしません。ですから、「重いから遅くなる」というのは一般論としては成り立ちません。「ルビスコを再利用」というのも、意味がよくわかりませんね。「背に腹は代えられない」という点は確かにそうですね。
Q:今回の授業ではC3植物とC4植物について学んだ。その中でC3とC4を行き来する植物、Eleocharis viviparaを知った。ではなぜ多くの植物がEleocharis viviparaのように環境に応じてC3、C4の使い分けをしないのかを考えてみる。ここでC4のメリットデメリットをヒントにして考えてみる。C4のメリットは二酸化炭素を濃縮することで、気孔を余りひらくことなく光合成ができ、水の蒸散を防ぐことができる。しかし、デメリットとしては二酸化炭素を濃縮する際にエネルギーを使うことである。光エネルギーがふんだんにある場所ではC4は有利になるが、弱光下では十分な光エネルギーを得ることができない。以上のことから植物は自分が生活する場所に応じた二酸化炭素の固定を行っていると考えられる。Eleocharis viviparaは環境の変化が激しい場所に生息していたため、生き残るためにC3、C4の両方を獲得したと考える。多くの植物は極端な環境の変化を受ける場所(例えば一年のうちで太陽光が降り注ぐ量がまったく異なるなど)には生息しない、もしくは別の対処法を取っていると考える。
A:「植物は極端な環境の変化を受ける場所には生息しない」というのは、論理的な帰結としてはよいと思います。ただ、前半の部分は講義の中で説明したことなので、レポートとしては後半に絞って膨らませてほしい所です。
Q:植物の炭素固定に関連し、今回は人工的な炭素固定というテーマにスポットをあてる。今「二酸化炭素貯留技術(CCS)」というものが注目されている。どのようなものかというと、気体中の二酸化炭素、またはこれから気体中に工業的に放出されようとしている二酸化炭素を人工的に集め、地下ならびに水中に回収・貯蓄し、必要に応じ薬品の炭酸塩として再利用したりするというものである。すなわち、炭素の最終分解物である二酸化炭素を自然界中の物質に同化するという意味では、人工的な炭素固定を行っていると言う事が出来る。目的は言わずもがな地球温暖化問題における気体中の二酸化炭素濃度をさげる事にある(地球温暖化の原因が本当に二酸化炭素によるものなのかどうかは別として)。この技術が本当であるならかなり画期的なものであると考えるべきだが、何故もっと普及しないのだろうかと調べた所、私が知らないだけで既に新潟県南長岡にて実践的な試験が行われていた。この実験は2003年に始まり計10400トンの二酸化炭素を地下約1100mの帯水層に圧入し、二酸化炭素の地中貯留が可能なことを示している。しかし2003年から試験が行われている上でいまだあまり普及していない背景には、やはり問題があるのだろうと思える。単純にあがる問題としては、この技術は効率的なのだろうかという事だ。端的に言えば、例えばこの技術で二酸化炭素を地下に封入するために、封入する二酸化炭素1トンあたり機械が1トンの二酸化炭素を大気中に放出してしまうというのでは話にならない。ここまで効率が悪い事はないだろうが、この効率を悪さを0%、逆に全く二酸化炭素を出さずに封入が可能な効率を100%というとき、相当100%に近い値まで効率をあげるまで実用化には踏み切れないという可能性は十二分に考えられる。またもう一つの問題として、永劫的な隔離・物質の貯蓄というのはあまりにも難しいのではないだろうか。それは何重にも重なった分厚い壁の内側に隔てられていたはずの放射線が、今年の震災大津波の影響でいとも簡単に外部流出してしまった事が記憶に新しい。つまり、二酸化炭素をどんな形状で地中に閉じ込めていようとも、それはいつか自然災害等で一気に流出し、普段の人間の日常生活に支障を及ぼしてしまうのではないかということだ。この問題をクリアするために行わなければいけないストレステスト等を考えると、やはりCCS普及には時間がかかってしまうのかもしれない。
参考ページ http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/0908airpollution/r0908_setsu.html
A:もう少し、基本的な問題点として、循環型ではない解決策は、単なる一時的な時間稼ぎでしかない、という点があるかと思います。まあ、それを言ってしまえば、化石燃料の使用自体が循環的ではないわけですけれども。
Q:今回の講義では、C4植物やCAM植物について多くのことを学んだが、私が最も興味を持ったイネのC4化について以下に私の考えを述べる。文献を調べたところ、分子メカニズム的にはすでにイネのC4化に必要な遺伝子や実験系はすでに設立してはいるが、光合成レベルでは果たしてC4化することがイネの生育環境にとってどの程度有利なのかに関しては議題を残していた。講義でも話されていたが、基本的にC4植物のほうが二酸化炭素濃縮機構などによって光合成の光飽和点は高く、生存に有利と思われがちだが、二酸化炭素を濃縮するのにATPを用いるため、生育環境が強光下でない限りイネのC3植物のほうが生存に適しているはずである。ではなぜイネのC4化をモデリングする必要があるのか。ひとつ考えられるのは雑草との生存競争である。窒素化合物は肥料にも用いられるほど植物の生育に必須であり、C3植物よりもC4植物のほうがRuBisCOの消費を抑えられるため、結果的に生育に用いる窒素利用効率が高くなることで、土壌中の窒素がより少ない環境でも十分に生育することを可能にするのが目的だと考える。しかし、イネのC4化が商品化まで結びついたときに、C3状態に比べて味の品質は確保できるのだろうか。お米本来の味が変化してしまわぬのか。科学者的な見解ではなく、消費者的な見解になったときに、食に関する不安の払拭など様々な議題が残されているであろう。
<参考文献>有用遺伝子活用のための植物(イネ)・動物ゲノム研究?イネ・ゲノムの重要形質関連遺伝子の解明機構? http://rms2.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/JASI/pdf/digicon/seika/seika475.pdf
(参照日時:2011/7/24)
A:途中までは論理的ですが、最後の部分が評論家風の落ちになってしまいましたね。味が変わる理由があるのか、ないのか、議論するのであれば、オープンクエスチョンとして放り出すのではなく、きちんと根拠を考えて自分なりの結論を出すようにしましょう。
Q:CAM植物やC4植物など、場所や時間を分けて光合成を行っている植物たちがいることを学んだ。そこで、CAM植物について疑問に思ったことがある。CAM植物は、水分が大幅に失うのを防ぐために、夜間の間に光合成を途中まで行い、リンゴ酸を昼の光合成のために貯めておくとあった。この方法は、とても水分を失わない光合成としては良い方法であるが、他の光合成の方法に比べどのような欠点があるのだろうか。そこで、考えたのが、光合成により得られる有機物の量である。CAM植物に属するサボテンなどは成長がとても遅いことで有名である。これは、夜にためておけるリンゴ酸には限界量があり、昼に光合成により得られる有機物の量が他の植物に比べて少ないからではないだろうか。これを確かめるには、夜明けのCAM植物の細胞に含まれるリンゴ酸の量を測ったり、他のCAM植物同士でその量の比較をしてみるとよいと考えた。
A:よい点に目をつけたと思います。ただで儲かる話はたいてい詐欺であるように、生物の世界でも、何か他の植物が持っていない利点の裏には、何らかの不利益があるはずです。最後、リンゴ酸の量を測って何と比べれば結論できるかまで議論できると満点です。
Q:今回の授業でC3植物からC4植物への変化は平行進化であること、さらにはC4植物の代謝系の3パターンにおいても平行進化であることを学んだ。進化とは集団の中で突然変異した個体が、たまたま集団の中でより環境に適応しており、突然変異体がぬきんでて繁栄するという仕組みで起こることが知られている。しかし長い時間の中で進化しているとはいえ、あまりにも偶然すぎるのではないかと疑問に思った。そこで私の考察として、体内において何かしらの環境適応能力の因子が働いて突然変異、しかもより環境に適応した個体になるような突然変異が、物質的に操られているのではないかと考えた。例えば高温環境であれば、単純に考えて紫外線が増えることになる。その紫外線は体内にラジカルな物質を発生させたり、DNAおよびRNAの塩基構造を変化させる力を持っている。それをただ化学的な反応として身を任せるのではなく、そこに生物学的な因子が働き、より環境に適応した形として紫外線の影響を利用して遺伝子を改変しているのではないかと考えた。これは一例であるが、あまりにも偶然すぎる進化にはこのような因子がはたらいでいるのではないかと私は考える。
A:一般的にストレス条件下では変異率が上がるでしょうから、進化のスピードは上がるかもしれませんが、進化の方向性が定まるわけではありませんから「偶然」の問題は解決しないように思いました。
Q:今回の講義では、C4植物が高温乾燥低CO2条件で優占して生育することが紹介されていた。このうち、乾燥と低CO2条件で有利な理由は説明されていたが、高温条件については触れられていなかったので、これについて考えてみる。C3植物の最適温度は10~25℃であるのに対し、C4植物の最適温度は30~40℃である。2つの植物で異なっているのは、C4回路の有無であるので、この回路で使われる酵素の最適温度が高いのではないかと思われる。また、高温でルビスコの活性が落ちた場合も、C4植物の方が、オキシダーゼ反応をしない分効率が良いので、これも関係していると考えられる。もう一つ気になったのは、ルビスコとPEPカルボキシラーゼで同位体分別能力に差があることである。この違いには、何か意味があるのだろうか。気孔が開いているときは、軽くてより拡散する12Cの方が気孔に入ってきやすいと考えると、もともと数が少ない13Cはさらに取り込まれにくくなっているといえる。これを考慮するならば、ルビスコで炭素固定を行うC3植物では、13Cがさらに減って少なくなり、これがなにかしらの利益をもたらすのかもしれない。しかし、酵素の構造上たまたま持っている特徴である可能性も捨てきれないと思う。
A:光合成の温度依存性については次回の講義の中で説明することにしています。
Q:今回の授業では、C3植物、C4植物、CAM植物それぞれの特徴及び、C3とC4を行き来する植物が存在するという内容が扱われた。ところで、CAM植物の炭素固定経路はC4植物の炭素固定経路と類似点が多く存在する。本レポートの目的は、CAM植物とC4植物それぞれの炭素固定経路の類似点から、C4植物の炭素固定経路はCAM植物から分化して獲得された形質なのではないかと提案することである。CAM植物の炭素固定経路とC4植物の炭素固定経路それぞれの特徴の相違点を以下に示す。
・CAM植物とC4植物に共通な特徴(共通点)①CO2はまずPEPカルボキシラーゼによりオキサロ酢酸(C4)に固定される。②オキサロ酢酸はリンゴ酸に変換される。③リンゴ酸を脱炭酸してカルビン‐ベンソン回路にCO2を供給する。
・CAM植物とC4植物の間で異なる特徴④CAM植物の炭素固定経路は全て同一細胞内で行われる反応系である。しかし、C4植物の炭素固定経路は葉肉細胞と維管束鞘細胞の2細胞にまたがる反応系である。⑤CAM植物ではリンゴ酸を液胞内に一時的に貯える。C4植物では、葉肉細胞で合成されたリンゴ酸はすぐに維管束鞘細胞に輸送される。
①~③に示した以外にも、CAM植物とC4植物の炭素固定経路は共に中間代謝物質が全て共通である。これらの共通な特徴が両植物に存在することから、C4植物の炭素固定経路はCAM植物が変異したために生じた炭素固定経路なのではないかと推測される。以下その推測ができる理由を示す。まず、①から③に示したように、CAM植物の炭素固定経路とC4植物の炭素固定経路は、④と⑤に示したような差異を除けばほぼ共通の代謝経路となっている。共通の代謝経路であるということは、当然共通の酵素を用いた反応系である。2つの炭素固定経路が平行進化で独立に獲得されたものであると仮定すると、これらの酵素反応系を全て独立に獲得しなければならない。よってこの仮定の実現は現実には困難であろう。よって、CAM植物とC4植物は、一方が他方から分化したと推測される。では、どちらがどちらから分化したのであるか。④に示した通り、CAM植物の炭素固定経路は全て同一細胞内で行われる反応系である(CO2は外部から取り入れる)。しかし、C4植物では炭素固定経路を動かすためにリンゴ酸を別の細胞へ輸送しなければならない。つまり、C4植物では役割の異なる2種類の分化した細胞が存在するのである。CAM植物炭素固定経路はリンゴ酸を他細胞へ輸送する必要がないため、C4植物のように2種の細胞を分化させる遺伝子は存在しないであろう。2種類の植物において、ほぼ共通の炭素固定経路が利用されている。ただし、一方は一つの細胞内で全ての反応系が行われているのに対し、他方は2種類の分化した細胞間で中間代謝物質の受け渡しをするという形質(遺伝情報、ゲノム)が付け加えられている。よって、CAM植物の炭素固定経路を構築できる遺伝情報に、後から2種類の細胞を分化させる遺伝子が加わってC4植物が分化したと考える方が合理的である。以上が理由である。陸上植物が誕生したころ、地球上の陸地は火山から噴き出した無機物が豊富に存在し、地中に水分があまり含まれていなかったとするならば、C4植物よりCAM植物が先に誕生していたとする提案も不自然ではないであろう。
?参考文献? 大山隆監修 ベーシックマスター 生化学 オーム社 2008年
A:これは面白いですね。斬新なアイデアだと思います。ただ、講義の中で説明したようにC4植物はおそらく何度も独立に進化していると考えられるわけですから、この考え方だとCAM植物も何度も進化したと考えざるを得ません。その場合、進化の系統樹でC4とCAMは常に隣り合わせに出現することになりますね。
Q:C3植物とC4植物を行き来する植物であるEleocharis viviparaは、酸素量が二酸化炭素量よりも格段に多く強光な空気中ではC4植物の構造をとり、二酸化炭素量が空気中よりもはるかに多く弱光な水中ではC3植物の構造をとるとのことであった。このEleocharis viviparaについて調べてみたところ、ヘアーグラスの通称で観賞用として水槽などに植えられる植物と同一のものであることがわかった。実際にヘアーグラスは水陸両方に植えることができ、私も熱帯魚水槽と増やすための鉢植えで育てたことがあるが、この時は水槽内の方が鉢植えよりも良く生育した(他の水草でもこうなる事が多い)ことを覚えている。これについて今回学んだ知識から考察してみる。講義よりこの植物が水中でC3の構造をとるのは、CO2濃度の高さと水の濁りによる弱光が原因である。ところが人工的な水槽環境内は強力な照明で常に光が供給され、また水も濁りが無く水位も低いため水中であるにも関わらず強光条件下であり、なおかつ二酸化炭素量は多いため光呼吸も起こらない。よって結果的に水槽内ではC3植物の利点が存分に活かせたためヘアーグラスは鉢植えよりも強い生育を示したのではないかと考えられる。
A:これは、いわば自分の「実験結果」に基づいた考察であって、完璧なレポートですね。普通は、講義のレポートでいちいち実験はできないので、毎回このようなレポートを書くわけにはいかないと思いますが。
Q:今回の授業で、C3植物の中から個々に平行進化を起こしてC4植物が生まれたと学んだ。そのため、C4植物の反応機構は3種類あるという事だった。しかし、C3植物から分化したC4植物の種類はもっと多く、平行進化としては反応機構の数が少ないように感じられる。それでは、なぜ種類が少なかったのか考えてみたいと思う。第一に考えられるのは、植物はその反応機構を作るのに適した遺伝子情報を、元々持っているのではないかということである。反応に使われている物質も似ているため、最も効率よく進化していった結果、その反応機構を持つに至ったのではないだろうか。だが、反対に、効率的に進化することなく、性質の異なる反応機構を持ったC4植物が存在してもいいはずである。C3植物が存在している以上、進化途中で途絶える可能性も低そうである。しかし、実際にはこのような植物は存在していない。これらのことから、この3つ以外の反応機構は、植物内では作ることすらできないということなのではないだろうか。C3反応で、効率のよくないルビスコを使っているのも、効率の良い酵素が生み出されていないからであるため、C4植物の反応機構が三つできただけでも充分に多いといえるのかもしれない。
A:これも着眼点がいいですね。C4植物の3つのサブタイプについてよく考えていると思います。