植物生理生化学特論 第9回講義

光化学系の量比調節

第9回の講義では、光化学系の量比の調節によるシアノバクテリアの強光順化のメカニズムの研究例を紹介しました。最後に少し農学的な品種改良についても触れました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の授業で、植物の強光下条件における光応答について学んだ。シアノバクテリアの野生型とpmgA遺伝子変異株をそれぞれ強光下に置くと、野生型では光化学系Ⅰの数を減らすのに対し、pmgA変異株では光化学系Ⅰの数を減らさずに、元の光合成速度を保つことが出来る。すると、一見pmgA変異株の方が強光条件において強いと思われるが、強光条件を長く続けると(3日程)pmgA変異株は生育速度が極端に落ちることが分かる。これはpmgA遺伝子が本来発揮できる最大光合成速度をあえて抑えることで、強光条件などの環境変化に適応することを示している。ここで、光質の視点からpmgA遺伝子における系Ⅰの阻害作用について考えると、光化学系Ⅰ、Ⅱはそれぞれ光の吸収する波長の幅が異なる(730nm、685nm)ことから、野生株ではpmgA遺伝子が働くことにより系Ⅰが失活し730nm付近の光による電子伝達が失われることが考えられる。すると今度は系Ⅰが失われたことによる電子伝達鎖の還元状態が進み、系Ⅰを増やす方向に作用するように考えられる。

A:前半は授業の復習で、後半がレポートの本体だと思いますが、量の調節と活性の関係があまり理解できていないのかもしれません。量が少なくなることと活性が低下(失活)することは、全く別の現象です。そこは、きちんと分けて議論する必要があります。


Q:今回の講義では、多収量イネの話が取り上げられた。多収量イネは野生型よりも背が低く、葉になるバイオマスを茎にまわすことで、穂の数を増やしている。しかし、葉が減少すると、光合成によって得られる栄養も減少するため、野生型よりも生育しない、あるいは生育速度が遅くなる可能性がある。さらに、種子を作るためには少なくないコストがかかるが、多収量イネでは、葉を減少させて穂(種子)を増やしている。これは人の手が入った栽培環境であっても、イネにとって生存しにくい変異であるように感じた。それにも関わらず、多収量イネの変異が固定されたのはなぜだろうか。この仮説として、多収量イネの種子に含まれる栄養が野生型よりも少ないことが挙げられる。栽培環境では、イネが生育しやすいように十分な水と栄養が供給されるはずである。つまり、多収量イネは種子に多くの栄養を蓄えなくても、種子から発芽するだけの栄養があれば、その後は外から栄養を吸収することで、容易に生育することができると考えられる。この仮説を検討するためには、野生型と変異型の種子に含まれる体積あたりのデンプンと脂質の量を比較すればよい。これによって、野生型のイネと多収量イネにおける栄養量の違いが明らかになれば、目的に応じた食べ分けが可能になることが期待される。

A:よく考えていると思いますが、自然選択は野生の状況で考えるべきものであって、栽培環境においては、特定のものを人間が維持している以上、「変異が固定されたのはなぜだろうか」という質問に対する答えは「人間が品種改良したから」となります。あと、「栄養」が何を指すのかはきちんと考える必要があります。人を含む動物の場合、エネルギー源としての栄養を指す場合が多いのですが、植物の場合、炭水化物は光合成によって供給されます。したがって、外界からの取込みが律速になるのは、窒素やリンといった無機栄養です。さらに、栽培環境においては、その無機栄養は肥料として人間が供給しているという側面も考慮する必要があります。


Q:植物工場ではずっと光合成をし続けるために、昼夜をつけずに育てると授業内に習った。しかし私は本当に昼夜をつけないことが植物の生育に対して効率が良いことなのか疑問に思った。多くの生物は昼夜の変動に有利に適応するために概日時計を有している。反対に言えば、概日時計を持っていると、恒常的な条件でも昼夜を自分で予想し、光合成に関する遺伝子の発現を変えてしまうのではないか。そう考えると、昼夜をつけない条件でも、常に植物に「昼」だと認識させることで生育を良くするためには、概日時計を持たない方が良いだろう。しかし自然形質転換能を持つシアノバクテリアを実験室内で恒常条件下で育てたとしても、概日遺伝子を失うことはないと予想される(恒常条件下で育てて概日遺伝子を失うのであれば、シアノバクテリアで概日時計研究は発展していないと思う)。つまり恒常条件下でも、概日遺伝子を持つ株が有利であるということだろう。植物にとって概日時計は明暗条件だとしても、恒常条件だとしても必要なのであれば、その植物が持つリズムに合わせて明暗をつけることが最適なのではないかと考えた。以前、牛を育てる際には昼の時間の長さに応じて、良い肉になる条件があると習ったことがある。それはただ昼の時間を長くすれば良いのではなく、牛が持つ特性的に長日もしくは短日(すみません、どちらなのかを忘れてしまいました)条件に合わせることが1番効率良く育てられるという話だった。牛は光合成をしないのでまた少し条件が違うが、植物を育てる上でも常に昼であるよりも適度に暗期を挟むほうが効率的に育てられるのではないかと考えた。

A:よく考えられていてよいと思います。陸上植物の場合、種によって、恒明条件でもよく育つものと、育ちが悪くなるものがあるので、一般論で議論するのは難しいのかもしれません。あと、名古屋大学の藤田さんが、従属栄養条件で培養し続けて、それに適応したものを調べる実験をされていましたが、10年といったオーダーの時間をかけた実験でしたから、「恒常条件下で育てて概日遺伝子を失うのであれば、シアノバクテリアで概日時計研究は発展していない」かどうかは、よくわかりませんね。途中で一度でも明暗をつけると元に戻るでしょうし。


Q:Photochemical Systems in Photosynthetic Organisms: The lecture discusses the evolution of photosynthetic organisms, including green sulfur bacteria and red photosynthetic bacteria, and the development of oxygenic photosynthesis involving two photochemical systems (PSI and PSII) in cyanobacteria, land plants, and algae. The concept of horizontal gene transfer and endosymbiosis leading to the formation of chloroplasts is highlighted. These evolutionary processes are well-documented in scientific literature and are fundamental to understanding the complexity of photosynthetic mechanisms. By understanding the mechanisms of PSI and PSII ratio adjustment, agricultural practices can optimize light conditions in greenhouses to maximize photosynthetic efficiency. For instance, manipulating light quality and intensity can enhance crop growth and yield by ensuring that plants maintain an optimal balance between PSI and PSII, reducing the risk of photoinhibition.
Light Acclimation and Light Response: The presentation describes long-term responses involving gene expression adjustments (light acclimation) and short-term responses that do not involve gene expression changes (light response). The regulation of the relative amounts of PSI and PSII in response to varying light conditions is a key concept, supported by research on the dynamic adjustment of photochemical system ratios to optimize photosynthesis under different light intensities and qualities? The principles of photochemical system regulation can be applied to algae cultivation for biofuel production. By controlling light quality and intensity, it is possible to enhance the photosynthetic efficiency of algae, increasing biomass yield and improving the overall feasibility of algal biofuels as a renewable energy source.

A:It is not necessary to repeat the contents of the lecuture. Furtheremore, avoid general statement. What is required is logical discussion.


Q:今回の講義の中で生物の進化と品種改良の話が印象に残った。植物はもともと野生で生息しやすいように進化していることから、品種改良で光合成能力を上げたことによって収量が増えた例はほぼないということだった。そこで、光合成能力を上げることにこだわって収量を増やすような品種改良を行うには、どのような方法を取れば良いのか考えた。方法の一つとして、まず、もともと同じような気候や土地の性質で生息する同種の生物同士の光合成能力を比較し、両者の間で異なる遺伝子やその発現量をピックアップし、光合成能力を上げる要因となる遺伝子を特定する。(ここでは収量は比較しない。)その後、光合成能力の低かった方に特定した遺伝子を挿入したり、発現量をコントロールしたりすることで、もともとの収量から変化するかどうかをみる、という方法である。結果的に、逆に収量は減るかもしれないことに加え、同じような環境で生息する種を見つけることが困難であると思われるが、できる限り生育条件の揃った状態から品種改良を試すことで、可能性として光合成能力を上げることで収量を増やす、ということができるかもしれない、と考えた。

A:ややポイントがずれているように思いました。比較する両者の内、一つで光合成が低かった場合、それを上げるということだと思いますが、では、その一つではなぜそもそも光合成が低かったのでしょうか。進化の過程でその種が生き残っているのであれば、(ちょうど講義で紹介した野生型のシアノバクテリアの場合と同様に)何らかの理由で光合成が抑制されていると考えるのが自然です。その場合、単にその部分を上げようとしても、(これも講義で紹介したように)別の問題が生じる可能性が高いのではないでしょうか。


Q:pmgAを欠損すると強光においてもPSⅡが抑制されないことで、光合成速度が早く、光阻害に強い。一方でシトクロムb6/f複合体が光エネルギーを使用しない電子伝達系であるため、その前のプラストキノンが還元されない状態となってしまう。それにより、活性酸素が発生するため、強光で長期に生育すると生育が悪くなる。pmgA変異体は強光でなければ優勢であると考えられることから、長く弱光環境であったシアノバクテリアではpmgAを捨てている可能性が考えられる。そこでシアノバクテリア属全体における、pmgAのホモログの保有と光環境の関係について調べたい。弱光環境に長く生存していたシアノバクテリアを非常に長いスパンで調べられることができればより良い。(また、pmgA変異体の成長速度を見る実験では、連続明の条件で行われていたが、12時間おきに明期と暗期を繰り返すと、どうなるのかについて考えたい。プラストキノンの還元を暗期中に処理する方法がないのか興味を持った。)

A:一応、論理的に展開された文章になっているのでよいと思います。ただ、日本語としてはややばらばらな印象を受けます。文と文のつなぎを滑らかにするとよいレポートになると思います。


Q:今回の講義では、自然条件において光合成活性を抑えることが重要だと学習した。その理由として強光下では早い生育を示す一方で顕著な生育阻害を受けるからである。このことを調べるために強光下でも光合成を抑えない変異株が使われているのだが、一つ気になった点がある。それは同種だが光環境が異なる地域で生育された植物は遺伝子的な違いがあるのかどうかということである。例えばイタドリという植物について、本来は河川敷などに地下茎を生やし植生している植物なのだが、富士山にも植生している。富士山は標高が高く遮蔽物もないことから強光があたり、河川敷と富士山では大きく光環境が異なると考えられる。この河川敷と富士山に植生しているイタドリは遺伝子的な違いがあるのか気になる点である。私としては遺伝子的な違いはないが、富士山に植生するイタドリは生育阻害を受けているのではないかと予想する。河川敷に植生するイタドリの草丈は大きいもので1~2mほどになることが知られているが、富士山に植生するイタドリは大きくても1mに満たないものしか確認したことがない。この違いは土壌環境の違い(富士山の土壌は貧栄養である)も関係していると思われるが、強光による生育阻害もあると考えられる。そのため、もし富士山に植生しているイタドリの種子を河川敷にまき、他の河川敷に植生するイタドリと同様に成長したとしたら、富士山のイタドリも河川敷のイタドリも遺伝子的な違いはないといえるだろう。
参考文献:https://www1.ous.ac.jp/garden/hada/plantsdic/angiospermae/dicotyledoneae/choripetalae/polygonaceae/itadori/itadori.htm

A:考えていることは読み取れます。ただ、取り上げられた二種類の環境は、光環境以外にも異なる要因がたくさんあるので、それをどのように切り分けるのかな、と思っていると、単に遺伝的な違いの有無のチェックだけで話が終わるので、やや肩透かし感がありました。


Q:pmgA変異株では光合成速度も高く、生育速度も速いがある程度時間がたつと生育阻害が起きることを学んだ。pmgAがあることで光合成速度などが抑制されているということはおそらく進化の過程でpmgAの遺伝子機能を獲得したのだと思われる。しかし、光合成の速度を抑制するにはクロロフィルの量を減らすなどもあったのだと思われる。なぜ、pmgAで制御しているのかについて考える。クロロフィルの量を減らしてしまうとむしろ光が弱い環境では光合成量が極度に落ちてしまう状態になる。また、一つの個体であっても陰葉、陽葉などがありそれぞれにおいてクロロフィル量を上下させていると柔軟な切り替えができなくなってしまう。そのためにpmgAで制御していると思われる。

A:pmgAが何を制御しているのかについて全く触れていないので、クロロフィル量を減らさない時にどのようなメリット・デメリットがあるかがわかりません。極端な話、このレポートの情報だけでは、pmgAがクロロフィル量を制御している可能性もあります。そして、実際にはpmgAの変異でクロロフィル量が変化することは講義の中で紹介しました。