植物生理生化学特論 第13回講義

エネルギーの散逸機構

第13回の講義では、光を事実上の基質として用いる光合成が、場合によってエネルギーを捨てる戦略について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の授業で、6種のシアノバクテリアにおける暗所から弱光下での熱放散の動態が違うことが分かった。この動態において、呼吸系からの電子によって暗所でプラストキノンプールが還元されることによって熱放散が行われており、強光条件における熱放散とはメカニズムが異なることが分かった。クラミドモナスやボルボックスなどの緑藻類は熱放散のほかに光反応行動をとることで光の享受量を調節していることが知られている。光反応行動とは、繊毛や鞭毛を使って生存に適した光環境を求めて遊泳する行動のことである。ここで、クラミドモナスと同じ系統の緑藻類であるシアワセモは、強光条件の環境時、他の緑藻類に比べ光反応行動を起こさないことを知った(参考文献)。また、シアワセモの熱放散機構についても調べると、クラミドモナスに比べ強光条件下において顕著に高いことが明かされていた。このことから、緑藻類において、強光に対する防御機構として熱放散と光反応行動があり、それぞれどちらに重きを置くかは種によって異なっていることが考えられる。シアワセモについては、クラミドモナスやボルボックスと違い、一つの個体に4つの細胞を持ち合わせているため、光反応行動を起こすのに他よりも多くのコストがかかることから、熱放散機構を発達させたことが考えられた。
参考文献:東京工業大学HP「シアワセモは強い光から逃げずに防御する」

A:この講義のレポートは、自分で考えた論理を評価します。WEBページに掲載されている研究を紹介するだけでは、評価の対象になりません。


Q:サイクリック電子伝達を測定するのは困難だとされているが、低温蛍光クロロフィル測定によってNADPHのレドックスを検知することで、間接的に調べることができると考える。

A:レポートして認められません。


Q:熱放散の励起光強度依存性が暗所~生育光と生育光~強光で傾きが逆になることを学んだ。励起光の強度を変化させたとき、熱放散の大きさがあるところまでは減るが、生育光あたりを境に増えた。このようにある閾値を境に変化の方向が逆向きになる生物の現象を時々目にするように思う。このようなときに、例えば今回であれば、暗所から生育光までも、生育光から強光までと同じ現象は起きているが、暗所ではPQプールが呼吸からの電子により還元されることによる熱放散が大きく働くから、暗所の方が生育光よりも熱放散が小さいという現象が見られないのではないかと私は考えた。今回であれば、呼吸系の電子がPQプールに入らないようにすることで暗所から強光まで直線につながるような現象が見られるのだろうか。そうだとすれば、Acaryochloris marinaのような直線上に熱放散が増える株では、暗所に順応している株だと習ったがそれが影響してか呼吸系の電子がPQプールに流れないようになっているのではないかと考えた。

A:自分でデータを解釈しよとしている姿勢は評価できます。また、その解釈の方向性も悪くないと思います。


Q:Energy Dissipation Mechanisms in Photosynthesis: The lecture this week highlighted a series of mechanisms that photosynthetic organisms dissipate excess energy to prevent damage from high intensity of light exposure. One of the main mechanisms is the xanthophyll cycle, involving the interconversion of xanthophyll pigments to dissipate excess excitation energy as heat. In addition, this process is regulated by light conditions and is fundamental for maintaining photosynthetic efficiency under variable light environments.
Secondly, β-carotene also plays a significant role in energy dissipation by holding back triplet chlorophyll and preventing the formation of reactive oxygen species (ROS). The lectures further discussed the concept of state transitions, a regulatory mechanism that balances the excitation energy between Photosystem II (PSII) and Photosystem I (PSI) in response to changes in light quality, and quantity as well.
Critical Analysis: The Xanthophyll Cycle: Research presented in the lectures mentions that the xanthophyll cycle is essential for protecting the photosynthetic apparatus during periods of high light stress. The rapid conversion of xanthophyll pigments may lead to immediate response to changing light conditions, therefore preventing the overexcitation of chlorophyll molecules and subsequent ROS formation.
Research Connection: Studies build upon the foundational knowledge presented in the lectures, with the methods of exploring genetic and biotechnological approaches to optimize the xanthophyll cycle. Surprisingly, they pay attention on the potential for improving crop resilience and productivity through targeted manipulation of energy dissipation pathways.

A:Again, this is the summary of my lecture, and cannot be regarded as aadequate report at least for my lecture.


Q:呼吸からの電子の流入による暗所におけるPQプールの還元は、シアノバクテリアは見られる種とみられない種があるが、みられない種はどのように熱放散をしているのか気になった。参考文献を調べてみたところ、サイクリック電子伝達以外の方法で熱放散させる方法の一つとしてオレンジカロテノイドタンパク質を利用した方法があげられていた。このタンパク質は強い青緑色光の波長の光を感じることで活性化され、フィコビリソームと結合して熱放散する。恐らく浅い淡水域など青緑色の光が強く当たる環境下で生きていく為なのだろう。呼吸と光合成に深く関係し、重要であるPQプールの還元する機能を捨てて、様々な環境に適応するために機能を取捨選択するシアノバクテリアの生存戦略は他の陸上植物などではほぼ真似できない芸当であり、とても面白いと感じた。
参考文献:Sauer PV, Cupellini L, Sutter M, Bondanza M, Dominguez Martin MA, Kirst H, Bina D, Koh AF, Kotecha A, Greber BJ, Nogales E, Polivka T, Mennucci B, Kerfeld CA. Structural and quantum chemical basis for OCP-mediated quenching of phycobilisomes. Sci Adv. 2024 Apr 5;10(14):eadk7535. doi: 10.1126/sciadv.adk7535. Epub 2024 Apr 5. PMID: 38578996; PMCID: PMC10997198.

A:多少考えようという姿勢は感じられますが、考察が一般論にとどまっていて、読師の論理とまでは言えないようです。


Q:講義ではシアノバクテリアの強光条件、弱光条件における熱放散について学んだ。強光化にシアノバクテリアを曝したとき、過剰になったエネルギーを熱によって放出することで光合成能の低下をおさえる熱放散について、異なる6種のシアノバクテリアを用いてその励起光依存性を分析していた。私はここで、環境温度の違いが熱放散に影響を及ぼす可能性について考えた。そもそも熱放散によって生じる温度、熱がどこまで細胞にストレスとして影響を及ぼすのか、という考察から始めるべきではある。その上で、細胞では熱放散によって多少なりとも温度変化が生じることから、その細胞と接する環境温度が異なると熱放散の効率や依存性などに影響が出るのではないかと考えた。これは同じ種で環境温度を変えて培養した時を想定しているが、もともとの生息環境温度が異なる種同士を比較することも、考えられた。例えば温泉藻などは50-80℃の環境でも生息可能であることが知られている。一般的にシアノバクテリアが光エネルギーを熱に変えて放出するとき、これほどの高温として放出されることは無いのではないかと考えている。そのため、低温で生息する種、高温で生息する種、それらの間の温度で生息する種、などを比較すると、主に熱放散の依存性に違いが出てくるのではないかと考えられた。

A:熱放散と成育温度の考える方向性は、ある意味で自然ですが、最後の部分が「違いが出てくる」という抽象的な表現で終わっているのが残念です。そこで、「○○であると仮定すると、××のような違いが観察されるはずである」といった具体的な仮説検証型のロジックを構成できると、科学的レポートの雰囲気が出ると思います。


Q:今回の講義で活性酸素の生成と消去についての議論があったため、以前の授業で扱ってくださったSonoike et al.,(1995)の実験で、カタラーゼに効果がなかった理由を考える。カタラーゼが単離したチラコイド膜で機能すれば、過酸化水素が分解され、フェントン反応によるヒドロキシラジカルも少なくなると考えられる。一番反応性の高いヒドロキシラジカルが少なくなれば、PS1活性の阻害が少なくなるはずだが、カタラーゼの添加による効果はなかった。これは、カタラーゼを添加しても単離したチラコイド膜で機能しなかったことが原因だと考えられる。次に機能しなかった理由を考える。①フェントン反応を進めるきっかけとなるFe-が発生する鉄硫黄クラスタ付近ではカタラーゼが働かなかった場合が考えられる。これは膜内部まで酵素が到達できなかったなどが考えられる。②カタラーゼが機能する環境ではなかった場合が考えられる。ただ、カタラーゼの最適pHは7であるため、膜内部のpHを考える必要があるかもしれない。③カタラーゼが過酸化水素を水と酸素に分解する反応を触媒するが、それにより発生した酸素が再び還元され、カタラーゼの分解が追い付かなかったなどが考えられる。この場合、カタラーゼの量を増やしてみる実験が考えられる。

A:レポートは期限内に提出しましょうね。さて、内容ですが、きちんと自分の考え方と、そのロジックを説明していて悪くないと思います。


Q:今回の授業では、植物のエネルギー散逸機構では、光エネルギーを熱エネルギーに変換することが分かった。一方で、外部から加わる熱エネルギー(高温環境)についてはどのように熱放散を行うのだろうか。ここで、人間と植物を比較する。どちらも、酵素を用いて体内における反応を作っている。そのため、体内の温度が概ね同じでなければ、酵素の失活が起こってしまう可能性があると考えられる。人間の熱放散方法について考えると「発汗による気化熱」「低温環境への移動」「外部物質の取り入れ」の3つが挙げられる。それぞれについて人間と植物で比較する。
 発汗による気化熱:人間では、熱エネルギーを発汗による気化熱で放出しているが、植物は蒸散しか気化熱として放出出来る機構がないと考えられる。低温環境への移動:人間は動いて日陰などの涼しい場所に移動できるが、植物は動くことが出来ない。外部物質の取り入れ:人間は水を飲むなど、体内に他の冷たい物質を自由に取り込むことが出来るが、植物は根を張り巡らせた範囲でしか水を取り入れることが出来ない。
 このように考えると、植物は人間とは別の方法で熱放散を行っていると考えられる。ここで、根・茎・葉に分けて考える。茎と葉については、蒸散で行っていることの他に、何かしらの発熱反応が行われていると考えた(例:植物の呼吸では、燃焼反応が起こっているとか)。また、根については、地中の温度を取り入れる機構があるのではないかと考えた(例:吸熱反応を行う地中の生物を近くにおびき寄せる物質をだすなど)。このようにして、植物は動けなくても、高温環境に耐えているのではないか。

A:全体として考えていて悪くないと思います。ただし、動物と植物の環境応答の違いについては、既に講義の中で触れましたよね。そもそも恒常性をどの程度必要とするのか、という点の違いについて、やはり一言欲しいように思います。


Q:シアノバクテリアが弱光下にも熱放散を増大させる理由について考察する。陸上植物の違いとして、シアノバクテリアは一つの地点に固定されることがないこと、そして水中に存在していることが考えられ、この状況は光環境が変動しやすいことが予測される。例えばシアノバクテリアが水中を移動し日陰に出入りすると光環境は短時間で大きく異なることになる。強光条件と弱光条件が断続的に続くとした場合、環境が変わるごとに熱放散の強さを切り替えるのはシアノバクテリアにとって都合が悪いとすると、弱光下でも熱放散を続ける、すなわち増大させること考えられる。結果として、どんな場合でも弱光下では熱放散を増大させるようになったのではないのだろうかと考えられる。もしかすると、光環境を急に弱く、または強くした場合と徐々に変化させた場合では熱放散の強さが異なるのかもしれない。

A:これは独自の考え方で評価できます。ただし、熱放散は確かに強光条件と弱光条件で高くなるのですが、生育光条件では低くなります。もし、「どんな場合でも」熱放散をした方がよいのであれば、生育光条件で低くしているという実際の現象は説明しにくいように思います。


Q:講義内で、シアノバクテリアなどでは、呼吸系から電子が流れ込んでくることにより、PQプールが還元され暗所~生育光時にも熱放散が起こることが紹介された。一般的に考えれば、光は本来であれば貴重なエネルギーであるため、弱光時には熱放散といったエネルギーを逃がすような機構は矛盾しているように考えられる。しかし、複数のシアノバクテリアや藻類などでこのような現象が見られているため、特殊な現象であるという訳でもないことがわかる。では、なぜこのような機構が維持されているのか、考えたいと思う。話を進める前に、PQプールが還元されるという現象が重要であり熱放散はその副産物であるという可能性も考えられるが、PQプールの還元によって導かれる現象について把握しておらず、それに利点があるかどうかを議論できないため、今回はあくまで、PQプールの還元によって導かれる熱放散に何かしらの理由があると仮定する。理由を考える上でまず着目したいのが、この機構が働く種が、それなりに存在している一方で、働いていない種も多く存在しているということである。このことから、この機構を持っていた方が有利に働く環境と、そうでない環境が存在しており、有利に働く環境がそこそこ多く存在していると考えられる。そして、その環境とは、最も光合成量に対して最も熱放散を行う量が少なく、一番効率的に光合成を行うことができる光の強さが長時間継続される環境であると考えられる。そのような環境では、弱光下で必死にエネルギーを吸収しようとしなくても光合成量に違いはなく、寧ろ活動的に振る舞おうと光合成系などを動かした際の種々のコストの方が大きくなってしまうのでないかと考えられる。次に、シアノバクテリアや藻類と言った水中で光合成を行う種にこの機構が見られているという点に着目したい。水中では陸上で光合成を行う場合と比較して化学的・物理的に安定的になりやすいという特徴がある。つまり、水中では、一旦光合成に適当な光環境になるとそれが長時間継続しやすいと考えられる。以上のことから、暗所~弱光環境においてシアノバクテリアや藻類などの生物が熱放散を行い、その機構が維持されているのではないかと考える。

A:きちんと考えていて素晴らしいと思います。特に、「PQプールが還元されるという現象が重要であり熱放散はその副産物であるという可能性も考えられるが」以下の部分は、いろいろな可能性を考えつつも、きちんと議論の条件を明示していて、論理的に話を進めるという方向性がきちんと出ています。最後の部分はやや弱い気がしましたが、環境とのかかわりから環境の安定性を論じた中盤は良くかけていると思います。


Q:植物を強光状態で生育していると葉焼けという状態に陥る。これは、葉の周辺から白くなってしまい、最終的には葉が落ちてしまう。この現象について本日の授業を踏まえてメカニズムを考察してみることとする。おそらく強光状態になると、放熱によってエネルギーの消費が激しく進むことになるだろう、通常であればそれで問題ないはずであるのになぜ葉の細胞が死滅してしまうのだろうか。理由は強光状態に長時間さらされてしまうことにあるのではないだろうか。長時間されされることで長時間熱を発することとなる。さらに、強光が当たっている空間は気温が上昇していることが予測される。気温が上がっているとせっかく放熱によってエネルギーを放出しようとしても放出しきれないことになるのだろう。結果的に葉に熱がこもってしまい、葉の細胞内の酵素の働きなどが低下し死滅してしまうのだろう。つまり、強光状態であったとしても風通しがよく気温が上がりすぎないような場所であれば問題ないと考えられる。

A:自分で考えようとしてよいとは思いますが、論理自体はやや「葉焼け」という言葉のイメージに引っ張られている気がしました。高温が原因の一つの可能性であること自体は良いのですが、他の可能性との比較、もしくは高温が原因であることをサポートする論理が欲しいように思います。