植物生理生化学特論 第7回講義
光受容体と環境応答
第7回の講義では、先週に引き続き光受容体について解説したのち、植物の光環境応答について紹介しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。
Q:光の当て方により葉緑体が移動する話があった。葉緑体が細胞膜に張り付いている理由は二酸化炭素を吸収しやすいからとのことだった。そこで、強光のとき円柱の側面に集まっている葉緑体は縁である必要があるのか疑問に感じた。横から見た図をそのままに上からみた図の葉緑体を中心方向にずらせば二酸化炭素を得にくくなり光合成の反応が進まないのではないか。また、この配置であれば上から見たときの葉緑体の割合は変わらないので強光による影響も同じである。ではなぜ側面の細胞膜に張り付いて存在しているのか。理由を3点考察した。第一に強光か弱光かによって移動が大きいと対応コストがかかる。第二に壁や目印がなく流動性のある環境下で縦に並べるのが難しい。第三に液胞があり中心に移動するのが難しい。
A:全体の論理の流れを理解できませんでした。葉緑体を中心方向にずらせば光合成の反応が進まないのであれば、それがまさに葉緑体を側面に置く理由ですよね。光合成のできない葉緑体には意味がないように思いますから、他に理由を考える必要性がわかりません。
Q:ほとんどの環境ストレスは光との相乗効果が認められること、暗黒下でのストレスは植物に影響がないことも多いことを学んだ。キュウリは暗条件下では低温でも酸素発生活性が阻害されないが、明条件下では低温で酸素発生活性が阻害される。強光によるストレスと低温によるストレスが相乗効果により生じるならまだしも、弱光だとしても低温ストレスによる活性阻害が見られるのはなぜだろうか。なぜ光合成ができないことが生育に影響を与えることが予想される暗黒下ではなく、少しでも光があることがストレスになってしまうのだろうか。私は3つの可能性を検討した。1つ目は光合成自体が植物にとって悪影響を及ぼす物質の生成に関わる可能性である。光合成により活性酸素を生じ、それが温度や湿度が適当でないと強く影響してしまうのではないか。2つ目は温度や湿度のストレス単体では対応することができるが、光合成の存在下では光合成が優先されてしまうために対応できない可能性である。3つ目にキュウリの低温障害のグラフに関しては正規化されているものであることから、元々暗条件下では活性がほとんどないものに対して、低温でも活性が変わらないという意味なのではないかという考えである。
A:これは、よく考えていてよいと思います。ただ、3つの考えを提案しただけだと、やや言いっぱなしの印象を与えますから、何でもよいので理屈をつけて、3つの中でこれが最も確からしい、と結論できるとよいのではないかと思います。
Q:Plant Photoreceptor (Vol. 2): The lecture section that continues to have discussion on plant photoreceptors provides me with an inspiring horizon to complex ways plants react and respond to light, an important external factor. From my perspective, one aspect that attracts me the most is the dual role of phototropins in both phototropism and chloroplast movement. I think it is important for plant efficiency to maximize light absorption for photosynthesis while prevent plants from damaged caused by being sunburnt. In short words, the ability of phototropins to mediate these processes proves the plant adapting to their external environment.
Regulation of Light Absorption in Plants: The section on regulation of light absorption in plants has a comprehensive discussion on how plants adapt to varying and everchanging light conditions throughout one day to optimize their photosynthesis while avoiding damage caused by excess light. This balance between absorbing enough light for energy production and preventing sunburnt damage is significant for health and productivity of plants.
Among all the aspects, one that fascinates me is the distribution between short-term and long-term regulatory mechanisms. Short-term adjustment, like chloroplast movement within cells, allow plants to respond quickly to change in light intensity throughout the entire day. On the other hand, long-term adaptations enable plants to acclimate to their prevailing light conditions over longer periods, including altering pigment composition and antenna size. These dual strategies are a must for plants to survive in dynamic environments, and also ensure that they can take full use of the light.
Also, the concept of complementary chromatic adaptation in cyanobacteria was refreshing. This adaptation is vital for plant to survive in diverse habitats, from shadow water where light is abundant to deep region where light quality is everchanging. Apparently, this reveals the evolutionary advantages conferred by flexible photosynthetic mechanism.
A:This is a good report for the ordinary courses, but as a report for this lecture, there are many generalizations and it lacks the uniqueness that only you could write. Also, as a whole, there needs to be a clear flow of logic, starting with the problem setting at the beginning and then solving it, finally leading to the conclusion.
Q:今回の講義で、植物は光をフィトクロムやフォトトロピンで感知して、葉緑体を移動させることで光吸収を調節していることを学んだ。しかし、私は温度の変化はどのように感じ取っているのか疑問に思った。温度変化によって葉緑体内の酵素活性や代謝経路の反応速度が変化することもあるだろう。また、キュウリが低温傷害を受けたとき、光合成を促進して代謝活動を維持しようとすることも知られている。それほど重要な要素ならば、フィトクロムやフォトトロピンのような光センサがあるのと同様に、温度センサも存在するのではないかと考えた。参考文献から、フィトクロムやフォトトロピンは植物の光センサとして機能するだけではなく、温度センサとしても機能することが分かった。例えばフィトクロピンは赤色光によって活性化されるが、遠赤色光と高温によって不活化されるらしい。このフィコビリンおよびフォトトロピンを元にした光と温度の組み合わせによって植物の生育の最適化に繋がり、ハウス栽培など農作物を効率的に育てることが可能になるだろうと考えた。
参考文献:1.Legris M, Klose C, Burgie ES, Rojas CC, Neme M, Hiltbrunner A, Wigge PA, Schafer E, Vierstra RD, Casal JJ. Phytochrome B integrates light and temperature signals in Arabidopsis. Science. 2016 Nov 18;354(6314):897-900. doi: 10.1126/science.aaf5656. Epub 2016 Oct 27. PMID: 27789798.
A:「不活化されるらしい」までは、調べた結果ですよね。この講義で求められるのはそこからの論理展開です。応用につながるかもしれない、というだけでは、論理展開とは言えません。せっかく温度センサという面白い切り口を見つけたのですから、そこから自分なりの論理を展開してください。
Q:今回の講義では光環境に対する植物の調節機構について学んだ。その中で、シアノバクテリアの種によっては光吸収の短期的な調節機構がほぼないことが気になった。葉をもつ植物では葉の内部の葉緑体の位置を移動させたり、葉そのものを閉じることで光を受ける面積を減らしたりすることができるが、自ら動くことができないシアノバクテリアでは、強光下において生存にかなり不利であるように考えられた。運動性を持つシアノバクテリアでは走光性による応答なども行うことがあるが、全く運動性を持たないシアノバクテリアは調節の手段が少なく、生育可能な環境も限られてくるように感じた。
A:これも、せっかく短期的な調節機構の欠如という面白い切り口を見つけたのに、その後は、「考えられた」「感じた」と感想のような文章で終わってしまっているのが残念です。なぜ欠如していてもよいのか、という点を、実際どうなっているかとは無関係でもよいので、自分なりに論理を組み立てるようにしてください。
Q:フォトトロピンⅠとフォトトロピンⅡの違いについて考察する。フォトトロピンは光屈性、葉緑体集合運動、気候開閉、葉緑体逃避運動について関わっているが、葉緑体逃避運動のみについては、フォトトロピンⅠは関わっていない。これは、フォトトロピンⅠが広い光強度範囲に対する応答を制御する一方、フォトトロピンⅡが強光に対する青色光に対する応答を制御するものであるからだと考えられる。通常の光強度の場合、葉緑体を集合させ、気孔を開く必要がある。一方で、強光の場合、葉緑体を逃避させ、気孔を閉じる必要がある。また、温暖な地方の植物が低温による光合成障害が起こるとあったが、これについて、フォトトロピンⅠが弱光に反応しないようにし、光合成を停止できれば、光合成障害に対処できると考えた。
A:これは、文章の論理的なつながりが理解できませんでした。強光で気孔を閉じると書かれていますが、講義ではフォトトロピンの二重変異体を作成して始めて気孔が閉じた事を紹介したと思います。つまり、2つのフォトトロピンはともに気孔の開口に関与しているはずです。さらに、フォトトロピンが弱光に反応しないと、葉緑体は動かなくなるかもしれませんが、それがなぜ光合成の停止につながるのかがわかりませんでした。
Q:私は、植物の光合成効率が一番良くなるような装置を開発できないだろうかと考えた。そこで私は、今回の授業で、光の強さによって葉緑体の位置が変わるという話について考えた。暗所では細胞全体に貼りつき、弱光下では最大限に光を吸収できるように、強光下では光阻害を受けないように細胞の横側に貼りつくという話であった。もちろん、授業内の言葉で表すと、弱光下が一番光の吸収率が良く、光合成も活発に行われるということである。このことだけについて考えると、必要なことは「葉緑体が細胞の葉側に貼りついている」状態を作り出すことである。そこで、暗所に対応する装置と強光下に対応する装置についてそれぞれ考えた。
①暗所:暗所では、「光がない」というのが問題である。それに対処するためには、「光を作り出す」ということが必要である。そのため、光をあてられる装置が必要である。②強光下:強光下では、「光がありすぎる」というのが問題である。それに対処するためには、「光を遮る」ということが必要である。そのため、葉の上に覆いかぶさる何かが必要である。
また、①②で考えた必要なことの他に、光に反応して①②の対処が出来る必要がある。ただ、「光に反応して対処を変える」だと、その植物にとって最適な光を装置に登録する必要がある。そこで、葉緑体の動きに反応して光を変化させることが出来れば、ひとつの装置を作成するだけで、さまざまな場所のさまざまな植物に対処することが可能である。
A:ここで考えているのは装置の条件で、それは、暗いところでは光を当てて、光が強すぎる所では光を遮るというだけなので、あまりにも当たり前ですよね。レポートとしては、それをどのように実現するかという点がなければ、あまり独自性のあるレポートとは言えない気がします。
Q:今回の授業において光合成が光条件によって移動することを学んだ。そのことから、葉緑体の移動原理について興味を持った。いったい、どのようなに移動をしているのだろうか。葉緑体は細胞内共生によって獲得された細胞小器官であり、もとは、シアノバクテリアである。しかし、シアノバクテリア単体の場合であると光に向かう性質を持つことが知られている。これは、効率的に光合成を行うためであるといえる。また、葉緑体の構造を見ると二重の生体膜になっているので葉緑体単体が移動するとは考えられない。これは、植物細胞内から細胞分画法をもちいて葉緑体だけを取り出しそこに光を当てることでどうなるかを確認できる。このことから葉緑体が特定の部分に集合することを司っているのは葉緑体自身ではなく、細胞による働きであると考えられる。細胞小器官を効率的に移動していることから細胞骨格などが用いられているのではないだろうか。これらはアクチンの重合を阻害するなどをした細胞を用いることで確認ができると考えられる。ここで気になるのはミオシンによる移動で消費されるATPと光合成によって生産される有機物を分解した際に得られるATPの差分である。葉緑体の移動によって、光合成の活性を保ったり葉緑体を保護することはどの程度効率的なのか気になるところである。
A:これは、ある程度の根拠を示しながら自分の論理を展開していてよいと思います。ただ、最後の一文は、オープンクエスチョンになっているので、全体の論理という点からすると、すこし表現に工夫を加えた方がよい気がしました。