植物生理生化学特論 第8回講義

呼吸と光合成の相互作用、研究室内の進化

第8回の講義では、呼吸と光合成の相互作用の研究例を紹介したのち、原核生物において研究室内で小進化が起こる例について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の授業で、呼吸と光合成の関係性について学んだ。光が得られない状況下において、陽性植物は段々と呼吸量が低下していくのに対し、陰性植物は呼吸量が低いまま一定である。これは、光合成産物(呼吸基質)が陰性植物に比べ陽性植物の方が多いことを示している。一方、呼吸量を決める要因として維持呼吸と構成呼吸の割合が挙げられるが、呼吸速度と光合成速度の関係から、陽性植物では全体の呼吸量における構成呼吸量の割合が高く、陰性植物では構成呼吸量の割合が低いことが考えられる。これらのことから、光の強さによって決める最大光合成量(光補償点)の違いだけでなく、暗闇条件下における構成呼吸と維持呼吸の割合の違いから陽性、陰性の区別を定められる、と考えた。

A:全体として悪くはないのですが、この講義のレポートが一般向けにHPで公開されることを考えると、独立して理解できることが求められます。「陽性植物は段々と呼吸量が低下していく」という表現などは、講義を聞いた人にはわかりますが、何も知らなければ意味不明です。「夜に入ると」と一言補足するだけでわかりやすいレポートになります。これは、普通のレポートの場合も本来は同じです。


Q:今回の講義の中で、クロロフィルはタンパク質に多数の色素が配位結合しているため、光吸収あたりのコスト(タンパク質)が小さいが、フィコビリンはタンパク質に発色団が共有結合しているため、コストが大きいという話があった。では、クロロフィルとフィコビリンの間で、光吸収とタンパク質量にどのくらい差があるのかを調べるためには、どのような実験をすればよいだろうか。 まず、クロロフィルを含む細胞と、フィコビリンを含む細胞をそれぞれ破壊して、遠心分離することで、クロロフィル,フィコビリンとそれに結合するタンパク質を合成する成分を抽出する。ここに放射性標識したアミノ酸を加えると、放射性活性をもつ結合タンパク質が合成される。それぞれの結合タンパク質を免疫沈降によって精製し、結合タンパク質の吸収スペクトルを測定する。その後、同じ溶液を電気泳動して、バンドの放射性活性を比べることで、結合タンパク質量を推定する。最後に、クロロフィルとフィコビリンの吸収スペクトルをノーマライズして、吸収ピークあたりの結合タンパク質量を算定することで、光吸収あたりのコストを定量化して比較することが考えられる。

A:よく意味が分かりませんでした。「それに結合するタンパク質を合成する成分」というのは何でしょうか?リボソームのこと?ただ、それだと色素関連タンパク質だけを標識することはできませんよね。そもそも、なぜわざわざタンパク質を合成させるのでしょうか。色素とタンパク質の量比が知りたいのであれば、単に色素タンパク質を単離すればよいだけの気がします。


Q:微生物では自然突然変異が入りやすく、野生株が置き換わってしまう可能性があることを学んだ。このことから微生物では、野生株に最も適した培養条件を探す必要があるのではないかと考えた。通常の研究室で自然変異が入ってしまう可能性がある条件としては、乾燥への耐性や低温高温への耐性、様々な照度への耐性が容易に想像できる。これらの条件に関して、様々な湿度や温度、照度で培養させて、ゲノムのシーケンスを行うことで、自然変異が入りにくい条件を検証することができる。これにより、自然変異のリスクを最小化できるだろう。ただし、授業内で学んだような表現型に大きな差が出るものであれば見つけることが容易だが、表現型に出にくいものは見つけることが困難であると思う。そう考えると、野生株をストックから定期的に起こし直すことやこまめに植え継ぐことが最良であるだろう。むしろ、何日間の連続培養で変異が入りやすいのかやマルチゲノムの全てが変異型に置き換わってしまうのにかかる時間を検証しておき、その日数以内に植え継ぎ直すことが最も有効であると考えた。この検証にはシーケンスを用いるだけではなくて、自分が対象とする遺伝子の発現を蛍光で見れるようにしておけば発現の強弱への影響を可視化しやすいと考えた。

A:「ストックから定期的に起こし直す」という考え方はもっともだと思う一方で、やや当たり前かもしれません。野生株がどのような条件で野生株であり続けるのか、という点をもう少し考えてみるのもよいかもしれません。おそらく、どのような条件でも一定の条件では、その条件で適応度の高い特定の株の出現を防ぐことはできないでしょう。


Q:Interaction between Respiration and Photosynthesis: The lecture this week on the interaction between respiration and photosynthesis provided me with a refreshing insight into the intricate balance plants maintain to optimize energy production and usage. There is no doubt that understanding how these two processes complement each other is essential for conducting further research on plant growth and energy efficiency. To be specific, photosynthesis captures light energy and process it to produce glucose and oxygen, while respiration breaks down glucose to release energy needed for various cellular activities. Perfectly, this complementary relationship ensures that plants can feed on themselves and adapt to an everchanging environmental conditions. Additionally, one particularly interesting aspect to me was the discussion on factors influencing respiratory rates, which include enzyme activity and substrate availability. As for me. these factors are significantly important for understanding plant metabolism because they determine how efficiently a plant can convert stored energy into usable forms. Enzyme activity, for instance, can be influenced by environmental conditions, which in turn affects the plant's overall metabolic rate and growth.
Evolution in the Laboratory: The idea of studying evolution in a laboratory setting is refreshing to me. It allows researchers to see genetic changes and adaptations in real-time, and it provides valuable environments that are often challenging to be imitated in natural environments. Personally, this lecture deepened my understanding of the complexity of plant biology and the importance of interdisciplinary research. In addition, I now realize that the integration of physiology, genetics, and environmental science is significant for developing our understanding of plant responses to external changes. The lecture this week also inspired my interest in the applications of these knowledge points in improving agricultural practices and developing sustainable production for food production.

A:The report is essentially quite general in terms of discussion. Especially, first part of the report seems to miss the point of the lecture, considering the fact that the lecuture was actually dealing with the regulatory interaction between the respiration and photosynthesis, not the metabolic interaction.


Q:今回の講義では、シアノバクテリアの研究室内での進化について学んだ。シアノバクテリアは、長い世代を重ねた結果として何らかの自然突然変異が起きることがある。このことから、枯れる直前のシアノバクテリアから植え継ぎをするのは乾燥や栄養不足に体制のある株を選択することと類似している。また、シアノバクテリアの進化は単純な遺伝子変異だけでなく、環境ストレスによって表現型の変化や細胞内の代謝活性に影響を及ぼすことがあると考えた。例えば栄養不足下で培養した時、できるだけ栄養を吸収するために遺伝子発現変化を起こすことも可能性としてあげられる。したがって、シアノバクテリアの研究を行う上では、培養条件を常時最適な状態に保つべきだと考えた。

A:この場合、「最適な状態」とは何か、という点が一番大事なはずですが、その具体的な内容が書けていないのが残念です。


Q:研究室内の小進化ということについて、講義では表現系にわかりやすく差のある変異が取り上げられていたが、実際には目に見える変化だけではなく、気づかない部分での変異が起こっている可能性も十分にあり得ると予想される。その場合、例えば遺伝子欠損株を作製し行う実験などは、コントロールとして親株との1塩基レベルでの違いを把握しておく必要があるのではないかと考える。また同じように、各研究室において野生株として扱われている株の間にも、DNAに相違がある可能性があることを常に頭に入れておく必要がある。通常、論文には株名のみが記載されていることが多いが、本来は解析を都度行い、その配列情報も載せるべきなのではないかと考える。

A:言っていることは、至極まともだと思いますが、逆に言えば、当たり前で独自性に欠けます。もう一息、自分なりの考え方を内容にも盛り込めればと思います。


Q:Synecosystis PCC6803が研究室内で多く変異をしており、変異による表現型の大きい違いが頻繁に理由について考察する。特に正負の走行性を獲得した例やグルコース耐性を獲得した例、光環境応答による生育が異なる例などは大きな違いである。それらについて、おもに1塩基挿入や置換、154塩基欠損など、おそらく遺伝子1つ程度が不活性化する変異のみによるものである。遺伝子が1つ変異するのみで、表現型が大きく異なっていることから、変異した遺伝子は走行性、グルコース耐性、光応答性などの経路を抑制する遺伝子であると考えられる。このような1遺伝子の不活性化による表現型の大きな変異が起こりやすいとすると、主要な経路それぞれについて抑制する遺伝子が存在しており、それらによって表現型が制御されていると考えられる。そう仮定すると、環境への適応のしやすさからそのように進化していったと考えられる。

A:これは、目の付け所は非常に良いと思います。ただし、あまりカチッと論理になっていないで、「主要な経路それぞれについて抑制する遺伝子が存在しており、それらによって表現型が制御されている」といった表現はややふわっとしています。理系のレポートとしては、もう少しあいまいさをなくした表現で論理を進められるとよいですね。また、修正ミス、タイプミスなどに注意してください。


Q:今回の授業で、植物の呼吸は2種類に分けられると言う話があった。構成呼吸と維持呼吸である。構成呼吸は成長に必要なエネルギー、維持呼吸は細胞の状態を維持するためのエネルギーを作るための呼吸であるということだった。この話を受けて、植物の呼吸について、これ以外の分類は出来ないのだろうかという疑問を持った。そこで植物の構造ごとに、呼吸によって何がもたらされるのかを考えた。
根:有機化合物の分解(参考文献1)→成長をもたらす、種子:貯蔵物質の分解(参考文献2)→新規構造の展開、葉:エネルギー獲得(参考文献3)→成長をもたらす・現状の維持、実:成熟のため(参考文献4)→次世代へのつなぎめ
このように、構造ごとに呼吸の役割も異なっている。このように、呼吸ひとつをとっても、さまざまな役割や分け方があると考えられる。
参考文献:1.佐藤公行,一般社団法人 日本植物生理学会,https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4377,参照2024年6月14日、2.佐藤公行,一般社団法人 日本植物生理学会,「主旨の発芽に空気が必要な理由」,https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=4983,参照2024年6月14日、3.水耕栽培専門のリビングファーム,「植物の光合成のしくみ」,https://shop.living-farm.jp/?mode=f18,参照2024年6月14日、4.岩田 隆・中川勝也・ 緒方邦安,「果実の収穫後における成熟現象 と呼吸型の関係」,園 芸 学 会雑 誌 第38巻 第2号,pp.84-91

A:これは、まとめサイトの記事のような感じですね。もう少し自分なりの考え方が欲しいところです。また、根の呼吸の意義については、講義の中で触れましたが、それが全く反映されていないのが残念です。


Q:今回の講義で根呼吸の使い道について、維持呼吸よりも構成呼吸の方が何倍か大きいことを学んだ。根は地上部の成長や維持のために地中内の養分を吸収したり土壌中の養分を使えるようにするため分泌物を出したりしているため、構成呼吸の方が重要であることは妥当であると考えられる。また細根においてはターンオーバーと呼ばれる根の生え変わりの周期が1年未満になることもあるため根を長く維持する必要がないということで、維持呼吸が極めて少ないことが示唆されていると思われる。しかし根は太さによって役割が変化し、根が太くなるほど養分の吸収や分泌機能が小さくなり、植物体の安定を担うためなのかターンオーバーが長くなることが知られている。そのため、もしかすると太さによっては根呼吸の使い道が変わる、すなわち維持呼吸と構成呼吸の割合が反転するのではないかと予想できる。

A:根の太さによる役割の差に注目した点は良いと思います。ただ、そこからの論理展開という点ではやや物足りない気がします。


Q:呼吸速度の関係式においてcの維持呼吸係数は植物種によって異なるが、kの構成呼吸係数は植物種によって変化が少ないと補足されていた。しかし植物の成長に必要なコストは種間で違いがでないとは考えにくい。例えば葉の防御能力の差が挙げられる。寿命が長い葉は貴重な葉を外敵から守るために葉を丈夫にすることや、毛などを構成するための防御策にコストがかかる。またタンニンやポリフェノールなどの化学物質を蓄える例にもあり、これらの防御形質を有していない葉と比べてコストが同じとは思えない。呼吸速度をより正確に求めるにはkの構成呼吸係数を、草木、落葉樹、常緑樹など植物ごとに設定する必要があると考える。

A:これも着目点は良いのですが、「種間差があるはず」→「種間差を考慮する必要がある」という展開だと、当たり前に感じてしまいます。構成呼吸を「生長に必要なコスト」と考えると確かに防御コストが思いつくかもしれませんが、ではなぜ構成呼吸が光合成と相関を持つのか、という点をもう少し考えてみるとよいのではないかと思います。


Q:今回の授業で根の呼吸の割合について学んだ。また、その中で稲の通気組織について学んだ。通気組織は、根の中の細胞の一部を意図的に細胞死させて作り出すようなものであると思われるがこの通気組織の有無によって根の太さが異なるのかどうかまた太さがことなることで不都合が起こらないのかについて考察を行う。植物の根の太さというのは植物の根の形態を知るうえで重要なパラメーターの一つである。通気組織が必要な状態では多くの根の細胞がなくなることになるのである程度の太さがないと根本来の生理的な特徴を失ってしまうことになるだろう。つまり、通気組織を形成するような植物が冠水状態に陥ると細根を失い、太い根だけが残るように形態が変化するのではないだろうか。また、根の太さは栄養塩の探索性に大きくかかわる。太い方が、投資が大きい割に探索性が低いが、細い方では投資が少なくかつ探索性も高くなる。しかし、今回想定する冠水しているような状態では必ずしもそうでないと思われる。なぜなら冠水しているということは土壌中の養分もその水の中に溶けだしており、土壌中を拡散していると考えられる。つまり、一部の植物は冠水状態に陥ると通気組織を作成し太い根だけを残すようになるが、栄養塩をむしろ獲得しやすい状況になるので不都合は起こらないと考えられる。

A:きちんと考えていてよいと思います。もっとも、根毛は確かに通期組織をもてませんが、その他の根については、通気組織を持つのに必要な「ある程度の太さ」というのがどのぐらいなのかによって、だいぶ状況は変わるかもしれません。