植物生理生化学特論 第4回講義

発光測定・クロロフィル蛍光測定

第4回の講義では、さまざまなタイプの発光測定と、クロロフィル蛍光測定の応用例について解説しました。以下に寄せられたレポートとそれに対するコメントを載せておきます。


Q:クロロフィルが吸収したエネルギーは、蛍光として放出されるほかに、熱エネルギーによる放散で失われることが分かった。また、クロロフィル蛍光測定に飽和パルス測定を取り入れることによって、測定された蛍光の収率が熱放散にどれだけ影響を受けているか調べられることも学んだ。蛍光収率を考える際に、熱放散に割り当てられるエネルギー量を考える必要があることが分かったが、飽和パルス測定によって間接的に計測せずとも、精密な温度計を用いれば熱放散の影響を調べられるのではないかと考えた。PAM測定、飽和パルス測定は励起光照射による蛍光測定であるため、非侵襲的な測定が可能である。温度を直接測定したい場合、クロロフィル溶液にしてしまうと試料の破壊が必要になってしまうが、サーモグラフィなどの技術を用いれば、飽和パルス測定と同様に非侵襲的、かつ直接的な温度測定が可能になるのではないか。しかし、サーモグラフィは表面温度しか測れないと考えると、比較的薄めの葉でない限り測定が難しい可能性がある。

A:温度の絶対値を正確に測定するのは難しいのですが、変調光照射による熱の周囲への放散を、周期的な空気の熱膨張(=音)として検出する、光音響測定という手法があります。絶対値ではなく、変化を測定することにより、より定量的な解析が可能になります。今、この手法を使える人は世界にも何人もいないかもしれませんが、原理的には極めて面白い手法です。


Q:熱発光について考える。熱発光のデータより、閃光照射回数が1回から4回まで増えるにつれて、ピークがより低温で現れていることが分かる。ただし、閃光照射回数が2回では、2つ目のピークが見られない。2回で2つ目のピークが現れないことについて、1回目のピークで必要な熱発光のエネルギーが非常に大きく、ピークを形成するための十分なエネルギーが残っていないからであると考える。これを確かめるためには、吸収したエネルギーを測定し、2つ目にピークの現れない2回の熱発光のエネルギーと比較する。このとき、無視できない量の差が生じれば、2つ目のピークが現れることになると考える。閃光照射回数とピーク出現温度の関係について、回数が2回から4回まで増える過程において、熱発光量が低下する。ただし、1回では酸素を発生しないために最も小さくなっていると考える。2回から4回において、酸素発生量が大きくなることで、その分の熱発生量が低下しているのではないかと考える。酸素発生で生じるエネルギーにより、準安定状態から励起状態に戻りやすくなったためにピークがより低温で現れているのではないかと考える。また、1回では熱発光量が小さいのにも関わらずピーク温度が大きいことがこれを示唆すると考えられる。これを確かめるために、酸素センサで各回数における酸素濃度を計測し、酸素の発生に必要なエネルギーを算出することで、同時に計測する熱発光量のデータと比較して定量的に証明することができると考える。

A:熱発光は、やや考え方が難しいかもしれませんが、低温によっていわば「凍結」された電荷分離状態が、温度の上昇によって「解凍」されて発光するのが原理です。その際に、どの温度で融けるかは電荷分離の種類によって異なりますから、発光ピークの温度によって電荷分離の種類を判別できます。逆に考えると、温度が異なる2つの発光ピークは、別の電荷分離状態から発光しているはずなので、基本的には一つがもう一つの状態に影響を与えることはありません。


Q:第4回講義では種々の蛍光測定やクロロフィル蛍光測定について学んだ。その中で光合成の評価に利用されるクロロフィル蛍光と電界発光について注目した。講義内では「少なくともクロロフィルの場合、電位は(略)電荷差結合の速度を速くすることによって、発光を促進する。」との紹介があった。また、クロロフィル蛍光を用いた光合成の評価について、保存則から吸収したエネルギーは光合成に使用されたエネルギー、熱になったエネルギー、蛍光として放出されるエネルギーの総和であることが示された。これらの知識から外部刺激を用いて光合成の効率をより高くすることができるのか疑問に感じた。これを実証するための実験をいくつか考察する。
 まず、コントロールとなる暗所でのクロロフィル蛍光のプロファイルをPAMによって取得する。この時、クロロフィル蛍光のみならず、植物の生体電位を取得することでコントロールにおける植物葉の電気的環境の情報も取得する。クロロフィルでは電位が電荷再結合速度を速くして発光(蛍光)を促進することから、クロロフィル蛍光強度動態のうちクロロフィル蛍光強度が上昇している時点での電位を確認することでクロロフィルがどのような電気的環境に置かれることでクロロフィル蛍光の促進を通じて光合成が抑制されるかを確認することができると考える。
 次に、コントロールに対して電気パルスを与える群の蛍光動態を測定する。与える電気パルスは周波数、強度を変化させることで様々な電気パルスによって電気的環境を変化させたサンプルのクロロフィル蛍光を測定し、コントロールとの比較を行う。ここでクロロフィル蛍光が低下した(熱放散も考慮する)電気的条件は光合成の効率に変化を及ぼすものであると考えられる。もちろんこのような電気的環境とクロロフィル蛍光の関連を直接結びつけることは難しいが、このような実験系を確立することで、光合成と植物葉の電気的環境を相対的に把握することで電気測定による植物の光合成状態のモニタリングに活用できると考えられる。

A:これは、今までにない考え方で極めて面白いと思いました。ただし、電界発光が見られるのは、安定な電荷分離状態に電位変化が加えられた時です。光合成をバンバンしている時には、電荷分離状態は引き続く電子伝達反応によって基底状態に戻ってしまいますから、測定は非常に難しいと思います。ただ、最後に述べられているように、工夫をすると、何らかの測定方法として使えるかもしれませんね。


Q:PAM測定について確信できていないことがあったので確認したい。PAM測定では、他のクロロフィル蛍光測定法と同様に光化学系Ⅱおよび周辺集光装置のクロロフィルが、光を吸収し、放出された蛍光を測定するが、励起光を吸収することによる蛍光と測定光を吸収することによる蛍光を区別して測定する点が特徴である。ここで、蛍光を区別する方法として、測定光をパルス光とし一定間隔で照射することにより測定光による光合成の励起を無視できるようにし、さらに測定光を照射するタイミングで(同じ周波数で)蛍光を測定することで測定光による蛍光のみの強度を測定する。しかし、どのタイミングで蛍光を測定しようと、連続的に照射する励起光による蛍光を合わせた強度の蛍光が測定されるはずである。つまり、測定光の周波数のみでの測定では測定光と励起光による蛍光を区別できない。私の予想では、測定光の周波数以外のタイミングでも常時蛍光強度の測定を行い、測定光の照射によってその瞬間だけ上昇した蛍光強度から、その前後の測定点での蛍光強度を差し引くことによって、励起光による蛍光の影響を排除していると考えている。

A:基本的にはその通りです。変調技術というのは、AMラジオの場合も同じですが、特定の周波数成分を取り出すことが肝心です。周期のある一点だけの測定では、シグナルがその周波数成分を持っているかどうかを判断することができません。


Q:講義冒頭、GFPの話から思い出したが、先々週あたりに新たな緑色蛍光タンパク質が開発されたことを耳にした。理研を含めた共同研究チームによってタマクラゲの緑色蛍光タンパク質を遺伝子クローニングし、そこから「StayGold」という蛍光タンパク質の開発に成功していた1)。StayGoldは従来の蛍光タンパク質に比べて極めて明るく、また極めて退色しにくいといった今後大活躍する蛍光タンパク質となりそうである。一方でオワンクラゲからGFP、タマクラゲからStayGoldという風にクラゲから蛍光タンパク質を開発することが多いようであるが何故だろうか。もちろん深海の生物であるからこそ蛍光を大事にしていることは確かであるだろうが、チョウチンアンコウなどのその他深海生物でも蛍光タンパク質を得られるはずである。文献を調査したところ、蛍光を発する深海生物は多数存在するが、その多くは深海性発光物質セレンテラジンという共通の発光物質を所持しているようだ2)。もちろんオワンクラゲもセレンテラジンを所持しており、また同時にGFPという固有の発光物質を持っている。ただ一方で、オワンクラゲが何のために発光するのかは未だに解明できておらず、なぜクラゲにだけ強力な蛍光タンパク質があるのかは不明である。私は、クラゲは全身で蛍光を発する生物であるからこそ強力な蛍光タンパク質を要しているのではないかと考える。
1)色褪せない蛍光タンパク質 -細胞微細構造やウイルスの定量的観察を可能にする技術-、 https://www.lifesci.tohoku.ac.jp/date/detail---id-50658.html、2)名大ら,深海性発光物質の生産者を発見、https://optronics-media.com/news/20201212/70811/

A:エッセイとしてはよいと思うのですが、科学的レポートとしては、もう少し論理を整理した方がよいでしょうね。「全身で発光する」ー>「蛍光タンパク質が強力」と展開するのであれば、その理由(なぜ、全身でない時には蛍光タンパク質が弱くてもよいのか)をきちんと示す必要があるでしょう。全身・部分という対比は、蛍光タンパク質の必要量が異なることにはつながる気がしますが、「強さ」につながるかどうかは自明でない気がします。また、全身でない例がチョウチンアコウだけだとすると、ややロジックが弱いように思います。


Q:今回の講義を視聴して、シアノバクテリアや光合成細菌のように生体をすり潰さなくても酸素電極による光合成の測定が可能な生物では、光合成の測定にはPAM測定よりも酸素電極を用いた方が良い場合があるのではないかと考えた。その考えに行き着いた一番の理由は測定値の解釈の簡単さである。植物などの酸素電極を用いた光合成測定に生体をすり潰す必要がある生物の光合成を測定するためのPAM測定は、非破壊的な測定が可能という意味で確かに有用である。しかしシアノバクテリアなどの、細胞をすり潰さずとも酸素電極を用いた光合成の測定が可能な生物の光合成を測定する場合は、PAM測定の「非破壊的な測定が可能」という優位性が失われる。そこで2つの測定方法を比較するために測定値を解釈する方法について考えた。PAM測定についてはクロロフィル蛍光から光合成の状態を測定するが、測定値に熱放散が影響する。熱放散の影響は飽和パルス光による蛍光測定を行うことで調べることができるものの、シアノバクテリアの場合は暗所でプラストキノンプールが還元されたり、色素組成が異なったりするために、陸上植物とは異なったプロトコルで解析する必要がある(1)。また光合成の機構が膜によって隔離されていないため、呼吸などの他の代謝経路との相互作用がクロロフィル蛍光に影響する可能性がある(1)。一方で酸素電極を用いた測定については溶液中の酸素濃度から光合成の状態を測定するが、測定値に呼吸による酸素の消費が影響すると考えられる。なお光合成速度と呼吸の速度の比率はおおよそ10:1程度とされている(2)。以上より、どちらの測定方法を用いるにせよ、測定値には呼吸の影響が現れると考えられる。それならば、殊シアノバクテリアに限っては、解析や解釈が比較して簡単だと考えられる酸素電極を用いた測定の方が光合成の測定に適しているのではないかと考えた。ただし、測定誤差を特に気にする必要がある実験の場合はPAM測定を用いる方が良いと考えられる。
参考文献:(1) Ogawa, T., Misumi, M. and Sonoike, K. Estimation of photosynthesis in cyanobacteria by pulse-amplitude modulation chlorophyll fluorescence: problems and solutions. Photosynth Res 133, 63?73 (2017). https://doi.org/10.1007/s11120-017-0367-x
(2) 園池公毅, 植物の呼吸速度はどれぐらいか?, 光合成の森. https://www.photosynthesis.jp/faq/faq5-3.html. (2022年5月8日閲覧).

A:光合成測定という観点からはその通りですね。ただ、熱放散や呼吸も重要な生理現象ですから、光合成に加えてそれらの情報を得ることができる、という点は、逆にメリットと考えてもよいかもしれません。


Q:今回様々な蛍光タンパク質を紹介していただきましたが、いろいろなことに応用することができるのではないかと考えました。ケイマでは、同じ蛍光波長を使って一回の励起で複数の色素を観察することができるとありましたが、ヒトの食道や胃をケイマによって観察することができれば、正常な細胞と腫瘍細胞を識別すことができ、胃カメラなどの負担を負わなくてもがん度を発見できるのではないかと考えました。

A:何というか、あまり頭を使わずに書いていませんか?「食道や胃をケイマによって観察」とありますが、具体的に何をするのでしょうか。大学院の講義なので、もう少し考えてレポートを書くようにお願いします。


Q:今回はPAM解析などの蛍光測定法やドロンパなどの様々な発光測定法について学んだ。クロロフィル蛍光において、吸収したエネルギー=光合成に使われたエネルギー+熱になったエネルギー+蛍光エネルギーというエネルギー保存則が存在する。シアノバクテリアにおいてもこのクロロフィル蛍光の保存則は成立しており、Synechocystisでは光合成をはじめとした代謝系のみならずタンパク質翻訳機構もクロロフィル蛍光に大きく関わっているとされている。現在自分の研究室ではシアノバクテリアに様々な蛍光レポーターを組み込むことで顕微鏡で運動観察を行うことを目的とした実験を行っているが、蛍光レポーターの上流に組み込むプロモーターの設計に悩んでいた。当初は内在性のプロモーターを用いることで観察を行う予定であったが蛍光が弱く観察できなかった。そのため光合成系で非常に強力に発現するPpsbAIを蛍光レポーター用プロモーターとして採用した。この結果短期的に組み込んだ蛍光レポーターの蛍光を測定することができたが、その数か月後には組み込んだはずの株で蛍光が観測できなくなってしまった。この原因を探索するためにクロロフィル蛍光のシステムが使用できないかを考えた。組み込んだプロモーターが本来のシアノバクテリアの光合成系に対してどのように関与しているかを野生株と組み込み株で比較してクロロフィル蛍光を観察することで、野生株に比べてクロロフィル蛍光が変化していれば組み込み株の光合成系が通常の光合成状態から変化していることがわかる。また、この比較を組み込み株(蛍光の観察できていた組み込み直後)と組み込み株(組み込んでから数か月経過)で比較し、もし得られた蛍光が変化していたならば、数か月経過して光らなくなってしまった株に対して強力な光を与えることで吸収するエネルギーを増加させる。そうして蛍光するためのエネルギーをそろえればもう一度組み込んだ蛍光レポーターが観察できるようになるのではないかと考える。つまり光合成系のプロモーターを使用したことで本来の光合成系に異変をもたらし、その結果光合成系が正しく働けていないために蛍光レポーターもうまく機能しなかったのではないか、という仮説をクロロフィル蛍光の観察で調査することができるのではないかと考えたためにこのような系の構想を行った。ただし問題点としては、シアノバクテリア自体が一定以上の強光条件下で生育しづらいという点が挙げられる。

A:確かに、光合成生物に外来の蛍光レポーターを組み込む場合には、極端な話、FRETのようなことも起こる可能性がありますので、案外神経を使います。ただ、時間経過で蛍光が変化する場合には、やはり発現の変化が起こっている可能性の方が高いかもしれませんね。


Q:【様々な発光測定】の講義で1重項励起状態から3重項励起状態に遷移し、この遷移の際にスピンの向きが逆向きになることで禁制となり、パウリの排他則により励起状態と比較すると安定しているため寿命が長くなり、遷移して励起状態とのエネルギー準位が低くなったので、蛍光波長も変化するということを学んだ。私はここで1つ疑問が生じた。それは、もう一度スピンの向きが反転して禁制遷移を行った際にエネルギー準位が下がっているため同じ蛍光を発するとは言わないまでも、少し低い励起状態に遷移・スピンの向きが戻り、発光するのではないかという点だ。このような疑問を持った理由としては、パウリの排他則により禁制の状態では比較的安定なので時間がかかるとは言えどもスピンの向きが元通りになり、基底状態に戻っていると解釈したためである。そこで、私は「スピンの反転」に目を付けた。1重項励起状態から3重項励起状態へと遷移する際のスピンの反転は一瞬で起こるのに対して、3重項励起状態から基底状態へと蛍光を発しながら遷移する際は徐々にスピンの向きが変化していき、基底状態の時にスピンが完全に反転するのではないかと考えた。まず、1重項から3重項の禁制遷移でのスピンの反転に関してだが、1重項状態では基本的にすぐに基底状態へと蛍光を発しながら戻ってしまうため、反転は即座に行われると考えた。次に、3重項から基底状態への遷移だが、これは磁石を参考にして考えた。スピンの向きが逆の時は磁石でいうところの同極、スピンの向きが逆の時は磁石でいうところの逆極とし、基底状態にとどまっているスピンの向きを一定として考える。すると、励起状態から直接基底状態に遷移する際には逆極同士なのですぐに「くっつく」。3重項励起状態から基底状態へは最初は同極なので、すぐに遷移することはできないが(片方の磁石を固定した状態で同極の磁石の中心を抑えて近づけていくと徐々に磁石が回転するように)スピンの向きが徐々に変化していき、完全に反転しきったら基底状態へと遷移が完了するのではないかという考えである。

A:実験結果から言えば、三重項状態を経る燐光は、蛍光よりもかなり長波長の発光ですから、もとの一重項状態を経由して発光しているのではないと結論できます。その場合、「禁制遷移」が(たとえ寿命が長くなるにせよ)なぜ可能なのか、という点を物理的なモデルで説明された例を知らないので、実際の「正解」はわかりません。


Q:今回クロロフィル蛍光による非破壊的な光合成測定が紹介されていたが、測定結果に注意する必要があると考える。なぜなら非破壊であるということはチラコイド膜以外の植物体も含むことになるからである。光合成速度には植物体全体や各組織の状態にも影響される。例えば光合成速度は気孔の開口度によって影響されるが、今回紹介した測定法ではこの影響を直接見ることができない。他にも長期間の測定では、植物の概日リズムやホルモンによる影響も起こりうる。以上より、非破壊的な光合成測定は伝統的な光合成測定と比べて、測定結果に交絡要因が多く含まれている可能性を考慮する必要があると考える。

A:気孔が閉じた瞬間に葉緑体が何か影響を受けることはないので、確かにそれをクロロフィル蛍光で検出することはできません。しかし、気孔が閉鎖し続けて葉内二酸化炭素濃度が低下すれば、カルビン回路が回らなくなり、ATPとNADPHが余って、それは電子伝達の抑制につながります。その状態をクロロフィル蛍光で検出することは可能です。考え方の問題なのですが、気孔であれ、概日リズムであれ、ホルモンであれ、それらを直接クロロフィル蛍光で検出することはできない一方、それらが光合成に影響を与えた場合には、その影響をクロロフィル蛍光で検出することは可能です。


Q:PAM測定において、他の生体物質による自家蛍光が測定結果にもたらす影響について議論する。クロロフィルが自家蛍光物質であるように、リポフスチンは励起波長410-470 nm, 蛍光波長500-695 nmの自家蛍光物質であり1、NAD(P)Hは励起波長340 nm, 蛍光波長450 nmの自家蛍光物質である2。他にも自家蛍光物質について調べた結果、そのほとんどが短波長で励起することが確認された。しかし、クロロフィルに関しては特異的で、600 nm以上の波長にも励起波長を持つため、PAM測定において他の生体物質による自家蛍光が測定結果にもたらす影響は少ないと考えられる。
1. Schonenbrucher, Holger et al. (2008). “Fluorescence-Based Method, Exploiting Lipofuscin, for Real-Time Detection of Central Nervous System Tissues on Bovine Carcasses”. Journal of Agricultural and Food Chemistry56 (15): 6220?6226. doi:10.1021/jf0734368.
2. Georgakoudi I, Jacobson BC, Muller MG, Sheets EE, Badizadegan K, Carr-Locke DL, Crum CP, Boone CW, Dasari RR, Van Dam J, Feld MS (2002-02-01). “NAD(P)H and collagen as in vivo quantitative fluorescent biomarkers of epithelial precancerous changes”. Cancer Res. 62 (3): 682-687. PMID 11830520.

A:その通りで、事実としては文句のつけようがないのですが、この講義のレポートとしては、もう少しロジックが欲しいように思いました。なお、花弁の色素であるフラボノイドなども短波長の光の励起で蛍光を出すので、花弁に少量含まれている葉緑体のクロロフィル蛍光測定をしようとした場合には、600 nm以上の光で励起して測定することが必要になります。


Q:同じ励起光で複数の色素の蛍光を観察できるケイマがすごいと思った。現在私が行なっている免疫染色ではサンプル数に応じて励起光の数を増やす必要がある。励起光の数を増やすと時間がかかるだけでなく、そもそも顕微鏡の性能上増やせる励起光数に上限があるため、一度に観察できるサンプル数が6未満である。そのためこの技術は画期的だと思った。ただケイマの懸念点として蛍光の漏れ込みがあるのではないかと思った。もちろんケイマの利点がストークスシフトの大きさで、そのために異なる蛍光を一度に検出できるということは承知だが、dKeima570とmKeimaはそれぞれ波形がmMiCyほどシャープではないため、mKeimaがdKeima570に漏れ出す可能性は否定できないのではないかと考えた。こう考えたのは現在行っている免疫染色では600 nm以上の波長の蛍光が500 nm台の蛍光に漏れ出す傾向にあるからだ。

A:分光測定では、自分の見たい波長の光だけをいかに見るのか、という点が非常に大事です。その意味では、分光器の光学フィルターにどのようなものが使われているのかを把握しておくことは非常に重要でしょう。典型的な測定条件では問題のないフィルターの組合せでも、特定の測定条件では、より波長域が狭い、もしくは波長がシャープにカットされる光学フィルターに置き換える必要がある場合はよくあります。


Q:有機ELディスプレイに代表される電界発光を使用した技術は映像出力技術を含め生物分野では未だ活用はされていないという言及があったことを受け、その特徴を踏まえた上での実験系への有用な形での導入について考える。電界発光を使用した映像出力装置はその色を決定することとなる物質そのものが発光する特性により、液晶テレビ等ではバックライトなどと呼ばれるような照明装置が必要となり小型化、薄型化が困難となっている問題が既に解消されている。またそれだけでなく発光を利用しているため視聴可能な角度が広く、観測者が画面の真横に立つ場合を除き同じ明るさの映像を見ることが可能である。さらにこの特性から透過型の有機EL、無機ELディスプレイが開発されており、ほぼ全方向から視聴可能な映像出力装置が存在している。これらの長所は特に行動実験において、実験個体に対し特定の動作を伴う像を繰り返し見せる際に、液晶ディスプレイでは飼育ケージの外側や端にしか設置できなかったものが自由になる他、一見して空間に浮いているかのような物体や生物の像に対する忌避や捕食行動、またそれ以外にも幅広いの行動観察実験を可能にすると考えられる。

A:なるほど。動物行動学的実験で、そのような用途があり得るということは、あまり考えたことがありませんでした。面白い視点だと思います。


Q:本授業では蛍光の様々な種類と、その測定としてクロロフィルの蛍光測定について学んだ。クロロフィルの蛍光測定において、強光下での光阻害と、それに対応するための熱放散があった。この光合成の光阻害は、低温環境下で弱光であっても発生することが知られている(1)。そのため、光を遮るものが少なく、比較的低温下である山の頂上付近に生育する植物、高山植物について考察した。背の高い植物が少なくなり、光が当たりやすくなり、かつ山の標高が高いほど低温になるため、高山植物は光阻害を受けやすく、植物の生育する場所として不向きではないかと考えた。しかし、ここで光阻害を受けた際に行われる熱放散による熱の発生が、低温に対する適応なのではないかと考えた。熱放散の収率を光阻害によって上がることで、低温環境を植物体内で改善し、光阻害の影響を少なくできるのではないかと考えた。しかし、熱放散により、具体的にどの程度温度が上がるかというデータが見つけ出せなかったため、そもそも熱放散による温度変化が非常に低い場合、本考察は否定されてしまう。
(1)低温条件下で樹木が受ける光ストレスとその防御機能 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs1953/86/1/86_1_48/_pdf/-char/ja

A:これも視点が面白くてよいと思います。高山と低地の比較では一応これでよいように思いますが、高山の一日の中で、気温が一番低くなるのは明け方のまだ光が弱い時でしょうから、強い光で誘導される熱放散を温度の維持に使うのは、なかなか難しそうに思います。