植物生理生化学特論 第2回講義

さまざまな分光法

第2回の講義では、分光器のパラメータの設定方法や、低温吸収スペクトル測定、4次微分スペクトル解析、ESR、NMRなど様々な分光測定方法について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:今回の授業で、吸収測定の様々な手法について学んだ。その中で、波長分解能による誤差は測定バンドの高さ、シャープさに影響を及ぼすことを知った。私は去年、園池先生の生物学実験で分光光度計による吸収測定の実習を行った。その際、同じ試料をスリット幅を変えて吸収測定したところ、同じ試料にもかかわらずバンドの形に大きな差が生じた。この原理について考察する。ここでいうスリット幅とは、分光器から特定の波長の光を取り出す出射スリットであることを言及しておく。実験では、スリット幅を5 nm、2 nm、1 nm、0.5 nmと変化させた。この時、スリット幅を狭くすればするほど、バンドの形がシャープで、且つピークの値も大きくなった。そもそも、吸収スペクトルとは、ある測定波長の吸収ピーク(つまり点)の集まりである。この吸収ピークはその時点の測定波長のスペクトルの「平均値」である。スリット幅が広くなれば、吸収ピークのスペクトルの幅は広がるため、平均値は小さくなる。つまり、吸収ピークが小さく見積もられた点の集まりとなってしまい、全体の吸収スペクトルの形は尖度が小さい、のっぺりとした形になってしまう。これが、分光光度計にて吸収測定を行ったとき、スリット幅を変えたことによるバンドの形に差異が生じる原因である。

A:内容は、全く問題ないのですが、これだけだと、その「生物学実験」のレポートとして書くべきだった内容なので、新たにこの講義のレポートとして繰り返す必要もないと思います。何か、新たな視点を取り入れた考察が欲しいところです。


Q:今回の講義の中で、核磁気の原理を用いた「MRI」が紹介された。以前MRIの検査を受けた時に、タトゥーが入っていないかを確認されたが、その理由が気になってMRIの原理を調べてみた。MRIでは、磁場をかけることで、体内の水素原子を振動させている。それによって、水素原子から放出される電磁波を、電気信号に変換している。(文献1)このように、体に磁場をかけるため、タトゥーに金属が含まれると、電磁誘導によって電流が生じて発熱する可能性がある。では、体内に含まれる金属(血液中の鉄など)と電磁波が反応して、電流が生じることで、体内の反応系に影響を及ぼす可能性はないのか。一般的に、MRIによる電磁波が、体に及ぼす影響は少ないと言われている。これが正しいと仮定すると、体内に含まれる金属が微量であり、体に影響を及ぼすほど電流が生じない、あるいは電子が過剰に移動しても、それを受け流すように電子が伝達される(ストレス応答機構が存在する)可能性がある。
【文献】角美佐,MRIの原理と特徴,日口腔インプラント誌,第36巻 第3号,p.33-173,2023年9

A:これは、目の付け所がよいと思います。タトゥーの金属が悪いなら、生体中にもともと存在している金属はどうなのか、という疑問は当然生じるでしょう。では、なぜその違いが生じるのか、という点については、ごく一般的な2つの仮説が提示されるだけで、物足りなさを感じます。量(濃度)が問題なのだとすれば、例えば、血液中の鉄濃度は調べればわかると思いますし、タトゥーの中の金属濃度も、規制基準などを調べればある程度予測できると思います。この講義のレポートでは論理展開を重視しますので、単に一つアイデアを思いつくだけで終わりにするのではなく、そこからどのように論理を展開するかを考えてください。その際に、具体的なデータに基づいて議論できるとよいでしょう。


Q:電子スピン共鳴で測れるものとして、ラジカルや三重項状態があった。先週のゼミで扱った、光化学系Ⅱの光損傷のメカニズムに関する仮説の中に、三重項クロロフィルからエネルギーが渡され、励起した一重項状態の酸素分子により反応中心が失活するとあったが、反応中心タンパク質が一重項酸素によって損傷を受けるかを検証する際にESRを利用できるのだろう。

A:これだけだとやはりただの思い付きですね。


Q:私は最近、タンパク質の構造に関する論文を読む機会が多く、タンパク質の構造を見ることができる測定方法に興味を持った。授業の中では、タンパク質の構造測定ができる方法としてCDスペクトルと核磁気共鳴が主に挙げられていた。そこで、これらはどのように使い分けされるのかを検討した。CDスペクトルは吸収測定により行えるため比較的容易に測定ができると予想した。αヘリックスとβシートを明確に見分けられるとのことだったので、大まかな構造を測定したいときに用いられると考えた。実際に私が最近に読んだCDスペクトルを測定した論文(2000年代初期のものですが)は、1つのタンパク質をいくつかのドメインに分けるために用いられていた。このように詳細な構造ではなく、括りとして大きく見るときに用いられるのだと思う。次に、核磁気共鳴では授業内に説明があったようにヘリウムで冷やしながら測定する必要があり、CDスペクトルに比べて動かす労力やコストがかかってしまうのではないかと思う。ただし、CDスペクトルに比べて詳細な構造まで測定できることや、結晶にする必要がないため手間がかからないだけでなく、結晶化できないタンパク質の測定もできるメリットがあると思う。私が最近読んだ核磁気共鳴を用いた三次構造予測の内容を含む論文(これも2000年代初期)では、CDスペクトルの論文と比べて側鎖同士の相互作用や向きのことまで記載されていた。最近ではタンパク質の構造予測ができるようになっており、所属研究室でも用いているDeepMind社のAlphaFold2は無償で利用できる。蓄積されたデータベースを用いて構造予測がされており、どんなタンパク質でも手軽に構造予測ができる点が利点である。一方で、例外事象に弱いという弱点が予想されるので構造測定はまだ完全に取って代わられているわけではないと思った。

A:複数のポイントについてきちんと書かれています。ただ、それぞれ少し調べれば誰にでも書ける内容なので、この講義のレポートとしては、もう少し、自分なりの論理が感じられるようなレポートに挑戦してみてください。


Q:Through this section, I get to know the fundamental principles of the interactions between light and materials exposed, which are absorption, transmission, and scattering. I find it interesting to select various of spectroscopic instrument to measure how light interacts with materials. This section focuses on light that is not absorbed by a sample can either be transmitted through, or be scattered by the materials themselves. This section draws my attention on the complex balance between these interactions, and the importance of understanding the roles of each component when it comes to spectroscopic analysis.

A:The contents of this report seem to be a general characteristic of the spectroscopic analysis. In this lecture, I evaluate the submitted reports in terms of scientific logic and the originality of it.


Q:分光器による試料の吸収測定をする際、分光器の波長、スリット幅などの測定条件や試料中の混合物や濃度、色素、測定時の温度条件によってスペクトルのピーク同士が重なり合ってしまい、求めたい結果が得られないことがある。今回の授業では、その重なり合ったスペクトルを微分することで隠れたピークも見分けることを学んだ。微分を使うことでスペクトルの微小な変化を強調し、より鮮明にピークを検出することができる。しかし、ノイズを増幅し、歪みや不正確な検出を起こす可能性、ピーク以外のデータが失われる可能性がある。重なり合ったスペクトルをより正確に見分ける方法として、ピーフフィッティングという手法がある。これは出力されたスペクトルを複数のピーク関数としてモデル化し、スペクトルのピークの位置や高さなどのパラメータをフィッティングすることで重なったピークを分離し、定量化することができる。ピークフィッティングは微分と比較して高い感度と特異性を持つが、計算コストがかかるため場合によって分ける必要がある。吸光測定においてどちらも有効ではあるが、ピークが広がっていたり、ノイズが少ない場合は微分、ピークが狭かったり、ノイズが多い、強度、幅など各ピークの詳細なパラメータが必要な場合はピークフィッティングと、入力するデータと求めたい情報によって使い分けるのが最も適切だと考えた。

A:きちんと書かれていますが、微分解析とフィッティング解析は、使い分けるというより、併用する場合もかなりあります。フィッティングは、特に非線形の解析の場合、初期条件によって結果が変わり、よりよい初期条件から解析をスタートすることが重要です。その初期条件として、微分解析により得られたピーク波長を使うことにより、よりよいフィッティング結果を得ることができます。


Q:今回の講義の中で紹介されていた大型スペクトログラフについて考えた。大型スペクトログラフでは、複数の波長における実験を同時に行える点や、精度の高い波長を太陽光以上の光量で照射できるという点、減光ミラーを用いることで一度の実験で光量を段階的に変えることができる点が特に優れていると感じた。一方で、装置は大型で特定の実験施設のみにある点を考えると、この装置を用いることができない試料も存在すると考えられた。具体的には実験室から持ち出すことの難しい遺伝子組み換え生物や、長距離移動や環境変化などのストレスなどが結果に影響しやすい動物などを想定したが、これらを対象として光生物学的な実験を行いたい場合、単色LEDで代用できるのではないかと考えた。波長の精度の高さと光量の強さに関してはLEDが劣るが、先述したそれ以外の点についてはLEDでも賄うことができると考える。LEDには入手が容易で安価であり、実験のため試料を持ち出す必要がなくなるというようなメリットがある。実際に大型スペクトログラフとLEDでの結果を比較したデータを見つけることはできなかったが、LEDを用いた実験でもある程度の傾向は掴むことができるのではないかと考えた。
参考文献:1)”設置機器:大型スペクトログラフ”, 基礎生物学研究所生物機能解析センター光学解析室, 2024年4月24日閲覧、https://www.nibb.ac.jp/lspectro/equipment/ols.html、2)”第10回 LED光学特性評価の注意点(その 2 )”, シーシーエス株式会社, 2024年4月24日閲覧、https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color_part2/vol10.html

A:これはその通りかもしれません。少し前までは、波長可変光源と称して、光学フィルターを用いてさまざまな波長の光を取り出せる光源が販売されていましたが、今はなくなっているようです。これなどは、まさに、LEDで代用できるようになったことによるのかもしれません。


Q:今回の授業では愛知県岡崎市の基礎生物学研究所にある大型スペクトログラフについて学んだ。具体的には、「30年以上前に建設されたが、文部科学省からの予算が下りないため、新しいものを作ることが出来ない」ということである。私はそれを受けて、今あるものをリフォームする形で、予算を抑えて老朽化への対策をする方法を考えた。まず、前提として基礎生物学研究所にある大型スペクトログラフがどのようなものなのかを調べた。情報として、以下の5つにまとめることが出来た。
 1979年に設置され、2024年現在では設置から45年が経過している(参考文献1)。45年が経過した今でも、世界最大の大型分光照射施設である(参考文献2)。光合成の調節機構や光受容体の機能解析など、光の波長と生物の反応との関係性を調べる研究に活用されている(参考文献2)。
 構成は以下の通り:光源・分光室、照射室、実験室、 休憩室、電源室、30kWキセノン短アークランプ、光源部集光鏡、光源部シャッター、熱線吸収フィルター、入射スリット、変向平面鏡、分光器部集光鏡、回折格子、迷光除去フィルター、焦点曲面台、インキュベーター(参考文献1)。
 共同利用実験の申請が採択された場合、利用が可能となる(参考文献3)。
 以上から、①耐震構造(1より)②リフォームの場合の実験停止(2、3、5より)③構成のうちリフォームが必要な部分はどこか(4より)の3点からリフォームについて考えた。以下に考察を記述する。
①耐震構造について:耐震構造について調べても情報を得ることが出来なかったので、単純に年数で考えると、建物自体がかなりの老朽化を受けていると考えられる。愛知県岡崎市は、南海トラフ巨大地震の想定震源域である(参考文献4)。このことから、今の状態(地震対策がされていない)の場合、今ある構造すら失ってしまう可能性があり、復旧をするとなると更なる資金が必要になると考えられる。
②実験停止について:新しいものを新しい場所に設置する場合とは異なり、リフォームをする場合は、今継続的に実験をしている人たちが実験をすることが出来なくなるという問題が発生すると考えられる。
③構成について:私の認識では、一般的に寿命があるとされるものは、キセノン短アークランプのみだと考えた。反対に、半永久的に使えそうなものは、新しくする優先度は高くないと考え、キセノン短アークランプについて詳しく考えることにした。調べたことを、以下に記載する(参考文献5)。なお、調べたところ、仕組み的に安定性が高いとは言えず、寿命を考慮しなければならないキセノンランプを使い続けるより、波長可変光源を使用する方が良いのではないかと考えた。構造:石英管の中に、アーク放電を行う電極(陽極と陰極)、キセノンガスが封入されている。仕組み:電極に電流が流れると、陽極と陰極の間でアーク放電が発生し、封入されているキセノン原子内の電子が励起・電離される。「励起電子→基底状態の線スペクトル」「電離電子→再結合の連続スペクトル」を出すため、幅広い波長の光が放出される。特徴:立ち上がり時間が他のランプに比べると短い、石英管に強度が必要、フィラメント加熱型のランプより寿命が長い、太陽光に近い波長特性(300 nm - 800 nm)、放電を利用するため、安定性に欠ける、現在は、代替物として、複数のLEDの出力を制御することで、太陽光の時間変化も再現できる波長可変光源というものが開発されている。
 以上3点より、以下のことを私は考えた。①耐震構造は今すぐにでも対処するべきである。②リフォームの期間は、国外の施設を利用してもらうことを検討する。③キセノンランプを使い続けても良いと考えた(最優先事項として変える必要はない)。将来的には、LED出力のものに取り換えた方が、長期的には使用するコストは減少するので、取り換えも視野に入れてお金を使用すると良いのではないかと考えられる。
 よって、地震への対策だけは、一刻も早く対応するべきであると考えられる。一方、他の点に関しては、今の状態から変える必要はないのではないかと考えられる。
参考文献:[1] 基礎生物学研究所 生物機能解析センター 光学解析室,「大型スペクトログラフ of 光学解析室 NIBB Spectrography and Bioimaging Facility」,https://www.nibb.ac.jp/lspectro/equipment/ols.html,参照2024年4月27日、[2] 自然科学研究機構,「自然科学研究機構(NINS)ホームページー自然科学研究機構についてー5 機関の概要」,https://www.nins.jp/about/folder2/post_6.html,参照2024年4月27日、[3] 基礎生物学研究所,「大型スペクトログラフ利用規定 内規」,https://www.nibb.ac.jp/lspectro/_src/27786/%E5%A4%A7%E3%82%B9%E3%81%BA%E5%86%85%E8%A6%8F_%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88.pdf?v=1589348371524,参照2024年4月27日、[4] 愛知県,「南海トラフ地震対策」,https://www.pref.aichi.jp/soshiki/bosai/rinjijouhou.html,参照2024年4月27日、[5] ケイエルブイ,「キセノンランプの特徴・種類・アプリケーションを解説」,https://www.klv.co.jp/corner/xenon-lamp.html,参照2024年4月27日

A:面白いレポートでよいと思います。ただ、ぜいたくを言えば、研究の中身について(そもそも大形スペクトログラフを用いる研究が今でも必要なのか)という点について、一言あるといいですね。設備というのは、使われてこそのものですから。


Q:懸濁試料など散乱光が発生する試料を測定する方法について、試料を光電子増倍管の近くに設置する、積分球といった散乱光を1点に集めることができるオプションユニットを使うといった手法が存在する。これらはどれも光を検知する装置に集めるといった方法になるが、光を集めるのではなく検知する装置を大きくすることはできないのか疑問に思った。光電子増倍管は光電子面にあたった光を光電子として放出し電気信号に変換する装置である。よって、光電子面を一面だけでなくそれこそ積分球のように全面に設置すれば、光をもらすことなく測定できるのではないかと考えた。しかし、光電子を増倍する際に高電圧をかける必要がありノイズなども共に増倍されてしまうということから、大型や複雑な形にするのはそのような課題を克服する必要があるのだと考えられる。

A:これだけだとやや物足りないのですが、実際には、ノーベル賞の対象となったカミオカンデなどは、ここで考えられている「光電子面を一面だけでなくそれこそ積分球のように全面に設置」した装置です。カミオカンデの場合も、検出すべき光子は、散乱の場合と同様にどの方向にも現れるので、そのような形が必要なのでしょう。そのような比較ができると、議論に深みが出ます。そのためには、アンテナを幅広く広げて科学的な情報を蓄積していくことが重要です。


Q:今回、様々な吸収測定法の例があったが、その中に閃光分光法というものがあった。3年時の実習において、ホウレンソウを用いて閃光(フラッシュ)を照射した際の酸素発生を測定したことがあるため、一瞬の光でも反応が進行することはぼんやりとだが覚えていた。また、4回の照射で1回の反応が進行するという話もあった。この発見には、この閃光分光法による高分解能を誇る手法が必要不可欠であったと推察されるのだが、このような実験以外で、1回の光合成の反応を感度良く測定できるという特性を生かした実験はないものだろうかと感じた(もっと注目される手法ではないかと感じた)。そこで、多様で過酷な環境でも生き抜く植物の戦略、適応術を解明、証明する手法として当手法を用いることができるのではないかと考えた。研究内容としては、「瞬間的な光を受けやすい環境の植物では、連続的な(通常の)光を受けている植物と比較した場合、異なるカーブを描くのか」というものである。実験背景として、森の林床と林冠において光合成をする場合、林床では風などによって光が届いたり届かなかったり短期的に変化することが考えられる。一方で、林冠では常に光を優先して得られるため、両者においては瞬間的な光に対する応答が異なっていると考えられる。私の予想としては、よりシャープな反応をしているのではないかと考えており、林冠種ー林床種の比較だけでなく、同個体のより林床に近い部分ー林冠に地下部分でも違いが見られるのではないかと考えている。また、森を飛び出して考えた場合、ヒトや車などによって影ができやすい道路脇などで繁殖している植物では、同種の自然な環境に生息している個体と比べて、異なるカーブを描くのではないかと考えている。

A:実は、この「変動光に対する光合成の応答」は、十数年前に光合成研究の一つのトレンドになりました。環境応答にかかわると思われる遺伝子の変異株の一部は、野生株とほとんど生育が変わらないため、その重要性があまり理解されていなかったのですが、野生株と生育が変わらない原因は、植物を一定の光で育てていたためであって、秒単位で光量が変化する変動光の環境では、多くの変異体で、野生型と大きく生育が異なることが明らかになりました。よいところに目をつけたと思います。