植物生理生化学特論 第10回講義
植物の低温感受性
第10回の講義では、解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。
Q:今回の授業で、In vitroでのチラコイド膜の系Ⅰの阻害実験で、様々な試薬を加えることで阻害が抑制されることが分かった。それぞれの試薬がどのような役割を果たしているのか考えると、グルコースオキシダーゼは酸素を消費する酸化剤であるため嫌気状態となり阻害が抑制される。DCMU、DBMBは系Ⅱ、電子伝達の阻害剤であり、系Ⅰが活性される。MVは電子受容体、つまり酸化剤となるため系Ⅰ阻害が抑制されると考えられる。ここで、なぜ電子伝達阻害剤や系Ⅱ阻害剤を加えると系Ⅰのはたらきが活性されるのか考えると、系Ⅰは最終的にNADP+という還元剤に電子を渡しNADPHを生成する。つまり、電子伝達経路において酸化剤を散りばめることによって系Ⅰが還元剤へ電子を渡す働きが強くなり、系Ⅰが活性されると考えられる。ここで、酸化剤によって系Ⅰが活性される理由が分かったが、電子伝達阻害剤を加えると系Ⅰの反応は止まってしまうように感じる。そこで、系Ⅱに着目すると、水が分解されたときに生じる電子によって反応中心であるクロロフィルが還元される。つまり、系Ⅱの阻害剤は系Ⅱで消費される電子の量を抑える働きをしていると考えられる。
A:ここは、僕としてはメカニズムをきちんと説明したところなのですが、あまり伝わっていなかったようですね。基本的に光化学系Ⅱで生じる電子が光化学系Ⅰを経て酸素に伝わると活性酸素の発生につながること、さらに光化学系Ⅰの最終電子受容体は鉄硫黄クラスターであって、還元された状態では、還元型の金属が触媒として働いて、過酸化水素からヒドロキシラジカルを生成することが大きなポイントです。
Q:in vivoでは低温感受性植物が低温条件下でのみ示していた系Iの阻害が、in vitroでは低温耐性のある植物でも阻害が見られ、更には室温でも阻害が見られるということを学んだ。そこから、もともと光に弱い系Iを保護するメカニズムがin vivoでのみあるという仮説、そのメカニズムが低温では働かないという仮説が立てられると習った。in vivoにあってin vitroにないものと聞いて、私が1番に浮かんだものは転写・翻訳である。例えば、低温耐性植物では低温下で発現量が上がる物質があり、それが系Iを保護する可能性があるのではないかと考えた。また低温阻害は閾値モデルであることは、この転写や翻訳を調節するセンサーの状態(相変化や複合体形成能など)がある閾値で変わり、転写や翻訳のON/OFFを調整している可能性があると思う。低温処理をした葉から、この保護物質を抽出することができ、in vitroでも低温阻害が起きなければこの可能性を検証できると考えた。他には室温と低温下での遺伝子発現を比較し、大きく発現量が変わる遺伝子が見つければ良いのではないかと考えた一方で、温度条件が異なるタイミングではかなり多くの遺伝子の発現量に差異が見られる可能性が高く、見極めることは難しい可能性も高いと考えた。
A:転写翻訳系に目をつけたのは面白いですね。ただ、in vitroでの再構成実験をうまく組み立てるのは、案外難しいかもしれません。
Q:The lecture highlighted the significant differences between plant and animal adaptations to environmental changes. While animals can avoid adverse conditions through movement and maintain homeostasis, plants must endure and adapt to these conditions directly. This adaptation is particularly evident in the context of cold stress, which can be categorized into freezing stress (below 0°C) and chilling stress (0-10°C). Freezing stress causes physical damage to cells due to ice formation inside the cells, leading to cell dehydration and rupture. Chilling stress, on the other hand, does not involve freezing but disrupts metabolic processes, particularly photosynthesis. The lecture emphasized that cold-sensitive plants exhibit a common threshold temperature (around 10-12°C) below which damage occurs, highlighting the plants' intricate response mechanisms. One of the most significant impacts of cold stress on plants is the inhibition of photosynthesis, particularly in chilling-sensitive species like cucumbers and tomatoes. This inhibition results from an imbalance between the light-dependent reactions of photosynthesis and carbon assimilation processes. Specifically, low temperatures impair the function of Photosystem II (PSII) and Photosystem I (PSI), which are crucial for capturing and converting light energy into chemical energy. Research presented in the lecture identified several key sites of inhibition within the photosynthetic machinery: The reaction center of PSII, where light energy is initially converted. The oxygen-evolving complex, which is responsible for splitting water molecules. Enzymes in the Calvin-Benson cycle, particularly those involved in carbon fixation and regeneration. The lecture cited studies by Sonoike (1996) and Terashima et al. (1994), which demonstrated that PSII is more susceptible to chilling stress than PSI. The damage to PSII includes the disassembly of its protein complexes and the disruption of electron transport, leading to reduced quantum yield and overall photosynthetic efficiency.
A:This is the repetition of the lecture. In the report of my lecuture, original logicl is important.
Q:キュウリなどの低温耐性がない植物は低温ストレス環境下だと系Ⅰは閾温度を持つ阻害が起きることが分かった。また今回の講義から、系Ⅰが閾温度を持つのは状態変化によるものだということを理解した。ここで、シアノバクテリアでは一部の植物と同様に低温ストレス環境下での系Ⅰの閾温度は存在するのか疑問に思った。一部のシアノバクテリアは南極の乾燥した岩石表面や極地の土壌や海洋環境にも生息していることから、ほうれん草のような低温耐性があると考える。このことから、低温耐性を獲得しているシアノバクテリアはin vivoの状態では系Ⅰは光合成阻害の閾温度がないことが推測される。では、in vitroだとどうなるだろうか。植物の場合は、in vitroでも光を当てた時電子受容体の失活によって阻害される。つまり、シアノバクテリアでの電子受容体が失活するかどうかがはじめのカギとなる。シアノバクテリアの電子受容体について文献調査したところ、植物と同様にP-700を中心とするが、電子を供給するためにプラストシアニンまたはシトクロムc6が使用されることが分かった。これによって植物とは異なる結果が得られるかもしれないと期待したが、シアノバクテリアも鉄硫黄クラスターが存在し、電子伝達に重要な役割を果たすことを知り、in vitroで植物と似た結果が出ることを予想した。しかし、シアノバクテリアは低温環境によってPS1の構造や機能を調節する可能性があるため、実際には実験してみないと分からない。
https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-1-4615-5993-1_17
A:考え方はよいと思います。実際には、PSIの構造や機能自体は、シアノバクテリアでも陸上植物でもあまり変わりません。
Q:イネの低温障害は、光合成が阻害されるトマトやキュウリとは異なり花粉形成が阻害されることで起こると学んだ。またトマトやキュウリでの低温ストレスの解明では実際に低温阻害が起こる畑の条件を考慮し、その条件を再現した環境で実験を行ったことで新たな発見があったということだった。今回の講義では低温ストレスによる光合成阻害が、そのような弱光の摂氏数度に数時間という短時間だけ置いた時に起こることから、イネなどの花粉形成の阻害に関する実験も、同様の環境条件で実験を行う価値があるのではないかと考えた。しかし、光合成阻害の場合と異なり、花粉形成の阻害は細胞の発現への影響によって起こることから、細かな条件変化は生育には光合成ほど繊細に影響しないのではないかとも考える。一度のみの低温ストレスでは結果にそれほど差が出ないのではないかと予想されることから、数時間の低温ストレスを与える操作を何日間か繰り返し、その日数と阻害の程度を関連づけて考察することを考えた。しかしながらイネの低気温障害に関する先行研究1)では、地温と水温とでは生育への影響の与え方が異なるという報告もあったため、精密な温度条件の設定が必要になる可能性もある。
1)K Suzuki, K Nagasuga & M Okada(2008). The chilling injury induced by high root temperature in the leaves of rice seedlings. Plant and Cell Physiology, 49 (3), 433-442.
A:確かに、一口に温度といっても、地上部と地下部では大きく異なりますし、さらに水稲の場合、水をどこまで張っているかによっても、植物の環境は大きく変わるので、考えるのは案外たいへんです。
Q:チラコイド膜を単離して、弱光によるPSⅠの応答をDarkと比較した際に、LightのPSⅠ活性が下がるグラフについて考察する。特に5℃の環境下でDarkにした際に初期の30分にLightと同様にPSⅠの活性が下がる理由について考察する。初期の30分は活性酸素によるPSⅠ活性の阻害の影響を受けていると考えられる。これは、Darkになった瞬間は植物ホルモンなどの影響によって、全体的な生理活性が落ちているのではないかと考えた。しかし、PQなどの還元状態や活性酸素の発生具合などを感知する機構などによって、それを守る機構が働き始めるのではないかと推測した。
A:「全体的な生理活性が落ちているのではないかと考えた」という時に、何を根拠としてそう考えたのかを記述すると、論理的なレポートになります。この講義のレポートに求めているのは、繰り返しになりますけれどもロジックなのです。
Q:今回の授業で、植物の低温ストレスについて学んだ。その中でも私は、イネの低温ストレスに対し、興味を持った。一人暮らしをしていて、お米が高くて悩んでいるからだ。そこでこのレポートでは、米の価格を下げるべく、低温ストレスを受けて成長が阻害されるイネを減らすことを目的として記述する。授業では、花粉形成における阻害があるということだった。私は、これ以外の成長段階にも阻害の影響が大きい段階があるのではないかと考えた。イネの成長段階は大きく分けて「栄養生長期・生殖生長期・登熟期」の3つがある(参考文献1)。このうち私は、栄養生長期に着目した。なぜなら、後の段階を解決しても、初期段階の冷害を解決できていなければどんなに頑張ってもイネを育てることはできないからだ。次に、イネの生長に関わる要素を考える。イネの生長に関わる要素として挙げられる大きなものは、「土・空気・水」だ。ここで今、空気の温度、すなわち気温は変えられないものとして考えると、土と水についてなんらかのアプローチが出来ると考えられる。ここで、水稲幼苗と土に関する、以下のような記述がある(参考文献2)。「地温と気温が同じであれば葉に障害を起こさない。ところが低気温時に地温を高温に保つと著しい障害を起こす。この可視障害が現れる前に、光合成電子伝達能力が著しく低下する。」これから、気温と土の温度に差があると、阻害を起こすということが分かる。つまり、この乖離をなくすことが出来れば、解決につながると考えられる。これを達成するためには、水田の水に着目することが必要だと私は考えた。なぜなら、地温と水の温度を比べると、水の温度の方が変化させやすいのではないかと考えたからである。ここで私は、自動温度感知システム および 自動液体システムの導入を提案したい。具体的な説明を以下に示す。①自動温度感知システムにより、気温と水温(または地温)の温度を感知。差分を測定。②一定の差分以上になった際に、自動的に液体を投入する(尿素などの冷却材)。ただし、これを投入するためには、電源の場所や費用面にて、課題がありそうなので、発電機を使用する・初期投資をなるべく減らせるような仕組みをつくるなどして、全国の水田に届け、米の価格を安くしてほしい。
参考文献:1.NARO 農研機構 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構,「図説:東北の稲作と冷害」,https://www.tarc-agrimet.affrc.go.jp/reigai/zusetu/ricegrowth.html,参照2024年6月28日、2.Suzuki, K. et al. (2008) Plant and Cell Physiology, 49: in press.
A:気温と地温の乖離を減らせばよいというアイデアはよいと思います。ただ、結局、気温を検知して水温をそれに合わせるということになると、あまりロジックという感じにはなりませんね。もう少し、何らかの具体的な工夫が欲しいように思います。
Q:今回の授業で疑問に思ったのは、SDS-PAGEの電気泳動の結果である。今回スライドとして紹介された電気泳動に結果ではタンパク質にサブユニットに主な変化はなかったが、分解産物のバンドが出現したというもにであった。50kDaに出現したバンドはcontrolにはなかった。ウェスタンブロッティングの抗体反応によって分解産物が同定されている。しかしそれ以外にも出現しているバンドがあるように見えた。12.5kDa付近で薄くではあるが、バンドが出現している。分解産物が出現しているのではあれば、分解した酵素が出現しているのではないかと考えた。酵素が分解に使われてしまうのであれば、時間を区切ってSDS-PAGEをすることで、どこかのタイミングで特異的にタンパク質が発現すると考えられる。
A:電気泳動の結果は、ただのSDS-PAGEとウェスタンの両方を示していましたが、「それ以外にも出現しているバンド」というのは、どちらの方法の話でしょうね。ただのSDS-PAGEの場合は、示していたのは、PSIを単離してそれを泳動した結果ですので、もし、分解酵素を調べるのであれば、また異なる方法をとる必要があると思います。
Q:今回の授業では植物の低温感受性について学んだ。本授業においては低温感受性は特に葉についてであったが、私はコナラの実生について考察を行う。コナラの実生は一度0から-5度の温度を経験しなければ発芽しないことが知られている。しかし、この条件に長期間さらされると細胞内の水減少し死滅してしまうことが知られている。わざわざ複雑な温度感受の仕組みを取り入れているのは適切な時期に発芽させるためである。しかし、どのようにしてこの温度を感じしているのだろうか、私は何かしらの酵素の最適温度が極端に低くなっておりそれが動き出すと発芽準備にはいるのではないかと考える。そしてこの酵素はおそらく種のみに存在していると考えられる。コナラの木についている段階の実生を一度低温処理して発芽するかを確認することで検証は可能であると思われる
A:「発芽準備にはいるのではないかと考える」だけだと、ただの予想であって仮説ではなくなってしまいます。ロジックを示すためには、やはり、何らかの根拠が欲しいところです。