植物生理生化学特論 第7回講義
光化学系量比調節
第7回の講義では、シアノバクテリアの強光馴化の一環としての光化学系の量比調節について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。
Q:生物は特定の自然環境に適応するように進化しているため、実験室などの人工的な栽培環境では最適化されず、変異株が生じている可能性があることが分かった。そこで、環境変化が激しい自然環境と、ラボ内の安定的な環境を比較した際にどちらで変異株が多くなるのか気になった。光量を大きく変動させて培養する群、安定的かつ最適な光条件で培養する群、強光培養群、弱光培養群などで比較することで、培養環境の大きな変動や、恒常的に不適切な環境が変異株発生に与える影響を検討することが出来ると考えられる。講義中に紹介されていたシアノバクテリアの変異株についても、変異株が優占してしまう要因があるはずなので、変異を蓄積させないためにもこれらの検討が必要になるのではないか。pmgA変異株のように、変異株が恒常的に不適切な環境に置かれると何らかの機構に障害が起こることが考えられるため、変異株の生育を阻害するために定期的に培養環境を変化させるという方法も考えられる。この方法では、多少の環境変動に強い野生型であれば、変異株の優占度を下げられるのではないか。
A:おそらく進化科学的な考え方をする場合に重要なのは、変異の蓄積による集団内の多様性の増大と、特定の変異が集団内で優先することによるその集団の小進化を切り分けて考えることだと思います。当然ながら、ある環境条件で適応度が上がる変異は、しばしば別の環境条件での適応度の低下をもたらしますから、定常環境条件では小進化が進行し、変動環境条件では多様性の増大が進行する、と予想できると思います。
Q:pmgA変異株の解析について、光合成を阻害することを自然条件で回避する方法を考える。光合成の活性を低下させる手段として、光合成効率を低下させることが挙げられる。光化学系量比を変化させることにより光合成効率を低下させる。これにより自然状態における光合成に使用されるエネルギーを小さく抑えることができ、可能な限り光合成を阻害することができると考えられる。また、光感受性など光合成に関わるパラメータを遺伝子操作により低下させることにより、さらに光合成を低下させることができるのではないかと考える。実験的に検証する方法として、野生株と何種類かの光化学系量比を変化させた変異株を用意し、それぞれの時間経過に伴う相対細胞濃度を図に示すことが挙げられる。相対細胞濃度の低下率を算出することで、定量的に光合成阻害を表すことができる。これにより光合成の阻害を評価し、より理想に近い変異株を得ることができると考える。
A:最初の「光合成を阻害することを自然条件で回避する」の意味が分かりませんでした。この「阻害」が「光合成の収率を低下させていること」を意味するのであれば、それをやっているのが野生株で、それを回避しているのがpmgA変異株です。
Q:前回講義で紹介された陽葉と陰葉では光環境によって構造と機能が異なり、葉緑体数や葉緑体の性質も異なることが知られている。強光で育ったものを陽葉、弱光で育ったものを陰葉と呼ぶが、今回の講義で紹介された強光順化について、これらをそれぞれ陽葉は弱光環境に、陰葉を強光環境にさらした場合に、光合成関連遺伝子がどのような発現調整を受けるのか興味を持った。光合成関連遺伝子が発現調整を受けるとしたとき、講義で紹介された野生株のシアノバクテリアでは強光条件に移行する際には光化学系Iの発現が減少し、相対的に光化学系IIの発現が高い状態になる。光合成速度を陽葉と陰葉で比較すると、弱光時には陰葉が、強光時には陽葉が、それぞれ光合成速度が速いことが前回の講義で示された。これを考慮すると、陽葉と陰葉が強光条件(あるいは弱光条件)に対して示す光化学系I及び光化学系IIの発現は異なることが予想される。紹介されたシアノバクテリアのpmgA変異株では野生株と比べて光合成速度が速く、強光下でも光合成を抑制していないことが分かった。弱光環境で育った陰葉が強光条件下で光合成速度を落とすのは、弱光条件下で効率よく育つように光合成関連遺伝子が発現した状況では、強光に対応できず光阻害によって光合成速度が落ちるものだと考えられる。そこで、陰葉をより長期にわたって強光条件下に晒した場合、遺伝子発現の変化は確認されるのか、また、葉の構造自体が光の吸収などに関わるため、その構造変化などについて調べることで、植物の光順化がどのような時間スケールで起こるのか、またそれが致命的なケースはないかなどを考察できると考えた。
A:環境応答を考える上では、最後の「時間スケール」が非常に重要です。もう一つ重要なのが「可塑性」で、これは、どれだけ変化する能力があるかを意味しますから、「可塑性がゼロ」ということは「時間スケールが無限大」に対応すると考えることができます。シアノバクテリアのような単細胞生物では、環境応答が短い時間スケールで進行するのに対して、陸上植物ではより長い時間スケールが必要となる傾向があります。
Q:波長500~650 nmの光を照射すると光化学系IIが選択的に励起され、波長650nm以上の光では系Iが選択的に励起されるため、そのバランスを取ることが大切になると講義では示されていた。一方でこのような選択性を獲得した理由について考える。私の仮説としては、太陽光が1日の中(朝から夜中まで)で地表に降り注ぐ波長の割合が変化するため、それらの時間帯ごとに系を分担することで光合成を制御しているのではないかと考えた。事実、私たちの目には時間帯によって空に見える色が変わる。これは地表から太陽までの距離が変化するため、太陽光が地表に辿り着くまでの距離が時間帯によって変わる。それに伴い太陽光が通過するべき距離が増加すると、大気中の粒子や塵によって散乱されやすくなるため長波長の光のみが地表に辿り着く。つまり太陽が地表に比較的近い昼間は空が青く、地表から遠い夕方は空が赤くなる1)。そしてこの時の空気中の色温度は快晴で12000 K、夕焼けで2000 Kほどである2)。またこの色温度を波長に変換すると、12000 K → 480 nm、2000 K → 590 nmとなった3)。以上より時間帯による太陽光の波長変化が、光化学系I、IIを励起するそれぞれの波長領域に特異的ではないことが考えられた。よって光化学系では太陽光の時間帯に依存するわけではなく、近い励起波長で分けることで片方の系が進行しているときにはもう片方の系が控え目になるようにするという単純な構造が予想される(これに関しての決定的な文献は見つかりませんでした)。
1)『朝焼け、夕焼けの空はなぜ赤くなるのか?空は「虹色」の順に変化する』、https://weathernews.jp/s/topics/202011/020225/
2)『光の波長と色温度』、https://www.chip1stop.com/sp/knowledge/009_wavelength-of-light-and-color-temperature
3)『色温度と主波長』、https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color/vol34.html
A:全体の流れはよいと思いますし、よく考えていると思います。ただ、「地表から遠い夕方は空が赤くなる」は誤解を招く表現で、太陽の直射光は赤みを増しますが、散乱光の色となる「空」は赤くなるわけではありません。夕方の「空が赤い」というのは、たいてい雲が出ている時で、雲からの太陽の光の反射光を見ている場合であり、空の散乱光を見ているのではないでしょう。光化学系の選択的な励起については、地上の環境の光は、水中と異なって特定の波長領域だけの光になることは少ないと思いますから、そもそも進化的な淘汰圧になっていない可能性が強いように思われます。
Q:変異株の、植え継ぐごとに生育が落ちる性質について疑問が湧いた。最初に植えられた時とn回植え継がれた時に、なぜ生育速度が変化するのだろうか?培地に含まれる成分は何度植え継いでも全て同じであり、温度や光環境も同じで、(植え継ぐ際毎回揃えていれば)初期菌体量も同じである。環境には差異がないと思われる。考えられるのは、植え継ぐ前に一部の菌体が生育しづらい状態に不可逆に変化しており、植え継ぐ度にその状態の菌体の割合が増えている可能性、もうひとつは、菌体が何らかの方法で植え継がれたことを感知している可能性である。この2つの説は、植え継ぎから植え継ぎの間隔を振ることで検証できる。植え継ぎの間隔を広げるほど生長阻害が顕著に起こるのであれば、前者の説が推される。植え継ぎの間隔が生長阻害と関係ない時後者の説が推される。
A:これは面白い点に着目していますね。植え継ぎの間隔を長くしていくと、細胞の相互被陰によって強光が強光でなくなってしまいますから、別の要因が入ってしまい、検証は案外難しいかもしれません。植え継ぎを繰り返すバッチ培養ではなく、少しずつ新しい培地を足していきながら細胞濃度を一定に保つ連続培養という方法がありますから、その時にどうなるかを調べるのは面白いかもしれません。
Q:今回の講義を視聴して、大腸菌を(DNAやタンパク質の合成装置としてではなく)生物として使う実験系の場合、研究室内で使用し続けている株ではなく、市販品の株を新たに購入して用いた方が良いのではないかと考えた。講義内で紹介されたシアノバクテリアの例では約5年で実験室の培養環境に合わせた実験室内進化が起きていた。現在、分子進化速度を律速するのはDNA複製の頻度(=バクテリアの場合は細胞分裂の速度)であると考えられている(宮田, 2005)。よって約1日で1回細胞分裂をするシアノバクテリアよりも、約20分で1回細胞分裂をする大腸菌の方が進化速度は速い。そして進化速度の速い大腸菌は実験室内の培養環境や慣習などに適応し、気づかないうちに意図せぬ実験室内進化をしている可能性がシアノバクテリアよりも高い(講義内で紹介されていたシアノバクテリアのケースでは植え継ぎの頻度などの論文のメソッドに載らないような要素かつ、研究室内の慣習で変動するような要素によって、競争に勝つ株が変化していた。、大腸菌で似た事例が起きても不思議ではない。)。意図せぬ実験室内進化は、多くの場合実験結果に有意に影響しないかもしれない。しかし研究室内で使い続けている株を使用した場合、実験室内進化が原因で、論文の実験が再現できない可能性がある。そうした懸念は市販品の株を購入することで解消できると考えられる。例えば論文の再現実験をする場合、その論文で使用された株の販売元から同じ株を購入すれば良いと考えられる。販売元の企業が同一ならば、その培養環境も同一である可能性が高く、再現したい実験で使用された大腸菌に限りなく近い大腸菌で実験をすることができるからである。ただし、論文の著者達が市販品の株ではなく、研究室内で使用され続けている株を使って実験をしていた場合、今回提案した懸念の解消方法は適用できない。特に論文の実験結果が、著者達の研究室内で使用され続けている株でしか再現できない場合、著者達から当該の株を分けてもらう以外に再現実験を成功させる術がなくなってしまう。自分達が著者側に立った時にこのような事態を発生させてしまうことを防ぐためにも、論文に載せるような実験をする場合には、市販品の株を新たに購入して実験をすることが理想的であると考えられる。
参考文献:(1) 宮田隆. オスは進化の牽引役:Male-Driven Evolution Theory (オス駆動進化説). 生命誌研究館. (2005). https://www.brh.co.jp/research/formerlab/miyata/2005/post_000005.php. (2022年5月29日閲覧).
A:その通りだと思います。他方、販売元の企業であっても、一度に培養/保存できる量には限りがありますから、長期に渡れば継続的な培養が必要となり、やはり小進化が生じる可能性は否定できません。「その培養環境が同一で」あっても、というよりは、培養環境が同一であるからこそ、特定の変異が集団内に優先していくわけですから。
Q:今回は二つの光合成系のメリットデメリットや光合成系変異株の生育について学んだ。PmgA変異株は野生株に比べて強光下での光阻害に強いが、野生株との混合培養では特殊な条件以外で基本的に野生株のほうがマジョリティとなる。これは実験室内で光が均等に一種類しか当たらないためこのような結果となった。しかし本来Synechocystisの生息する野外では必ずしも照度条件が一定ではないはずである。そのため照度をブロックごとに分け、グラデーションのように変化させた状態で広い寒天培地上で培養を行う。Synechocystisには正の走行性があるため、野生株と変異株を混合して培地に撒いた場合各々が暮らしやすい照度に向かって移動するのではないかと考える。その結果、野生株と変異株でうまくすみわけを行うことができ、野生株と変異株は共存できるのか、また、変異株の生育阻害がどの段階から顕著に表れてくるのかも調べることができるのではないかと考える。(園池注:図は省略)
A:これはユニークな考え方で面白いと思います。実験の前提として、「各々が暮らしやすい照度に向かって移動する」ことが仮定されていて、これは、おそらく野生株では問題ないように思う一方で、変異株については、光合成の制御と移動の制御の間の調節が失調している可能性も排除できないように思いました。
Q:pmgAを欠損することで光阻害に強く、光合成速度が高くなる代わりに生育速度が24時間を超えると大幅に低くなるということを学んだ。自然状態で植物が生きていくには確かにpmgA遺伝子は重要な役割を持ち、進化により環境に適応してきたことは理解できた。しかし、本当はより高い能力で光合成ができるのにわざわざ自らの機能でセーブするというプロセスは2度手間であり、最初から光阻害も光合成速度も「そこそこ」の能力で適応していればよかったのではないかと思った。そこで、私は進化の順番が鍵になってくるのではないかと考えた。つまり、もともとの地球環境は現在の地球ほど強い光が当たりづらいような気候であり、そのためにまずはpmgAが存在しない光合成植物が生息していた。しかし、強い光が次第に当たるようになっていったことでpgmAにより機能を抑えながら自らの生育を阻害しないように適応するようになったのではないかと考える。
A:これも、視点がよいと思います。ただし、ロジックとしては、「強い光が次第に当たるように」なった時に、たとえば光を吸収するクロロフィルの数を減らして光合成速度をそこそこにすることはできなかったのか、という問題は、結局残るような気がしました。
Q:Sonoikeら(2001)の結果では、破壊株は変異株よりも光阻害に強く、また破壊株は変異株よりも光環境への順化反応が悪い。このことから強光下の光合成活性は破壊株が変異株よりも強いと予測される。そして本講義内容から、変異株よりも破壊株で3日後の成育阻害が強く起こると予測される。しかし生育阻害は破壊株が変異株よりも弱いという結果が得られている。よって変異株では自然株よりも単に光合成活性が高いだけではなく、光合成に伴って損傷した色素やタンパク質などを修復する機構にも変異がある可能性がある。この仮説を確かめるために、本講義で扱ったものと同様に光合成阻害剤を用いる実験が考えられる。講義内の光合成阻害剤添加実験では破壊株も変異株も3日後の生育状況がほぼ等しかった。ここに光合成阻害剤の添加量を何段階か減らして両者の生育を比較する。光合成活性のみが影響を与えているのであれば、破壊株と変異株の生育速度は同じはずだが、仮説が正しければ、光合成阻害剤の添加量が少なくなるほど、つまり光合成活性が高くなるほど変異株の3日後生育速度は破壊株と比べて低くなると期待される。
A:これも独自の視点から議論をしていてよいと思います。光合成阻害剤を使う場合、修復系の影響を間接的に見ることになりますから、同じ阻害剤を使うのであれば、修復系を阻害する薬剤を使った方が、明確な結果が出るかもしれませんね。例えば、リンコマイシンなどのタンパク質合成を阻害する抗生物質を添加すれば、修復機構を止めることができます。
Q:自分は普段から研究で扱うシロイヌナズナを育成しているのだが、強光にさらされるとロゼット葉がアントシアニンによって紫に変色する現象をたびたび目撃している。今回の講義では光化学系1/2の相対量が変化することで強光に対するストレス緩和を行なっていることを学習したが、強光に対してシアノバクテリアでは光化学系1/2の量変化のみだったのに対して、植物では光化学系1/2の量変化に加えてアントシアニンの光に対するフィルターが進化の過程で加わったことに関して疑問を持ったため、記述する。自分はシアノバクテリアと植物の大きな違いは表面積にあり、表面積の大きな植物では強光に対して光化学系1/2の量変化で対応しきれない分をアントシアニンによる光へのフィルターで補っていると考えた。
A:これも視点はよいのですが、ある疑問に対して、答えは「表面積の違いである」と結論する過程で、なぜそう考えるのかのロジックが示されていません。理系のレポートでは、単に「考えた」ではなく、その根拠となる論理の流れをきちんと示した方がよいでしょう。といっても、その根拠は自分なりのものでよいので、「正解」が必要なわけではありませんし、「正解」が存在する必要もありません。
Q:シアノバクテリアの小進化について、実験室内では実験デザイン上試料を同条件下に起き続けることが多々あるので、変異が蓄積されること自体を防ぐことは無理だと思った。そのためシアノバクテリアをストックから使用する前は、まずはシークエンスにかけ変異の有無を確認すること、植え継ぎの回数に制限をかけること、あるいは既に表現型の知られている実験を行い、野生型の参考データを比較してから用いるなどの対策を講じる必要があると考えた。例えば今回のpmgAの場合、強光下でもクロロフィルが減らないという特徴のため強光下での生育時に野生型に比べて溶液の緑色が濃く出る、という表現型が見られる。よって新しく植え継いだサンプルで上述のような表現型が見られた場合は野生型ではないことがわかる。三つ目の方法は非常に簡便ではあるが比較データの存在しない変異の場合には検知することができない。ただし先週のレポートで他の方が小進化の線引きは表現型に差が出るかが判断基準となるのでは、と書いていた。これに従えば三つ目の方法は非常に有効であると推定される。個人的には、光合成関連の変異の場合には大抵の場合クロロフィル量や個体数に影響しそうなので比較実験で十分だが、吸光度には反映されないデータを扱う場合には(例えば個体のサイズ等)シークエンスを読む必要があると感じた。実験事項(絶対にコントロールしておきたい条件)に応じてシークエンス解読を行うかデータ比較を行うか決定するのが良いと思った。また小進化ではないがシアノバクテリアの場合、コンタミも容易に生じやすいと感じた。コンタミが生じると生育阻害等、細胞増殖を観察する際にて吸光計測に影響が出ると考えた。しかし野生型の場合は抗生物質によるスクリーニングが実施できないことが難しい点だと思った。
A:シークエンスをするのは、一つの案ですが、おそらく実際にそれをやると、ある程度の数の変異が必ず見つかると思います。基準となるシークエンスと全く同じ配列が得られない可能性は高そうなので、シークエンスをしてみたものの、さてどうすればよいのかわからない、という結果になってしまうかもしれません。あと、4つ目の方法として、シングルコロニーからとった株を使わない、ということも必要かもしれません。集団で培養していれば、変異が生育に特に有利でない場合、その変異が集団内に急速に広まることは考えられませんが、シングルコロニーに一度してしまうと、そのコロニーに存在した変異は固定されてしまいます。
Q:生物の進化の中で品種改良や自然環境と栽培環境の違いについて触れられていたことを受け、今回はスイートトマトの栽培について考える。スイートトマトは本来大型の実が成るトマトの株にストレスを与えることで、実のサイズや収穫量の減少の代わりに糖分濃度を高め販売されるもののことである。ストレスを与える栽培方法にはいくつか種類があるが、共通して与える水分量の少量化を、肥料の濃度を上げることで浸透圧により蒸散量を下げることと並行して行い、水ストレスを与えることで実現している。しかしながらその理由だけでは同サイズの小型の品種のトマトよりもスイートトマトのほうが甘くなりブランド化される理由の説明には不十分であり、この二種を比較した際、スイートトマトには本来のサイズの比率を上回る糖分の合成の効率の高さが何らかの形で存在していると考えられる。またスイートトマトの栽培において、ストレスになる程に水分量を減らしているために単純な水分含有量の低下による果実の小型化だけでなく呼吸活性や光合成効率の減少も発生し、ストレスを与えない場合と比較して全体に含まれる糖分の総量も減少していることから、より大型のトマトの本来の糖分の合成能力が高いことがうかがえる。もしもこの糖分の合成量の差の原因が進化に伴う遺伝子配列の場合、その領域を特定することができれば、手間の少ない栽培方法であってもサイズを維持したまま糖度の高いトマトを栽培することが可能となると考えられる。このことについて現状のスイートトマトの改良に関して、栽培方法自体の見直しは活発ではあるが、スイートトマトに適した品種についての比較の話題はあまり取り上げられていない点も踏まえ、栽培方法と同程度に研究が活発になるべき部分であると考える。
A:独自の視点から書いている点は評価できる一方で、ややロジックが説明不足な気がします。前半では、水分量を低下させることにより糖濃度を上げているが、それだけでは、理由として不十分であるとされている部分が、なぜ不十分なのかが読者に伝わりません。また、後半では、糖の合成能力の差が重要であるとして、その遺伝的な変異について議論していますが、その差が、環境の誘導によって生じると考えているのか、ベースの活性自体に差があると考えているのかが明確に読み取れません。
Q:本講義では光化学系の量比調整について学んだ。フィコビリソームのみが励起される状態では、系Ⅰを増やして電子伝達鎖の還元状態を緩和するとあるが、このとき、系Ⅱを選択的に励起させる光が強い場合、系Ⅰを増やすことで電子伝達鎖の還元状態は緩和されるが、強光下のような系Ⅰの後にある炭素同化反応等の酵素反応の関わる部分に比較して還元力が過剰になる場合があるのではないかと考えた。系Ⅱが選択的に励起された場合、系Ⅰが選択的に励起された場合のように、系Ⅱのアンテナを減らせば前述の仮説のように系Ⅰ後の還元力が過剰になる可能性はなくなるはずである。しかし実際は系Ⅰを増やすことでこれに対処している。考えられる理由として、強い系Ⅱ光照射時、Ⅰの励起が強光下での励起より程度が低いのならば、還元力が過剰になることはないため、系Ⅰを相対的に増やしても問題はない。そして強光下のような過剰な還元力が蓄積するような系Ⅱ光は、現実的に自然界ではありえない光量であると考えられる。
A:おそらく、光化学系量比調節を考える場合、弱光条件における2つの光化学系のバランスの調整(光合成の効率の向上)と強光条件における光阻害の回避(光合成効率の低下)の2つを分けて考える必要があるのだと思います。前者では、どこかに電子が過剰に集中しないことが重要ですし、後者ではむしろ例えば光化学系の間に電子をためることによって電子伝達を抑えることが重要になりますから、同じ光化学系量比調節であっても目的が全く異なりますよね。